26 話し合い③
祝日があった週の週末。陽斗は蒼空に呼び出され、とあるカフェに入っていた。
「それで、陽斗さん」
「はい?」
「結城さんの件はどうなったのかな?」
何かを企んだような笑みを浮かべる蒼空に対し、陽斗は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。
「え? まさか」
あまりにも想定外すぎる表情に蒼空は、最悪を想像してしまった。
「──好きって、感情があるわけじゃないんだってよ」
「……。聞いたか? 桜愛」
「まて、桜愛がいるとは聞いてない」
別のテーブル席についていた少女は蒼空に話しかけられると、そのフードを外して桃色の髪をあらわにした。
「そんなわけがない。あの態度は、好きな人にする態度……」
琴音は妙に確信じみた言い方をする。
『好きな人』その言葉を聞くたびに、少しばかりドギマギしてしまう。
「具体的に何があったのか、教えてくれよ」
「あ、あぁ」
そう言われて、陽斗は昨日あったことを全て話した。
「うーん」
「なるほど……」
軽く頭を抱える二人に陽斗は首を傾げた。
「私は、琴音のあんな顔を見たことがない。あんなに嬉しそうに話すのは、好きな人とだけ」
「そういうの、わかるもんなのか?」
「女の勘。あと、琴音はわかりやすい」
「あれで、わかりやすいの!?」
陽斗には、琴音の心の中は一ミリもわからない。琴音でわかりにくいのだったら、他の相手にはよりわからないということになる。陽斗は、二人とは違う理由で軽く頭を抱えた。
「やっぱり、俺なんか好きじゃないんじゃないか? 結城と俺はお互いに、恋愛を思いっきり拒んでいた過去があるわけだし」
そうは言ってみたが、彼女ら二人はそれを聞く気はないらしい。
「もしかして、自覚してない……? 琴音ならありそう……」
桜愛は、顎に手を当てて、ぶつぶつと呟き出した。
「好きな人が、陽斗であるのは間違いない。だったら、結城が自覚してないって前提で話をするしかない」
「そーちゃんの言うお通り。よくわかってる」
桜愛が蒼空の頭を撫でたりして、目の前でイチャイチャし出した二人は、思考を共有しているかのように分かりあっているらしいが、陽斗にはさっぱりであった。言ってることばの意味はわかるが、なぜそう言う結論になるのかはわからない。
「あんな陽斗。一回自分のことを客観視した方がいいぞ」
そんな陽斗を見かねて、蒼空は呆れたようにそう言った。
「うん?」
「じゃあ、一回考えてみようか」
「うん」
「陽斗は嫌いな人に対して、『あなたのおかげで人生が変わった』なんて言うか?」
「言わないだろうな」
「じゃあ、友達に対しては?」
「うん。言うかな。相手との仲にもよるけど」
「相手との仲っていうのは?」
「仲良し度っていうか、どれぐらい仲が、いいのかみたいな」
「じゃあ結城さんは、陽斗のことを嫌いとは思っていないし、それどころか仲はいいと思っているってことだな?」
「たぶん」
「その前提を踏まえて、もう一つ考えるよ」
「うん」
「一番相手に響く、告白系のセリフってなんだと思う?」
陽斗は「うーん」と、顎に手を当てて考え出した。
「メタ読みするなら、結城が言ったあれか?」
陽斗は、蒼空と意味でしてきた会話から推測して、そう答えた。
「そうそう。そんなことを、言われておいて結城さんが自分のことを気にしていないと言い切れるか?」
「まぁ、結城と俺は一度仲違いしているんだ。言い切るのも難しい話じゃないかな」
そう言った陽斗に対して、蒼空と桜愛は大きなため息をついた。
「陽斗にとって、琴音がノイズなんだってことは分かった。一回、琴音のことは忘れて考えよ」
「琴音じゃない相手にさっきのことを言われたらとうだ?」
「言い切るのはむずいんじゃないか?」
「だろ?」
「あのね、陽斗。琴音だって一人のただの女の子だからね」
その言葉の意味が具体的にどのようなことを示すのか。陽斗にはわからなかった。
「まぁ、こっからが本題なわけだ」
「こっからかよ」
ここに来るまでにずいぶんと回り道をしてしまったらしい。
「陽斗はこれからどうしたい?」
「どうしたいというと?」
聞いてきた桜愛に質問を投げ返すと、桜愛は「琴音野の関係度どうしたい?」と言い直した。
「えぇ……」
突然のこと過ぎて、困惑を浮かべるしか陽斗にはできない。
「あ、そうだ。先に聞かせてくれ」
「「なに?」
陽斗は今日話していて、気がかりなことができていた。
「お前ら二人は。どうして、そこまで俺と結城にかかわろうとするんだ?」
────────────────
追記
2023/12/09
本日の投稿分は明日投稿します。
昔好きだった幼馴染と付き合うことになった。 柊ユキ @hiiragiyuki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。昔好きだった幼馴染と付き合うことになった。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます