ソシャゲーのチュートリアルボスに転生したけど、原作知識でリアルイベント限定配布の最強URキャラをゲットして原作主人公を倒して原作シナリオから逸脱します!

園業公起

第1話 リセマラ禁止の『転生』♡

 与えられた義務ユメが、本当の幸せだって気づくときはいつだって遅すぎるんだ。



















『Prince Sapiens』











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『背信の夢、希望の義務』















 病院のベットの寝心地は最悪だ。マットは硬いし、シーツは清潔すぎて冷たい。


「大丈夫?気分は悪くない?」


 母がベットの傍の机に花を飾りながらそう言った。


「悪くないわけないじゃん。余命1年の宣告。手術の成功率はソシャゲのガチャと違ってリセマラが利かない。詰んでるよね」


 俺はスマホでソシャゲー「プリンス・サピエンス」をしながら皮肉一杯に応える。


「そんなことないわ。本当にいい先生が執刀してくれるのよ。前みたいに元気になれるわ」


 俺はそれに返事をしなかった。病状の説明は嫌って程聞いた。セカンドどころかサード、フォース、となんども違う医者に診断してもらったのに、余命一年は覆らなかった。俺は絶望の中に墜とされた。這い上がることは消してできない。何者にもならずに死ぬことが確定した惨めな人生。なんで俺がと問いかけても誰も答えを持ち合わせていない。運が悪いだけ。誰のせいでもない。悪いことなんて何もしてないのに、俺は惨めに惨たらしく死んでいく。


「ちょっと散歩してくる」


 俺は母と一緒にいることに耐えられなかった。健康な体をくれなかったと責めてしまいそうだから。母が毒親だったらよかった。そうしたらいくらでも責められたのに。








 散歩で病院の中庭に出た。そこには俺と同じように世を儚む者たちのたまり場だった。だけど彼らと俺とは残念ながら仲良くできない。俺たちは弱者同士だ。ケアし合うことが出来ない。


「やあ、世の中に絶望しているところ悪いね」


 俺が座るベンチの横に銀髪碧眼の美女が座った。俺の主治医で明日の手術を担当するダイアナ・フォレスト先生だった。


「あんた医者のくせに患者に優しい言葉もかけられないのか?」


「かける必要がない。だって私が担当する以上君はこの先も生き続けることになるからね。むしろこの先生きて苦労することを考えれば下手に優しい言葉などかけてやれないよ」


 ドヤ顔決めてくるフォレスト先生がウザい。でもこの人は俺の病気では世界有数のスーパードクターらしい。


「そう。生きる方がずっとつらい。残念ながら君はそうなるだろう。すまないね。君をここで死なせてやる方がずっとずっといいのかもしれないけど、君には生き延びて義務を果たしてもらうよ。君だけの尊い義務をね」


「ようは明日はまかせとけって言いたいのね。あんたの言ってることはよくわかんねーよ。でもありがと。あんただけだよ。なんかまともに接してくれる人は」


 病気になって以降周りの扱いは変わった。腫物を扱うように、穢れたものを扱うように、みんな優しく、そして遠くへと行ってしまった。家族でさえも例外じゃない。それはあまりにも孤独だった。


「先生。お願いがあるんだけど」


「なんだい?」


「俺が死んだらそこの中庭の真ん中を掘ってくれよ。そこにタイムカプセルを埋めといた。俺の本当の気持ちを書き綴った手紙とか趣味で書いた絵とかを入れてある」


「タイムカプセル?ロマンチックだね。だがそれを開けるのは君の仕事になるだろう。私は開けてやらない」


「でも先生の超綺麗な似顔絵とかも入れておいたんだぜ。…だから見てくれよ。頼むからさ」


 俺は先生に出来る限り笑顔でそう言った。先生はしばらく黙っていたけど。


「わかった。万が一の時はそうしよう。その絵は貰っていくよ」


 先生は優し気に微笑んでそう言ってくれた。これは美談ではない。俺なりの嫌がらせだ。死して似顔絵だけ残すなんてまるで呪いみたいだろう?少しなりともこの世界に八つ当たりが出来るんだ。


「…うん。ぐすっ…うえぇんん…貰ってて…俺がこの世界にいたって証明して…ください…ううっ…」


 俺は俯いてぼろぼろと涙を流す。先生は優しく俺の背中を撫でてくれた。









 そして次の日。ベットに寝かされて俺は手術室へと運ばれる。途中まで父さんと母さんが俺の手を握ってくれた。だけど手術室に入る入り口でその手は放れてしまった。手術室に入ってすぐに手術台の横にベットが横付けされた。俺の手に何やら管を刺したり、マスクを装着したり周りの医者や看護師は慌ただしく動き回っている。そんな視界の中にフォレスト先生の顔が映った。


「王子は死して王に生まれ変わる」


 先生は愉しくて愉しくて仕方がないといったような顔で俺の顔を覗き込んでいる。


「そして王は大地を開拓し人民を啓蒙し国を興し世界さえも変えるだろう」


 先生は俺の頬を撫でて囁く。


「君を産みなおす栄誉にあずかれて光栄だよ。王子様。では良き旅を。ああ、そうそう君の描いた絵はちゃんと貰ってあげるから安心してほしい」


 それはやっぱり死ぬって意味なのか。そう問いかけたかったけど、そこで俺の意識は麻酔でぷつんと切れてしまったのだ。




















 目を覚ました時最初に見えたのは歪んで見える薄暗い天井だった。何かガラスのようなものが俺の体を覆っている。最初はICUかと思った。だけどなぜか自分が水の中に裸で浸かっていることに気がついた。俺はその異常事態にパニックを起こして暴れて起き上がった。


「ぶはぁ!げほぉ!ごほ!ごぉほん!なんだよこれ?カプセル?はぁ?」


 俺は何かの溶液のカプセルに入れられていたようだ。状況がよくわからない。窓一つない部屋だった。非常灯のような明かりが足元だけを照らしている。もしかして俺は霊安室にでも入れられたのか?ホルマリン漬けの死体の話を小説とかで呼んだような記憶がある。もしかしてそれなのか?部屋には俺の入っていたカプセル以外何もない。俺はとりあえず近くにあったドアを開ける。そこには階段があった。すごく長い長い階段だった。


「まじで霊安室送りかよ。藪ドクターめ」


 だけど不思議なことに体に痛みは一切ないのだ。病気になっていこう体のあちらこちらが痛かったし、いつも倦怠感と悪寒に支配されていたのに、今じゃ昔の健康だったころと同じような感覚なのだ。足も軽い。体力まで戻っているのか階段もすいすいと登れた。


「でも超長い。意味不明過ぎなくらい地下すぎだろ。遺族が死体に会いに行くのがめんどいのとかどうなんだよ」


 悪態をつきながら階段を登っていく。そしてやっと上のドアに辿り着いた。ドアの隙間から光が見えた。俺はドアに手をかけて開く。


「ふぇ?え?なにこれ?え?」


 そこはなんとなにかの廃墟だった。出たところは廊下のようだが、窓は全部ガラスがないし、外には崩れた建物しか見えない。俺は廊下を移動する。するとミシミシと音を立てて、天井が崩れたのだ。


「うわ?!あぶねぇ…」


 なんとか窓の外に飛び出せたので崩落に巻き込まれずに済んだ。だけどここがどこなのかは全く分からない。


「動画サイトで廃墟ツアーしたこの俺でさえも知らない廃墟?まじでここどこ?」


 さっきまで俺がいた部屋へ通じるドアは今の崩落で埋もれてしまった。とにかくここから出て外に出れば助けも呼べるだろう。俺は廃墟の外へ出た。そこは森になっていた。廃墟の四方はすべて森に囲われている。


「状況がいくらなんでもわけわかんねーよ。でも歩くしかないのか…」


 俺はとりあえず正面の森に足を踏み入れる。








 森の中は薄気味悪かった。暗くじめじめとしていて肌寒い。というか何も服を着ていないので寒いのは当たり前なのだが…。


「寒いぃ。でもやっぱり体は絶対に健康になってるよな?」


 体を見た感じ傷跡などもない。手術は成功した?ならなんで廃墟に?俺が麻酔で眠っている間に何があった?思考に耽りながら、森を歩いていると叫び声が聞こえた。


『イヤぁああああああああああああああああああああ!!』


「女の悲鳴?!」


 俺は反射的にその声の方へと走る。そして声の主と思われる女の子を見つけた。金髪に青い瞳のとても美しい少女だった。迷彩服を着て右手には剣を左手にはライフルを持っている。そしてライフルを向ける先にはなんと巨大な二つの牙と一本の大きな角を生やしたとても大きな熊がいたのだ。そしてその周りには血を流すズタズタにされた二体の女性の死体と思わしきものが転がっていた。


「ふぁ?!なんだよあれ?!熊ぁ?!」


「え?男の声?!って裸?!ふあぁ?!」


 金髪の少女は裸の俺をみてひどく驚いている。だけど今はそんな場合じゃない。直感的にあの女の子ではあの熊?らしき何かには絶対に勝てないと理解できた。だから俺は一番近くにある女の死体のところまで走って、その死体が持っているライフルを取る。そして熊に向けて構えて引き金を押しまくった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 引き金を引くたびに爆音が響き、銃口から光弾が飛び出ていった。


「なにあれ?!なんなのあの魔力?!」


 そして俺のライフルが放った光弾は、熊に当たってその肉をえぐり取っていく。


『GAAAAAAAAAAAAAaaa....』


 そして俺のライフルの射撃で熊?はズタズタになってその場に倒れた。死んでくれたらしい。


「ふぅううう。良かった…うおっ…」


 俺はその場にへなへなと座り込んでしまった。なんか全速力疾走後の疲労感によく似てる。


「あんた大丈夫?!」


 女の子は剣を鞘に仕舞って俺の方に寄ってきた。そして俺の体をペタペタと撫でまわして。


「ケガや魔力枯渇はないみたいね。良かったわ…ってひゃ?!」


 自分が異性の裸を撫で廻していることに今更気がついたのか、金髪の女の子は顔を真っ赤にして俺から離れた。だけどなんか様子が変だ。瞳はどこかキラキラしているように見えるし、唇もうっすらと力なく開いている。


「えーっと。その助けてくれたのよね?でも裸?きゃん!いやっ!だめぇ!」


 女の子は顔を両手で抑えて俺に背中を向ける。


「あのーちょっといいだろうか?」


「やめて!そんな甘ったるい声で話しかけないで!なんなのよ!あんたいったいなんなの!ううっ!」


 金髪の女の子はその場にしゃがみこんで体を震わせている。なんだこの不審者。いや裸の俺の方が不審か。


「とりあえず服着てよ!!」


「あったら着てるんだよ。すまないけど文字通りの裸一貫状態なんだ。ていうかむしろ助けてくれ」


「服がない?ちょっと待って」


 金髪の女の子は近くにあった女の死体から迷彩服をはぎ取って、俺に渡してきた。


「ちょっと!?死んだ人の服はぎ取るのはどうかと思うぞ!!」


「そんなことよりあんたが裸な方がずっと問題でしょ!早く着てよ!変な気持ちにさせないで!!」


 とりあえず受け取った服と靴を渋々ながら着る。女性用なのでかなりぴちぴちになったが、ないよりはましだろう。


「なにそのぴちぴちさ。変な気持ちにさせないでって言ってるんだけど!」


「うるせぇ!言われたとおりに着ただけましだろうが!」


 金髪の少女はプンプンと怒っている。なんだこの非現実的な状況は。だけどさっきの熊?らしき存在には心当たりがある。


「あれってソシャゲー「プリンス・サピエンス」のモンスターだよな?」


 モンスターの死体を観察する。ゲームでみた記憶の姿がそのままちゃんと現実化したような形をしている。そして目の前の不自然すぎるくらいの美少女。


「改めて。助けてくれてありがとうね。あたしはアマラウ・ナシメント。天喰カンパニー所属のミーレス。一応正社員よ…試用期間中だけど」


 ナシメントさんの自己紹介を聞いて俺はほっぺたをぴくぴくと緊張させてしまった。天喰カンパニー、ミーレス、そしてアマラウ・ナシメントという名前には聞き覚えがある。いずれもプリンス・サピエンス内に出てくる言葉だらけだ。


「あんたの名前は?」


「いや俺は、えーとその」


 まずい状況に陥った。俺はやっぱり手術で死んだようだ。そしてこの世界、ソシャゲー「プリンス・サピエンス」の世界に転生してしまったのだ!


「…戸惑ってるってことは何か訳あり?裸だったし…もしかしてどこかの企業カンパニーの実験から逃げてきたとか?!」


 アマラウは何かを早合点したようだが、俺はそんなのに構っていられなかった。目の前にいるアマラウ・ナシメント。この子が大変問題なのだ。なぜならばこの子はゲーム開始直後の最初のチャプターのチュートリアルボス『ジョン・ドゥ』のパーティーメンバーとして登場するキャラクターなのだ。そして主人公にチュートリアルボスともども主人公に殺される。なおビジュアルはよかったのにすぐ死んだのと、チュートリアルボスがくそ野郎でその下僕にさせられていたのがファンの琴線に触れたらしく、のちにそれを察知した運営のネモレンシス社はこの子の双子の妹を配信するという神采配をやってのけた。救済ルートは用意しないが、そいつと同じビジュアルの妹キャラを出して人気を取ってガチャを回させるのはマジで悪徳企業だと思う。


「でも名前ないと困るわよね。実験から逃げてきたんならいっそ死んだってことにしてジョン・ドゥって名乗ってみるとか」


 この時、俺に戦慄が走った。背信されたエピソードにアマラウの妹アマリアの口からジョン・ドゥとアマラウがどうやって出会ってチュートリアルバトルまで行きついたのかが語られる。なんでもジョン・ドゥは主人公と同じく現実の地球からの転生者なのだが、現地の悪徳企業に捕まりそこから逃げ出して、偶然アマラウがモンスターに襲われているところを助けて彼女の家にそのまま転がり込んだらしい。そしてその後もともとくそ野郎だったジョン・ドゥはアマラウをホストもびっくりの話術とDVで洗脳したという。もしかして俺ってジョン・ドゥに転生したのか?!そんなことありかよ!


「鏡!鏡寄こせ!」


「え?あ、はいどうぞ」


 アマラウは俺に折り畳みの手鏡を渡してくれた。それで自分の顔を覗き込んでみる。ジョン・ドゥは如何にも悪そうな三白眼なひょろい顔をしている小物デザインのキャラだ。そんなになっているとかいやすぎる!と思ったのだが。


「あれ?俺のままじゃん」


 鏡に映る俺の顔は以前と変わらずである。むしろ病気になる前の血色の良い顔色だった。


「やっぱり実験の影響で自己認識が不安定なのね。可哀そう…」


 アマラウが俺のことを優しく憐れむような目で見ている。なんか勘違いされている。しかしこれってあれなのか?ジョン・ドゥというポジションに俺という人間がそのままですり替わったような感じなのか?まあ正直顔が変わるの抵抗あるし、ゲームのジョン・ドゥの姿になるのはごめんこうむる。だけど原作エピソード通りに出会ってしまった。


「とりあえずモンスター討伐のミッションはうまくいった。カンパニーの営業所に帰りましょう。あなたに行く当てがないならあたしの家で面倒見てあげるわ。いいと思わない?」


 ウインクしながら同棲をいきなり提案されても戸惑うばかりだ。だけどこの世界に生活基盤のない俺はこの誘いに乗るしかない。というか原作の設定どおり・・・・・・・だけどこのアマラウから俺への好感度の高さには哀れみを感じる。だけど今はその設定に甘え倒す他ない。


「すまない。君の世話になることにするよ。よろしく頼む」


 俺がそう言うとアマラウは満面の笑みを浮かべて。


「うん!よろしくね。ジョン!」


 そう言ったのだった。














****作者のひとり言****



美味しいところはテンプレ通り!


だけど苦い部分は私の好き勝手にやらせてもらう!!



本作の特徴ですが、ゲーム転生でもエロゲーとか乙女ゲーではなくソシャゲーです。



さて問題です。ソシャゲーには買い切り型のエロゲーや乙女ゲーにはない特徴があります。なーんだ?













正解


 ソシャゲーは運営が終わらない限りシナリオが延々と続くっていうことだよ。





 つまり原作知識は




 ある時点から役に立たなくなる!




そんな理不尽なソシャゲー世界で生きていくジョン・ドゥくんを★やフォローで応援しよう!



よろしくお願いします('ω')ノ











 

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