第三十八話 旅立ちの日

 ありえねぇぐらいに面倒臭い問題だったけど、俺とニーナがトリニスをぶっ飛ばした事により、ようやくクソ勇者たちの問題は全部解決するに至った。


 ユニマスにもトリニスのやらかしはすぐに広まったらしく、向こうの自警団やら何やらが総出で謝罪をしに来たけども、別に謝罪が欲しくて動いた訳じゃねぇからな、全員まとめて追い返してやった。


 というか、身体が全然動かなかったんだ。


「あれ……鎖が、抜けちゃった」


 戦いの直後、願いの鎖がシャラシャラと音を立てて俺達の身体から抜けると、それは崩れ去って砂になっちまい、俺とニーナは二人してその場に倒れ込んじまった。


 予想でしかないが、あの願いの鎖自体が模造品だったんだろう。トリニスの加速に対しても耐えられるよう自身を強化し、更にはピンポイント対消滅とかいうふざけた魔術を使った反動により、鎖は限界を超えて自壊しちまった……ってのが、俺の見立てだ。


 願いの鎖のドーピングにかなり頼ってたんだろうな、全快状態だったのが一気に瀕死よ。

 全身が肉離れして魔力は一瞬で枯渇、勇者の力が無かったら完全に死んでたんじゃねぇかな。

 ニーナの方もそれなりにダメージがあったらしいが、彼女の方はそうでもなかった。

 そこから推測しての見立てだ……なんにしても、駆逐した後で良かったぜ。


「ユーティ・ベット・トリミナル、ロカ村をスタンピートから救い、魔族三体を葬り去った事、誠に賞賛に値する。ベルナンド閣下より、貴殿への勲章、及びハーベスト自治区の守護聖騎士を任命し、男爵の爵位を授ける。褒賞として、モルコ村、及びコークス村の統治権を授ける。これで、貴殿が統治する村は、隣接するラクル村と合わせて三つになったな」


 身体が動けるようになると、すぐさま領主様の所に呼び出され、俺は叙爵じょしゃく式に臨んだ。 

 国王様の代わりにここら辺一帯を治める公爵様から授かった、デカイ勲章と男爵の爵位。

 爵位なんかいらねぇって断ったんだけど、貰っておけって父さんに言われてシブシブ貰うことにした。


 おかげで完全放置してる村が三個になっちまった。

 遊びに来たレミが「凄いね」って言ってたけど、個人的にはヤバイ事だと認識している。

 「ヤバイって、どうして?」と、これまた遊びに来ていたティアも不思議そうな顔をした。

 

「俺の名前は魔族に知れ渡っちまってる。その俺が統治する村だぞ?」

「魔族は力関係が全てである、だよね、ユーティ」


 牧場名物のミルクアイスを皆に手渡すと、ニーナも席に付いた。

 俺の実家に珍しく幼馴染全員がいる、しかも俺の部屋に。


 ニーナは俺の子供時代から置いてある学習机の椅子にこちらを向いて座り、ティアとレミは床に敷いたカーペットの上に座ってアイスをペロペロと舐めている。俺は一人ベッドに腰掛けているんだが、ベッド本体には俺の膝を枕にしたガウ君が寝そべっている。


 ガウ君の頭を撫でていると、反応が猫みたいで可愛い。

 ガウ君は気まぐれだからな、誰かの膝を枕にしてよく寝ている。

 だからだろう、この状況でも、三人の幼馴染は誰も気分を害していない。


 平和だ。


「ガウ?」

「お、アイスの匂いに反応したか?」


 寝ていたはずのガウ君が起き上がると、今度はニーナの側にぴょいと移動する。


「ガウガウ」

「ガウ君も言ってるよ、最近変な奴らがこの村を監視してるってさ」

「ガウ~♡」

「あ、ちょっと、ガウ君、ダメだって」


 ミルクアイスがよっぽど美味しかったのか、ガウ君はニーナにちゅっちゅしてる。

 うーん、部屋的には物凄い狭いんだが、美少女が四人いると幸せしかないね、最高っす。


「とにかくだ、受け取っちまったもんはしょうがねぇから、俺が何とかするしかねぇ」

「村を? 村長さんに丸投げしてるんでしょ?」

「ユーティ……村長さん、ふふっ、可愛いね」


 口をすぼめながらミルクアイスを食べるレミが、なんか妙にいやらしく見えるぜ。

 じゅっぽじゅっぽさせて、無駄に誘ってるように見えるなって見てたら、ウインクされた。


 誘われてます? ……っとと、話戻さねぇとな。

 ティアとニーナに睨まれてるぜ。


「レミ、俺は別に村長にはならねぇぞ。三つの村、全てを守れる防衛施設を構築するんだ。その為には防護結界用の寺院も用意しないといけないし、魔族が攻めてきた時の武器も必要になる。壁も必要だろうな、三つの村分だから、多分相当時間が掛かる」

「ふぅん、てことは、マーハロン武具商会の出番ってことだね」

「そうだな、ティアの武具があるとマジで助かる」


 えへへ……ってティアは恥ずかしながらも頭をポリポリと掻いた。

 居なくなっちまったユアのダメージも、ちょっとは癒えたのかな。

 レミに聞くと「ティアの家に子供用の洋服が沢山あるの」って言ってたから、結構心配してたんだけど。


「それで、その村にはいつから行くの?」とニーナ。

「なるべく急いだ方がいいだろ、魔族がいつ攻めてくるか分からねぇからな」

「そっか、ちなみに私はいつでも行けるよ? 妹のユナに牧場全部任せたからね」


 少し前、ユナちゃんと大喧嘩してるのを見かけた事があるのだが、本当だろうか。

 確かその時は――――


「私ドラゴン触れないし! 怖いんだけど!?」

「ユナはドラゴン牧場の娘でしょ!? 私がリンリンのトイレ掃除してたの五歳の時だよ!?」

「私この前ミミにスカート食いちぎられたんだからね!?」

「スカイドラゴンはヒラヒラしたのに食いつく習性があるの!」

「そんなの知らないもん!」

「ドラゴン育成師の資格勉強すれば、自然と身に付く!」

「イーヤーダー! まだ十歳だもん! 遊びたいよ!」

「もう十歳でしょ! 私がドラゴン育成師の資格を取ったの七歳だよ!?」

「お姉ちゃんが異常なんだよ!」

「あ、こら! ユナ! どこに行くの、ユナー!」


 ――――みたいな喧嘩だった気がする。


 ニーナってば妹には厳しいのか? だからかな、ちょっと前に「お兄ちゃん、一緒にお勉強しよ」って急にユナちゃんがやってきたのは。普通に出迎えて勉強みてやったよって伝えたら、ニーナ鬼の形相してたけど。


「私も付いていくからね。村の防衛拠点造るとなると、正確な図面描かないとでしょ?」 

「ユニマスのお店は大丈夫なのか? 他にも二店舗あるんだろ?」

「ラズさんとこのも買い取ったから四店舗。大丈夫よ、各々店長がいるから。新店舗の店長には、あのコマルさんをお願いしたからね」


 コマルさんか、あの人なら大丈夫そうだな。

 温和な性格の巨乳人妻、ある意味最高の女の人だ。


「あ、そうそう、これ預かったんだ」

「コマルさんから手紙?」

「そ、ユーティ君に渡して下さいって言われてね」


――拝啓、ユーティ君へ。春の日差しから初夏の日差しへと変わり、衣替えを終えた私達のお店も涼やかな半袖が主流となって参りました。ユーティ君が用心棒としてお店にいた頃が懐かしく思えます。手が空いたらいつでも来てくださいね♡ さて、では本題ですが。ユアちゃんが居なくなってしまい、店長は毎日寂しそうにしています。ユーティ君との日々が余程幸せだったのか、以前よりも寂しそうです。子ウサギな店長はこのままでは死んでしまうかもしれません。ユーティ君、ウチの店長との結婚式はいつになるのでしょうか? ドレス一式、チャペルもいつでも準備OKですので、日取りが決まり次第すぐに連絡下さいね。親愛なるコマルより――


「バカでしょ!? コマルさんなんて手紙書いてるの!?」

「あー、あはは……まぁ、とりあえず保留って返事しとけばいいんじゃねぇか?」

「保留!」

「保留?」

「保留!?」

「ガウ!?」


 一斉に叫んで、何よ。

 ガチャって部屋の扉が開くと、そこには母さんがいた。

 

「ユー君」

「……なに」

「今のはダメね」

「へ?」


 ダメ? 俺なにか地雷踏んじゃった? 


 ティアは「ほわ~♡」って感じでどこかあらぬ場所を見ているし。

 レミは右目を煌々と赤く光らせながら俺を見ているし。

 ニーナは俺の胸倉を掴んでわなわなと震えていているし。 

 ガウ君は背中にぴとっと張り付いて動かなくなった。


「保留ということは、いつか返事をするってこと。つまりは好意的に捉えられるのよ」

「……そうなの?」

「まだまだお勉強が足りないわね、ユー君。――――さて、許嫁諸君」


「「「「はい!」」」」

 

「村の近くにユー君を狙う魔族が数匹現れました。これも訓練です、行きますよ」


「「「「かしこまりました、お義母様!」」」」


 最近ずっとこんな感じ。

 母さん曰く「ユー君が旅に出るまでの間に、四人とも鍛えておくからね」って言ってたけど。

 実践訓練の上に相手が魔族かい、こりゃあ俺が全快したら皆相当強くなってそうだな。


 外から賑やかな声が聞こえてくる。

 今日もこの村は平和そうだ。


 ぐっと拳を握り、自身の魔力を確かめる。

 旅立ちの日は、そう遠くないな。


☆★☆★☆


次回最終話『勇者になっちまった俺、村を三個手に入れたので、三人の幼馴染と一匹の婚約者と共に旅に出たいと思います。』


 書き上げ次第投稿します。

 最後までお付き合い、宜しくお願いします。

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