第7話 主人公を排除せよ!
カリストと出会ってから、俺とアーキバスは気がついたら彼女の家に転がり込んでいた。
「俺って…ヒモの素質があるのか…?!」
今日もアーキバスを連れて賭場に出入りして日銭を稼いできた。気がついたら一週間もこんなくそ生活をしている。
「コマンダー。早く引いてください。ジブンはテパッてます。どうせリーのみなんでしょ?じたばたせずに牌を引いてください」
アーキバスはアーキバスで俺と一緒に堕落した生活に慣れ切ったのか、立派な
「うんなこと言ってる場合かバーカ!ツモ!リーのみどらどらどらどらどら!」
「ぎゃぁああ!コマンダーのおに!くそ手で上がらないでくださいよ!こっちは役満張ってるのにぃ!!」
「うるさい!いいから帰るぞ!本来の目的を取り戻さないと!!」
俺とアーキバスはすぐにカリストの待つ神孫子カンパニーの女子寮に戻ってきた。
「おかえりなさい。今日は生姜焼きですよ」
「わーい!楽しみ!じゃなくて!?」
ノースリーブシャツにホットパンツでエプロンを着ているカリストは正面から見ると裸エプロンみたいでそそるものがある。だがそんな場合じゃない!
「カリスト!実は俺たちはアービング市に行きたいんだ」
「あらそうだったんですか?でもアービングは都会ですけどここと違ってごちゃごちゃした街ですよ。いいじゃないですか。ここで穏やかに暮らしましょうよ」
カリストの誘いは嬉しいのだが、もともと俺はプレイヤー主人公をなんとかするためにカリストと接触したのだ。自分がヒモになるためではない。
「そうなんですか…私と生活するのに飽きたんですか…?」
カリストがウルウルとした目で俺を見詰めてくる。
「違う違う。そうじゃない!ほんとアービングでやらなきゃいけないことがあるの!すごく大事なことなんだ!」
「大事なことですか…。それは私よりも…。ごめんなさい。いますごく嫌なことを口にしそうになりました」
俯いたカリストの瞳に涙が流れた。女の子が泣くと男としてはオロオロせざるを得ない。
「えーっと!だ、大丈夫!用事が終わったらまたここに戻ってくるから!」
「本当ですか?!」
「ほんとほんと絶対に帰ってくるから!」
俺はカリストの肩に手を置いてそう誓う。
「コマンダー。アマラウにも同じようなことを言ってませんでしたか?」
実はエルトン市に滞在するようになってから、電話越しにもアマラウに同じようなことを言われて泣かれた。
「アーキバス!ヒモはなぁ!辛いんだよ!ヒモってる本人が一番つらいの!申し訳なさとか!罪悪感とか!焦燥感とか!とにかくつらいの!だから真顔でツッコミはやめて!お願いだから!」
「まあ。そろそろ賭博にも飽きてきた頃でしたから、アービング市に行って何かしらのドンパチをしてくれれば、ジブンとしてはもんくはありませんが」
アーキバスは戦闘に生きがいを見出すあたり、俺の相棒にふさわしいろくでなしだと思う。
「…私。あなたのことを待ってますから…」
カリストは静かに泣きながら、俺が旅立つことを納得してくれた。そして俺とアーキバスはすぐに荷物を纏めて、アーヴィング市に向かったのである。
アーヴィング市へは結構時間がかかった。道中では大型のモンスターに何度襲われたり、獣人の山賊に襲われたり、色々な困難があった。
「やっと着いたな」
荒野の中の壁に囲まれた巨大な都市。それが神孫子カンパニーの本社の統治するアービング市だ。300m級のビルが立ち並ぶ摩天楼の姿は壮観だった。
「ええ。とても楽しい旅路でした」
戦闘に次ぐ戦闘だったためか、アーキバスの肌が艶々としているように見える。とってもご機嫌がいいようだ。
「それでコマンダーの目的とはなんですか?」
アービング市の繁華街を二人でショッピングを楽しんでいた。色々と消耗品の類を補充する。
「…ある男を始末することだ」
「始末する?その人物はコマンダーにとって極めて危険な存在ということでしょうか?」
「ああ、そうだ。極めて危険だ。だから始末する」
ありったけの武器を購入して、新しく装甲トラックの荷台に乗せる。マシンガン、グレネードランチャー、小型ミサイル、自爆ドローンetcetc。戦争でもすんのかってレベルの装備だ。俺もメインウェポンをPDWから7.62mmのライフルに切り替えた。
「なるほど…いつもだらしないヒモなコマンダーがここまでガチな準備をするということ自体異常事態です。よほど危険なのですね。その男は」
アーキバスが真剣な表情で俺を見詰めている。やる気になってくれるのはとても嬉しい。この世界で生き延びられるか否かは俺がプレイヤー主人公を狩れるかどうかにかかっている。
「それでターゲットはこの街の何処にいるのでしょうか?」
「いやまだここには来てない。これからくるはずなんだ」
「なるほど。では待ち伏せとなるのでしょうか?」
「ああ。そういうことになるだろう。そいつは郊外にあるとある場所にワープしてくるはずなんだ。その瞬間に奇襲をかける」
プレイヤー主人公は地球からこの世界に飛ばされてくるという設定だ。流行りの異世界転生ものというか正確には転移か。その文法に忠実に物語の導入が行われる。それはプレイヤーであるお客さんがスムーズに物語世界に没入できるような工夫なのだろう。ごくごく普通の学生だったプレイヤー主人公はこの異世界に飛ばされてきて戸惑っているところをモンスターに襲われる。そこを本来ならばカリストに救われるのだ。そこはご都合主義的でもあるが、ちゃんと物語的には地球から異世界に転移してくるときに、神孫子カンパニーがエネルギー反応をキャッチして、カリストがその調査のために派遣されてくるという流れだったはずだ。ただ黒幕っぽいキャラクター同士の会話が神孫子カンパニーの社長室で行われて、伏線らしきものが張られるのがややひっかかるのだ。どうも神孫子カンパニーは地球からこの世界に主人公が転移してくるのを事前に知っているような素振りがあるのだ。物語の進行の観点から考えると主人公を中心とした陰謀が当然あるのだろう。それが世界の存亡にかかわっているのはなんも不思議ではない。だけど主人公が生きているってことは俺が死ぬってことだ。いや現実では死んだ身ですけどね。それでももう二度と失意のうちに死にたくはない。俺は何が何でも生きるのだ。生きる喜びってやつを知るためにね。
「では急いで待ち伏せの拠点を作りましょう」
「ああ。そうだな。急ぐに越したことはないからな」
俺たちはトラックでアービング市の郊外の森に向かう。そこにある泉が主人公が転移してくるポイントだ。その泉の周囲には自然の魔力クリスタルが生えており、一種の力場となっていて主人公がワープしてくるそうだ。
「アーキバス。こいつをセットして」
「Ja!ところでこれは提案なのですが、自爆ドローンに魔力を付与しておきましょう。それだけでもダメージが増やせます」
「それ採用!」
俺とアーキバスはプレイヤー主人公が現れるのに備えて、準備を念入りに行った。そして罠を設置し終えて、監視体制も整えて俺たちはテントを設営しわーぷしてくるであろうプレイヤー主人公を待つことにしたのだった。
監視を始めてから三日が経過した深夜だった。監視モニターに反応が現れた。
「コマンダー!ジブンのセンサーにも反応があります!空間に歪みが発生しているようです!」
「よし!アルタードローンを展開!さらに全ミサイル、機関銃の照準を空間の歪んでいるポイントに合わせろ!」
「Ja!」
アルタードローンたちが部隊単位で展開し、泉周辺を囲む。さらに俺が持ってきた数々の兵器の照準をワープポイントに合わせる。俺はとおくからドローンのカメラ越しに泉を監視する。ワープっぽい空間の歪みが確かに目視できた。そして黒い穴が現れてなかから人の姿をした誰かが出てきた。そしてそいつは地面に着地する。少しカメラの映像が荒いのと、深夜なのではっきりと姿は視認できないが、人間で間違いはないと判断した。そして俺は号令をかける。
「撃てぇええええええええ!」
その合図とともに泉に向かって四方八方からミサイルや銃弾の雨が降り注ぐ。そしてそれらの兵器の爆発が現れた人影を飲み込んだ。
「ふ、くくく、ふはははっはははははは!!圧倒的火力こそパワァー!力こそ正義!ふははは!粉々に砕け散れぇ!!」
俺はひたすらミサイルと銃弾をぶち込む。アルタードローンたちも人影に向かって射撃を続けた。
「ふ!うちかたやめぇ!!」
泉一帯はぼこぼこで硝煙と土埃でめちゃくちゃになっていた。
「やったぜ。間違いなくミンチだ!やっとこれで俺は平穏を生きられる…」
プレイヤー主人公が死んで、物語がどうなるのかは正直に言ってどうでもいい。未来の脅威よりも、目先の危機の方がよっぽど重要である。
「さーてとかえろかえろ。てっしゅー」
「…これは?!コマンダー!まだです!まだターゲットは生きています!」
「ふぇ?」
アーキバスが土埃の舞う先を驚愕の目で見ている。そしてその土埃の中から誰かが飛び出してきたのだ。その姿は早すぎて俺の目には捉えづらい。夜の闇のせいでどんな格好をしているのかもよくわからない。
「アルターたち!壁を作れ!コマンダーを守るのだ!!」
アルタードローンたちが俺たちの前に並び防御陣を作った。だけど迫ってくる人影はどうどうとその壁に突進してきて。
「じゃま」
凛とした声が聞こえた。アルタードローンたちは吹っ飛ばされて、煙のように消滅した。一瞬の交差で消滅させられるくらいのダメージを与えられてしまったようだ。そして人影は俺に向かって迫ってくる。
「ドローンごときを倒せても私は倒せんよ!」
銃剣をつけた火縄銃を構えてアーキバスが迫ってくる人影に立ち向かう。
「せーーーーい!!!」
アーキバスは超高速の銃剣突きを放った。だけど人影はそれをいとも簡単によけ、それだけではなくアーキバスの肩に手を置いてまるで跳び箱のように跳んだ。そして俺の目の前に着地して拳を振りかぶってストレートパンチを俺にぶち込んで来ようとした。
「テレフォンパンチ位何とかなんだよ!!」
俺は太刀を抜いて、パンチを刀の腹で受ける。だけどそれはすさまじい勢いだった。俺はそのままの勢いで押されていき、地面をえぐりながら近くの大木まで押し込まれた。
「なんて馬鹿力?!これが主人公の力なのかよ?!」
「しゅじんこう…?なにそれ…ていうかさっきのピンクの髪の子ってプリンス・サピエンスのレジェンドレアキャラのアーキバス…?」
拳に込められた力が抜けた。俺は刀を振るう。すると人影は後ろにジャンプして俺から距離を取った。そしてその時、月明かりが俺たちに間に差し込んだ。よく見えなかったターゲットの姿が月光の下で露になる。
「…え?女の子…?」
土埃で少し汚れていたが、日本じゃよく見そうなブレザー制服のJKだった。黒髪に黒い瞳。月光に照らされる顔立ちはとても美しい。大和撫子や百合の花。そんな言葉を連想させる清楚でありながらどこか艶っぽい麗しさがある。あっとついでにおっぱいも大きそう。
「女の子だったらおかしい。そんな物言いね。つまりこの襲撃のターゲットは私ではないということかしら?」
謎のJKは髪についた土埃を払いながらそう言った。
「あ、ああ。男が転移してくるんだと思ってから」
「転移。流行りの異世界転移ってやつかしら?やっぱりあの突然現れた光はそうだったのね。そこに人気のキャラクターが実在しているってことはここはゲームの世界ってやつかしら?」
「ああそうだよ。ここはプリンス・サピエンスの世界だ」
「あなたも私と同じで日本から来たの?ていうかここってあのゲームのスタート地点よね。…ああ。わかったわ。主人公、転移の瞬間の襲撃。あなたは悪役に転生したってやつみたいね」
「御明察。なあ話が通じそうだし、休戦ってことにしないか?」
「一方的に襲ってきたくせに虫のいい話ね。でもいいわ。元クラスメイトだし、話し合いくらいには応じてあげる。それくらいの情はあるつもり」
「ん?クラスメイト?」
「あなた。私の顔。覚えてないの?和倉
俺は首を傾げる。高校にはほんの少ししか通えなかった。だけど今思い出した。確かにすごい美少女と少しの間だけ緑化委員をやった。もっともすぐに入院してしまい、クラスメイトの顔も名前も闘病中に全部忘れてしまったが。
「すまん。今顔を思い出した」
「そう。でも不思議な気持ちだわ。一応クラスメイトだったからあなたのお葬式には出たのに、まさか再会するなんてね。この世界は不思議に満ちているのね」
和倉さんはふっとおかしそうに笑った。プレイヤー主人公がまさかの知り合いだった。それも女の子。物語の関節はきっとこの瞬間に外れてしまったのだろう。俺はそう感じたのだった。
ソシャゲーのチュートリアルボスに転生したけど、原作知識でリアルイベント限定配布の最強URキャラをゲットして原作主人公を倒して原作シナリオから逸脱します! 園業公起 @muteki_succubus
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