エピローグ 新たな街へ

44. オデルシスで最後の仕入れ

 私たちは野盗として襲ってきた壁中衛兵隊の隊長たちを連れてオデルシスまで戻ってきた。

 東門の衛兵たちはさすがに壁中衛兵隊の面々が私たちに捕まっているのを見て驚いたけど、急遽用意された『真偽の審判』の場において彼らの有罪が確定すると街の混乱を収めるため各所に連絡を取ったみたい。

 なんでも、そもそも壁中衛兵隊の隊長が牢から出ていること自体がおかしなことであり、そこから洗い出しを進めなくてはいけないそうだ。

 それ以上は教えてくれなかったけど、街壁衛兵隊が壁中衛兵隊の詰め所に押し入ったことを後日聞いたのでかなりの大事になったのだろう。


 私たちに対しても街から正式な謝罪と賠償金の支払いがあった。

 私の身分が銀と高かったこともあり、賠償金の額は1000万ブレスを超えたのだ。

 だけど、ミラーさんは半額だけ受け取ることにして残りを『ラルク商会』へ送るよう街の代官に命じた。

 これは要するにダルクウィン公爵様に今回のことを知らせろと言っているに等しい。

 代官はなんとか避けたかったみたいだけど、ミラーさんが頑として譲らなかったため『ラルク商会』に送金されることが決定した。

 うん、不法行為って簡単にはできないね。


 想定外の賠償金を手に入れた私たちだけど使い道はない。

 どうせなら一部は未来への投資に使うこととなった、

 つまり、ヒラゲンさんへの資金援助だ。


「ええっ!? こんな大金をお貸しいただけるのですか!?」


「はい。その代わり、これからも私たちの商会との取引をよろしくお願いいたします」


「かしこまりました。必ずや質のいい魔道具を作りあげてみせましょうぞ!」


 ヒラゲンさんの気合いも入ったようでなかなか上出来だ。

 コンロも無事に性能保証が取れ、販売用の在庫として5台購入できた。

 そのほかに仕入れたのは約束していた灯りの魔道具50個と魔彩色具を5つ、それになぜか性能保証を取ってあった小型の冷蔵庫を5台だ。

 冷蔵庫の方は作ったときにお金の余裕があったため性能保証を取っていたらしい。

 コンロも性能保証を取っておけばよかったのに。


 あと、ヒラゲンさんから私たちにプレゼントされた魔道具がある。

 それは『時計』だ。

 ヒラゲンさんによると『懐中時計』というものらしく、胸元にしまえるほど小さなサイズをしている。

 この魔道具は時を計るための道具で、魔道具ではない機械仕掛けのものもあるらしい。

 ただ、そういったものはまだ小型化されておらず、柱ほどの大きさがあるそうだ。

 それから、大量生産できないため値段も高く、修理するにも技師が少ないため一苦労のようだ。

 私は『砂時計』なら知っていたけど、こういう時計は知らなかったな。

 魔道具の『時計』の利点は壊れにくいことらしく、多少乱暴に扱っても大丈夫なようだ。

 更に時間を計る精度も高いようで何度も時間をあわせずに済むらしい。

 そもそも『時間をあわせる』という概念が私にはなかったのだけどね。

 ミラーさんから聞けば『時計』は確かに便利なものなのだけど、結構扱いが難しいんだとか。


 例えば『明け一の鐘』は日の出と共に鳴らされる。

 それからしばらく経って鳴らされる『明け二の鐘』は、太陽が一定の高さまで昇ったときに鳴らされるらしい。

 その後お昼に『昼の鐘』、昼の鐘からしばらく経って鳴らされる『午後の鐘』、日没間近に鳴らされる『夕の鐘』と一般的な街では1日5回の鐘が鳴らされる。

 しかし、時計でその間隔を計ると季節によって鐘の鳴る間隔が異なっており、鐘が常に一定の間隔で鳴っていないことがわかるみたい。

 そのため、『時計』を使って時間を計るときは『昼の鐘』を0時としてあわせているそうだ。

 これは国際的な取り決めのようだ。


 じゃあ『時計』を持つ理由はなにかというと、『正確な時を計れる』ことらしい。

 国の会議などで正確な時間の取り決めをするときなどに『時計』が重宝しているとのこと。

 私たちには直接関係ない話だね。


 私たちの間で時計を持つ理由は、私たち同士の間で時間をあわせる時に使うとか大きな取引で時間の取り決めがあるときなどに使うといいらしい。

 アバウトでも問題ないようだけど、あれば便利ということだ。

 せっかくくれるというのだしありがたく使わせてもらおう。

 きれいな宝石のケースもアクセサリーとして便利そう。


 そして、私たちはオデルシスの街を出発する日の朝を迎えた。

 今日は空が晴れ渡っており絶好の旅日和だ。

 幸先がいいね。


『シエル、準備はいいか?』


「はい。ヴィンケル、お願いします」


『心得た。次の目的地は北門を抜けた街道にそっていけばよいのだったな』


「そうですね。そう聞いています」


『わかった。では、出発するとしよう』


 1カ月ほど滞在したオデルシスを出発して向かう先は森林都市フォースロール。

 新しい商品もほしいし、行商人としても経験を積んでいきたい。

 これから季節は夏、暑い季節がやってくる。

 今度はどんな出会いが待っているのだろう?

 いまからわくわくしちゃう。

 さあ、青空運送商会、新しい都市に向けて出発!



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 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 本作はここで第一部完とし、少しお休みをいただきます。

 ほかにもカクヨムコンに出したいんだよぉ!

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幻獣たちと共に大地を行く行商人! ~こちら青空運送です~ あきさけ @akisake

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