第36話


大気圏へ突入するまでにさほど時間は無い。

急いで可能な限り死なないための準備をする。


3人が離れ離れにならないために俺は耐衝撃シールドをまきこまないよう気を付けつつ、しっかりと接続ケーブルで二人と体を繋げ固定する。

留依は俺の右側に、ソングバードさんは左側に固定。

すでに俺の背中側の耐衝撃シールドが展開されているため、俺が二人を後ろから抱きかかえるような形に固定。


「留依、この耐衝撃シールドを固定しててくれる?」

「はい、こうですか?」

「そうそう、……で、これを……ここに固定して……。」

「あたしの背中側のシールドも移動させますよね?」

「ああ、でもその前に、ソングバードさんの方が先かな。手が離せないと思うし。」

「そうでもないと思いますわ?ソングバードとわたくしは二心同体ですから。」

「え……ソングバードさんが軌道調整してても体を動かせるんです?」

「彼女の許可が無いと出来ないようですけどね。」


闇姫がそう言うとソングバードさんの腕と闇姫自身の能力である”闇”を使って耐衝撃シールドを取り外し、固定する場所へと移動させる。

俺たちの位置は丁度恒星と地球ウィリデの影に入ったところで闇姫の”闇”はその力を存分に発揮している。


「はぁ……器用なんですねぇ。」


思わずといった感じで留依も呟く。


そのような形で胸側と背中側の両面に装備している耐衝撃シールドの装備位置を変更していく。

俺の胸側は抱きかかえた二人で塞がるために留依の左腕の正面辺りに取り付け。

また、留依とソングバードさんの背中側の耐衝撃シールドも俺が居る事で展開できなくなるのでこれは留依の右側面、ソングバードさんの左側面に配置する。


俺の背中側の耐衝撃シールドを地球ウィリデ方向へ向け落下する予定、というかすでに軌道自体はそういう形で進んでいる。


「留依、防護服のシールド設定を共有にしてくれ。」

「共有ですか?」

「ああ、メニューを出して……。」

「あ、これですね?」


俺が説明をする前に俺の共有設定画面に留依とのシールド共有が”可”となった事を示す表示がなされる。

当然ソングバードさんとのシールド共有もなされている。


接触した防護服同士のシールドを共有をすることで共有した分大きな衝撃を防ぐことができるようになる。

大雑把に瞬間的ではあるがこれで3倍の強度が得られる。


さらに、俺たちと同じように資源衛星からは多少の瓦礫が地球ウィリデへと落下していってるのだが、これを闇姫が拾い集め瓦礫の”盾”を作っている。


俺と留依が耐衝撃シールドや防護服のシールドの調整をしている中、ソングバードさんは突入軌道の調整をしている。


『だいぶ落下してきているので空気抵抗が強くなってきつつあります。耐衝撃シールドの展開はギリギリまで行いません。』

「空気抵抗で軌道が変わってしまう、と?」

『はい。それに、どこかの誰かが瓦礫を集めておりますのでその再計算も必要になっています。』

「わたくしのやることに不満があるのかしら?」

『いいえ。瓦礫で盾を作る事自体は非常に有効だと思うのですが、私との情報共有をされてはいかがかと思いまして。』

「まだそのやり方がわかりませんのっ!」


そんなやり取りをしつつ大気圏への本格的な突入が近づいてくる。

もっとも負担が少なくかつ、生存確率の高い状態での突入だ。

無事に地上へとたどり着けるはずだ。


『みなさん。そろそろです。』


少し離れた所では明るく燃える資源衛星の瓦礫が見える。

軌道修正をしていないそれらの瓦礫はみるみる明るく輝き燃え尽きていく。


一瞬自分たちもそうなるのではないかという想像をしてしまう。


留依の腰に回している俺の手を留依がきゅっと握ってくる。


「大丈夫だから。」

「はい。」


留依は小さく頷くもその手は少し震えていた。


闇姫の即席で作り出した瓦礫の盾はすでに展開されている俺の耐衝撃シールドの前に配置している。

瓦礫の盾が燃え尽きてしまってもその次には俺の背中側の耐衝撃シールドが展開されているという形だ。


次第に熱と光が増していく。

同時に体を揺るがすほどの振動も増していく。


「もう、もちませんわ!」


闇姫が維持していた瓦礫の盾が限界に達したらしい。

もしかしたら光が増したことで”闇”による維持ができなくなったのかもしれない。


瓦礫の盾がバラバラに砕け、盾を構成してた瓦礫が光を放ち燃えていく。

背中から落ちていく俺たちから遠ざかっていくそれら瓦礫が見える。

俺たちの周りはヘルメットの光量調整で調整されているはずであるにも関わらず光で目を細めなければならない程だ。


『耐衝撃シールド追加展開します!』


ソングバードさんの合図で留依とソングバードさんの脇に装備している耐衝撃シールドが展開される。

一瞬振動が弱まるも再び激しい振動に襲われる。


光と熱もさらに激しさを増していき、防護服の表面の感覚感知でもやけどをしてしまうのではないかという程だ。


『伶旺様の耐衝撃シールド限界です!』


バフンッ!

という音と共に俺の背中にあった耐衝撃シールドが崩壊する。


『伶旺様!引き寄せてください!』


一瞬何のことかと思ったが、留依とソングバードさんの体を引き寄せる事で二人の耐衝撃シールドを俺の背中側で厚くすることだと気づく。


ギュッと二人を強く引き寄せると背中側で感じた熱が弱まっていく。


「ん!」

「苦しいか?すまん少し耐えてくれ!」


引き寄せたことで留依の左腕の傷に響いてしまったようだが、耐えてもらわないと俺たち全員が黒焦げになってしまう。


「あたしの事は気にしないでください。このくらい平気です!」


同時に俺の手を握る留依の手に力が入る。

耐衝撃シールド単体ではもたなかった……闇姫の瓦礫盾があって良かった……とぼんやりと思いながら未だ続く振動に耐える。


とても長い時間とも短いとも思えた時間が過ぎ、急激に光が収まり振動も小さくなっていく。


『大気圏内に入りました!』


嬉しそうなソングバードさんの声が響く。


ヘルメットのバイザーで表情は見えないが留依と顔を見合わせ頷き合う。


「ふー……何とかなったか……。」

「……なりましたね……。」

『まだですよ?地表面までかなりの高さがありますから。』


ソングバードさんが注意喚起をする。


「ああ、そうだった!ここまで来たんだ地上にぶつかって死ぬのはゴメンだしな!」

「着地地点はどの辺りになりそうなのかしら?夜の場所ならわたくしが華麗にサポートして差し上げますわ!」


大気圏の突入に成功して高揚しているのか闇姫が今まで見たこのないようなテンションで大見得を切る。が。


『残念ながら……もうお気づきだと思いますが、雲一つない昼の場所になりますね。』

「ああ、そう……。」


あからさまに落胆する闇姫だが、実の所闇姫のサポートがあればかなり楽になるのは確かなはずなので残念だ。

そして少し前からかなり明るい場所で落下していっている。

あたりの景色も濃い、藍色のような色から徐々に青い色へと変化していき、その青色も徐々に薄くなっていく。


『場所は海上になります。幸い陸地からある程度離れた場所になりますので現地人との問題も無いと思われます。』


背中向きに落下していっているのでどの程度落ちてきているのか分からないが、ソングバードさんの口調からまだ海上の落下地点までありそうだ。


『ああ、もうすぐ落下地点の海上になりますので全ての耐衝撃シールドを展開します。』

「「「え?」」」


まだしばらく落下が続くと思っていたのだがそうでもなかったらしい。

未だ展開していなかった耐衝撃シールドが一斉に展開され俺たち全員を包むように耐衝撃ールドが展開される。


展開されたシールドで目の前が埋まると次に海水面に激突した衝撃が走る。


ドカン!

という音と同時に一度海面にぶつかり、さらに何度か撥ねバウンドする。

何度目かのバウンドで前面に展開している耐衝撃シールドが崩壊し、防護服のシールドがその衝撃を和らげる。

突如現れる青い物体に顔面からぶつかる。

バウンドが収まり海面上を滑っていきようやく止まる。


『おめでとうございます!無事ウィリデへと着水いたしました!』

「ああ……。」


言葉を発しようとしたが激しく回転しながら海面をバウンドしたおかげでまだ頭の働きが戻らず言葉が出てこない。


よくよく見れば耐衝撃シールドが”浮き”になり海中に俺たちがぶら下がっている状態になっている。


「まだ回っている気がします……。」

「ああ、どっちが上か下かもわからないな……。」

「……この義体素晴らしいのね。全然平気ですもの。」

『それはそうです。最高級の実体を使わせていただいておりますので。』


闇姫とソングバードさんはそうした混乱とは無縁のようではあるが、頭と体の混乱が収まるまで少しの間俺と留依はぼーっと海中を眺めている状態だった。



しばらく経ち落ち着いたあとに耐衝撃シールドを切り離し、水上に浮かぶ耐衝撃シールドの上で寛ぐ。

辺りは一面海でただひたすら水平線が見えるのみ。

建物どころか陸地すら見当たらない。

波が穏やかなのが幸いだ。


「……通信繋がりそう?」

『現地人か艦隊に見つけてもらえるまでこのままですね。』

「トレースは出来てるんだよね?」

『トレースはしていたと思いますが、すぐに通信が入らない所を見ると見失ってしまったのかもしれませんね。』

「あー……そうか2番艦との事もあったしなぁ、回収は少し先になりそうか……。」

「でもこの防護服ってひと月は生存できるだけの機能があるんですよね?」


留依はちょっとワクワクしている感じだ。

防護服を着ている限りはまぁ、大丈夫か。


「2番艦は大丈夫だったのかなぁ……。」


不意に留依がそう言葉をこぼす。


「無事であってほしいが、どうだろうねぇ……。」


と留依に返し、ふと空を見上げるとそこには小さく2番艦が浮かんでいるのが見えた。




ほどなくして俺たちは移民艦隊の突撃軍の艦艇に回収された。

こうして後に移民艦隊転移事件と呼ばれる騒動が終結した。

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闇と闇とコンフルエンス 水森ナガレ @mizu_naga

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