第35話
凄まじい衝撃は俺たち全員を巻き込む。
体にも衝撃が走り何が起きているのか全く分からないまま空中に投げ出される。
同時に推進器に掛かっていたシールドが崩壊したであろうシールドの残滓が舞う。
複数の推進器のシールドが同じタイミングで崩壊したのであろう、もはや防護服のシールド崩壊のような破片の舞ではない。
大量の粒子の波でも受けたのではないかという程だ。
投げ出された俺と同様に推進器やその周りの資源衛星の瓦礫なども一緒に投げ出されている。
防護服のお蔭で肉体自体にダメージは無いが衝撃を受けたことによる混乱で動けなくなる。
しかし、ここ最近はこういう事も多くこうした状況にはかなり慣れてきている。
慣れたくはないが。
俺はすぐに辺りを見渡し、同時にミカミにも状況の確認をする。
「ミカミ何が起きてる?!」
「ソングバードの意識が戻り、推進器の基部が陥没し、さらに現在フォッシオのメンバーが空中に投げ出されております。」
「くっ!同時に起きすぎだろっ!」
本当に色々と同時に起きすぎだ!
だがしかし一番大切なのは資源衛星の加速に関してだ。
十分に加速できていなければ2番艦との衝突の可能性が出てくる。
加速できていなかった場合には逆に資源衛星へ砲撃をすることで強制的な減速を行い、ウィリデ──地球──へと落下させることになる。
このためまずは資源衛星の加速に関しての確認をする。
「資源衛星の加速に関してはどうなった?!」
「ギリギリですがなんとか必要な加速は得られました。もう少し安全マージンを得られれば良かったのですが。」
「いや、贅沢は言えないだろう。よくここまで推進器ももってくれたと考えよう。」
「そうですね。」
話しながら辺りを見渡し他のフォッシオのメンバーを探す。
皆動けるようになったらしく資源衛星に戻ろうと動き始めている。
通津、育波、瑠亜は飛ばされた距離も短いようで俺よりも資源衛星に近いところに居る。
逆に留依と留依をサポートしていた闇姫はより遠い場所を漂っている。
だが、留依と闇姫の動きには違和感がある。
「留依?どうした?」
「…………!」
通信で留依に尋ねるも返答が返ってこない。
通信自体はつながっているが彼女の苦しそうな息遣いが聞こえるのみだ。
「ミカミ!留依のバイタルチェックを!」
「すでにしております。左腕の傷が再び開き止血の処理をしております。」
「大丈夫なのか?!」
「傷自体は問題ないと思われますが、短時間に投薬処理をしたため体が思うように動かないと思われます。」
「なんだと!闇姫に何とかして……いや、ソングバードさんに関してもどうなってる!」
動けない留依に掴まっているソングバードさんの実体に憑依している闇姫に動いてもらおうと思ったが、ソングバードさんの意識が戻ったらしかった事を思い出す。
「ソングバードの実体の中に闇姫とソングバード両者の意識が同時に存在しているようです。そのため今はお互いに混乱をしているようです。」
「意識が喧嘩しているって感じか?」
「おおよそそのような感じでよろしいと思います。」
両者とも動けないなら俺がどうにかしなければならないだろう。
俺は精神を統一し、天と地から”おかげ”を体と精神宿らせ”
体が大きくなり筋肉も太くなる。
体中に体毛が生え闇姫のいうところの”獣人”になる。
防護服の姿勢制御機能をつかい俺の周りに漂う瓦礫を蹴り、一気に留依の居る辺りまでジャンプする。
ソングバードさんの実体は留依を掴む力も抜けているようで徐々に二人が離れていく。
二人が離れていかないように二人同時に抱きかかえるように確保する。
「大丈夫か?!」
留依に向かって尋ねる。
「大丈夫です……。」
留依の声はどう聞いても大丈夫ではなさそうな声だった。
怪我をした時には興奮状態だったため痛みを感じなかったのだろうが、今回はそうではない。
薬が効き始めるまでは多少の時間がかかるはずだ。
さらには体も動かず精神的にもキツイはずだ。
「もう大丈夫だ。じっとしていろ。すぐに薬が効いてくるはずだ。」
「は、はい……。はぁはぁ……。」
次に闇姫、もとい、ソングバードさんだ。
「ソングバードさん?」
彼女の実体の中では何が起きているのか分からないがとりあえず声をかけてみる。
話しかけるが反応が無い。
ソングバードさんの実体は防護服を着用していないので当然ヘルメットもしていない。
その口がかすかに動いているが……。
『私の中から出て行って!』
通信の方からソングバードさんの声が聞こえてきた。
「無茶を言わないでくださる?わたくし、ここから出られないのよ?」
通信からソングバードさんの声が聞こえた直後今度はソングバードさんの実体の口が動き通信とは言い合いのような答えが返ってきた。
実体の口から発言しているのはその口調から闇姫で通信の方がソングバードさんなのだろう。
二人の言い合いは続いているが、ひとまずは資源衛星の表面へと戻り安全な場所へ退避しなければ。
推進器の崩壊がこれで終わったとは限らない。
実際にさらなる崩壊を警戒し育波少尉たちは推進器から距離を取り制御室近辺まで退避し始めている。
目標の速度を得た今なら身の安全の確保が最優先だ。
俺の右腕は怪我をしている留依、左腕で脱力しているソングバードさんの実体を可能な限り優しく抱きかかえ移動を始める。
辺りに散らばる推進器の瓦礫を避けつつ進む。
「伶旺様!後ろです!」
突然ミカミからの警告を受けるが、突然の事で俺自身は何もできない!
その瞬間俺の背面に装着している耐衝撃シールドが展開する。
耐衝撃シールドは瞬時に展開し、数倍に膨れ上がり巨大なクッションのような形になり、俺と留依やソングバードさんの実体を守る。
同時に何かがぶつかった感触を受け、俺はそのままぶつかった何かに弾かれ資源衛星から遠のいていく。
「伶旺様、申し訳ありません。危険と判断しましたのでこちらで耐衝撃シールドを展開させていただきました。」
「そうか、ありがとう。」
ミカミが咄嗟に耐衝撃シールドを展開してくれたらしい。
耐衝撃シールドの展開が無ければ俺のみならず留依やソングバードさんの実体がどうなったのか分からない。
ナイスアシストだろう。
「先ほどの接触した瓦礫は基礎支柱近辺にあったもので、推進器の崩壊による衝撃で宙に浮き、流れて来たようです。ですが……。」
「……資源衛星から離れてしまったな。」
「申し訳ありません。」
「いや、あの判断は正しかった。……まいったな。」
防護服の姿勢制御機能で戻るには加速がつきすぎてしまっている。
どんどんと資源衛星から離れていく。
『伶旺様!今船で!』
瑠亜からの通信が入り、小型船で救助へと来てくれるとの事だったがどうやらそれはかなわないようだった。
「厳しいですね。小型船の始動から発進までの間に伶旺様の位置はウィリデへの突入コースに入ってしまいます。」
ミカミが瑠亜の申し出に対して事実を告げる。
俺たちは先ほど瓦礫にぶつかった事で減速し、資源衛星は1番艦の工作艦によって加速を続けている。
その差は非常に大きくなってきてしまっており、小型船では追いつけない。
『そんな……!』
「瑠亜、ありがとう。その気持ちだけでも十分だ。俺たちは俺たちでなんとかしてみる。そちらはしっかりと安全を確保してくれ。」
『はい……。』
明らかに気落ちした瑠亜を慰める。
「伶旺様申し訳ありません。あたしの所為で……。」
「留依の所為じゃないさ。転移した時からずっとこんな感じだしな!」
留依の涙声で謝罪をしてくるが、俺はそれを吹き飛ばすように笑いながら答えた。
そしてもう実の所、取れるような選択肢はなく、
「落ちる……しかなのでしょうか?」
「だな。」
眼下にはウィリデが大きく広がっている。
それくらい近い位置にある。
改めて資源衛星や移民艦隊が
思わず留依やソングバードを抱きかかえる腕に力が入る。
「あっ。」
「あ!ごめん!痛かった?」
「いえ、大丈夫です。」
留依は一瞬俺の顔の方を向きすぐに
「きれいですね……。」
「ああ、実はちょっとワクワクしてる。」
しばし
留依の方も抱き返してくる。
左腕は未だ動かせないのか右腕だけだったが。
「えーっと……わたくしも居ますのよ?」
不意に俺の左腕で抱いているソングバードさんの実体から闇姫の声がした。
『伶旺様、お取込みの所失礼いたします。おおよその事態は把握しました。今後の行動に関しましては……。』
続いて通信を通してソングバードさんの方からも声が聞こえて今後の方針についてソングバードさんの言葉をミカミが引き継ぐ。
「ワタクシの方から説明いたします。可能な限り負担の少ない、生存率の高いと思われる軌道を選びました。そちらのソングバードが突入軌道を調整いたします。」
そらから、とミカミが続ける。
「ワタクシがお側についておりながらこの度の失態申し訳ございません。」
「いや、気にすることは無い。これは事故だ。ミカミは出来るだけの事をしてくれていた。むしろ感謝している。」
「もったいないお言葉でございます。」
「……だから、どうか生還できるように祈っていてくれ。」
「ハイ。承知いたしました。お帰りをお待ちしております。」
大気圏の突入時にはミカミとの通信は出来なくなるだろう。
これがミカミとの最後の会話であるのかもしれなかった。
ミカミは今後の作業をソングバードが引き継ぐことを告げてリンクが切れた。
間もなく
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