お姉ちゃんのダイエット

はに丸

お姉ちゃんがダイエット

「あーーーまた太った!!」


 お姉ちゃんがまた叫んでいる。


「豊作! 豊作が何もかも悪いのよ! 馬肥ゆる天高き秋とか言うもんね! 何もかも栄養満点なのが悪かったのよ!」


 お姉ちゃんは、まあ美人の部類だろう。確かに? 最近はグラマラスかもしれないけれど、肌はつやつやだし、やせっぽっちでアバタ顔のあたしなんかとは大違い。


「ダイエット……。ダイエットするしかない」


 お姉ちゃんが地獄の底から響くような声を出した。そうかと思えば、虚空に向かって、なんで太るのおおお、と叫んでいる。


「お姉ちゃん、じゅうぶんきれいだし、無理しなくてもいいと思うよ?」


 あたしはせいいっぱいの、誠意を込めて言った。その瞬間の、お姉ちゃんの目の怖いこと。乱気流うずまくチベット高原上空かよ。


「あんたはそうそう太らないし、小柄でかわいいし。あんたにはわかんないわよ、勝手にぶくぶく太っちゃうんだもの! クソっ私の体、クソだわ、作りがバグってんじゃないの」


 はっきり言うが、お姉ちゃんは別にデブではない。ちょっと前よりグラマーかな? とは思うけど、それは自慢してもいいことじゃない? それに。


「あたしは小柄だけど貧相でアバタのブスだよ、かわいくない」


 あたしは事実を言った。肌がつやつやで、色んな人に美しいと言われたお姉ちゃんに比べて、あたしは肌はボコボコ、ちびの貧相。羨ましがられても悲しい限りだ。


「わたしの妹がかわいくないわけないでしょ。何万回でもかわいいって言うぞ」


 いきなり姉バカされて、あたしは息を飲んだ。そういうのキモいです。お姉ちゃんはドン引いたあたしを無視して、雄々しくこぶしを握った。


「ダイエットするわ、ダイエット。食事に気をつけて、運動して。あとどうしよ」


「汗をかく? サウナとか熱くして汗をかくって言うじゃない」


 あたしは、風呂に長時間つかって汗を流し、短期間ダイエットをした女優を思い出しながら言った。うろ覚えだけど。


「食事量を減らして! 運動して! 熱による発汗。いよぉっし!」


 お姉ちゃんが気合を入れ、まずはゴミ箱に食料を捨てた。この人、広告公共機構にケンカ売っているな。いつも、極端から極端なんだよね。


「……まあ、応援してるよ」


 あたしは肩をすくめた。お姉ちゃんのダイエット騒ぎは初めてじゃない。昔もやった。

 その時は、変な療法で思いきり体調を崩し、寒さに震える日々を過ごす羽目になっていた。


 それでも、美人なのはそのままだし、みずみずしい肌もそのまま。

 ダイエットに限らず、いつも見切り発車で無計画なくせに、結果オーライの人なのだ。


 で。


「運動、運動」


 お姉ちゃんはいつも以上に頑張った。十年分の運動量をつぎ込んだのでは? というくらい、激しく運動し続けた。

 つられてあたしも一緒に走ったくらいだ。


 食事も抑えてた。


 なにより、体を温める発汗。これがどうもお姉ちゃんにあっていたらしい。


「うう、あづい~。でもなんか、老廃物とれていく感じぃ〜」


 簡易サウナを作って、日に何度も汗を流す。お姉ちゃんは本気で痩せようとしているのだ。


 まあ、確かにここ最近のお姉ちゃんは

『フケがすぐ出ちゃうのよね』

 と、悲しい悩みを抱えてたから、それがついでに解消できれば万事オッケイ。


 そうして幾星霜。お姉ちゃんは、痩せた。そりゃあたしより肉付きは良いけど、バランスというものがある。


「どうよ」


 お姉ちゃんがくるりと回って、そのお体をご披露なされる。みずみずしい肌が眩しい。


「いやお姉ちゃん、がんばったよ! えっと、前みたいに寒い寒いってならないといいね!?」


「だだだ、大丈夫よ! 今回は少しずつダイエットしたんですもの!」


 あたしの無粋なツッコミに、お姉ちゃんは引きつりながら返した。


 以上のような経緯により、地球温暖化は急激に進み、プレート移動、火山活動の活発化、月と地球の相互作用による自転公転の異常などのため、人類その他、色々滅亡した。

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