モノローグ2~きっかける
華ちゃんと話し合った数日後ー
俺は仕事を辞めるための、最後の仕事に向かった。
これが終わったらボスに話すと思うと気が重くて仕方がなかったが、これも仕事だ。
深夜の廃工場に、割れた窓が月明かりで照らされる
ザリザリと安っぽい足音が聞こえてきた。
大方最後の仕事相手だろう。
「…」
深く被っていたフードを取り、青く輝く宝石のような目をしているこの男は
「先生!まさか初仕事で先生と組めるなんて!すごく嬉しいです!!!俺の成長した姿にしかと刮目してください!」
暗殺を生業にしているはずのこいつは、緊張感もなく明るくそう言いきった。
いささか変な物言いなのは、こいつがドがつく程のアホというだけ。
きっと、本でも読んで気に入った言葉を繋げて話しているのだろう。
こいつといると、気持ちがその場一杯に溢れだす、そんな風に思わせられる。
「お前はもう少し静かにしていろ。声がでかい。存在が強い」
「??ありがとうございます!!」
「褒めていない。もう少し静かにしろ」
「御意!!…ハッ…御意」コソッ
こいつは顔も太刀筋も悪くない。
悪いのは、頭と服のセンスだけだろう。
だが"自分勝手"な理由で弟子にした俺のことを慕って警戒心もないが、誰よりも信用できる。
最後の仕事相手としては、いい相手と言えるかもしれない。
「任務の内容は頭に入っているか?」
「勿論です!隣国のスパイが紛れているから駆除しろってはなしですよね?」
「簡単に言えばな…
スパイが紛れているのは政府が運営する研究所だ。
そこでは、遺伝子破壊の研究や危険薬品を扱っている。薬品の情報が漏れれば大事ではすまないだろうね。
注意すべきは、スパイから情報を搾り取ってから殺すってとこだな。取れるものは取っとくもんだ。
スパイについての情報は道中資料でも見といてくれ。」
「…」
親夜は黙ってはいるが不安そうな顔で手を強ばらせている。
大体の殺し屋は、幼い頃から殺し屋として英才教育が施される。
それは、こいつも例外じゃなかった。
俺が幼い頃から殺し屋になるように育てた。
殺し屋として必要なものは全て叩き込んだ。
ある程度は戦えるようにしたのに、心だけは上手く扱えなかった。戦うことに恐怖があるような奴
人を"殺す"ことが怖いなんて、俺は思ったこともなかった。
才があるのに平凡な性格なこいつはきっと異 質なのだろう。
「俺、ちゃんと出来ますかね…?」
下を向いて自信なさげにこちらを覗く親夜。
「…お前は俺の弟子なんだ。
お前がピンチなら助けてやる。」
だが、こいつはまだ中一のガキだ。まだまだ生き方なんて百も二百もある。
俺の自己中心的な行いを助けと取って同じ道に行こうとするこいつは愚かだ。
ガキのくせに世のため、人のため、とかいって一丁前に大きいことを言う。
「先生…」
「おい、こんなグダグダしていたら夜が明けるぞ」
親夜はニ、三回自身の頬を叩いて「覚悟決めましたっ!」なんて言いながら笑った。
その笑いは、妙に知的だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「広いッスね…豪邸じゃん。こんなとこに研究所なんて建てます?」ザッ…
無線機から無機質なデジタル音と、親夜の声が響く。
「研究内容が漏れれば大変だからな。
なるべく分かりにくくしたかったんだろう
どこにだれがいるかも知らん。
無駄な仕事が増えても嫌だからな。静かにしとけ。」
あれから俺たちは別行動をとっていた。
親夜は、スパイの痕跡をたどり
俺が先回りして、挟み撃ちにする作戦だ。
スパイの現在地は、研究実験室103号室
静かな廊下に無機質な電子音がながれている。
研究実験室から漏れでる音だろう。
「…(これで最後か…)」
無線を親夜の方に繋げて、部屋のドアにノックを三回する。
ぎぃっ…
「…誰だい?…こんな時間にくるなんて不躾だね…」
白衣を着た、深紅の髪の男は心底嫌だというような表情でこちらに振り向いた。
「…」
足に引っ掻けていた、サバイバルナイフを手にもって対象を見つめる。
対象は目を細めてナイフと俺の顔を見た。
「うむ…君はこの国の掃除屋さんという感じかね。僕になんのようかな?
「…チッ」
そんな睨まないでおくれよ。
綺麗な顔が台無しだよ?しろくん
もしかして僕の顔も台無しにしちゃうのかな?」
そいつは悪役のような笑みで俺を見下すようにそう言った。
「知らない。興味もない。知っていても知らなくても関係ない。」
知っているかと聞かれたら、知っている。
こいつは、俺の弟弟子にあたる男だ。名を
潜伏と変装を得意としており、近接戦が苦手な中距離型のガトリング野郎だ。
近接に持ち込んでしまえば、すぐに終わるような相手だ。
首の頸動脈を切って一瞬だ。
「うぅっ!!あっぁ…っ…助けて…ザッ…ふふっしーろくん」
無線機から声が聞こえた。
それは、悠から親夜の声に変化していった。
「…お前いつから…」
「君は鈍い。鈍くなった。いつからそんなにぶくなったのかね?」
悠は白衣から銃を取りだし、机にあったガスマスクをつけた。
あいつは銃を二丁持ってバンッ!という音を合図に先行を仕掛けてきた。
ピーーーー…という電子音が俺と悠の回りを囲う。
銃とナイフの攻防戦が始まった。
「最初からだよ。君が気づかなくて僕も驚いた
ほぉ。取り乱しているね。君の弟子は大丈夫だよ。そもそも今回の任務に関係ないからね?
「(部屋の中に毒ガスが罷れてる……もって5分、いや4分か)」
あっ毒が気になるかい?
君と真っ向勝負で勝つなんて不可能に等しいからね。
君の弱味などゆうに知れているしねっ…
例えば君の奥さんとか…っ!
「…」
まぁ君すごく弱くなってるから。そんな手間をかける必要もなかったね。」
無線機からまた音が流れた。
「……っあ…け…いくん…」
「…」
苛立ちが押し寄せて、なにも考えられなくなった。
大降りになったナイフは意図も容易く避けられた。
「あからさま過ぎて、つまらないね。君こそしろくんなのかね?」
バンッっ!!!!!
辺りが静まり返って、悠の話し声なんて耳にも入らなかった。
華ちゃん…華ちゃん…頭はそれしか分からなくなっていた
嘘に決まっているのに、動揺した。
「…」
悠は神妙な顔をしていた。
ただただ銃を構えて、俺に勝って嬉しいとも安心したとも言えない…しいていうなら、悔しそうな顔。
「いいところに当たったんじゃないかね?」
ぎりぎり急所は避けたか、血がどくどく抜けていってる。
大量出血で、このままだと死ぬだろう。
「ごふっ…はぁ…ふぅ…っ」
悠は銃を向けながら、不器用に笑って見せた。
「…っ…へったくそな笑い方だな…はっ…悠っ」
俺は、最後の力でナイフを振り下ろした。
「しろくん…しろくん…すまないね…」
もう一度引き金を落とす音がした。
ごめん。
バンッ!!!
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