聖女プライムの新生活


コモンズを追い出した。

私こと聖女プライムは彼に少々甘かった、 碌に定職に就けなかったが

仕事をせざるをしない状況になれば彼はちゃんと立ち直れる。

その時にまた結婚を申し込もう。





久々に会ったインフラから引っぱたかれた。


「何でコモンズを追い出した!! 私は貴女が居たから退いたのに!!」

「・・・退いた? 貴女はコモンズが好きだった

でもコモンズは私が好きだった、 そしてコモンズも私が好きだった

貴女が退こうが退くまいが結果は変わらないわ」

「お前!!」

「そこまでだ」


インフラと私の間に剣を割って入れるイコール。


「インフラ、 お前は貴族の養女になったが

プライムは聖女、 立場が違うんだ、 弁えろ」

「「は?」」


私とインフラは同時に間抜けな声を出した。


「立場が違うって何? 仲間じゃない」

「同じパーティに居たからと言って同じ立場では無い

俺とプライムは元を正せば貴族、 お前とコモンズは平民

あのイカれ魔法使いのモスマンは・・・何だろう

兎も角身分が違うんだ」

「狂ったのイコール?」


失礼な言葉だが口から出てしまった。


「いやいやプライム、 こいつは調子に乗っているから」

「同じパーティの仲間に対して身分が違うって何を言っているのよ」

「は? いやいやいや、 お前だってコモンズは平民だから

別れたんじゃないのかよ、 婚約だって破棄したんだし」

「破棄してないわ」

「「は?」」


インフラとイコールが間抜けな声を出す。

私とコモンズが婚約を破棄するなんてありえないのに

何でそんなに驚くんだろう。


「い、 いやいや、 お前コモンズを家から追い出しただろう?」

「そ、 そうよ!! まさか嘘なの!?」

「いや、 家からは追い出したけども婚約は破棄して無いわ」

「どういう事だ!?」

「だって私はコモンズが嫌いだから家から追い出したんじゃないのよ

彼に自立してちゃんと職に就いて欲しかっただけなの

だから追い出したけれども職に付けたら結婚するつもりよ?」

「「・・・」」


顔を見合わせるイコールとインフラ。


「貴族的にこれはアリ?」

「無いだろ・・・良いか、 プライム

家から追い出された相手と結婚したがる男は、 いや女でも

そんな奴居ねぇよ」

「私と彼との絆を甘く見て貰って困るわ

私達は愛し合っているのよ、 一分の隙も無く」

「・・・・・帰るわ、 馬鹿らしい」


インフラがスタスタ帰って行った。


「・・・プライム

コモンズはお前と結婚しないぞ、 これは常識の分野だ」

「言ってなさいよ」


イコールも立ち去った。





家から婚約の打診があった。

断った。





教会で聖女としての仕事をしているとイコールがやって来た。


「プライム、 ちょっと言い難い事なんだが・・・」

「何? 言い難い事って? この前インフラにあんな酷い事を言ったのに」

「・・・・・聖女プライム、 貴女に勇者コモンズ殺人の容疑がかかっています」


イコールが襟を正した言葉を使ってされた宣言に面食らった。


「・・・・・新手のジョーク?」

「・・・今日、 浮浪者が指輪を一つ質屋に売りに来た」

「浮浪者? 指輪? 何の話?」

「当然ながら浮浪者が指輪なんて持っている訳が無い

幸いにも指輪は有名な職人が手掛けた物でご丁寧に

名前まで彫って有った」

「だから何の話?」

「名前はお前とコモンズの名前だ」

「は?」


私とコモンズの名前が刻まれた指輪。

私達が恋人になった記念に作ったペアリングだ。


「その浮浪者って・・・まさか・・・」

「コモンズじゃない、 その浮浪者は別の浮浪者の死体から指輪を奪い取ったんだ

腐っても勇者、 浮浪者如きに遅れは取らない」

「わ、 私が殺したと・・・」

「あぁ、 そうだ、 上はそう思っている」

「・・・・・」


ありえない、 彼が死ぬなんて・・・そんなことは・・・

そう考えると胸の鼓動が早まり、 息が苦しくなる。


「お、 おい、 大丈夫」


次の瞬間、 意識を失った。





私は収監される事になったがあっさりと出る事が出来た。


「よっ」

「モスマン・・・」


釈放された時に会ったのはモスマンだった。

気狂い魔法使いと揶揄される狂人。


「出迎えは貴方だけ?」

「だな」

「何の用?」

「折角来たんだし、 お前の用事を済ませようと思って」

「私の用事? 如何言う事?」

「どうせ、 お前の事だし情報を詳しく聞きたがると思ってな

後々来られるも面倒だし此方から出向いてやった、 と言う事だ」

「意外と気が効くのね」

「意外と?

おいおい宿の台帳やら通行の手続きやらをやっていたのは

私だろうに、 寧ろ気が利く男だろ私は」

「言ってなさい、 情報って何の事よ」

「お前の無罪を確定づける情報だ

一応、 ファイリングはされているがお前の事だ

どうせ聞きに来るだろうと思って

後々来られるも面倒だし此方から出向いてやった」

「さっきも聞いたわ、 私の無罪確定の情報となると

コモンズの居場所が分かってる、 って事?」

「いや、 そうじゃない、 何故コモンズの指輪を

乞食が持っていたのかと言う話だ」

「言い方悪いわね」

「ほっとけ、 まずコモンズは指輪を捨ててた所を

私は見ていたんだよ」

「は?」


なにをいっているの?

あのゆびわはわたしとコモンズのあいのあかしなのに

すてるなんてありえない。


「私はコモンズがお前と別れた日に会ったんだ

その時に橋の下の川に指輪を投げ捨てていた

これは確実だ、 浮浪者の死体とやらを検分したが

死体は腐敗しているがコモンズでは無い

歯型が違う、 これは歯科医から取り寄せたカルテにも載っている」

「指輪を捨てたですって? あり得ないわ」

「私は見たよ、 現に実物が有るんだから

そもそも君がコモンズを殺すなんて無理なんだよ

コモンズは君よりも強いし」

「いやいやいや・・・何を言ってるの?

私との愛の証なのよ? あの指輪は」

「職人にも確認は取って貰った、 間違い無くあのペアリングだ」

「だから!! 私との愛の証を捨てるなんて!!

ありえないでしょう!!」

「先にコモンズを捨てたのはお前だろう」




気が付くとまた牢屋に居た。

モスマンを殴ってしまったらしい。

示談が成立して私が出た。

実家が示談金を払ってくれたらしい。

家から婚約の打診があった。

断った。

勘当するぞと言われた。

断って家との縁を切った。




「プライム、 結婚しよう」

「嫌よ」


大事な話が有るとイコールに王宮のカフェテリアに呼び出されたら

こんな馬鹿話だ。

ほんっっっっっとうにイライラする。


「前にも断ったと思うけども?」

「前とは状況が違う」

「同じよ、 今でもコモンズが何処に行ったのかが分からない・・・」


知っているであろうモスマンはのらりくらりとやっている。

アイツは一体何処で何をしているんだ?

何処かで篭って研究をしていると思ったが目撃情報もある。

一体何なんだアイツは!! コモンズの代わりにアイツを探しても

探した所で見つからない!!


「聞いてるのか、 プライム」

「・・・・・聞いてなかった、 そろそろ行くよ」

「待てよ、 真剣に考えた方が良いんじゃないのか?」


イコールが私の手を掴む。


「どういうつもりですか、 イコール騎士団長殿・・・・・

出世したのに棒に振るつもりですか?」

「そうじゃねぇよ、 俺達もう30歳近いじゃないか」

「それが何か?」

「何かじゃねぇよ!! もう30だぞ!? それでまだ結婚していないんだぞ!!

お前に至っては家から勘当されてるじゃないか!!」

「私はこの国の首席聖女よ」

「それもどうかな、 俺達は30を過ぎたら40、 40を過ぎたら50

どんどん衰えるんだぞ、 聖女の職にずっと就けるとは思えない

俺だってそうだ、 騎士団長も永遠に続けられる訳はない

歴代の団長も最長で勤められても15年だ」

「・・・・・悪いけど私が好きなのはコモンズだけよ」

「俺が好きなのはプライムだけだ

コモンズはお前の前から消えてしまったじゃないか」

「っ!!」

「失礼します!!」


衛兵がやって来た。


「・・・何?」

「陛下からお二人に出頭命令が来ております!!」

「え? イコール?」

「いや、 分からん・・・」


首を傾げながら王の元に向かった。


「陛下、 聖女プライム、 参上しました」

「騎士団長イコー「挨拶は良い」


王は挨拶を遮った。

明らかに怒っている。


「話はただ一つ、 勇者の件だ「見つかったのですか!?」


思わず叫んでしまった。

王様を含めて周囲も驚いている。


「も、 申し訳ありません・・・」

「・・・・・勇者の行方不明事件により、 我が国は追い込まれている

その事について話したい」

「調査は私の方でも進めています、 しかし」

「いや、 そうじゃない、 責任の所在について言っている」


責任の所在?

一体何の話だ?


「勇者が居なくなったのは我が国が報酬を出し惜しみをしたから

と言うのが各国の共通認識になっている

お陰で嫌がらせを受け始めている」

「そんな事は無いと思います、 誇りを持って世界を守り

国王陛下から「黙れイコール」


王様は相当怒っている様だった。


「・・・昨今の魔王復活は知っておるな?」

「はい、 存じ上げております」

「えぇ、 我々でも魔王封印の儀式を勧めていた筈なのに、 何故「何故も

何もあるか!! お前がサボっていたからだろうが!!」


可笑しな事を王様が言い始めた。


「サボる? いえいえ、 儀式は部下に厳命して有りますので

私の管轄外「そんな訳有るか!! お前の仕事だろう!!」


王様が激昂する。


「聖女の規定には火急の要件が有れば仕事を任せる事が出来るとあります

私は勇者探索の為に時間を費やしており儀式をするがありません」

「貴様ァ!!」


王様が此方に向かって来て私を殴る。


「魔王封印の任務を何だと思っている!!

私は監督責任を問われて各国の代表の前で頭を下げる羽目になったんだからな!!」

「陛下、 その辺で「お前にも問題があるぞイコール!!

お前、 勇者の就職を邪魔していたらしいな!!」

「!!」


イコールを見る。


「・・・本当なの?」

「・・・・・本当です、 しかし勘違いして欲しくないんですが

私は別にコモンズが嫌いな訳「黙れぇ!! この男をひっ捕らえて牢屋に放り込め!!

勇者が出ていく原因ぞ!!」


王様が叫んだ。


「お待ち下さい陛下!! 陛下にも責任は有るでしょう!!「何を言っておるか!!

お前達のせいで勇者は出ていき魔王は復活したんだ!!」陛下も封印の宝玉を横領して

いるじゃないですか!!」


イコールの言葉で空気が一気に場が冷えた。

封印の宝玉は定期的に教会本部が作ってカーマン王国に送っている。

もしも横領なんて事が知られれば教会からは破門

世界各国から袋叩きにされるだろう。


「・・・・・」


王様も馬鹿では無い。

ここで事実を公表したと言う事はもしもイコールに何か有った場合。

横領の事実を暴露する手はずになっているだろう。


「・・・ならば勇者を見つけてこい!!

奴を連れ帰り魔王を討たせれば良い!!」

「「!!」」


王様の宣言は私にとってはラストチャンスだった。

私の持つ権力の全てを使って全力でコモンズを探し出そう。




「ありえないありえないありえないありえないありえないありえない!!!!!

コモンズが私以外の女と結婚するだなんて!!!!!」


私はコモンズが結婚したと言うデマを聞いた。

あり得ない、 デマなので報告した奴を殺して

現地にとんだ、 コモンズが働いているのは飲食店

何で勇者が飲食店で働いてるんだ!!!!!

私はその飲食店に行った、 臨時休業、 ふざけるな!!

私はドアを蹴破り中に入った。


「コモンズ!! 居る!? 居るんでしょ!?

貴方が落とした指輪持って来たよ!!」


そう言って指輪を取り出した。

捨てたんじゃなくて落としたんだよね、 私は分かってる

だからまた一緒になろう?

君が働いていなくても私が養うから・・・痛い


「・・・・・」


振り返ると弓を構えたインフラが居た。


「そこまでよ、 この街での狼藉は許さない」

「許さない? 何の権限が・・・」


体が動かなくなった、 麻痺毒。

馬鹿め、 直ぐに回復


「鈍ったな、 プライム、 昔のお前ならばこうはならなかった」

「!?」


モスマン!? 何処から・・・




きょうもわたしはせいじょのしごと。

こもんずはゆうしゃのしごと。

なかよくふたりでいっしょにくらすの。


「駄目だ、 頭可笑しくなってるよ

コモンズの結婚を知って可笑しくなってが輪をかけておかしくなっている」

「モスマン師、 治せないのか?」

「無理だね」


へんなこえがきこえる。

なんなの?


「やろうと思えば治せるかもしれないが

コストと見合わない、 裁判受けさせて処刑するかどうかを決めるだけに

大金は使えないだろう?」

「・・・・・」

「それに見て見なよ、 彼女の顔」


こっちをだれかがみている。

こわいかお、 でもわらってる。

てをふるとふりかえしてくる。


「幸せそうじゃないか、 このままほっといてあげよう

彼女は安い報酬で魔王討伐に参加して

今までこき使われて来たんだ、 それ位の報酬位はあげても良いだろう」

「・・・・・」


こわいかおのひとがかえっちゃう。


「おじさーん、 またねー」

「あぁ、 またな」


おじさんがかえっちゃった。

こもんずはおしごとからかえってこないかなぁ

わたしもせいじょのしごとをがんばらなくちゃ。

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