第13話 追放

「ふざけんな!適当なこと言ってんじゃねぇよ、エレナ!」


 ザインが目を見開いておもむろに立ち上がる。


「ひいぃぃ、すみませぇん!」


 ザインは拳を振り上げてエレナに迫ろうとしたが、ドーガがその拳を掴んで止めた。


「リーダー、暴力は見逃せんの」


 ザインはドーガの胸倉を掴む。


「ドーガ、邪魔すんのか?こいつは今でたらめを言って俺を陥れようとしたんだぞ!」


 ドーガはザインの揺さぶりにも一切動じない。


「エレナ殿の言った事がでたらめかどうか決めるのは話を全部聞いてからじゃ。リーダーには少し黙っていてもらおうかの」


 そう言ってドーガはザインの両肩をがっしりと掴む。


「くそっ、やめろ!押すなって!」


 ザインは悪態をつきながらも、ドーガによって元いた席に押し返されてしまった。

 舌打ちをしながら椅子に腰を下ろしたザインを見届けて、ドーガがエレナの方を振り返る。


「エレナ殿、もう少し詳しく話を聞かせてくれるかの?」


 エレナはこくりと頷いた。


「わたし、ワーウルフに囲まれるのが怖くて。たまに振り返りながら走っていました。だから、1番後ろにいたリーダーとラルフさんの姿はよく見えていたんです」


 リサがそれを聞いて顎の下に手を当てる。


「たしか足の速い2人がワーウルフを威嚇して私たちの逃げる隙を作ってくれたんだったわね。ラルフはそのまま逃げ遅れたと思ってたけど……。本当は違ったのね?」


「リーダーもラルフさんも後ろからちゃんと追い付いて来てました。でも、ワーウルフもすごい速さで追って来てて……。それで、リーダーがラルフさんになにか話しかけたんです。その直後でした。リーダーがラルフさんを突き飛ばしたのは」


 エレナは青ざめた顔を手で覆っている。


「私、ラルフさんのために戻らなきゃって思いました。でも、ワーウルフが追いかけて来なくなって。それで、安心しちゃったんです。このまま逃げれば私たちは助かるって。だから……」


「だから、黙ってたのね」


 リサは目頭を押さえて複雑そうな顔をしていたが、エレナに歩み寄って彼女の肩を抱いた。


「辛かったわね。私が同じ立場でも、声を上げる自信はないわ。助けに戻って全滅するくらいなら、黙って逃げる方を選んだかもしれない」


「逃げ切った後も、本当のことを言うべきか迷ってました。でも、みなさんにどんな反応をされるかと考えたら怖くて……」


 エレナはリサの服にしがみついて嗚咽おえつを漏らしている。


「で、ラルフ。今の話はホントなの?」


 リサが俺の方を振り返って確認してくる。

 エレナに見られていたとは予想外だったが、ここは真実を話すべきだろう。


「ああ、エレナの話は本当だ。なんなら、俺を囮にすると宣言した上で突き飛ばされてる。ザインは確信犯だったと思ってもらっていい」


 ここで再びザインが立ち上がった。


「おい。なに寝言ほざいてんだよ、ラルフ!それ以上余計な事を言ったら……」


 今度は俺に向かってくるザインをドーガが再度止めに入った。


「悪いの、ザイン殿。2人に手を出すことは儂が許さん」


 ザインは何度もドーガに罵声を浴びせているが、力では敵わないようであえなく取り押さえられている。


「エレナの話にラルフが同意しているし、これは決まりで良さそうね」


 リサがザインの前に歩み寄って、顔をしかめる。


「決まり?なに言ってやがる……。こいつらがグルになって俺をはめようとしてんだよ!」


 ザインは言い逃れようとしつつリサを睨み返した。


「往生際が悪いわね。まあ、認めないならそれでもいいけど。とりあえず、あたしはあなたのパーティを抜けさせてもらうわ」


 ザインが驚きの表情を顔に張り付ける。


「は?おい、どういうことだよ!」


「自分の命惜しさに仲間を見捨てたのかもしれない。そんな話を聞いて、あなたと今後も組みたがると思う?そういうことだから、あたしはもう出ていくわ。ドーガとエレナはどうするの?」


「儂もリサ殿と同じじゃ。この男には背中を預けられん」


 ドーガはザインを拘束しながら、冷たく言い放った。


「わ、わたしも。こんな話をしちゃいましたから、もう一緒にはいられないです」


 エレナはビクビクしながらも、自分の意思をハッキリと告げた。


「じゃあ、あたしたちで新しいパーティを作らないかしら?」


 リサの問いかけにドーガとエレナは素直に同意する。


「賛成じゃ。この話を打ち明けてくれたエレナ殿を1人にしておくのは危ないと思っとったし、ちょうど良いの」


「あ、ありがとうございます。みなさんが一緒にいてくれたら心強いです」


「待てよお前ら!俺は良かれと思ってやったんだ。あのままじゃ全員狼どもにやられてただろうが。俺はお前らを助けてやったんだぞ!なのにパーティを抜けるとかおかしいだろ!」


 3人のやり取りに耐えかねたのか、ザインはなりふり構わず喚き散らし始めた。


 リサは溜息をついて、後ろ頭を掻く。


「ついに認めたわね」


 ドーガがザインを組み伏せながら告げる。


「助けてやったなどとよく言えたものじゃ。感謝の言葉を受けるべきなのは身をもって時間を稼いだラルフ殿じゃろうて」


「ドーガの言う通りね。それにさっきから言っているけど、仲間を裏切る奴はお呼びじゃないの。ここの飲み代くらいは置いといてあげるから、後は好きにしてちょうだい」


 リサは代金を机に置くと、ドーガとエレナを連れて店の出口へと向かう。

 俺の横を通り過ぎる時に、リサは小声で耳打ちしてきた。


「あなたにはまだ話があるから、一緒に来て」


 言われるまま、俺は3人の後に続く。

 しかし、思う所があって途中でザインの方を振り返る。


 ザインはまだ怒りに任せてなにごとか叫んでいるが、よく聞き取れない。

 俺はなにか声をかけてやるべきか迷った。


 だが、なにを言ってもお互いにとっていい結果にはならないだろう。

 俺を見捨てたことでパーティから見限られる。


 それだけで十分罰は受けたはずだ。

 俺は黙って店の外に出ることにした。

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裏切られて死にかけた俺、錬金術師に肉体改造されて奴隷ルートまっしぐら?~脱走して異形の力で人生を取り戻します~ 尾藤みそぎ @bitou_misogi

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