第24話 社会主義国家の本性

 マギウス社会主義共和国を指導するイルビナ書記長は深く悩んでいた。

 現在、急激に発展する国であったが、問題が多くなってきたのだ。

 その一つが人民の平等であった。

 社会主義の良い所は人民に格差を与えず、全体主義によって、全人民が同じように幸福になる事だった。

 だが、すでに政治の主導権は革命当時の者達によって牛耳られ、そこから格差は始まっていた。

 人民の間にも僅かながら綻びが始まり、労働に対する意欲の減退などが始まっていた。

 これらを改善すべく、イルビナが考えたのが、国外への拡大であった。

 富を国外へ求める事によって、人民の意識を高めるためであった。

 理屈は無茶苦茶であったが、目論見は合っていた。

 国民達は軍需の拡大による所得の上昇などに沸いている。

 兵士を多く集め、軍拡が国内景気を高めた。

 イルビナの指導力は再評価をされ、彼の権威は確実となった。

 だが、それは戦争へのカウントダウンに過ぎなかった。


 王国はマギウス社会主義共和国の野望の的となった。

 王政による民の圧政を解放するという宣言を行い、彼らは侵攻を始めた。

 とは言え、唐突に戦争が始まるわけでは無い。

 彼らは国境付近に部隊を集め出した。この状況は王国も逐一、確認をした。

 多分、3か月以内に攻勢が始まると予測され、王国も防衛のために軍を再編成する事になった。

 この状況はヴァルキリー隊を擁するバレリー宮殿でも同じだった。

 バレリー宮殿ではマギウス社会主義共和国についての分析が行われていた。

 周辺諸国にはスパイを送り込んでいるが、イルビナが社会主義革命で国家が転覆させて、日が浅い為、国情を詳細に得る事が困難であった。

 だが、僅かながらも得られた情報においては、全人民が平等というのは嘘であり、国内においては新しい格差と秩序が生まれつつある。その最たるのが、書記長による独裁体制であった。

 結果的に王政と対して変わらぬ構造が生まれつつあるとされている。

 ただし、君主制と違い、血統に拘らない点がこれまでの独裁とは違う。

 領主などの問題も無くなり、中央集権制が強化された点。

 公務員の権威が強まり、より強く民衆を支配している点などが上げられた。

 そして、国民を監視するように警察よりも強権を持つ高等警察の存在。

 この手の組織は多くの国家でも見受けられるが、イルビナにおいてはそれが法的においても徹底され、民衆は隣人さえ信じられない状況にあった。

 そして、彼らは他国のスパイを徹底的に狩っている。

 すでに王国のスパイや協力者も多く、逮捕されている。

 バレリー宮殿から派遣しているフェアリーも何人かが行方不明となっていた。

 マギウスの首都ヴェルネオ市で新聞社に勤めるフェアリーのキネスも危機を感じていた。着実に高等警察の手が迫っていると感じていた。

 手にしている情報を持ち出し、国外へ逃げ出せねばならなかった。

 気の優しい大家の婆さん。だが、彼女は密告者だ。

 他国のスパイを高等警察に密告する様子を確認した。

 この国では密告は当たり前になりつつある。いつ、自分が密告によって、高等警察に捕まるかもわからない有様だ。

 そして、彼女は合鍵を用いて、自分のアパートの入居者の部屋を漁るのだ。

 無論、盗みではない。スパイの証拠を掴む為。

 その事を知っているから、部屋にはそれを残さないようにしている。

 社会主義国家となり、国民服なる物が支給されるようになった。

 この国では衣食住は配給となっている。土地すら個人所有は許されない。

 アパートも大家の物ではなくなった。だが、大家という待遇はそれなりに優遇されており、彼女はその為に国家に忠誠を立てている。

 キネスは国民服を着込んだ。女でもスカートでは無く、パンツルックとなる。

 軍服のような作業服のような感じの濃い緑色の服である。

 キネスはそれに普段、通勤に使うナップサックを背負う。

 普段はあまり出歩かない夕刻。

 彼女は部屋を出た。

 その時、大家と遭遇した。

 偶然・・・ではない。多分、彼女は監視をしていたのだろう。

 「あら。キネスさん。こんな時間にお出かけ?」

 笑顔で彼女は尋ねてきた。

 「はい。少し会社に忘れ物をして」

 「そう・・・」

 老婆の笑みは崩れない。だが、キネスは察した。多分、彼女はこれから密告をする。

 彼女が密告をする時は自室の電話を使う。

 このアパートには大家の部屋にしか電話は無い。

 「大家さん・・・ちょっと良いですか?」

 キネスは大家を呼び止める。

 自室の扉を開き、彼女を呼び込んだ。

 フェアリーは様々な訓練を受けている。

 その一つが暗殺術だ。

 相手の油断を誘えば、素手でも相手に声を出させずに殺せる。

 キネスは背後から老婆の首を両腕で締め付け、首の骨を折った。

 あらぬ角度に頭は倒れ、彼女は身体が動かせないまま、気道が圧し潰され、玄関に倒されたまま、死を待つだけとなった。

 キネスはそのまま扉を閉めて、鍵をした。

 そして、アパートを後にする。

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エプロンを着た兵士 三八式物書機 @Mpochi

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