『呪いのゲーム』を攻略本セットで発売してみた

JACK

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 目覚めたのは、白く無機質な部屋の椅子でした。


 私は不思議と、そこが夢の中であることと、夢の中で手の動きがトラッキングされたVRゲームを遊んでいるということを認識できていました。



 オープニングムービーでしょうか、私の意思を無視して視点が立ち上がり、そのまま足元に転がっていた近未来的なフォルムのライフルを拾い上げます。

 ライフルには見た目に相応した重みがなく、片手で握って扱うことが出来るようです。


 シューター系のゲームは好きですし、デザインも良い。これからこの銃をどう扱うことになるのだろうと考えると、少し面白くなってきました。



 やっと、プレイアブルに移行しました。

 ここからは自由に手足を動かし、好きに徘徊出来るようです。


 まず私はライフルを構えて軽く周りを見回し、部屋の外に出てみることにしてみました。

 廊下も先程の部屋と同様、白い近未来デザインの造りになっていて統一性があり、とても美しく感じます。

 等間隔に貼られた円型の窓は暗く、あまり外の様子を見ることはできません。



 廊下を歩くとコツコツというブーツの音が響くので、自分の足を確認しようと下を向きましたが……、これはゲーム。 一人称の作品では画面の右下に自分の腕は見えても、胴体や脚まで見えることは多くありません。

 例に漏れず、この夢でも自分の胴は見ることが出来ない仕様のようでした。



 廊下を抜るとラウンジのようなエリアに出ました。

 白い壁紙、白いシャンデリアに白いソファ。

 卓上には白い食器などが均一に並べられています。


 小さな揺れがあります。

 建物というよりは船に近い内部構造です。

 一色に統一された球体型の空間はまるで、豪華客船の宇宙観光用ロケット版のように思えます。

 人の生活感……、というよりは、未来のサイボーグ人間達が宇宙旅行で大型船を利用した後のようなイメージを感じました。



 気になったものといえば、たまに皿の上などで寝ている赤いトマトやオレンジです。

 真っ白な空間の中で、まるでハイライトされているかのように独自のカラーを保っていて、注目しやすく配置されています。


 私はライフルを卓上に置き、近くのグレープに手を伸ばすと、指先が触れたか触れていないか分からないあたりで途端に実が色を失い、そして実体を消しました。

 どこへ消えてしまったんだと気になっていると、視界の右下にいくつかの緑色のゲージがフェードインしました。


 文字による明示があるわけではないですが、ゲージの左端にはアイコンが配置されています。どうやら、ゲージはそれぞれ残りHP、スタミナ、食料、水分を表しているようです。

 気になるのは、最も下のアイコン。

 目玉のデザインの右には、緑のゲージが伸びていません。

 これはMPのような、後から貯まっていくゲージのようです。



 ひとしきり部屋の果物に触れてから、私は宇宙船の外に出てみることにしました。


 外は真っ暗で、ほとんど光がありません。

 しかも嵐が近いようで、かなりの突風と横殴りの小雨が私を襲いました。

 どうやら室内の揺れは、この悪天候が原因だったようです。


 夢の中、ゲームの中とはいえ、吹き飛ばされてしまいそうな感覚に襲われました。

 足の裏をしっかりと踏ん張りましたが、ゲーム内にはそこまで細かい要素は反映されていないようで、仕方なく突風を正面から受ける形で移動しながら船のデッキを探索することにしました。



 甲板は白い板材?が敷き詰められているだけで、室内のような豪華装飾や机は見当たりません。(全て嵐に吹き飛ばされてしまったのかも……)


 しばらく歩き回っていると、甲板から伸びる橋を見つけました。

 橋の先は暗黒が充満していて、黒い排煙が立ち込んでいます。


 甲板は大体の探索を終えましたし、こちらが正規の進行ルートだろうと踏み、あまり躊躇することなく霧の中を進んでいきます。


 突風に負けて橋から落ちないよう足元を見ながら進みますが、黒煙のせいでほとんど床が見えず危険でした。

 しかし私は、持ち前のゲームセンスで大体こんなもんだろうという空間把握能力を頼りに、なんとノンストップで橋を渡りきったのです。


 私は自分を褒めました。

 ゲームが上手い、素晴らしい。伊達にゲーマーやっていないな、と。


 そして同時に、このゲームのコンセプトが読めました。

 ホラーな雰囲気の中、突風といった環境的圧迫や視界不良を耐久し、ステージからの落下によるミス、ゲームオーバーを避けていくアドベンチャーゲームだろう!と。


 この手に握られたライフルの使い道は分かりませんが、きっと何処かで使い道が出てくるはずです。

 ステージ攻略を邪魔する敵が出てくるのかもしれません。先程の橋も結構な難易度でしたから、そこまで知能的なエネミー、銃撃を撃ち返してくるようなのは出てこないと考えてよさそうです。

 そうですね、この雰囲気もありますし、ゾンビとかなら有り得そうなラインです。



 橋を超えると、市街地に出ました。

 街灯はほとんど消えていますが、点々と光が奥へと続いています。きっと、あの光を追って進めとプレイヤーに言いたいのでしょう。


 私はゲームに用意された導線の通りに、生き残った街灯を追って無人の街を夜歩きしていきました。

 辺りの住宅やビルには明かりのついた窓はありませんが、ベランダには洗濯物が干されていたり、路上にはゴミ袋が転がっていたりといくつかの生活の痕跡を見つけることが出来ました。


 どういうストーリー設定なのかは一切の説明がないので分かりませんが、和風ホラーな設計は何処となく恐ろしいものです。

 しかしその反面、先程の宇宙船とは打って変わり、市街地には奇怪な形状のタワーといった近未来建造物どころか、位置把握の目印に使えそうなランドマークなどもなく、どこかのアセットストアからステージデータを買い取ってそのままゲーム内にぶち込んでいるだけなのでは……、と疑ってしまい、少し興醒めにも感じました。



 しばらく歩くと、広い道路に出ました。

 車は通っていません。駐車している車両もありません。


 横断して道路の中央に設置された街灯へ近づくと、光の下に高速道路の入口ゲートの受付にあるような小屋があることに気が付きました。

 これ見よがしにドアが開かれており、それを街灯が照らして、上手く影が中の様子を見えないように隠しています。



 近づいたら中から怖い何かが飛び出してきそう、という想像しながらも、私はノンストップで進んでいきます。


 ホラーゲームというものは基本、プレイヤーがスイッチを押すまではビックリイベントは起きないものです。

 何かを調べる、音を出す、声をかける……、スイッチ起動のトリガーは色々ですが、何かアクションを起こさなければゲームは進みません。


 怖がりなゲーマー初心者は立ち止まり、恐怖の想像をしてしまいますが、私は違います。私は熟練者です。

 逆に動き続けることこそが恐怖への最大の対策であることを理解しています。

 ゲーム側に想定されていない動きを狙うことで少しでもビックリイベントから逃れたり、怖い想像をする時間を自分に与えない。


 勿論、勇気は要ります。

 ですがゲームにおいて前に進むことはスティックを前に倒すだけ。これはVRのようですから、前に進むと意志を持つだけです。

 実際に足を交互に前に出して、子鹿のようにブルブルと震える必要はないのです!



 小屋の前まで到着すると、私はそのまま思い切って中まで入ってみました。

 何かビックリさせてくるような敵やイベントでも配置されているのかと思いましたが、中はもぬけのカラ。


 高ぶっていた恐怖心も落ち着き、少々の落胆すら感じたほどでした。

 小屋から出て周辺を見回すと、道路の中央だというのに棚や冷蔵庫などの粗大ゴミが小屋の裏手側に捨てられていることに気が付きました。


 何かアイテムはないか思いとチェックしてみると、半開きの冷蔵庫の中でLEDライトが点滅していることに気が付きました。

 捨てられている冷蔵庫がどうして通電しているのか……、と疑問を感じながらも小扉を開けて中を見ると、そこにはスティック状にして密封されたサラダチキンのようなバーが数本と謎の四角いフード、瓶のドリンクが入っていました。



 そういえば、と思い視界右下のゲージをチェックすると、いつの間にか緑の食料ゲージは半分まで減退していて、腹減り状態であることを自覚しました。


 私は早速、銃を壁に立てかけてからフードに手を伸ばしました。

 すると食料たちは宇宙船で食べたグレープの様に次々と色を失い、実体を消していきます。

 対して食料ゲージはその度に増進し、その伸びを取り戻していきました。


 今度はしゃがみこんで冷凍庫を開くと、中にはギッシリの梱包されたフードがあるではありませんか!

 とりあえずは、ゲージがマックスになるまでは食料を食べ続けて、あとはここに残していこう、なんてことを考えていた頃に、これまた私の研ぎ澄まさたゲームセンスが警笛を鳴らしました。



 ふと気になり、背後を確認すると――――、


 数メートル先から無音で近づく、口を有り得ないひどにアングリと開いたボロボロの人型怪物が近づいてきていたのです!

 一瞬、心臓が飛び出そうになりましたが、私はとても冷静でした。


 あれは、どこから見たって明らかにゾンビです。

 ゾンビといえば、音や光に反応して集まったりする習性があるのがお約束というものですから、ここで慌てて声を上げてしまっては危険だと判断しました。



 私はゆっくりと動き、視界の端でゾンビの姿を捉えながら後ろ手で壁に立てかけていたライフルを掴もうとした時、問題が発生しました。

 ゲームというものは、視界の中で操作をするものです。

 HUDや操作しているカーソルなどが画面外で表示されていても、それをプレイヤーが見ることはできないからです。


 それと同様で、プレイヤーは画面外を操作することはできません。

 今私がやったような、後ろ手で銃を掴むなんてアクションはゲームでは不可能な挙動だったのです。


 銃は腕とぶつかり、優秀な物理エンジンに従って床を転がってしまいました。

 当然ですが、それには大きな音が伴いました。

 マズイ、とゾンビを見た時にはもう遅く、それは文字起こし不可能な呻き声をあげて全力疾走でこちらへ向かってきていました。



 私は仕方なくライフルを拾うのを諦めて、ゾンビの突進を避けようと道路に出ました。

 振り向くとゾンビは小屋の壁に衝突していました。


 それは粗大ゴミをクッションに倒れ込みましたが、多量の顔面流血のまますぐに起き上がり、顎が恐ろしい方向に曲がった状態のまたこちらを向かってきます。

 ライフルを引きずる足先で蹴って、ゆらゆらとした人外的なモーションで移動するそれは、恐怖以外の何者でもありませんでした。



 ここまで自身のゲームセンスを頼りに強気なプレイを進めてきましたが、実の所は強気に動けていたのはプレイヤースキルへの自信があったからではなく、銃という攻撃手段を獲得していたことが大きな理由としてありました。

 それを失い、ゾンビに追われている今……、私は一心不乱に街中の街灯を目印に、ヘンゼルとグレーテルよろしく前へ前へ進むことしか出来ない腰抜けになってしまったのです。


 ゲームなのだし、敵に追われたまま区画を一周して銃を拾いに戻ろうとも考えたのですが、パニックになった心と身体がそれを実行に移す程の余裕は残っていませんでした。



 街中を走り回ると、小屋で出会ったゾンビと似たような怪物達が夜道を徘徊していることに気が付きました。

 奴らに行く手を塞がれないよう、常に周囲を見てルート選択をしていき、ダッシュで減退するスタミナゲージにも目をやる。


 恐怖して逃げ回ってはいるものの、無意識にそれらをやってのける癖がついていたことに、私自身も驚かされました。

 後ろを振り向いても追いかけてきていたゾンビが見えなくなった頃に……、私は近くの路地裏に隠れて息を整えました。


 運動をしたはずだというのに、不思議と身体は悪寒に震えあがっていました。

 鳥肌が立っているかどうかは暗くて分かりませんでしたが、全身の神経が過敏になっていることは体感で把握出来ていました。



 顔を小さく出して進路を見ると、こちらへノソノソと近づくゾンビを発見。

 その容姿をよく観察すると……、グロテスクな見た目に、四方向に割れて蜘蛛の脚のような触手の生えた顎。


 異星人の連れてきた謎の生物に寄生されてしまった人間、という表現がその場で思いついた限りでは最も的確にゾンビを表現できた言葉でした。



 もう、あんなのと対峙するなんてのは御免です。

 夢の中、ゲームの中と分かっていても、恐ろしいものは恐ろしい。

 銃を失い、対抗策のない今、私には路地裏で縮こまっていることくらいしか出来ません。



 どうか、夢よ終わってくれ。

 現実の私よ、目覚めてくれ!



 目をつむって強くそう唱えると――――、


 次に目蓋を開いた時に視界に入ってきたのは、見慣れた自室の天井でした。





 私はすぐに、いつものゲーム仲間へオンラインゲームのVCチャットでその話をしました。

 彼は面白い夢を見たね、その銃を拾えてたらもっといい所まで進めてたかもなどと茶化してきましたので、私がどれだけ恐ろしい思いをしたのか訴えましたが、彼は余計に笑いました。


 しばらくして話題はプレイしているゲームのアップデート内容へと移り、マッチ内の弱いプレイヤーへの不満話、雑談へと、さっきまでの夢が全部なかったことみたいに扱われて、休日が終わっていきました。





 次の日の朝のことでした。

 私は鳴り止まない携帯電話の着信音に目を覚まし、画面をタップして通話に出ました。


 相手は昨日のゲーム仲間。

 こんな朝からゲームの誘いで鬼電するなと怒ろうとしましたが、相手の声音がいつもとおかしく、かなり慌てているようでしたので、まずは話を聞いてみることにしたのです。





「俺も見たんだよ、呪いのゲームの夢!」





 まだ寝ぼけていた私の睡魔が、一瞬で吹き飛びました。

 彼はそれから夢の内容を説明し初め、私の見たそれの内容と比較することにしました。


 近未来的なデザインの船で目覚めて、デッキへ出た。

 外は嵐で、真っ暗だった。

 船に客や荷物を乗り降ろしさせるための橋が伸びていたのでそれを渡ると、街に出た。

 街灯を頼りに歩いていたら腹ペコになったので、途中の住宅街にある駄菓子屋でいくつか食料をくすねた。

 すると、ゾンビのような怪物が店の奥から四つん這いのまま高速で飛び出してきて、叫び声をあげて逃げ出した。

 そこで私の夢の話を思い出し、銃だけは落とさないようにと大事に抱えて走った。

 しばらく街を走ってスタミナが切れたころに、車輪のような鉄の円に四肢を括り付けられたヤバげなゾンビと出会い、そいつに轢き殺される直前に目を覚ますことに成功した、と。



 私とは別のルートを歩んだようだったが、スタート地点や大まかな流れは同じでした。

 どうして銃を撃たなかったんだと聞くと、撃てるわけないだろ!とキレられ、あの夢を体感した私はそれもそうだと強く共感しました。


 最初は彼が私を茶化そうと、聞いた話を元にビビらせようとしているのだと思いましたが、ゲームをしている時以外の彼はあまり冗談を言わず、何よりこんなにも真剣そうに話すのを聞くのは初めてだったので、その真実味が余計に恐怖でした。



 その日は、夢の話ばかりでゲームをしませんでした。

 彼との長電話で、ゲームをしなかったのはこれが初めてだったかもしれません。






 しかし、夢はそこで終わりませんでした。

 以降、私たちは毎日毎日、交代交代で同じ夢を見るようになりました。


 いつも同じ、白い部屋で目覚めて落ちている銃を拾う。

 宇宙船の中は無人、真っ白で近未来的で、もはや私たちにとってはそれがトラウマ級に恐ろしい。

 死に戻りの無限ループ的な恐怖が私たちを苦しめ続けました。



 しばらくして、耐えきれなくなった私たちは昔に一緒に遊んでいたゲーム仲間にも同じ話をした。

 するとその友達も次の夜から同じ夢を見るようになってしまったのです。


 あの夢は今、私たちの夜を代わりばんこに周回しています。

 まるで、クリアしてくれるプレイヤーを探しているかのように……。





 お願いします……、私を、私たちを、あの恐ろしいゲームの夢から救ってください。


 この話を聞いてしまった以上、貴方も今夜から呪いのゲームに招待されるようになると思います。

 卑怯ですみません、でも、私たちが救われるためにはこうするしかないのです。



 出来る限り多くの人にこの話をしてください。

 招待される宛先のプレイヤーが増えれば、ゲームのプレイ権が回ってくる確率は格段に少なくなります。

 それに……、何処かの誰かが呪いのゲームをクリアしてくれるかもしれません。



 とにかく、呪いを拡散することで、薄めるのです。少しでも手番が回ってこないようにすれば被害は最小限になる。


 貴方が救われるには、もうそうするしかありません。

 身勝手に押し付けてしまってごめんなさい。






 ――――それと、追加情報をひとつ。


 攻略のヒントになるかどうかは分かりませんが、夢の中で視界の右下に表示されてるUI、一番下の目玉のアイコンのことです。

 最初は倒した敵の数や、経験値の量とかレベルでも表示されるのかと思っていましたが、どうやら違うようです。


 あそこは体力や食料ゲージとは違って、緑のバーではなく数字が表示されます。

 でも、その数字が何を示しているかは分からないんです。勝手に増えて、勝手に減ります。



 色々試してみましたが……、宇宙船から出て橋を越えたあたりから数値が一気に増え始めるようです。

 そこからは怖すぎて確認出来ていませんが……、進み具合で増えやすさが変わることだけは分かってます。


 あの数値の変動の仕方はまるで、底辺ストリーマーがやる生配信の視聴者数みたいでした。

 何者かが、私たちが呪いのゲームに挑戦するところを見たがっているのかも……、しれません。





 私たちはまだ、あの夢の世界で死を経験したことがありません。

 毎度毎度、夢よ覚めろと念じて強引に目を覚ましています。

 これは、メニューを開いてセーブせずにゲームを強制終了しているようなものです。

 もしゾンビに捕まってゲームオーバーになるとどうなるのか……、想像もつきません。想像したくもありません。


 繰り返しになりますが……、どうかお願いですから、この呪いから私たちを救ってください。どうか、お願い致します。










―――――――――――――――――――――









「……Tipsその六、スタミナを使い切ると回復しきるまで一定時間走れなくなる、と」




 モニターに表示されたテキストファイル。

 ファイル名は『Read me』。

 テキストの頭の見出しは『呪いのゲーム ルールブック』。




「よし大体形になったなあー。 どーれ、ラストにもっかいテストプレイしますか」




 男がexeを起動すると、ゲームが立ち上がった。


 一人称のFPSシューター作品。

 無口な主人公はSFチックな宇宙船内で記憶喪失の状態で目覚め、銃を握って街に繰り出し、謎の生物に寄生された怪物たちを撃退していくホラーサバイバルアドベンチャーゲームだ。




「おー、いい出来に仕上がってる。 よしゃ、じゃー、リリースしますかね」




 男は見知らぬゲーマー達からメッセージ機能を通じて『呪いのゲーム』の存在を偶然知らされた、個人ゲーム開発者だった。

 彼の作ったゲームは、どれもコアなゲーム性とシビアなレベルデザイン、こだわり抜いたグラフィックで緻密に作られていたものの、それ故にプレイヤーを選び、全くと言っていいほどに売れず、当然、話題にもならなかった。


 そんな彼の狙いは、『呪いのゲーム』を忠実に再現したホラーゲームを遊べる内容に調整して製品化することで、呪いにかかってしまったプレイヤー達へとしてゲームを遊んでもらうことだった。

 このソフトの中でならどれだけゾンビに噛まれても死ぬことはない。呪いを恐れる者ほどソフトを遊びたがるだろうと踏んだのだ。


 しかもゲームが流行バズれば、ゲーム内容を見聞きしてしまった者たちも呪いに感染し、ゲームに招待されるようになる。

 すると、練習ソフトの必要性が更に上がっていく、という寸法だった。




 男には根拠なき手応えがあった。

 今度こそ、自分の作ったゲームが遊んでもらえる。

 必死になってクリアを目指し、ステージの隅々まで探索してもらえる。


 いざ、世界に私のゲームのろいを!












      『呪いのゲーム』


     価   格 600円

     ジ ャ ン ル ホラーアドベンチャー

     プレイ人数 一人

     マルチ要素 なし

     クリア想定 計算不可




      『呪いのゲーム』

   攻略本付きデラックスエディション


     価  格  8600円

     特  典  オンライン攻略本付属

           (毎月更新予定)









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