43. 対野盗戦

☆★☆★アーリー


 よし、シエル様とミラー様は馬車の中に避難なされたな。

 これで賊を迎え撃つ準備はできたというわけだ。

 それにしても、魔法の道具マジックアイテムの馬車とはものすごいものだ。

 あれだけの数の火矢を射かけられて焦げた痕跡どころか矢が刺さった傷もない。

 これならば後ろを気にせず戦えるというもの。

 本当に心強い。


『アーリーと言ったな。手助けは必要か?』


「いえ、ヴィンケル様。ヴィンケル様はシエル様たちを守る最終防衛線としてお残りください」


『わかった。お前たちが傷つけばシエルも悲しむ。無理はするなよ』


「はっ!」


 馬車の守りはヴィンケル様に任せても大丈夫だろう。

 あとは賊どもが何人いるかだが……。


「パネサ、敵の位置はわかるか?」


「あちらの林の中に隠れていることしかわからない。こちらが風上だから臭いで判別するのも難しい」


「わかった。お前は馬車の屋根の上から弓で援護してくれ」


「了解」


 パネサは素早く馬車の屋根へと飛び移る。

 猫獣人の彼女にとってこの程度のことは朝飯前だろう。

 さて、我々はどうするか。


「エマ、魔法でやつらをいぶり出せるか?」


「うーん、ちょーっと難しいかなぁ? この間まで降っていた雨の影響で林の木々も燃えにくくなっているだろうし」


「林を焼けとは言わん。煙で追いだしてくれればいい」


「その程度なら。アーリー、魔法を使う間の盾は頼むわよ?」


「任せろ。それが私の使命だ」


 私は魔術師のエマの前に立つ。

 翼も広げエマのことを隠し、その後ろでエマが魔力を溜め始めた。

 エマは小規模な魔法も大規模な魔法も使える万能型の魔術師だ。

 今回の旅に同行したのも彼女の希望である。

 エマはミラー様と同じくシエル様のお母様と親交があったと聞くが、詳しくは聞いていない。

 いまはそれよりも戦いに集中だ。


「アーリー! 相手が矢をつがえた!」


「こちらに撃ってくるつもりか! だが普通の矢ごときで私を貫けると思うな! 《エアカーテン》!」


 私は風の幕を張る魔法を周囲に展開する。

 これにより私に向かって飛んできていた矢はすべて明後日の方向へと飛んでいった。

 やはり相手はただの賊、魔法の弓矢はなかったか。


「お待たせ、アーリー。《スモークボム》」


 私の背後に隠れていたエマから無数の煙の爆弾が放出された。

 それは私の頭上を飛び越えて林の中へと飛び込んでいく。

 そして、林の中で破裂し林の中を煙幕で包み込んだ。


「ゲホッ、ゲホッ! なんだ!?」


「こんな魔法、あったのか!?」


 息苦しくなったのか、たまらずといった様子で林の中から人が続々と出てくる。

 あれが今回の賊か。


「私の編み出したオリジナル術式よ。楽しんでもらえたようね」


「そのようだ。カルラ、突撃する準備はいいか」


「もちろん。相手の目は引きつけてね?」


「それは私の役目だ。お前は自分の役割に集中しろ」


「はーい。では、頑張りましょう」


 私の相棒とも言うべきもうひとりの天翼族の戦士、カルラの準備も整っているようだ。

 これで私たちはいつでも飛び出していける。

 合図はパネサの矢とエマの魔法が炸裂した瞬間だ。


「始める!」


「こっちも任せて」


「では、行くぞ!」


 パネサの矢とエマの魔法が林の中から飛びだしてきた賊どもを襲う。

 それらは寸分違わず相手の頭部に当たり、ひとり、またひとりと命を奪っていった。

 相変わらず恐ろしい腕前だ。

 煙幕の効果であちらの姿はまだよく見えていないというのに。


「ちっ! もう攻撃を仕掛けてきやがった!」


「お前ら突撃するぞ! 相手の護衛は4人だ!」


 ふむ、私たちのことをよく知っているようだ。

 長く見張っていればパネサの鼻に引っかかっていただろうし、なにかあるな?

 それはあとで聞けばいいか。


「全員、相手のリーダー格は殺すな! 生かして情報を吐かせる!」


「「「了解!」」」


 私とカルラは敵陣めがけて走り込んでいく。

 途中でカルラは敵の側面に回り込むように走る方角を変えた。

 敵もそれにあわせて陣を組もうとするがそう易々とは動かせない!


「発動、血濡れの鎧スカーレット・チャーム!」


「うおぉぉ!? なんだ!?」


「あの鎧から目が離せない!?」


「ちっ! あいつも魔道具持ちか! 仕方がねぇ! あいつから倒すぞ!」


 血濡れの鎧スカーレット・チャームとは、相手の意識をこちらに強制的に向けさせて目をそらせなくする一種の呪いのような効果だ。

 この効果を発動すると否応なしに集中攻撃されることになるため、並みの技量ではすぐに殺されてしまう。

 だが、私はこの鎧を身につけてなお大怪我を負ったことは一度もない!


 今回の賊も私の鎧の効果で私に集中して襲いかかってくるが、さほど強くはない。

 ただ、普通の賊にしては連携が取れすぎている。

 こいつらは一体何者だ?


「クソ!? いい加減くたばれ、この鎧女!」


「お前は……壁中衛兵隊の!」


「ああ、そうだ! お前たちのせいで牢屋にぶち込まれた男だ!」


「なぜお前がここにいる!」


「そんなことをお前らが知る理由はない! ここで死ぬんだからな!」


「そうか。では、お前からその理由を聞くのは諦めよう。お前たちをオデルシスまで連行し、そこでじっくりと調べてもらうことにするよ」


「ずいぶんと余裕だなぁ!」


「ああ、余裕だ。お前、もうひとりいたことを忘れているだろう?」


「なに? グギャァ!?」


 壁中衛兵隊の隊長だった男は完全に私にのみ集中していた。

 それこそ途中で二手に分かれたカルラの存在を忘れるほどに。

 男はカルラの槍で片足を貫かれ、倒れたところをカルラのファルシオンで翼を切り落とされた。

 これで逃げることは叶わないだろう。

 ほかの連中も、カルラやパネサ、エマによって次々に行動不能へと陥らされていく。

 敵は全員、私にしか集中できないのでほかの者たちからの攻撃を予測できないのだ。

 接近戦をしているカルラはともかく、弓を使っているパネサと魔法を使っているエマの射撃精度は目を見張るものがあるが、ダルクウィン公爵家の騎士だったのだからおかしなことはなにもない。

 安心して背中を任せられるというものだ。

 さっさと残りの連中も片付けるとしよう。

 シエル様に心配をかけさせるわけにもいくまい。

 隊長だった男も倒し、連携も乱れてきたところだしな。

 烏合の衆に我々が負けることなどないが、油断だけはしないようにしよう。

 この血濡れの鎧スカーレット・チャームを身につけてなお無傷でいることこそが私の誇りなのだからな。



☆★☆★シエル



 外の戦闘が収まってしばらく経った。

 ようやくミラーさんの許可が下りたので外に出ると、護衛の4人が襲ってきた賊を縛り上げ終わったところのようだ。


「アーリー、もう大丈夫ですか?」


「はい。賊はもう倒しました。残党がいないことも確認済みです」


「お怪我は?」


「この程度の相手に怪我などしませんよ」


「よかった。みんなになにかあったらと思うと……」


「私たちを信じてください。しかし、我らの身を案じてくれたこと、ありがたく思います」


 このあと今回の賊について簡単な説明を聞いた。

 首魁はなんとオデルシスの街の壁中衛兵隊の隊長だったらしい。

 隊長が隊員数名と共にごろつきどもを雇い私たちを襲ったそうだ。

 この場所も何回か偵察を出し所在を調べた上で襲いかかってきたみたい。

 念入りに下準備をしていたようだが、私の護衛の方が強かったという結末だ。

 みんながいてくれたおかげで助かったんだよね。

 ありがとう、護衛のみんな。

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