第34話


何とか目標の推進力を得た。

後はこの推進力を維持し資源衛星を2番艦の進路上から外さなければならない。

もし維持できなければ資源衛星は砲撃により強制的に減速させられ、ウィリデに落下することになる。


俺たちチーム:フォッシオで破損して不安定になっている推進器の推進力と推進方向を維持しなければならない。


推進器自身の作動による振動と少し離れた場所で破損し隆起してしまっている支柱基部が地面に接触する際に発生する衝撃でズレていく推進器の微調整をし続ける。


コンタクトキネシスを使い推進器がズレるたびに微調整を続ける。

そうしていると段々と推進器の振動によるズレのパターンが分かって来た。

個々の推進器のズレ方向を先取りして微調整を続けると支柱基部の接触による振動のズレの修正がかなり楽になる。


作業が効率化されていき徐々に心理的にも楽になっていく。

これをあと約5時間続けることになる。


…………


……


交代で休憩を挟みつつすでに作業は4時間を過ぎ支柱基部による振動もほぼ無くなり、俺たち自身も余裕が出てくる。

俺は一つずつ推進器をチェックしながら巡りフォッシオ各員の手助けもする。


「何とかなりそうですね!」


留依の担当する推進器の所で留依は微調整をしながら弾んだ声を出す。

声は弾んでいるが若干左腕を庇いながら作業しているのを見て取ることができた。


「そうだな!まだ痛むか?無理はするなよ。」


コンタクトキネシスを推進器へと向け留依の微調整の手助けをしつつ留依の怪我の状態も聞いてみる。


「大丈夫です!さっきから少しずつまた痛み出したけど、あと少しですから!」

「そうか。キツイようならちゃんと言ってくれ。」

「はい!」


無理はしていないようなのでそのまま立ち去ろうとした瞬間、足元から今まで支柱基部の接触による振動とは明らかに違う振動が響く。


「なんだ?!」

「きゃ!」


留依も驚いた様子で小さく声を上げた。

ぶつかるというよりは弾けるようなブツン!!!といった衝撃だった。


「ミカミ!今の衝撃は補足してるか?!」

「ハイ。これまでとは違うパターンの衝撃を補足しております。現在確認を……。」


ズガン!!!


ミカミが現状の説明をしている途中に強い衝撃が走る。

全員がコンタクトキネシスで推進器を固定しつつ身構える。


「防御態勢を!」


ミカミの緊迫した声がヘルメット内に響く。

その瞬間俺たちの頭上には完全に資源衛星と別れ千切れ飛んできたと思われる支柱の基部の破片が浮かんでいた。


現在は切り離されているが、3番艦と資源衛星は非常に太い柱で接続されていた。

基礎支柱の1本が直径10m、それが3本束ねられて1つの支柱になっていた。

この基礎部分は30mほどで、3番艦との切り離し時にその衝撃で基礎部分が隆起してしまっていた。


その隆起した30m強の基礎部分が完全に資源衛星から千切れここまで飛んできたのだ。


推進器の推力を受け光り輝く支柱の基礎部分。

全員がそのあまりもの光景に言葉を失う。


「闇姫!!!」


俺はとっさに闇姫の名を呼ぶ。

すぐさま少し離れた所から闇姫の”闇”が支柱の基礎部分の側面を突くように打ち出された。

恒星からの光と推進力の光の当たらない陰の部分を器用に突いた”闇”の槍は支柱の基礎部分を打ち上げる形になり推進器への直撃は回避された。


続けざま”闇”が打ち出されたが推進力の光によって”闇”は霧のように溶けていってしまった。


丁度俺と留依の居た場所の後ろ側に落下した支柱の基礎部分はそのまま砕けいくつかの破片となって一部はそのまま資源衛星の後方へと飛んでいく。

いくつかの大きい破片はそのまま資源衛星の地面を転がっていく。


支柱の基礎部分の飛来と衝突という恐怖心を意識的に無視し、それら支柱の基礎部分の破片による衝撃で推進器にズレが生じないよう必死に推進器を固定することに専念する。


「くっ!全然安定しねぇ!」

「あーもう!勘弁してよ!」


通津と瑠亜の担当する推進器は2つの破損した推進器に隣接しているためほかの健在な推進器より不安定だった。

このため通津や瑠亜は絶え間ない推進方向のズレの修正に掛かりっきりだ。


しかしそれ以外の推進器のズレ修正も必要ないのかと言えばもちろんそんなことはなかった。

破片の落下位置に一番近い留依の担当していた推進器は留依一人では厳しい。

そのため引き続き俺と留依の二人でズレの修正をする。


だが、こうなると当然残りを育波少尉一人で受け持つことになってしまう。

育波少尉も頻繁に複数の推進器を行き来し、ズレの修正をするハメになってしまった。


「ひぃ!まだっスか?あとどのくらいやってればいいんスか?」


さすがの育波少尉も弱音が出てくる。


「もうちょっと踏ん張ってくれ!ミカミ!あとどのくらいだ?」


育波少尉に返答を返しつつ、ミカミに残りの推進時間を聞く。


「まだあと、30分は維持してください!……イエ、お待ちください!」


一瞬の沈黙後追加でミカミからの説明が始まった。


「現在の緊急事態におきまして、推進器の限界出力以上の出力を発生させる事が決まりました。推進方向の維持に関し、大きな負荷がかかる可能性があります!どうかお気をつけてください!」

「ちょ!待て!どういう事だ?!」

「カウント後に限界出力へと移行します!」


ミカミは俺の言葉を無視して推進器の限界出力発生へのカウントダウンを始める。


「3!」


「2!」


「1!」


「発!」


補助推進器でもこれほどまでに強力な推進力を得られるのかという程の大きな力が加わり、一瞬体が浮きそうになる。

同時に推進器の振動も大きくなり、推進方向の維持も困難なほどだ。


「ミカミ!説明しろ!」

「先ほどの衝撃により資源衛星の内部構造への負荷がかかり、現在フォッシオが維持している推進器に関しまして崩壊の可能性が出てまいりました。」

「なっ!」

「そのため、崩壊する前に推進器の完全破損をも視野に入れた推進力の獲得を優先いたしました。」


つまりは先ほどの衝撃で遅かれ早かれ俺たちの維持している推進器はぶっ壊れるので健在なうちに推進力を得てしまおうって事か。


だがお蔭で俺たちは推進器の振動によるズレの補正を死に物狂いで行う事になった。


「理由は分かったんだがよぉ!俺の方が保たねぇよ!」

「大の大人が泣きごと言わない!あたしの方も大変なんだから!」

「ボクもさすがにダメかも!闇姫さんは手伝えないんスか?」


闇姫は先ほどから手伝おうと”闇”を放つも推進力の光で”闇”が霧散してしまい何もできないでいる。


「闇姫の能力は明るいとキビシイんだ!全員でフォローし合って乗り越えるぞ!」

「りょ、了解っス!」


闇姫は未だソングバードさんの実体にある機能を十全に使いこなせていないので通信ができないでいる。

辛うじてオープンマイクでのやり取りが可能ではあるのだが、推進器の出力が上がってからはほぼその声も届かなくなってしまっている。


俺は全体を見渡し手助けが必要と思われる推進器の調整の手伝いに走り回る。


「伶旺様、音標留依の傷が良くありません。」


ミカミの報告で留依の腕の傷が痛むことを知る。

俺は育波少尉と共に3つの推進器の調整で手が離せない。


闇姫の方を振り向きできる範囲での身振りと可能な限りの大声で闇姫へ留依を支えてくれるよう頼んでみる。

今の闇姫なら怪我をさせるような挙動にはならないはずだ。


闇姫は大きく頷くと留依の元へと向かう。

学習能力が高いのか完全に宇宙空間での立ち振る舞いを習得している動きだった。

留依の左背後に近づくとそっと支えるのが見える。


支えた瞬間少し驚いたのか留依はビクッとしたが、その後は闇姫に完全に体を預け推進器の調整に集中している様子だ。


「伶旺様ありがとうございます。」

「傷が痛むかもしれないがあと少しだ耐えてくれ。」

「はい。……闇姫様もありがとうございます。」


元々は闇姫に与えられた傷だが、あれは事故のようなものだ。

両者の出会いの仕方から留依には闇姫に対する若干の苦手意識があるようだったが、状況が状況だけにその事を気にしている余裕はなさそうだった。


「…………。」


「状況不明。状況不明。」


突然通信が入る。


「一体何が起きているのです?!」


若干慌てたような通信が入ってくる。

その心当たりのない通信分からず若干の混乱に襲われる。


「ソングバード!」


ミカミが驚きの声を上げる。

ソングバードさんが”目覚め”たのか?


ならば闇姫はどうなる?

いや、それよりも今は推進器の維持が最優先だ!


「ミカミ!本当にソングバードさんなのか?!確認と状況の整理を頼む!こっちはそれどころじゃない!」

「ハイ!畏まりました!ソングバード!落ち着いて状況の説明をします。」


AI同士の高速な情報のやり取りが始まろうとしていたその矢先に俺たち全員を凄まじい衝撃が襲った。

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