死んでも異世界転生なんかしてやるもんか!

クレハ

第1話

【死んでも異世界転生なんかしてやるか!】


一話


「あのですね。こういっちゃなんですけど【Re:歴書から始める現実逃避】とかいう題名で真面目な話を書けば売れると思うんですよ!」

 とあるファミレスの四人がけの席で眼鏡の男は興奮気味に言った。

「……はぁ」

 もうため息しか出ない。今後の作品についての話と聞いてやってきたらこれだ。

「そうは思いませんか! あ、じゃ! 【とある】」

「もういい! こんな話してたら多方向からもろに攻撃もらっちゃうだろ!」

「あー! じゃ、【通常攻撃が全体攻撃で】」

「まじ黙れ!」

パクリ厨の奴のおかげで紹介が遅れたが、この眼鏡の男の正面で、必死に全体攻撃を防ごうとしてるのが俺だ。

「なんでですか! 僕は君が頷くまで喋るのをやめない!」

 彼の声はすっかり枯れていた。いや、俺も同じだ。かれこれ二時間くらいこの論争を続けてる。

「そういうのがしつこいっていうんだよ!」

「先生だって売れる話が書きたいでしょ!? なら、私に従ってくださいよ!」

「あのな……俺は流行とかに流されない。普通の話が書きたいんだ」

「ラノベ作家のくせに?」

「そうだ。俺はもう嫌なんだよ。自分の話が書きたいんだ」

 そう言ってコーラを喉奥に流し込むと、カラカラになっていた喉に染みる。さっきまでこいつの猛攻に声を張っていたせいかもしれない。

「そうですか……でも、題名って大切だと思うんですよ!名前が売れてない以上、それに頼らないと貴方の面白い本が売れないんです!」

「……面白い?」

「はい! だから、個人的にもっと評価されるべきだと思ってるんです」

「ほう?」

「一つ目の滝川先生の作品は中身は面白いのに手に取って貰えるような題名じゃなかった。てか、なんですか?【間違い】って。ま、読めばわかるんですけど。あ、あのころ【ダンジョンに出会いを求めるのは間違】」

「あ、黙れ!」

 少々面白いと言われたことに対し気分が高揚してしまったからか、長いあのタイトルを全部言わせかけちまった。

「あ、そうそう。やっぱり今の流行りってたら異世界転生じゃないですか」

「……そうだな。流行ってるとは思うよ。だか……」

 睨みをきかせて彼のメガネの奥を見てやると、彼は両手を上げた。

「いえいえ。わかってますよ。流行りに流されたくないんですよね」

「そういうことだ。死んだって異世界転生なんてしてやるか」

 俺はただ普通の小説が書きたい。という熱意が奴にもやっと届いたのか奴が先に折れた。

 それからは、前に書いた間違いとかの続編の話をしたり新作についての事を話したりと珍しくまともな会話をして、夕陽が街に沈む頃に店を出た。

「んじゃ、私もほかに仕事があるんで! また!」

「お前も忙しいんだな」

「いえ! 楽しいのでいいんですよ!」

「そうか。じゃ、また」

 そんな会話をして彼は駅の方へ俺は自分の家の方へと別れた。

 帰路につき、ちょっと寄り道しながら帰ると大通りにでる。すると、三車線のど真ん中に酷く衰弱した猫ちゃんが震えていた。車は避けてってるとはいえ、あのままじゃ死んでしまう。

 多分、こんなテンションでなければ助けになど行かなかったかもしれないが、俺は車道にタイミングを見計らい、一番奥のレーンにいた猫ちゃんを捕まえるまでには至った。

「よかった……」

 一呼吸置いて安心していると、トラックが物凄い速度で突っ込んできているのが見えた。

「……う、嘘だろ?気がついてないのか?」

 動こうと足を動かそうとしてみるが、腰が抜けて動けない。

 そして俺は猫を抱き、痛みを感じる間もないまま、意識がプツンと途絶えた。


****


「お兄ちゃん!」「兄さん!」

「……んぁ?」

 目を開くと一人はショートカットの金髪巨乳っ子に、もう一人は黒髪ロングの可愛いと言うよりかは美しい顔立ちが、にんまりと笑う。そんな絶可愛い美少女二人が俺を覗き込んでた。

「……誰だ? あ、違う。夢か。おやすみ」

 というか、俺一人っ子だし妹なんているわけないか。

 また瞼を閉じるとわーぎゃーとうるさい。これじゃ眠れないし体に何かがのしかかって重い。

 薄目を開けてその子らを排除しようとしていると、柔らかなものを触ってしまった。夢にしては妙に現実的というリアルな質感だ。

 ま、揉んだことないけど多分こんな感じなんだろうな。

「ひゃんっ!」

「あ、お兄さん酷い! どさくさに紛れてちーちゃんのおっぱい触ったね!」

 子供みたいなことを言ってるくせに甘い声を出すのはどこのどいつだ全くよ……

 仕方なく目をまた開くと同じ光景が広がっていた。さっきは気が付かなかったが、俺が寝てるこの場所はだだっ広い野原だ。

 ……何が起きた? 確か俺は国道に飛び出して猫と一緒に……

「ん? 難しい顔をしてるねお兄さん!」

「あ、夢の中の住人さん。うるさいので少し黙っててもらっていい?」

 見るからにデカい背の低い金髪っ子の胸だった。いくら可愛いとはいえ俺は年下には興味無い。

「え? どういうこと!? お兄さんはお兄さんだよ! まだ寝ぼけてるの?」

「いや、まだ寝てるんだ。多分今俺は手術室にでもいるんだろう。こんなの現実なわけない」

 そう言うとパシンと頬を引っぱたかれた。普通にむちゃくちゃ痛い。

「な、なんだよ?」

「さっきおっぱい触ったでしょ! 馬鹿兄ちゃん!」

「……あー。てか、時差すごいな。で、君らは誰なの?」

「え? ……お兄ちゃんなんだよね?」

「いや、俺一人っ子だし妹なんて居ないんだけど。てか、初対面だよな?」

「ううんっ! お兄ちゃんだよ!」

「ううん。お兄ちゃんではないよ!」

テンションに釣られて俺もそんな風に答えてしまった。

「うぅ……お兄さんは兄さんだもん!」

「わー! しーちゃん泣かした!」

「ご、ごめん……」

 夢の中とはいえここまでかわいい女の子に泣かれるのはくるものがある。てか、こんな夢を見るってことは俺の内なる作家魂も異世界を書こうとしていたのかね?

 いやいや、それは断じてない。俺は普通の一般的なラブコメを書きたいだけで流行に乗って、異世界転生とかそんなの俺のプライドが許さない。

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