第4話 中二病を使いこなすものこそ…最強!
アーキバスを仲間にすることに成功した。これで俺の死亡フラグの一つは消え去ってくれたわけだ。ただこれは俺にとっては最低最悪の場合を想定した状況のための保険である。アーキバスを手中に収めた今俺の思考には余裕が生まれていた。ジョン・ドゥというキャラクターが死ぬにはいくつかのフラグの積み重ねが必要となる。直接的に言えばジョン・ドゥが主人公と戦うという状況そのものが死亡事由だが、そこまでに至るまでに様々な悲劇の存在があるのだ。
「あとは主人公側のヒロインさえ救えればなんとかなるよな?」
俺はそう独り言ちる。ソシャゲーに限った話ではないが、物語には『目的』を提示する導入がある。近年のソシャゲー系だと『世界の危険が危ない』のでヒロインと一緒に戦って世界を守ってください。みたいなのが流行りだろうか?この世界の原作『プリンス・サピエンス』では主人公にゲームシナリオを通した全体の目的が提示される。それは。
「ヒューマン社会の統一」
この世界のヒューマンどもはどいつもこいつも野蛮人だ。カンパニーなんかも勢力圏を広げるためにしょっちゅうドンパチを繰り広げている。主人公はこの世界に転生してきて、まずカリストという名のヒロインと出会う。その子に保護されてこの社会の現状を知るのだが、チュートリアル中にカリストは企業間戦争で死んでしまう。正確に言うと主人公とライバル関係になるキャラクターによって殺される。そして主人公は復讐と、そもそもの戦争の原因であるこの社会そのものを何とかするために、自分自身も起業してヒューマン社会の統一を目指すことになるのだ。
「コマンダー!今、人類の統一とおっしゃいましたか?!」
俺の隣にいるアーキバスがなんか瞳をキラキラさせながら俺を見詰めている。
「え、ああ、まあ」
「つまりコマンダーは人類の統一という偉業を達成するためにジブンを復活させたのですね!いと高き志!まことに感服いたしました!」
あ、なんか変な風に解釈された。俺にヒューマン社会の統一なんていう長大な野望はもちろんない。そんなことよりも目先の死亡フラグを何とかしたい。ただそれだけだ。
「このアーキバス!コマンダーの目指す理想のために微力ながらも尽くさせていただきます!!」
なんだろう。アーキバスがメッチャ感動しているのが伝わってくるぅ。アーキバスって命令には従順だけど、人の話は絶対に聞いてないタイプなんだよな。正直言ってたちが悪い。まあ今はいいや。どうせ目先のドンパチでしばらくしたらこの理想とやらも忘れるだろう。
「まあ、よきにはからって。…んん?地震?」
部屋がぐらっと揺れた。揺れは途切れ途切れで発生する。
「いいえ、コマンダー地震ではありません。この部屋の上のドーム状の空間で戦闘が行われております」
アーキバスの目が淡く光っている。センサーを働かせているようだ。
「戦闘している勢力のうち片方の所属はこの都市のガードロボット『エアホエールキング』のようです。もう片方は…なぜかはわかりませんが六機のセクサロイドが小隊を組んでいるようですね。メイルタイプが5機、フィメイルタイプが1機。一応いずれも戦闘用の調整を受けているようですが…。愚かな。なぜ戦闘用ではなく愛玩用の玩具などをわざわざ改造して投入しているのでしょうか?理解が出来ません」
はい。ここでアーキバスちゃんがこの世界の根幹設定をネタバレかましてくれました!おそらく上で戦っているのはこのダンジョンのボスとアッシュ隊のことだろう。アーキバスのセンサーはアッシュ隊の正体を正確に見破っている。ずばり言えばこの世界における『ヒューマン』という種族は自分たちを人間だと思い込んでいるセクサロイドたちの末裔である。じゃあ本物の人間はどこ行ったか?人類なら絶滅したよ。何があったかは知らんけど。少なくとも俺がプレイした第三部までは人類絶滅の理由は明かされていない。この世界の真の姿は第二部で明らかになる。そしてヒロインたちはセクサロイドであることが判明するのだ。それは主人公にとってよりもヒロインたちにとってショッキングなイベントとなる。なぜならば自分たちは人間だと思っていたのに、人間が造った玩具でしかなかったという事実。それと主人公へと向ける好意や愛情、恋心が、セクサロイドとしてプログラムされた『偽りの感情』でしかないということに。でも俺から言わせれば感情なんてその時その時で変わるもんでしかない。どうせ人間の男だってちょっと女の子に優しくされるだけで惚れるようなアホしかいないのだから、セクサロイドの感情だってそれと似たようなものだろう。まあ作中での葛藤は俺にはどうでもいい。それよりもだ。
「アーキバス。戦闘状況はどうだ?どっちが優勢?」
「ガードロボットが圧倒的に優勢ですね。このままいけば間違いなくガードロボットが勝ちます」
俺はそれを聞いて頭を抱える。アマラウのピンチである。俺はヒモだ。容赦のないクズだ。だけどヒモとしての矜持はある。か、勘違いしないでよね!寄生先の女の子がいなくなったら困っちゃうだけなんだからね!はい。助けに行きましょ。
「アーキバス。行くぞ。助太刀に行く」
「助太刀?セクサロイドたちを助けるのですか?人類にとってはただの玩具ですよね?助ける意味はありますか?」
アーキバスはこの命令には乗り気じゃないようだ。というかセクサロイドへの反感を強く感じる。
「アーキバス。これは高度かつ重要な超戦略的ストラテジーに基づくベネフィットをアクセプトした結果によるジャッジメントだ」
俺がよくわからない言葉でそれっぽく語るとアーキバスはその場で俺に向かって跪いて首を垂れた。
「それは大変失礼しました!そのような超然的立場からの御決断を疑うなど、下僕としての分を超えた過ちでございました!深くお詫びも仕上げます。お許しください!」
なんとか説得できた。ちょろい。ホストに貢いでいる地雷系メンヘラ女子をお風呂に墜とすよりちょろいぜ。
「では行くぞアーキバス!」
「Ja!了解いたしました!」
そして俺たちは小部屋から出てボス部屋に向かったのだ。
ボス部屋の前までやってくると扉が開いていて中の様子が見えた。メカニカルな空飛ぶクジラさんがビームやミサイルを出しながらドーム状の部屋の中を悠々と泳ぎまわっている。対してアッシュ隊は圧倒的火力相手に防戦一方のようだ。
「く!っち!おい役立たず!お前おとりになれ!」
アッシュがアマラウを睨みながらそう命じたのが見えた。アマラウは絶望的な表情になったが、ただ頷き小隊から離れて走り出した。クジラの視線はアマラウを捉えてそちらにビームやミサイルを放ち始める。
「やあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
アマラウはミサイルを剣で切り裂き、ビームを魔法のシールドで防ぎながら囮としての役割を全うしようとしていた。その隙にアッシュ隊はクジラに攻撃を仕掛ける。だが。
「くそ!俺の剣さえ通らないのかよ!!」
アッシュの剣でさえもクジラに傷一つつけることは出来なかった。囮作戦は失敗に終わった。
「そんな?!きゃぁああああ!」
作戦の失敗に動揺したアマラウは迫ってくるミサイルを捌くことに失敗して爆風に吹っ飛ばされた。そしてドームの壁面に叩きつけられてその場にうずくまる。
「アーキバス!俺は彼女を助ける!援護してくれ!」
「Ja!」
アーキバスは愛用の火縄銃を召喚してクジラに向かって構え、発砲を始める。そしてその球はクジラにヒットし、怯ませることに成功した。その隙に俺は全速力疾走でアマラウに駆け寄り、彼女の前に立つ。
「え…うそ…なんでジョンがここに…?だめよ。早く逃げて…」
「今は話さなくてもいいよ。大丈夫俺に任せろ」
俺はこの間リカルドさんから貰った刀を抜いて構える。1m近くもある太刀はドームを行きかうビームの光を浴びて鈍く輝いていた。
『HOoooonnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnn』
クジラが俺をタゲったようだ。大量のビームが一斉に俺のところに飛んでくる。俺は刀に魔力を通して、それらのビームのすべてを切り裂いた。
「は!バッティングセンターだってもっとイケてる弾出せるぜ!もっと来いよ!おらぁ!ひゃは!」
この間まで死ぬのが怖かった。だけど今は死ぬかもしれない戦いの中で生きている実感をはっきりと覚える。俺も意外と単純だ。だけどこの世界に来れてよかったよ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
俺はクジラに向かって駆けだす。迫ってくるミサイルを切り裂き、ビームを避けて、思い切り跳ぶ。そしてクジラの鰭の部分を思い切り切り裂いた。
『HOONNNNNANNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNWWWW』
奇声を上げてクジラは苦しむような素振りを見せた。さてこのままいけば倒せる。俺は刀を構えてクジラと向かい合う。その時だった。アーキバスがいつの間にか俺のそばにいた。そして俺の服をちょんと掴んでいる。
「なにかなアーキバス?」
「こまんだぁ。ジブンはもしかして必要ないのですかぁ!ジブンはもしかして本当はいらないんですかぁ!うわぁああああああんんん」
うわめんどくさ!?アーキバスさん見せ場がないもんだから拗ねてやがる。
「そ、そんなことないぞアーキバス!むしろ俺にはあいつのひれを落とすのでいっぱいいっぱいなんだ!うん!そう!だから頼むよ!あのクジラを全力でぶっ殺してくれ!」
「命令ですか?!命令ですね!やったぁああああああ!お任せください!このアーキバス!命に代えてもあのクジラを落としてみせます!!」
いや最強キャラが命に代えてもなんて状況がくるわけない。アーキバスさんメンタルはマジ最弱っぽい。
「我は獄炎劫火の化身!然らずんば我この世に煉獄を顕現せしめん!
アーキバスは両手を広げて何かの呪文を唱え始める。絶対にSSR級の攻撃きちゃったよこれ。なんかすごい力の波動を感じるもん。実際このドームにいる全員がアーキバスを見て恐れおののいている。
「挽歌は高く鳴り響き。弔歌は悉く枯れ果てる!防人たちは理の果てより来たらん!」
周囲の空間がまるで陽炎のように歪む。そしてその陽炎から次々とアーキバスと同じデザインだけど白い服を纏った女の子たちが何十人も出てくる。いずれも顔はアーキバスとおなじだ。違うのは瞳の色がピンクで髪の毛が紫なところ。いわゆる2Pカラーみたいな感じ。
「四方世界に轟け我らが勝鬨の聲よ!」
アーキバスさんがなんかかっこいいポーズを取りながら両手をとても素敵な形に組んでいる。すると白いアーキバスたち、正確にはアルタードローンというらしい。アルタードローンたちが火縄銃をあの伝説の三段構えで陣を組む。
「嗚呼。火を熾せ。引き金に指をかけよ。狙いは我ら覇道を阻むもの全て!遍く報せよ!滅びの
号令と共にアルタードローンたちが一斉に引き金を引く。そして轟音がドームに響き渡り、クジラを鉛の暴風が飲み込む。
「………!!!!!!!!!」
クジラはうめき声さえ出せずに一瞬にして灰にされてしまった。それだけじゃない。さらに射線上にあったすべての構造物を悉く破壊していく。そして砲撃が終わると地上まで開いた大穴が残された。馬鹿みたいなド火力でダンジョンごとぶっ壊しやがったよこのバカ。とうのアーキバスはドヤァって顔をしている。可愛い。けどやりすぎだと思います。
「アーキバス。ご苦労」
「いえ。この程度のこと大したことではありません。この勝利を我が主君に捧げます」
アーキバスは俺に向かって跪く。アルタードローンたちは儀仗兵のように銃をかっこよく決めて俺とアーキバスを囲む。なおアルタードローンたちも誇らしげにドヤァって顔してた。なんかウザい。
「お前ら一体何なんだよ!!」
この沈黙を破るやつがいた。アッシュが俺たちに迫ってくる。だがアルタードローンたちがさっとアッシュを包囲して銃剣を突きつける。
「ぐう。くそ!そこのピンク頭!お前は一体なんだ!どこのミーレスだ?!名を名乗れ」
アッシュはアーキバスを憎々し気に睨んでいる。そりゃ目の前でこんなことされたらそんな顔にもなるよね。だけどアーキバスの態度は冷たい。
「ふん。お前のような卑しいセクサロイド風情に名乗る名など持ち合わせてはいない」
「セクサロイド…?いやそんなことはどうでもいい!俺を卑しいだと!俺は天喰のフォックスロットのミーレスだぞ!」
肩書を誇り始めたら大抵の場合それは負けている証拠だ。アーキバスのアッシュを見る目は冷たい。
「コマンダー。この者。処理してもよろしいでしょうか?まるでハエが飛ぶような声で騒がれるのはコマンダーにとっても不愉快でしょう?」
「そこまでではないけどね。とりあえず拘束を解いて。話したいことがある」
「了解いたしました」
アッシュを包囲していたアルタードローンたちは銃剣を下げた。
「てめぇ…!そこのピンク頭はお前が制御しているのか?!」
「制御っていうか。彼女は俺の部下ってやつかな」
「いいえ!第一の下僕です!!」
アーキバスがどうでもいい訂正を入れてくる。話が反れるのは嫌いだ。もういい単刀直入に話を進めよう。
「ケンドール・アッシュ。俺はお前に用がある」
「な、なんだよ…」
俺の冷たい声に少しアッシュがビビっているように思えた。まあアーキバスを従える俺はその気になればここにいる全員を一瞬で皆殺しに出来るのだから当然だが。
「さっきアマラウにお前は無茶な命令をしたな。囮になれと。そのくせ自身は何ら敵にダメージを与えられなかった」
「はぁ?それは相手の装甲がこちらの想定を大きく上回っていたからだ。仕方がないだろう」
「ふざけんな!!」
俺はアッシュのみぞおちを思い切り殴る。
「ぐぅ…!」
アッシュはその場に膝をつく。かなりのダメージになったようだ。
「アマラウはミーレスに誇りを持っている。だからときに無茶な命令をされても仕方ないのかもしれない。それが仕事だ。だけど腹が立つんだよ!何の成果も出せてないことに!彼女は精一杯頑張った!なのに命じたお前は何の成果も出せてない!恥を知れ!」
ミーレスって仕事はきれいごとではない。だけどこの世界には必要な仕事だ。なのにもしかしたらアマラウは今日ここで無駄死にしていたかもしれないのだ。そんなの絶対に許せない。
「…くそ…俺は…!」
アッシュも悔しそうな顔で俯いている。本人にも俺の言葉に後ろめたさがあるのだろう。今後こういうくだらない命令を出さないようになればいいけど。まあ殴ってすっきりしたからそれで今はいいや。
「このダンジョンはお前らの手には負えない。いますぐに撤退しろ」
俺はアッシュにそう命じた。しばらくの間屈辱に震えていたが、アッシュは立ち上がり、部隊員たちに命じた。
「ここで撤退する」
そしてアッシュたちはドームの部屋から出た。
「ジョン!帰ったら話聞かせてね!あとさっきのやつ。怒ってくれてありがとう!じゃあ先に戻るね!」
アマラウはアッシュたちと共に撤退していた。
「俺たちも帰ろう」
「Ja!」
俺たちもボス部屋を後にする。目的は達成できた。アーキバスの能力は思っていた以上にすごかった。これなら俺の未来は明るいはずだ。俺はウキウキ気分でアマラウの部屋に帰ったのだった。
****作者のひとり言****
アーキバスさんがアルタードローンを展開してぶっぱぶっぱしていれば大抵の敵は何とかなる件について。
最強なんだから自重する必要はないですよね!こういうのがいい!たまにはそう思います。
さてこの世界の歪みがオープンになりました。
同時にジョン・ドゥとしてどうやったら破滅せずに済むのかのヒントも出てきました。
未来は明るいですね(*´Д`)
それがひっくり返るまであと少し…。
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