第11話 お客様を態々怒らせても意味が無い

「はい、申し訳ありませんがそれは出来兼ねます」

「何だと!!」

「そっちが迷惑を掛けたから何とかしろと言っているんだ!!」

「ご迷惑をお掛けしている点に関しては申し訳なく思いますが、お客様のご要望は保証内容に含まれておりませんし、当方で行えることは先ほどお話しさせて頂いた対応となります」

「迷惑を掛けたんだから融通を利かせるのも仕事だろうが!!」


初期不良や故障と言った製品トラブルではよくあるやり取りが上記となる。

お客様の中には保証内容に含まれない無理難題を言って来るも方がいる。


「お前の態度も気に食わない!!」

「左様でございますか・・・どの様な点がお気に召さない部分でしょうか?」

「その上から目線の態度だ!!」


いや、十分下から目線の丁寧語である。

特に今回の件では舐めたこと一言一句言っていない。

今回のケースは保証期間中の故障なので製品をお預かりして修理をさせて頂くと言うのが通常対応である。

特に何かしらの特殊案件とかではなくただの・・・言い方が失礼と言うなら、普通の故障だ!!

「現在、壊れているからお預かりして修理します」と言っただけだ。

怒る要素が全く見当たらないが、どうやら製品が修理の間に無くなるのが困るらしいが、代替品を用意するかと言えば保証内容に含まれていない以上此方から用意することはない。

これは私だから出来ないと言うのではなく、保証内容に含まれないから誰が対応しても出来ない物は出来ない。


「もういい!!」


ガチャ切れされたが・・・いいならいいのだが・・・どうせ修理しないと使えないのだし、修理に速やかに出して修理を早く終わらせるか、新しい物を買えばいい話なのであるが納得しない。

こういうケースでは対応者の落ち度は99.9%位無い。

何故ならば、お客様を態々怒らせても意味が無いからだ。

意味の無いことに時間を割く位ならやらない方がましなのであるが、お客様の方から電話が来るので受けざる終えない。

まぁそれが私の仕事だ。

仕事でなかったら対応しないぞ・・・多分・・・

態々怒らせることは意味が無いと言ったが、実は少しは意味がある。

要は対応時間の短縮になる。

怒って電話を切れば一旦気持ちがフラットになり冷静に物事を考えられる物だ。

こちらの言い分は伝えたので後はどう判断するかのボールはお客様にある。

それによって自分が如何に馬鹿な事を言っていたかを冷静に考えると殆どの方が謝罪して修理受付と言う流れになる。

ただし、質の悪い方も一定数要る。

コールセンターと言うのはお客様を肯定的に捉え提示された問題に対処するが、そもそもの話提示された問題が此方で対応出来ない物を言われても対応出来ないのだ。

仕事だから言い分は聞かせて頂くが、出来ない物は出来ないと言うしかないのだ。


「エースさん可成り揉めてましたね~」

「まぁ何時もの保証内容以上の要求だ」

「あ~居ますね~」


ふと、先程までビー田の対応していた履歴を見ると、保証内容外の事を受けている・・・


「おい、ビー田さん・・・」

「何スか~エースさん」

「お前さんが先程まで対応していた案件は保証対象外の物の様だぞ・・・」

「え~マジっすか~ヤベ・・・如何しよう・・・」

「まぁ、お客様に再度連絡して謝罪の上に出来ないとお断りを入れて出来る範囲でやるしかないな・・・」


ビー田は渋々といった感じで再度お客様に連絡して謝罪している・・・

こうなると長そうだ・・・

最近のコールセンターは録音を行うが、何故録音するのか?

要は無理難題を言われた際に脅迫などしていた場合は刑事告訴もあり得る。

そして、その録音データが証拠となる訳だ。

うちも導入して欲しい所ではあるが、未だ導入する気配はない。

録音されていると知れば余程のおバカさんではない限り発言には気を付ける物だ。

証拠として提示されれば命取りになるのは言った側。

勿論、此方も気を付ける必要があるが、そもそもの話、コールセンターの人間で不用意な事を言うのは馬鹿か新人位のものだ。

横で粗忽者がお客様に昏々と怒られているが、自分の落ち度だ自分で尻拭いするしかない。

そうこうしていると、コール音が鳴る。

私は何時もの様に素早く電話を取り何時ものセリフから通話を開始した。


「お電話ありがとうございます。〇〇のエースが承ります」

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社長を出せ!!(仮) 生虎 @221t2

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