風雲急を告げる冒頭からはじまるも、剣の腕と託された宝刀によって難局を切り開いていく女主人公のたくましさが見事です。性格もあかるく、けっして物怖じしない精神はかつて大国の姫君としての矜持がためでしょうか。反面、年ごろの婦女子のような可愛らしいところもあって、読んでいて楽しい気分になります。謀反を企てた炎帝国による計画が明らかになるにつれ、事態は徐々に一国の範疇におさまるどころではなくなり、その大きな潮流に巻き込まれていく主人公たちの活躍は結末にむかうほど加速していき、読む者にある種の衝撃を与えてくれます。
異世界ファンタジーにいささか食傷気味になっている方は、ぜひ本作を読んでください。作り込まれた独自の世界観に酔いしれること間違いなしです!
「七つ国の国宝を揃えし者世界を手中に収めん」
そんな七宝伝承を鵜呑みにし、陽葵の母国である花蝶国へ攻め入った炎帝国。父が敗れた後に花蝶国の領主として敵国の捕虜になった陽葵は、女性ながら陰陽師の母と武人の父に鍛えられた武人。特に剣技の才能は目を見張るほど。だが捕虜である彼女に自由はない。
ある日、「優勝者の望みを叶える」という武術大会が炎帝国で開かれることになった。自由を手にするために陽葵もお忍びで参戦することになったのだが、もう一つの優勝景品がまさかの「花蝶国の姫君」だったのだ。
誰とも知れぬ優勝者へ嫁がされるなど到底承服できない。陽葵に残された道は優勝のみ。そしてその裏で渦巻く世界を揺るがす一大事に、陽葵の憧れの人がかけつけて――。
武術大会のお話ということで、戦闘描写が目立つ本作。剣術はもちろん、陰陽術や忍の戦い、そして陰陽七属性の気を練って放つ剣気という設定も重なり、見応え抜群でした。「世界を変える運命の恋」中編コンテスト参加作品ということで女性主人公でありますが、無駄がなくスピーディで大迫力の戦闘シーンが魅力的で、男性でも楽しめる内容になっていると思います。また、随所に散りばめられた和風要素も良いアクセントになっていました。特に花蝶国の国宝である「椿姫日輪の刀」に隠されたギミックにもわくわくさせていただきました。
和風ファンタジー好き、戦うヒロインが好きな方に特におススメです。ぜひご一読あれ!