エピローグ


 耳に障る嫌な音が、今年もやってきた。

 天気予報から、おかしいと思ってた。

 腕に刺された赤く腫れた後が季節を見事に表しているように。


「貴方にとって尊敬する人間を、三人、教えて下さい」


 やっぱりその日は、人もひっくり返ってそうな、暑い、暑い真夏日だった。


「一人は僕にとって原点でもあり、課題にもなった人。二人は喜びを思い出させてくれた人で、何よりも大切で、二度と同じ過ちを繰り返さないと誓ったのに手放してしまった人」


「もう一人は?」


「三人はその人を失って開いてしまった穴を埋めてくれた人で、やっぱり大切で、初めて自分自身の変化を気付かせてくれた人……」


 話過ぎた……と不安げで伺うように面接官の顔を覗くと、存外に。


「私が社会に復帰する自信を取り戻すために、必要だった大切な人です――」


 悪い顔をしてなかったので、宅浪はつい正直に吐き出してしまう。

 少しばかりの沈黙でも、気まずくなるようなバツが悪いような感覚が襲う。

 宅浪はネクタイの位置をボタンに沿うように合わせて、腕時計にチラリと視線をやる。

 挙動不審に思われたか……?


「最終面接、これが最後の質問です」

「は、はい」


 変わらぬ物言いで進行し始めたのでビクッと身体を震わせる。

 少しくらい嘲笑されてもよかったのにな、って思いながら面接官の質問を待った。


「青春に、学生時代に対して、コンプレックスを感じていますか?」

「え?」


 守備範囲で、テスト範囲じゃなかったはずの奇想天外な質問。

 高速回転する頭を差し置くように、眼前に提示されたのはどこにでも入りそうなメモ用紙。


『蝉が鳴く夏日に、君を待っている。宅浪より』


 見覚えのある筆跡と名前で確かに、そう書かれている。

 そして、メモを目の当たりにした俺を今度こそ嘲笑うように、頬を緩ませる面接官。


「ローファーの中にこんなキモ手紙を入れられた経験があったので。――宅浪さん」


 どうやら、俺の勘違いだったみたいだ。

 既に俺は、彼女の手のひらの上で遊ばれていたらしかった。


 すれちがっても構わない。

 いつか、思い出せるその日が来たのなら、思い出話を語り合おう。

 どんな困難が立ちはだかろうとも、相手を想う気持ちはきっと、君を繋げる。


「心のこもったラブレター……だって」


 そう言って、すべてを思い出した俺と、ナヤカはクスクスと一斉に微笑み合うのだ。

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貧血ギミな僕はいつもすれ違い るんAA @teyuki

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