女の子と『仲良し♡』がしたくて勇者目指した俺。水魔術を極めたので、三人の幼馴染と一匹の婚約者と共に旅に出たいと思います。
最終話『勇者になっちまった俺、村を三個手に入れたので、三人の幼馴染と一匹の婚約者と共に旅に出たいと思います。』
最終話『勇者になっちまった俺、村を三個手に入れたので、三人の幼馴染と一匹の婚約者と共に旅に出たいと思います。』
ここからモルコ村、コークス村、ラクル村、俺が統治する村までどうやって行くか。
歩きはまず無理だ、ここから水魔術教団に行くよりも遥かに遠い。
どちらかと言うとスタンピート発生地である西のスラッグ地方、あっちの方が近いくらいだ。
国境線……とまでは行かないが、それに近いくらいの位置にある。
よくもまぁこんな辺境な村で生活できますね、っていうのが正直な感想だ。
だが、そんな村でも俺の村である事に変わりはない。
辺境の領主様って響きもなんか良いしな。
その三つの村以外に人里もほとんど無いし、魔族を迎え撃つには地理的にうってつけのとも言えよう。っていうか、最初からそれが目当てだったのかもしれねぇな。
魔族が大群で押し寄せてきても、お前の魔術で何とかして下さいねってか。
やだやだ、大人の事情ってやーね。
「私の飛竜で行けるけど……ごめんね、私とユーティの二人で限界なの」
「三匹いるじゃないの、レミと私で一匹ずつで丁度じゃない」
「ウチの飛竜は家族なの、匹とか付けないで。というか、訓練も何もしてない人は飛竜に乗せちゃダメなの。最低でも竜操者が手綱を握って、同席者一人が精一杯。それにウチの飛竜は天空ショーの都合もあって、ジルバしか出せないのよ」
ジルバとカダス、ゾレントまで出て行っちまったら、ロカ村のメインが居なくなっちまうもんな。
グレートドラゴンのリンリンは基本動かないでクソしてるだけだし。
スカイドラゴンのミミは最近厩舎の奥から出て来なくなっちまった。
「確かに、あの二人じゃ観客を満足させるのは無理だな」
「でしょ? だから私とユーティで先に行って、ティアとレミは後から馬車とか」
ニーナの腕を、ぎゅっとレミが掴む。
透き通るような白髪は、相変わらず先端だけが青々としていて可愛らしい。
思えば特殊な髪色だよな、途中から違うってスッゲー綺麗。
とか思ってたけど、俺も青髪なのに右目の上の一束だけ赤だから一緒か。
「馬車……揺れるから、嫌い。ユーティいれば、大丈夫」
「ほら、レミもこう言ってるし、諦めて四人乗りの馬車にしときましょ」
「ガウ」
「五人だってガウ君も言ってるぜ? ここはしょうがねぇ、俺特製の改造四輪の出番か!」
この前謝罪に来た時に、アイツもいたんだよな。
もう俺の中ではハイパー勃起という名前が固定された技師さん。
最近では「ハイパー勃起さん」と呼ぶと返事が来るようになった。
元々俺に付けられた不名誉な名前であるが、彼も満足そうだから別に良し。
完全にぶっ壊れた改造蒸気四輪も、ハイパー勃起さんの手によって修復が完了している。
しかも座席や屋根まで用意してくれて、既に荷車だった面影はゼロだ。
一日、いや、数時間で行けるかもしれねぇ、そうしたら世界的大記録だ! よし、今から記録魔術の発動と報告用のレポートの準備を……って一人妄想してたら、ティアに服の裾をクイクイって引っ張られた。
「ユーティ、私ね、ユーティ見送った時に、見ちゃったんだ」
「見送られた時に見たって、何を?」
「ユーティ、アレ乗って、悲鳴上げながら物凄い速度で空飛んでいかなかった?」
「あ、そういえば集会所に降ってきたね。え、アレに乗ろうっていうの?」
ティアとニーナの二人の表情が一気に怪訝なものになった。
なんだよ、俺の発明品にケチつけるつもりか?
なんだかんだでアレが世界最速の乗り物だぜ?
ぎゅって俺の肘にレミがくっつきましたね、何よ?
「私は……ユーティと一緒なら、死ねる」
「死なねぇよ! ただ、着地の時に水魔術が必要なだけであってだな」
「はいはい、とりあえず改造四輪の話は置いておきましょうね」
パンパンって手を叩いて、ニーナがいったん会話を中断させた。
「そうよ、空を飛ぶんなら飛竜の方が安心安全で最適じゃない。ねぇニーナ、ウチの方で竜操者雇うから、それで何とかなんないの?」
「ちょっと、厳しいかな……スケジュール的にリスケも出来ないし」
「飛竜ごと雇うのはダメなのか?」
「アンタ、飛竜が幾らするか知ってる? 一匹五十億リーフはするからね? たとえ短期間のレンタルでも数百万は飛ぶ計算なの、村の防衛費用以上の金額が吹っ飛ぶわよ?」
あー……だから村に見学しにくる客が沢山いるんだな。
希少価値は抜群、そこに普通にいるから勘違いしちまうけど、実際ニーナの家はマジすげぇ。
「そういえば最近知ったんだけど。ウチがドラゴン牧場やる事に許可が出たのって、お隣さんにユーティの家があるからなんだよね」
「え? そうなん?」
「うん、何かあった時の防御策として、名前署名されてるもん」
見せてあげるねってニーナが家から持ってきた書類、そこには確かに安全管理者として、ウチの両親の名前が書かれている。
「ある意味、最強の安全管理者ではあるな」
「だよね、これ見た時に笑っちゃった。成熟したドラゴン二人よりも、ユーティのご両親の方が強いんだってさ」
ご近所さんにドラゴンがいるって方が、子供たちを守るのに都合がいい、みたいな感じかな。
昔から色々と動いてくれてたんだなぁ……本当、頭が下がるよ。
「はいはい、結局どうするの? 話全然進んでない気がするんだけど?」
「だから、俺の改造四輪で」
「それは却下、ニーナの飛竜もダメ、馬車での移動も距離と人数的にダメ、じゃあどうする?」
じゃあどうするったってなぁ。
「……しょうがねぇ、それじゃあ歩くか」
「歩く?」
「歩くって、ユーティがそれは無理だって言ってたじゃない」
「だってしょうがねぇだろ、全部ダメだってなったら、それしかねぇじゃん」
個人的には蒸気四輪一択なんだがな、なぜか知らねぇが絶大なる不人気でダメみてぇだし。
「ユーティ……優しい、ね」
「俺が優しい?」
「うん。ユーティ、絶対に、誰も置いていこうって、考えない……ふふっ、優しい」
レミに頭いい子いい子された。幸せです。
誰か一人でも置いていくって考えは、毛頭ねぇな。
俺の幼馴染なんだ、確実に魔族に狙われてんだろ。
母さんが四人を鍛えるって言ったのも、そこら辺が関係してるに違いねぇし。
「……まぁ、そうよね、ユーティありがとうね」
「私達が足手まといになっちゃダメって、お義母さんにも散々言われてるのにね」
「うん。だから……ユーティの案で、いこ?」
☆★☆★☆
十人は乗れそうなホロ付きの俺の改造四輪、もとい改造六輪。
あの後更にハイパー勃起さんに依頼して、悪天候でも大丈夫なように改造を施してある。
とはいえ外装を取り付けただけだから、車体下部の構造よりは安く済んだけどな。
「ハイパー勃起さん、車のメンテどんな感じ?」
「ああ、トリミナルさん……いいですよ、すこぶるいい感じです。見て下さい、タイヤの所にスプリングを付けて衝撃を上に行かないよう工夫をしました。他にも車輪もゴムの木という樹液を固めた物を使用しております、これで悪路であってもよっぽどでない限り走行可能でしょう、他にもこちら――――」
うんうん、嬉しいよね、これまで認められなかった自分の功績が認められるって嬉しいのよ。
書記官なんかヤメて正解っしょ、目がキラキラしてるもん。
「ボッキさん、ずっと喋ってるね」
「そうだな……って、ニーナもそれで呼んでんのか!?」
「え? だって、ユーティがずっとハイパーボッキさんって言ってるから、私も同じようにしてるだけだけど……あれ? もしかして違う名前なの? あだ名とかだった? やだ、失礼だったかな」
いや、失礼というか何というか。
よく見たら「ボッキ頑張れ」とかレミも言ってるし、なんか本人も喜んでるし。いいか。
「本名はスラッガさんよ」とティア。
車に積み込む荷物大量に持ってきて、どんっと荷台に置いた。
「え、やだ、なんでボッキさんって呼んでるの?」
「それは説明すると長くてだな……」
「ボッキ……え、もしかして、勃起ってこと?」
ニュアンスを変えるんじゃねぇ。
口角上げたティアが「正解」ってニヒルに微笑むと、ニーナは顔を真っ赤にしながらその場に沈む。
レミは相変わらずボッキさんの隣にいて「凄いボッキ」と褒め称えている。
レミの場合知ってて言ってる可能性があるなぁ。さすがサキュバス。
「むふー」
「レミ、満足そうね」
一体何に満足したんだ、何に。
後部座席にティアとレミ、ガウ君の三人が座り、その裏の荷台部分には「一体何日分の荷物かな?」ってぐらい大量の荷物が積み込まれてある。これ飛竜で行くとか、歩きで行くとかにしないでホントに良かった。無理でしょこんなの持ち歩くの……って思ってたら、更にニーナの荷物が追加された。女の子との旅って荷物めちゃくちゃ必要なんですね。
「ごめん、私が最後になっちゃった。全員荷物積んだ?」
「私達は大丈夫だよ」
「ニーナ、ジルバはいいのか?」
俺の隣に座ると、ニーナは「大丈夫」って微笑む。
「三人兄妹だからさ、誰か一人を特別にしちゃうとストレスが溜まってダメなんだ。ましてや面倒見るのがユナだから、少しでも負担を減らしてあげないとさ」
「他にも育成師さんがいるんだろ?」
「もちろん、それでも、だよ」
ちゃんとお姉ちゃんしてるんだな。
それじゃあ、やっとこさ全員揃ったし、行くとするか。
パンっと両手を合わせて、水魔術と炎魔術を混ぜ合わせる。
生まれてくる蒸気を運転席近くにある管に通して、次第に加速してっと。
「ユーティ」
「うん?」
「魔術:にぎりっぺだね」
「ニーナお前、何年前の話してんだよ」
「ふふっ、何年前だろうね」
五歳の頃、女の子と仲良し♡がしたくて、勇者目指したんだっけか。
初めてニーナに見せた魔術が、魔術にぎりっぺ……本当に、懐かしいな。
まさかガチで勇者になっちまうとは、露程も思っていなかったけどよ。
「その魔術のお陰でこうして楽に旅に行けるんだから、ユーティには感謝だよね」
「うん……ユーティ、凄い」
「おう! 褒めろ褒めろ! どんどん加速しちゃうぞ!」
「ユーティ、安全運転第一ね」
「へいへい、それじゃ行くぜ……ハイパー勃起号! 発進!」
発進した途端、全員からこう言われた。
「「「その名前は絶対ダメー!!!!!」」」
☆★☆★☆
第二部 女の子と『仲良し♡』がしたくて勇者目指した俺。水魔術を極めたので、三人の幼馴染と一匹の婚約者と共に旅に出たいと思います。 ~完結~
☆★☆★☆
「行ったか」
「ええ……あんなに可愛かったユー君が……もう、大人なのね」
泣きながら私の側にいたのが、ホントに懐かしい。
子供の成長って早いな、もっともっと一緒にいられると思ってたのに。
「ヒルネ」
「あ、うん、待って、私もすぐ行くから」
約二十年前、人類に対し宣戦布告をした魔族の王アマラを、私達は倒した。
力が全ての魔族は、最強の座を失い混乱を極める。
そして訪れる、世界各国の力のある魔物が台頭し始めた、魔族戦国時代。
混乱冷めやまぬ中、ユーティの存在が明らかになってしまった。
「どんな方法でも、息子の為に動かないとね」
「そうだな、かつて勇者と聖女と呼ばれた俺達なら、きっと出来るさ」
「勇英育成所……私達をシンボルとして使いながらこの体たらく」
「ああ、許せることじゃないな。勇者の名を語る以上、敗北はあってはならないんだ」
「今からでも育成所の面々、全員を鍛え直さないと」
「俺は人間に化けた魔族を洗い出しするぜ」
勇者としての使命は、息子に全て託した。
だから私達は、元勇者として……親として、出来る事をしていこう。
「ヒルネ」
「うん」
「久しぶりの冒険だな」
「……うん、アドル」
貴方のことを、パパって言葉以外で呼ぶの、久しぶりな感じがする。
昔はいつだって名前だったのにな……でももう、私達もセカンドライフよね。
「ねぇアドル、せっかくだからあちこち寄り道しない?」
「寄り道って」
「ユーティだって頼れる仲間いっぱいいるんだし、私達もさ」
「昔の仲間をか? ……まぁ、皆どこかで戦ってんだろうけど」
私たちももう一度、ユーティに負けないくらい勇者しようかな。
だって、こうして貴方と歩くのって、とっても楽しいんだもん。
――――第二部 完――――
☆あとがき★
かつて最終話でここまでボッキボッキいう小説があったでしょうか。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。作者の書峰颯です。
ユーティ君物語、まさかタイトル補完が最終話になるとは正直思っていませんでした。
構想が甘かったかなぁ……。
結果的に、一人一人に重みが出て逆に良かったかなと、個人的には感じております。
まぁつまり何が言いたいかと言うと。
第三部、普通に開始します。
ただ、今回と同じようにシリーズモノとして展開していきますので、第三部といいながらも新作として投稿する予定です。だってまだ冒険してないですからね、地元の村と隣街にしか行ってないのに十万文字超えるなんて誰が予想できますか。
三個ある村を要塞化するのが目的になりそうですが、そこに辿り着くまでまたひと悶着ありそうです。あの五人ですから、多分何かあると思います。毎晩毎晩それはもう何かありそうです。
ラストに両親の旅立ちも書きましたが、あくまで主人公はユーティ君なので、これからは親元を離れた彼が頑張ることになるのだと思います。なんだかんだでかなり負けてますからね、ユーティ君主人公なのに負けすぎぃ! ってぐらい負けてますから。
次からは負ける事が許されません。
ふざけながらも全戦ガチ勝負です。
彼の活躍に期待しましょう。
そして、三人……四人? 五人? 六人? のヒロインとのラブストーリーがどうなるのかも、ご注目頂けたらと思います。今の所ニーナがキスをして、ティアもキスをして、レミだけがキスの記憶がなくて、ラズがキスをしていて、ユナちゃんが相手にされてない感じですね。
頑張れユーティ君、お父さんは多分そういうのを乗り越えてヒルネさんを選んでいるぞ。
何はともあれ、一旦幕引き。
また、近い内に再会出来る事を、心よりお待ち申しております。
次回作も応援宜しくお願いします!!
2023年11月5日
書峰颯
女の子と『仲良し♡』がしたくて勇者目指した俺。水魔術を極めたので、三人の幼馴染と一匹の婚約者と共に旅に出たいと思います。 書峰颯@『幼馴染』コミカライズ進行中! @sokin
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