熱望のサラマンダー

 あの後の戦は、私の負傷を目撃したテタルトン・レピダのひと達が暴れ回って殲滅したとのことだった。テタルトンの某曰く


「あんなに頭に血が上ったのは久しぶりっすね。生き物ってのは元々寿命が決まってるんすけど、全員もれなくその日を命日にしてやりました」


 とのこと。

 パンドラさんにはデイモスに手酷くやられた時以上に泣かれてしまった。


「無茶はやめて欲しいけれど、アレウス様を救ってくれて本当にありがとう!貴方は国を救った様なものよ!」


 なんて言われてしまった。嬉しいような恥ずかしいような、複雑な気持ちである。

 アレウス様から頂いた炎で体は回復したものの動けない私を、返り血に濡れた体でアレウス様は抱き上げてくれた。そしてその状態のまま城へと戻るものだから、レピダの全員から驚きの視線を向けられた。デイモスに睨み付けられたのは言うまでも無い。

 城に戻ってフォボスさんの部屋に運ばれベッドに寝かされた後、感謝の言葉を述べようとした私の額にキスが一つ落とされた。


「とっとと動けるようになれよ、可愛いオレのサラマンダー」


 面頬を着けながら去り際に放たれたその言葉に、私の体温が五度程上昇したのも言うまでも無い。

 痺れを切らしたフォボスさんに毛布を引っぺがされるまで、私はずっと頭から丸まっていた。腹に受けた攻撃は綺麗さっぱり無くなっているのに、何故か腹がじわじわと熱かった。






 動けるようになって数日後、私はアレウス様から『炎舞嬢』の二つ名を授かった。

 テタルトンの全員授けられているそうだが、私は踊り出したくなる程に嬉しかった。またアレウス様から頂いたものが増えた、それだけで心が満ち足りるのだ。

 あの戦が終わった直後は全員に泣かれる程(一部除く)心配されたが、相変わらずテタルトンのひと達は私に優しく接してくれるし、相変わらずデイモスは私に嫌味を言ってくる。嫌なことがあったりしても、変わらない日常を手に出来たことが何よりも幸せだ。

 しかし、大きく変わったことが一つだけある。

 それはアレウス様に呼び出される回数が目に見えて増えたことだ。

 食事の共、暇な時の話し相手、こちらとしては願ったり叶ったりだが、私でなくてもいい筈なのに何故なのか。その疑問を一度だけアレウス様に尋ねたことがある。

 赤い美しい主は、得意げに笑ってこう答えた。


「傍に置いてくれと熱望の視線を向けてくる可愛いサラマンダーを、オレが放っておく筈ないだろ?」


 ああ、私の心酔する主は、視線も何も全てお見通しなのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恋するサラマンダーは焔の夢をみる 新門 暁 @yoake_ruri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ