第33話
推進器の制御室で他の推進器の”暴走”設定が終わることを待っていた俺たちは謎の衝撃に襲われる。
衝撃に見舞われた推進器は修繕の甲斐なく再び推進方向に狂いが生じている。
そして最初の衝撃だけではなく、今もまだ小さな振動が続いている。
AI達もセンサーやカメラを駆使して原因を探っているのだが、そのような中闇姫は自分の能力を使って原因や被害を探ってくれると申し出てくれた。
「ここですわね。」
彼女はモニタに映し出されている坑道内の地図を指し示し、大きく破損している部分を教えてくれた。
「通路まで崩落しているみたいですわね。」
さらにその状況も知らせてくれた。
資源衛星の内部、坑道内の壁は十分な強度と重力制御により崩れるようなことはほぼ無いよう設計されている。
それが崩落しているというのはかなりの圧力がかかったことを示している。
「我々の方でも確認がとれました。」
ミカミたちAIの方でも状況の確認ができたらしい。
続けてその状況を報告してくれる。
「3番艦との接続していた支柱の基部の隆起している部分が問題のようです。資源衛星の回転停止により隆起していた部分が資源衛星にぶつかっているのだと思われます。」
ミカミたちAIが結論付けた原因はざっくりとこういう事らしい。
これまで回転していた資源衛星が急停止したために、支柱切断時に破損して不安定だった部分が資源衛星側に衝突した。
という事はもほぼ大きな振動は無い?
「イイエ、まだ数回衝撃がある可能性があります。衝突の勢いがあったためぶつかり、跳ね返り、再び激突する可能性が高いのです。」
「マジか……。ではあの推進器はどうする?」
俺は視線を角度のズレてしまった推進器へと向ける。
「再修正する必要があります。現在は出力を落とし、可能な限り進行方向が変わらないよう調整しておりますが、このままでは再び資源衛星が回転をしてしまい、必要な推進力を得られなくなります。現在は工作艦が到着し回転することを抑えておりますがこれ以上推力が上がると工作艦でも抑えきれなくなります。」
工作艦は俺たちの居る場所の真裏、つまり資源衛星を引っ張るような位置に着いている。
これは工作艦の重力制御が押す力よりも引く力の方が大きいためだ。
また、最悪の場合に資源衛星を砲撃する際に最も効果的に減速させることができるためでもある。
「ならすぐに直そう。」
「危険です。新たに振動が発生した際どのような事が起きるのかわかりません。」
ミカミは反対するが、遅れれば遅れるほど砲撃による資源衛星の減速と落下が現実的になってきてしまう。
実際推進器の”暴走”状態に入らなければならないタイムリミットは刻々と近づいてきている。
そこである事に気づく。
闇姫に手伝ってもらうのはどうだろうか?
彼女に推進器の位置取りを保持してもらい、その補強を俺と留依で進めればかなり早く修正ができるのではないか?
闇姫に提案し、そしてミカミにも確認を取る。
「そうですわね……規模と明るさによりますわ。」
彼女の”闇”は明るいところであればあるほど力を失ってしまうとの事。
逆に陰になっているような場所であれば重機並みの力を発揮できるらしい。
「では闇姫様の能力も考慮に入れ作業の検討をいたします。」
作業の策定にはさほど時間はかからなかった。
その間にも小さい振動が制御室にも伝わってきており、その度推進器も揺れ、位置がさらにズレてきてしまっている。
「確かに危険かもしれないが……。」
「やらないといけませんね。」
「ああ、被害を最小に収めるにはこれを越えなければな!闇姫様もよろしくお願いします!」
「ええ、任せていちょうだい。わたくしとしても単に異世界から来た方々を傷つけただけだったなんて嫌ですもの。」
資源衛星表面にある補助推進器は一つ5mの円形の推進器が並ぶ。
中心に一つ、その周りを円形に囲むように八つの推進器が並ぶ構造になっており、現在は中心と艦方位東側にある計三つの推進器が破損し使えない。
このうち残っている五つの向きがバラバラになってしまっているのを整えることになる。
作業は闇姫が推進器が資源衛星表面から浮いてしまったためにできた陰になった部分から推進器を保持し、それを俺と留依が固定していくことになる。
シールドカッターでシールドに穴を開けフォースフィールドユニットを設置し固定する。
シールドカッターはシールドに一時的に穴を開ける工具だ。
一般的なものは片手で持てる手度の大きさで1m位の大きさまでシールドを切り穴を開けることができる。
フォースフィールドユニットは重力の力場を発生させる道具で主に足場や一時的な固定に用いられる。
これの優秀なところは空中にも設置できるところだ。
ただし、あくまで一時的で力場の強度的にはそこまで協力ではない。
これらを使って作業を進める。
前回の補修と違い今回は”暴走”の出力に耐えうる強度が必要なのでユニットの数が必要になるところだったのだが、制御室近くにある格納庫には予備が大量にあったため不足することはなさそうだ。
闇姫も未だ命綱を付けたままではあるが、大分宇宙空間での活動に慣れて来たのか上手に陰になる部分に移動しては推進器の保持をしてくれている。
どうやら彼女の”闇”はシールドには干渉しないようで先ほどからシールドの中側に直接触れているようだ。
実際これのお蔭でフォースフィールドユニットの位置調整がかなり楽になっている。
推進器を保持しつつユニットの微小性は闇姫に負担をかけてしまっているかもしれないが、おかげで想定よりもかなり速いペースで作業は進んでいる。
しかし、振動が起きるたびに微調整をする必要が出てくる。
幾ら強固に固定していると言っても所詮は本格的な工事をしているわけではなくフォースフィールドユニットでの固定では限界があるのだ。
2つ目の推進器の修正が終わったところで育波少尉が戻り、続く3つ目が終わるころに通津が、そして4つ目の途中で瑠亜が戻って来た。
各人が戻るとそれに応じて作業速度も上がっていく。
そしてついに破損していない六つの推進器全ての作業が終了した。
さらにここから”暴走”と振動に備え闇姫を除く全員にコンタクトキネシスを支給する。
コンタクトキネシスは両手で抱えるほどの大きさの道具で、少し離れた場所にあるモノを手を触れずに持ち運びできる。
分類としては重機類に属する。
とても高価な道具のため実の所資源衛星内以外では見かけることはほぼ無い。
当然それ以外の場所では普通に重機が活躍する。
また、コンタクトキネシスは本来免許が無ければ使用できない道具ではあるが、監督者が監督している場合は免許が無くても使用できる。
今回はミカミと通津、瑠亜が免許を持っているので問題ない。
九つの推進器のうち破損している三つの推進器は支柱のあった方向の2つと中心の一つだ。
稼働している六つの推進器に対し、破損している推進器の西側に通津、その反対側に瑠亜、瑠亜の隣に留依そして育波少尉と俺で残りの三つを担当し推進器の動作を監視する。
破損している西側の推進器の近くはやはりズレが生じやすく作業中にも何度も調整をすることになった場所だ。
そこにコンタクトキネシスになれた通津と瑠亜がその都度微調整をするという具合だ。
それ以外の推進器もズレは生じているが西側の二つに比べれば全然マシな状態だ。
故に慣れてない俺たちが担当する。
闇姫は一応俺の後ろの方で待機してもらっている。
推進器が”暴走”状態になった場合光量が増え彼女の能力は著しく低下するが、万が一の場合には手を貸してもらうつもりだ。
今できうる限りの事をし、ついに推進器の”暴走”が開始される。
徐々に出力が上がっていくのが増えていく発光の量で分かる。
先程から支柱基部が資源衛星に衝突する際の衝撃も小さくなってきている。
今の所順調だ。
多少振動も増えてきているが、これも”暴走”状態の推進器には許容範囲の振動という事だ。
「何とかなりそうだな……。」
「現在の所大きな問題はありません。順調です。」
振動も大きくなり、コンタクトキネシスによる微調整も多少必要になってきているがそれでも大きな問題にはなっていない。
「通津、瑠亜、大丈夫か?手が欲しかったらいつでも呼んでくれ!」
「今のところは問題ないです!あたしだけでもどうにかなっています。このコンタクトキネシスかなり高いヤツですね?……うちにも欲しい。」
「俺の方も今んところ大丈夫だ!この位任せろ!」
懸念だった二人の担当の部分も大丈夫そうだ。
「目標出力に達成しました。」
ミカミが無事目標の推進力を得たことを伝えてきた。
今度はこれを維持しなければならない。
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