【2024年エイプリルフール】「じつは義妹でした。」コラボ短編小説!

「双子まとめて『可愛く』しない?」

※この小説には著者・白井ムクの作品「じつは義妹でした。」のキャラクターが出てきます。


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「覚悟はいい、ちーちゃん?」

「うん……。行こう、ひーちゃん……!」


 ある日の放課後のことである。

 双子姉妹の宇佐見光莉と千影は、緊張気味に結城学園の門を通った。


「本当に、ここに伝説の人がいるの……?」

「バズってたから間違いないかな。たぶん彼女は、あそこにいる——」


 有栖山学院の制服を着ているためか、すれ違う生徒たちが物珍しそうに二人を見た。双子姉妹、それに美少女という見た目も相まって、二人へ向けられる視線が多い。


 そんな視線を、かきわけ、かきわけ——果たして、二人は『演劇部』と書かれた部室の前までやってきた。


「それじゃあちーちゃん、開けるよ?」

「うん……」


 千影は不安そうに光莉の腕をとった。

 光莉は恐る恐る扉の取手に手をかけると、ゆっくりと開く。


 すると、中には一人——窓の外を見つめる長い黒髪の少女がいた。

 少女は振り向かずに、静かに口を開いた。


「……DMを送ってきた人って、あなたたち?」


 少女から発せられる達人のような空気。

 背景に「ゴゴゴゴゴ……」と文字が浮かんできそうな勢いである。


 ビクビクッとなった光莉と千影だったが、ここまで来て逃げるわけにはいかない。


「は、はい! 有栖山学院一年の姉の宇佐見光莉です!」

「同じく一年、妹の千影です!」


 すると少女はゆっくりと振り返り、


「私は結城学園演劇部部長、二年の西山和紗。よろしくね?」


 と、不敵な笑みを浮かべた——




  * * *




「——なーんてね♪ はい、お茶。——あ、光莉ちゃんと千影ちゃんって呼んでいい?」


 西山はそう言うと、ニコニコと人好きのする明るい笑顔を浮かべた。


 光莉と千影は、なんだか拍子抜けしていた。

 最初の「ゴゴゴゴゴ……」はなんだったのか——いや、油断してはならない。


 この西山和紗という先輩女子は、この界隈では有名なカリスマ女子高生だ。インストのフォロワー数は自分たちよりも遥かに多く、『油断や隙もテクニック』と女子高生の恋愛術を広く発信し、多くの支持を得ている人なのだ。


 そんな雲の上のような人に、昨日ダメ元でDMを送ってみたところ、忙しいが明日ならOKとすぐに返事が来た。


 じつは暇なのだろうか? ——と、一瞬疑うレベルの返信の速さだったが、こうしたレスポンスの速さも人気の秘訣なのかもしれないと宇佐見姉妹は思い直した。


 ——して。

 宇佐見姉妹がわざわざ隣校へやってきた理由というのは——


「それで、早速なんだけど、私に『可愛い』を教えてほしいって話だったかな?」

「はい! うちらもっと可愛くなりたくて……!」

「どうしたら彼氏さんにもっと構ってもらえるか教えていただきたいんです!」


 すると、西山の眉がピクリと反応した。


「……彼氏?」

「は、はい! じつはうちらの彼氏が奥手で……」

「向こうからはぜんぜん構ってもらえないんです……」


 現在二人が付き合っているのは高屋敷咲人という男子高校生。


 つまるところ、宇佐見姉妹と咲人は、三者の同意と納得のもと、三人で付き合っていた。


 宇佐見姉妹としては一人の男子をシェアするかたちになっているが、咲人からすれば性格が違う美少女双子姉妹を同時に彼女にしてしまったという「羨まけしからん」状況が続いている。


 このことは三人だけの秘密であり、宇佐見姉妹は西山にも言わなかった。西山もまた、二人の口ぶりから、それぞれにべつべつの彼氏がいると思った。


 そうして、西山は、二人に彼氏がいると知ったのち——


「へ、へぇ〜……二人とも、彼氏がいるんだね……? DMにその話がなかったから、てっきりフリーかと思ってたんだけど〜……そかそか、彼氏持ちかぁ〜……」


 なにか不都合でもあるかのように、ゴニョゴニョとつぶやいた。

 

「あの、西山さん……?」

「え⁉ 大丈夫! オッケーオッケー! 私に任せといて!」


 西山は明るくそう言ってから、急に眉根を寄せた。


「いい? 『可愛い』を舐めちゃダメだよ? 『可愛い』って言うのはね——」


 急に西山の雰囲気が変わった。

 宇佐見姉妹が居住まいを正して真剣に耳を傾けると——




「——つくれるの!」




 天啓を受けたかのような衝撃がはしった。


 もちろん、可愛いとは見た目だけの話ではないと、二人は知っていた。内から滲み出る性格的な部分も含めてものだと思っていた。


 ところがこの西山和紗は「可愛いはつくれる」のだと豪語する。


 つくっていいかどうかはべつとして、つくられた可愛さとはなんなのか、非常に興味を引かれた。


 咲人の堅固な理性を突破する手段になり得るかもしれない。

 ダメ元でDMを送って良かったと、宇佐見姉妹の目に希望が宿った。


「てことで、今から教えていくから、二人とも気合を入れてねっ!」

「「わかりましたっ!」」


 師と弟子たち——そのような関係が築かれたのち、三人は部室の中央に立った。


「じゃあ行くよ? まずは立ち方から!」

「「はいっ!」」

「両足のつま先を四十五度内側に向けて脚の指で床をつかむように!」

「「はいっ!」」

「脇を締め、両手の拳は天井に向ける!」

「「はいっ!」」


 ——空手の『サンチン立ち』と呼ばれる立ち方がある。


 一説によれば、足場が揺れる不安定な船上での闘いのためにこの立ち方が発達したのだとか。


 なるほど、いかに大好きな彼氏を目の前にしても、揺るがぬ自信を持てということか——宇佐見姉妹はそう思いつつ、西山の次の指示を待った。


「それじゃあ、脇をしめたまま拳を顎の前に持ってくる!」

「「はいっ!」」

「そのままゆっくりと身体を横に揺らして!」

「「はいっ!」」


 ——ボクシングには『ピーカブースタイル』と呼ばれる構えがある。


 そっと覗くという意味で、その名の通り、グローブの後ろから相手を覗き見つつ、頭を振って的を絞らせないスタイルだ。



 しかし——


 『サンチン立ち』と『ピーカブースタイル』を融合させたこの立ち方に、いったいどんな意味があるのだろうか。


 西山は最後の仕上げと言わんばかりに、いっそう厳しい目を……急に「きゅるるるるん……」とさせた。




「今にも泣きそうな潤んだ瞳で相手を見つめて——もっと構ってよぉ〜……」




 宇佐見姉妹は我が目を疑った。


 西山の背景に、少女漫画で見る、あの球体のホワホワしたなにかが一瞬見えた気がしたのだ。


 現実に、あの球体のホワホワを出せる女子高生と対峙したのはこれが初で、宇佐見姉妹は唖然として西山のきゅるるるるんとした目を見つめた。


 ちなみに——

 西山のこの技は、古の時代より脈々と受け継がれてきた「あざと可愛いぶりっ子スタイル」である。


「——はい、言ってみて!」


 西山に言われ、宇佐見姉妹は、はっと正気に戻った。


「「も……もっと構ってよぉ〜……」」

「声が小さい! 恥ずかしがっちゃダメ!」

「「もっと構ってよぉ〜!」」

「もっと可愛く! 心から求めるようにっ!」

「「もっと構ってよぉ〜……」」

「そうそう! 今のいい感じっ! はい、続ける! あと十回! ——」


 放課後の演劇部の部室に「もっと構ってよぉ〜……」が響き渡る。

 通りかかった先生が「なにしてんだ、この子ら……」と呆れていた。


 しかし——

 このときまだ宇佐見姉妹は知らなかった。


 二人が生涯「恋愛の師」と仰ぐようになるこの西山和紗は、ただの一度も男性と付き合ったことがなかったことを——




  * * *




 ——で、翌日の放課後、宇佐見姉妹は彼氏にやってみた。


「咲人くん……」

「うちらのこと……」




「「もっと構ってよぉ〜……」」




「っーーーーーーーーーー!?」


(くはっ……!? ダブル可愛いぃーーーっ!?)


 高屋敷咲人が一発KOしそうになったのは言うまでもない。




 ……ちなみに、西山も翌日の放課後、先輩男子にやってみたところ——




「真嶋せんぱぁ〜い、もっと構って構って〜……」

「……ひたすらウザい」

「ひどくないっ!? その冷めた目つきもひどくないっ!?」


 西山の一つ上、高三の真嶋涼太はひどく冷めた目で彼女を見つめていた。


「あのな……そういう無理して可愛さを出す感じ、あんまよくないと思うぞ?」

「べつに無理してませんからっ! そもそも私は可愛いんですっ!」

「あ、そう……」


 さらに呆れた顔をする涼太。


「前から言ってるだろ? お前は黙ってたら可愛いって」

「ううっ……それ、嬉しくないです……」


 涼太は「はぁ〜……」と疲れたようなため息を漏らしたが、ふと苦笑いを浮かべた。


「黙ってたらなんか帰りに奢ってもいいぞ? バイト代入ったし」


 西山の目がパーッと開かれた。


「え!? マジっすか!? 真嶋先輩のそういうツンデレ大好きぃーーー!」

「ツンデレじゃねぇって……」

「どこどこ!? どこ行きます!?」

「スギ屋」

「ってお~~~い! 牛丼かよっ!」


 ——とまあ、なんやかんやで牛丼屋へ向かう二人だった。

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