第4話 翌日の登校
隣の部屋がミシェルさんと気付いた翌日の朝。俺は、いつもより1時間早く目を覚ましていた。
不健康常習犯として普段遅刻時間ギリギリに家を出ている俺にとってこの時間はまだスヤスヤ寝ている時間だった。
とりあえず30分早く起きたこの時間を何か有効活用しないといけない。目先で優先する事と言えば、今日が金曜日でゴミを出さなければいけないことくらいか。
部屋に掛けてある上着を着て、夜のうちにまとめて玄関に置いていたゴミ袋を片手に持ち、片方の手で玄関を開けて外に出る。
当たり前と言うべきか6月の朝は、上着を着ていたとしても肌寒い。
流石にもう少し暖かい服装で出た方が良かったかも知れない。階段を降りながら俺は、1分前家を出る時少しでも余裕と考えた自分を叩きたい。
寒さに耐えるのは、嫌いなのでなるべく早く布団にくるまりたい。普段なら人が居てやらない階段を2段飛ばしで降りて、急いで1階に降りる。
そこそこ良いマンションということでエントランスを出れば、ゴミ袋を捨てる場所が設置されている。
朝にゴミを出すのは、苦なので便利でありがたい。冬なんかは、特に寒い季節で重宝されるに違いない。
ささっと置いて部屋に帰りたい。ゴミ置き場にゴミ袋を置いて俺は、回れ右をして部屋に戻ろうとすると、目の前から来た人とぶつかった。
幸いぶつかって転ばなかったが、相手の方は尻もちを付いて転んでいた。
「すいません!? 大丈夫ですか!」
顔を下に向けていて、表情を伺えないが絶対条件自分が悪いので相手に手を伸ばす。髪型的に知り合いでは、無いと確信出来る。
「何処か怪我とかしちゃいましたか!?」
「うぅ……にゃに〜」
返事が無い事に半ば焦り気味に声を掛けると、眠気を含んだ猫っぽい声が耳に入る。普通なら「可愛い!」と思うが俺は、その声の持ち主を知っていた。
「えーっと? ミシェルさん? 」
「えっ、あ、え?」
こちらの存在に気付いたミシェルさんは、頬を新鮮リンゴの様に赤く染めて、勢いよく立ち上がった。
「お、おはようございます!」
「うん。おはよう」
突然の挨拶にどう返したら良いか分からず、シンプルな返事を返してしまったが良いのだろうか? こういう場面では、雰囲気を良くする為にボケるのが良いとネット記事で目にした。
だがボケる前に、まずちゃんと謝らないと。ミシェルさんの目を直視して俺は、頭を下げながら謝る。
「ミシェルさん、怪我なかった? 前を見てなくてごめん」
誠心誠意、謝っている事を相手に伝わって欲しい為、流石に外で土下座は出来ないので最大限の腰を曲げて謝罪をする。
謝って下を向いている為、ミシェルさんがどう言う表情をしているのかも分からない。無言時間が続いていて更に不安を煽られる。
恐る恐る視線を地面から徐々にミシェルさんの頭に向ける。表情が視界に入るのが、結構怖いと思いながら見る。
「え? ミシェルさん?」
「あ、ごめんなさい! ぼーっとしてて! ぶつかった事ですか!? 私も悪いので大丈夫ですよ!」
名前を呼ばれた事に眠気でぼーっとしていた瞳を開けてミシェルさんは、返事をする。
学校では、真面目で全く眠そうな雰囲気が見えないが、朝方はやっぱりミシェルさんも眠いのか。そう考えると俺より1時間前に起きているのに授業中寝ないって凄いな。俺なんてギリギリまで寝ても授業中寝そうで危ない。
「ありがと……本当に怪我とかしてない?」
転んで怪我をして隠してたら困るので更に追求する。怪我をしていた場合、自宅から預金通帳を持ってきて渡すつもりだ。
「全然。大丈夫ですよ! 」
はにかみ笑顔で微笑むミシェルさんに多少の違和感が湧く。内面上の違和感じゃない、外見上の違和感が感じられる。
視線をミシェルさんのつま先から頭までうろつかせると、髪型が変わっている事に気付いた。
「あれ? ミシェルさん、髪型いつも結んでないけど、今日はハーフアップなんだね」
ミシェルさんの表情を伺いながら言うと、明らかに表情が先程より明るくなったと感じられる。
「そうです! 実は気分転換に! 似合ってませんかね、?」
眠そうな瞳で上目遣いをしながらこちらを眺めるミシェルさんに不意にドキッとしてしまう。危なかった、陰キャを極めし者じゃ無ければ今ので死んでいた。
「滅茶苦茶似合ってる、多分教室行ったら叫び声が湧くよ」
「そ、そうですか……あ、ありがとうございます……じゃ、じゃあまた学校で! 」
頬と耳を新鮮リンゴの赤色に染め上げてミシェルさんは、小走りで部屋に戻っていく。とても可愛かった。恋的な意味の可愛いでは、無く純粋にアイドルオタクの部類の可愛いだと思う。
それにしてもまた学校でか……陰キャの俺と陽キャのミシェルさんがいきなり話したら、体育館裏に連れて行かれそうな気しかしない。
とりあえず学校でミシェルさんに話し掛けられてもヘマをしないよにと心に釘打ちながら俺も学校の支度をする為に自分の部屋に向かった。
今朝の出来事から2時間後の朝8時30分。案の定ミシェルさんより後に学校に来たら、ハーフアップになっているミシェルさんにクラスメイトや別のクラスの人達が集まって小規模なフェスが行われている。
予想通りと言うか、当たり前と言うかファンクラブのミシェルさん命と言うハチマキとはっぴを巻いている人達が増えている気がする。
日に日に人気を加速させていくミシェルさんを横目に俺は、自席に付いて机の上に突っ伏す。誰も話しかけないし、1番楽だ。
それに少しでも体力を温存して置かないといざと言う時に必要かもしれない。例えば異世界から魔物が襲ってきた時とかに。まぁともかく机に突っ伏してたらとりあえず学校生活は最低限送れる。
それにしても髪型を変えてあれ程の反響が有るってことは、ミシェルさんに恋人が出来たら一体どうなるんやら……全校体育館に集まっての集会か。ミシェルさんファンクラブの人達は助かるが、ガチ恋勢達は、意識保てるのか。
「裕翔ぉぉぉ! あっぶねぇ〜!」
いきなり名前を呼ばれた事に体が反射的に震える。一体誰だこんな朝から人の名前を叫ぶ
「なんだよ……遥斗」
うるさい遥斗に返事をする。一体何処からその有り得ないほどの元気が湧いてくるんだよ。今朝だぞ。
「そうそう! ミシェルさん何があったんだよ!? あんなに群がってて何も見えないぞ!?」
「あ〜髪型をロングヘアーからハーフアップに変えた見たいよ」
「ほへ〜所でお前ミシェルさんより後に来てなんで分かる? あの人混みで見れないだろ」
鋭く痛い所を付いてくる遥斗。忘れてたがこいつ、無駄に勘が鋭かった。口を滑らせた事に後悔をしながら言い訳を考える。
今日だけ早く来たとかバレバレの言い訳しても余計バレる可能性高くなるだけだし、無難な言い訳でいいか。
「学校来た時群がっててちょうど隙間から見たら髪型がハーフアップになってるのが見えてな」
「そうなのかぁ〜にしても群がるよなぁファンクラブの人数も増えてるし」
やっぱりそこは、同じかと思いつつ時計に目を向けるとチャイムがなるまで残り1分前。
ちょうど前のミシェルさんに群がってる人混みをくぐり抜けきたマスコットキャラ先生、小宮麻衣先生が教壇の前に立った。
「みんな〜そろそろチャイム鳴るからミシェルちゃんから離れなさい〜他のクラスの子は、戻りなさい」
小宮麻衣先生が呼び掛けたことによって、時間を確認したのかミシェルさんに群がってた人は、焦りながら自分の教室に駆け込んで行った。
ミシェルさんも疲れ気味に席についてこっちを視線を向けた。
「おはよぉ〜」
自分も疲れているにも関わらず伸ばすように挨拶をしてくれるミシェルさんに俺も軽く会釈をして前を向き直る。
北欧聖女姫をおんぶしたら堕落に導かれた 翠川おちゃ @sankumaasi
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