第10話 「申し訳ありません」を言う愚

コールセンターにおいて、「申し訳ありません」と言うのは挨拶と言われる。

どのコールセンターでも一緒かどうかは知らないが、よくそういう事を聞いた。

しかし、俺は謝らないことで有名な男である。


「エースさんって本当に謝りませんよね?」

「はぁ?謝ることもあるぞ」

「え?聞いたことない気がしますが?」

「いやいや、こちらが悪いと思えば素直に謝罪するぞ」


ここ重要なポイントだ。

「こちらが悪いと思えば」である。

電話の冒頭で怒り狂って「お前の所の製品は何だ!!」とか言ってくるユーザー様は多い。

何か問題が生じてお電話頂いたのであろうが何が起こったか把握していないのに謝る者も居る。

その場合の電話を受けた者の心境と言えば、「電話するお手間を取らせて申し訳ありません」だが、ユーザー様はそう捉えない者が多い。

それが如実に表れるのは中盤戦の実際の問題を聞いて後の話だ。

ユーザー様の問題の場合もあるが何方ともつかない場合が1番ややこしい。

しかし、最初に「申し訳ありません」と口走っていた場合は大体が後手に回ることが多い様な気がする。

よくお客様が言われるのは「最初にそっちが誤っただろう?」と言う事を言われる。

要は最初の「申し訳ありません」は謝罪の意としてユーザー様は捉えたのである。

勿論これを故意に使う問題児のユーザー様も居るから質が悪い。

そんなことを考えているとコール音が鳴る。

おっと早速電話である。


「お電話ありがとうございます。〇〇のエースが承ります」

「お前の所の製品は何なんだ!!」

「宜しければ状況を教えてください」


対応を終わらせ電話を切るとビー田が早速とばかりに話し掛けて来る。


「エースさん、ほらね~謝らない」

「あのなぁ、謝るところって無かっただろ?」

「え~最初にお客様怒鳴ってなかったですか?」

「怒鳴ってたな・・・」

「普通あそこは「申し訳ありません」じゃないんですか?」

「じゃないな、ああいった類の方は大体上げ足を取って来るから不必要に謝罪と取られる言葉使いは禁句だな」

「へ~そういう物ですか?」


話しているとコールが鳴る。

今度はビー田が電話を取る。


「お電話ありがとうございます。〇〇のビー田が承ります」

「初期不良だ!どうしてくれる!!」

「も、申し訳ございません」


だから、状況も把握して無いのに謝るなよ・・・

これはユーザー過失でも揉めるな・・・

溜息を吐きつつ自分の対応したログを精査して履歴を保存して次の電話を待つ。

早速コールが成る。


「お電話ありがとうございます。〇〇のエースが承ります」

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