第24話「前だけを見て!」

「とりあえず、一旦地球に逃げようと思う! こんなことを頼むのは情けないが、どうか力を貸してくれ!」

「当たり前でしょ! ユエが言わなきゃ私から言おうと思ってたよ!」

「あたしもユッくんの力になるー! あのおじさん、最高にムカつくもん! しかもウサギに悪いイメージつけたし! 最低!! あんな最低なやつだしさ、みんなもやっぱりユッくんが王様のほうがいいわってなるよ絶対に!」

「はは、そうなってくれたらいいな!」


 私達は町を全力疾走していた。走りっぱなしで心臓が痛い、横っ腹が痛い、息が苦しい。でも止まってはいけない! 


 だって、もう追っ手が来ているもの! 少し振り返ったら、たくさんの兵士が追いかけてきていた! 後ろを向くと怖くなっちゃうから、今は前だけを見て走るしかない!


 走って走って、ようやく見えてきた、月見ヶ池に繋がる池!


 と、ここでサクヤさんがユエを下ろした。


「ユエ様。地球に逃げても、追っ手を振り切れるわけではありません。俺が囮になって引きつけて時間を稼ぎます。その間に、できるだけ遠くに逃げて下さい」

「な、何を言っているんだ」

「俺は従者として失格です。ついていく資格はありません。ですがどうか覚えていて下さい。俺の主はユエ様お一人のみです。そして、この国の王はユエ様をおいて他にいません。幸運を祈っておりま……」

「格好つけてるんじゃないよーーー!!!!」


 どんな寝言を言ってるのよサクヤさんは! 怒鳴ったら、サクヤさんはきょとんって顔をした。


「ユエのそばにいる味方は一人でも多いほうがいいでしょう! ユエにはあなたが必要だよ! 今までケンカしていたことも含めて、地球で話し合って謝りなさい!!」


 ユエが、サクヤさんの服のすそを軽く引っ張る。


「……ついてきてくれ」


 サクヤさんは……うなずいた。


「……わかりました。お供いたします、ユエ様!」

「あはは、サックー格好つけるの失敗しちゃったね~! ……って、来てるよ来てる!」


 瑠歌ちゃんが後ろを指さす。見てみたら……うわ、来てる! 兵士さん達が、どんどんこっちに近づいてきているよ!


「――行くよ、ユエ!」

「うん、チヅル!」


 この先、何が起こるかわからない。でも私は、必ずユエを守る。ユエの支えになる。そう決めたんだ。


 私達は一気に、池に飛び込んだ。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ウサギの王子様と、不思議な月の王国 星野 ラベンダー @starlitlavender

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ