貴族子女インフラの新生活


貴族って楽な仕事だと思っていた自分を打ん殴りたい。

貴族の養女となった私に待ち受けていたのは

貴族としてのマナーや教養だった。

新生活を始めるのは大変だったとこの時思い出した。


流行り病で私の故郷は多くの人が死んだ。

私の両親、 コモンズの両親、 他にも多くの人が死んだ。

そんな中で私達は早く大人にならざるを得なかった。

新しい生活の為に私達は必死になって頑張った。


そして今に至る。

あの時に比べればこの程度の事なんて簡単だ。

頑張ろう。




「勇者コモンズが行方不明になったらしい」

「は?」


義父に呼び出された私は目が点になった。

ここまで驚いたのは何時ぶりだろう。


「・・・・・聖女プライムと駆け落ち、 と言う事ですか?」


聖女プライム、 コモンズの恋人だった。

私はコモンズが好きだった。

でも仲良くなる二人を邪魔したく無くて身を引いたのだ。


「いやプライムが追い出したらしい」

「え・・・」


言葉が消えた。

そんな事はあり得ないはずなのに。


「政治的な理由、 ですか?」

「いや、 不和だそうだ」

「・・・・・」


ありえない、 一体プライムは何を考えているんだ。


「ちょっとカーマン王国まで行って来ます」

「あぁ、 気をつけてな」


私はカーマン王国に向かった。




カーマン王国から帰って来た私を義父が迎えてくれた。


「どうだった?」

「プライムは物凄い馬鹿でした」

「どういう事だ?」


私は事の顛末を伝えた。

プライムはコモンズに自立してちゃんと職に就いて欲しかっただけで

追い出したけれども職に付けたら結婚するつもりだと言う事。

プライムからすれば自分とコモンズは愛し合っていると言う事。


「頭が可笑しいのか?」

「私もそう思います」


義父の言葉に同調した。


「婚約を破棄していない、 と言う事でしたが

これで結婚できるんですか?」

「いや、 カーマン王国の法に照らし合わせれば

追い出された時点で婚約は破棄されていると言う扱いになる筈だ

しかし追い出したのにまだ結婚するつもりなのか・・・

いや、 もしかして偽装破局?」

「あ」


破局を偽装して何かをしているのだろうか?

あの滅茶苦茶な論法からして

やはり二人の間に何か有ったのだろうか?


「その可能性、 高いですね」

「高いのか?」

「えぇ、 二人はとても仲が良くて・・・やはり破局は偽装で

何かをしていると思います」

「うぅーむ、 ならば注視するか・・・」




プライムの活動に注視しながら1年目。

私は結婚する事になった、 見合い結婚だった。

相手はネット子爵。

伯爵家の息子、 だったと思う。

神経質な所が有るが優しい男だった。

何でも見合いに何度も失敗していると言う噂の男だった。


「私、 結婚する相手の為に街を作ろうと思っているんです」

「街を?」

「えぇ、 私は子爵と言えども領地が無くてですね

今度、 街を任されるんです、 妊婦でも住みやすい街

如何ですか? 私は良いと思うんですが・・・」

「良いと思いますよ、 ただ運営はどうなるのかと言う話になるかと・・・」

「あぁ、 なるほど、 今まで何故か見合いしてくれた方に引かれて

いたのですが、 なるほど、 運営か・・・

確かに失念していました、 計画を練っておきましょう」

「そうした方が良いですね」


前評判とは裏腹に中々に先を考えている男だった。

貴族子女達からは『重い』と言われていた

なるほど街を背負う責任が重いと言う事か、 と納得した。


ネットとは様々な事を語り合った。

これからの政治。

魔王討伐後の経済活動。

そして私とコモンズの事。


「彼の事を愛しているのですね」

「如何だろう、 プライムとコモンズは

今でも偽装破局じゃないかって思っています

私にとって彼等が別れるのは天地が別れる位にあり得ないと思っています」

「そうですか・・・そこまで深く信じられるのですか・・・

羨ましい、 貴族達の中ではそこまで深い信頼関係は無いですよ」

「そうですか・・・」


語り合いながら沈黙の間が流れ始めた頃に私達は結婚を決意した。




結婚するのは良いとして問題がある、 招待客を如何するかと言う事だ。

故郷の連中は正直仲良くない。

プライムとイコールは呼びたくない。

コモンズの居場所は分からない。

となると一人しかいなかった。

連絡先を知っていて仲良くて読んでも良いかなと思える男。


「よっ、 インフラ、 結婚おめでとう」


結婚式に呼べる奴がモスマンしかいない人生は中々に不幸じゃないだろうか

と思い始めた、 貴族子女達も来ていたが義父の招待だったし・・・


「コモンズは来てないのか?」

「彼が行方不明になったって知らないの?」

「アイツ引っ越したぞ」


モスマンの言葉に目を見開いた。


「居場所知ってるの!?」

「あぁ、 だけどもアイツが教えてないと言うのならば

勝手に伝えられない、 とりあえず奴に聞いて来ても良いか?」

「え、 えぇ・・・コモンズが何でプライムと別れたかわかる?

私はずっと偽造破局だと思っているけども」

「普通に破局だぞ」

「うっそだぁ、 あの二人の仲の良さ知ってるでしょ」

「別れる時は別れるんだよ、 まぁ本人に会った時に聞いて見ろ」

「そうするわ」


そんな事を言いながらも私は結婚式を恙なく終えた。




コモンズからの連絡はあっさり着いた。

普通に飲食店のウェイターやっているのは驚いた。

殺人的な忙しさの繁盛店のウェイターをしているコモンズは

勇者やっている頃よりも切羽詰まっている風に見えた。


ネットはあれよあれよと言い包めて新しく出来る街にコモンズ達家族を

誘ったのだった。


「どういうつもり?」


帰りの馬車でネットに尋ねた。


「勇者が居るから街にプラス、 って政治的に彼を利用する気?」

「まさか」


ネットは笑った。


「彼の仕事風景を見て、 彼は慕われている事が分かりました

そんな男が近くに居ればと思いましてね

それに貴方の友人でもあるじゃないですか」

「・・・・・良いの? 昔惚れていた男だよ?」

「貴女の結婚式に呼べるのがあんなマスク男だけでは気の毒過ぎる」

「・・・確かに良い友達かもね」


私達は互いに笑った。




コモンズ達一家が私達の街に来て早6年。

アサーティブさんは二人目の子供の出産。

私も出産を終えて一息吐いていた。

子供をあやすのは乳母の役目だからあまり可愛がれて無いけども

それでも子供が出来るのは幸せだった。


「奥様、 モスマン様がおいでになってます」

「・・・・・」


変なタイミングで来る奴だ、 と思っていたが。


「カーマン王国がコモンズを探し始めている」

「「は?」」


思わずネットと一緒に呆気に取られてしまった。

最近魔王復活やら何やらでカーマン王国の責任が追及されているが

今更コモンズを連れ戻した所で問題が解決する訳もない。

そんな単純な事すら分からなくなっているのか。


「どうするの?」

「とりあえずコモンズ達には一旦ほとぼりが収まる迄避難して貰おう」

「ほとぼりが収まるって・・・魔王が死なない限りほとぼりは収まらないのでは?」

「なら安心しろ、 勇者無しでも魔王は倒せる

そもそも魔王の一番厄介な所は大勢いる配下

今回は復活のスパンが短すぎて手駒がまるで無いんだ

問題無く倒せるだろう」

「なるほど、 ではすぐにコモンズさん達に何処かに留まって貰いましょう

何処にしましょうか」

「ヴェレーナホーフと言うお偉いさん達の湯治場で良いだろう」

「そうしますか、 じゃあ早速手配しますね」

「じゃあコモンズ達に言って来るか」


モスマンは去って行った。




コモンズが温泉に言っている間にやはりと言うべきかプライムがやって来た。

最早錯乱してまともに言葉も通じていない様だった。


「あーあ・・・駄目だわ、 こりゃ」


プライムを見たモスマンが溜息を吐く。

プライムが焦燥しながら『八仙飯店』に向かう。


「インフラ、 腕は落ちていないな?」

「勿論よ」


貴族子女になっても弓は毎日握っている。

技術を練習すれば自信になり、 自信はあらゆる事に使える。

万能のカードである。

弓でも何でも自信になるのだ。


「じゃあお前は表、 私は裏だ」

「良いの?」

「あぁ、 問題無い、 と言うかお前だけでも良いと思うぞ

「そうなの?」

「あぁ、 まぁ念には念を、 と言った所かな」

「そう・・・」 


モスマンは普段はおちゃらけてる

と言うか狂ってる癖にこういう時に限って真面目にやる。


「懐かしいな・・・」

「何か言ったか?」

「ううん、 じゃあ行こうか」

「あぁ」



九 


あっさりと本当にあっさりと

世界を滅ぼそうとした魔王を討伐した勇者パーティのメンバーとは思えない位

あっさりとプライムを捕まえる事が出来た。


「・・・・・」


警邏に連れられて行くプライムを見て涙が頬を伝った。

妬んでいた憎んでいた呆れていた、 そして尊敬していた。

そんな女が連れられて行った。


「・・・インフラ」


ネットが私を抱き寄せる。

その胸は温かかった。


「・・・・・」


私は泣いた、 何故かはわからないが涙は止まらなかった。


「ネット卿」


モスマンがやって来た。


「飯食いに行きましょう」

「?」

「は?」


唐突な誘いに困惑するネット、 私も困惑した。


「・・・良いでしょう、 インフラも行こう」

「え・・・うん」


私は戸惑ったが肯定した。

プライムが捕まって感情が訳分からないのならば

訳の分からない奴の訳の分からない誘いに乗って見るのも良いだろう。


ひょっとしたら訳の一つも分かるようになるかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る