One and only

《天使》とはなにか。調査に乗り出す人間が二人。


***〈新聞屋〉江口広(えぐちひろ)の場合***


 荒廃した街を爆速で走るオフロード車が一台。車の中には運転席に一人、助手席に一人、人間が乗っている。助手席に座っていた少女がおもむろに話し出した。


「《天使》って、なんなんですかね。ヒロさん」

「んー? 逆に琴子はなんだと思う?」


 ヒロさんと呼ばれた女性は、質問を質問で返されてムッとする少女───五十嵐琴子の方を向いてにっと笑う。


「またからかってるんですか?」

「いんや、琴子の意見が聞きたくてね」


 逡巡する表情を見せる琴子。


「そうですね。既存の生物の突然変異とかではないことは確かですね。あと、宇宙から来たってのもナンセンス。まず、前者ふたつの場合、言語帯が違うのがセオリーってもんです。最初から意思疎通───まぁ一方的な宣告ですけど、ができるってのが不可解極まりない。まぁ宇宙ってなら何でも有り得そうな気もするけど、私たちが知っている《天使》の形をしているのが気にかかります」

「だね。では、《天使》の正体はなんだろう?」

「……私は、この世界の位相のずれた位置の存在。つまり異次元からやってきた存在じゃないかと思います」

「なるほど。して、その目的は?」

「それが分からないからこれから調べるんですよね……やっぱりからかってます?」


 江口広はハンドルを握りながら肩を震わせる。


「いやすまない。でも、琴子の意見に私は賛成だよ。あの《天使》たちは、私たちの世界の地続き、いや裏側と言った方がいいかな。そういった存在には違いない。そして、なぜそういった存在が私たちに干渉することを選んだのか、なぜそれをやるのが今なのか、これらをテーマにこれからやっていく」

「───で、わたしたちは今東京に向かってるわけですけど、もっといい道はなかったんですか? ここ、BP値高い地点ですよね」

「まぁ、車で突っ切ればなんとかなるってのもあるが、寄り道をしたくてね」

「寄り道?」

「ああ。実はある筋から情報を仕入れててね。そこでまずある検証を行う。私たちはそれを公表する。そういう流れだ」

「……なるほど。これは着くまで教えてもらえない感じですね、わかりました」


 少しムスッとした顔になった琴子の頭を撫でる広。思わず口角が上がりそうになる琴子だったが、ぐっと堪える。


「……その手には乗りませんよ」

「ハハ、それもそうだ。もう18だもんな。時間が経つのは早い」


 話していると、霧が濃くなっていく。青い粒子がチカチカと光り、視界を妨げる。ビームライトをつけると、少し視界が開ける。


「まずいかな、突っ切るぞ!」


 アクセルを踏み、エンジンをフルスロットルすると、物凄い音を出して車が唸る。霧の中を勢いよく進んでいくオフロード車。街は不気味なほど静かである。それが、二人の緊張をよりいっそう高める。


「大丈夫ですよ。いざとなったら……」


 琴子の目が青い煌きを放つ。ヒロは口を一文字に結んでいる。あまり琴子に負担をかけたくなかった。この特殊能力に気づいたのは、ヒロが以前怪化した人間に襲われた時だった。琴子はその力でもって怪物をねじふせたが、同時に怪我も負った。その力は否応なしに少女を戦いに駆り立てる。できればそうして欲しくない、というのがヒロの本音である。アクセルを踏む足が強ばっていくのがわかった。


 やがて、霧が晴れていく。ヒロがため息をつくと、琴子の目も通常の色に戻る。


「抜けましたね」

「ああ、よかった」


 車は街を抜けて、どんどん緑が多くなってくる。やがて車は円形の建物の前に止まった。


「ここだ。いくよ琴子」

「はい!」

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De:story タムラ ユウイチロウ @you_monodiary

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