紫苑の華
あやふやだった目の前は目が慣れてきたからか、やっと辺りが見えるようになった継途。
真っ白なthe病室って感じな部屋にポツンとベットがある。
ベットの横にある机の花瓶には紫の花がいけてある。
紫の花は、太陽の光に照らされて生き生きとしていた。
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継途は深く深呼吸をして、盛大にため息をはきたい気分だった。
己の現状を知り呆れと苛立ちが芽生えた継途は落ち着こうと必死だった。
「とりあえずだが、状況は理解した。意味分かんないけど。
まぁ一連の流れを簡単にまとめると
・ボスが悠を雇って、おれを殺そうとした。
↓
・俺はまんまと罠にはまる。
↓瀕死
悠が親夜に連絡してここに運ばれる。
↓
一命"は"取り留める
↓
だけど、体の機能がほぼ機能しなくなって
↓
脳を移植して、新しいからだに入れ換えられる
↓
今に至る(INベイビー)
ってことね…。
なんと言えばいいのやら…ガチで意味わかんねえな。」
継途は、自身の金色にうねる髪の毛先を触りながら唸りをあげていた。
前の白い髪とは違い、キラキラしすぎて目に悪い赤ん坊の生えたての髪。
それは、今が現実だという証明だった。
妻に愛された自身の身体はもう死んでおり、今は親無し戸籍なしの赤ん坊。
理解しがたい現実。
継途の唸りは腹のそこから出ていた。
それとは裏腹に弟子は嬉しそうに曇りなき眼で継途を見つめる。
「一時はどうなるかと思ったけど…先生が生きててよかったです!
俺もみんなも待ってたんですよ!!」
親夜の瞳から、ポロポロとまた雫が溢れていく。
その瞳は喜びと先への希望に満ちて宝石のように綺麗に輝いていた。
自分に向けられた強い感情に継途は目をそらした。
政府は自分を必要としておらず、任務は失敗。動揺して死にかけてなおも大切な弟子を巻き込んだ。
継途にとって、自身の尻拭いや罪を誰かに背負わせることは一番あってはならないこと。
今生きていることは美談でも武勇伝でもない。
生き恥とはこれのことだろうと継途は思った。
「親夜…なんでおれを助けたんだ。
さっきは反射的に感謝したが、これは極刑対象に値する。
助けさえしなければ、巻き込まれもしなかったんだぞ。連絡がきた時点で関わるべきじゃなかった。
俺がお前の可能性も人生も潰すことになる。
一度の失敗で、生死が決まる世界なんだと、いつも教えていただろう。
知らないとは言わせないから…」
継途にとって、人生に何度もない失敗だった。
"暗殺対象を助ける"それすなわち、見逃すことは政府に逆らうことと同義である。
"敗者が死ぬ"それが殺し屋としてのあり方であり、生き物、暗黙の領海だ。
「…はぁ…」
重く苦しい空気感に小雪が息をついた。
「…知ってます…分かってました。俺は身をもって知ってます。
「じゃあ…なんでそんな愚かな行為をしたんだ」
だって!!
先生が死ぬかもしれないって言われて!
ぶっ倒れて、血だらけで…恩返しも出来てなくて…
なによりも悠さんが…すごく必死だったから…」
一度収まった涙は、また親夜の目からこぼれていった。
親夜はベットの机に勢い良く手をついた。机は勢いに負け、二つに割れていた。
「…俺の机…」
「…なんで悠なんだよ…?あいつは依頼されて俺を殺そうとしたんだぞ…。
なのに助けるようなことして、意味わかんねえよ…
親夜…ちゃんと説明しろ。」
「…お前さん方は本当に変な生き物だよ」
今まで静かだった小雪は、なにを思ったのか
声を大きくあげた。
そして話しに横槍を刺すように、小雪は継途と親夜の間に顔を覗かせた。
「プライバシーの欠片もないね。最近の医者は。今大切な話をしてるんだけど。」
継途が目を細めて小雪を見る。
まるで話しに割って入ってくるなと言うように。
小雪はそんなの知らないとでも言わんばかりに話しを続行した。
「そこら辺は俺が喋るよ。
君は大切な患者さんで俺は君の主治医だからね
机の御礼もしてえしな…?!」
言葉は、圧を帯びていた。
この医者は机が割られたことに納得していなかった。
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