第39話 湧き出る問題と決意
昨日は参ったなぁ……まさか、こんなにグロッシー国の人に『守護者』が受け入れられるなんて思わなかったもん。
元凶のアルはナーシャの遊び相手として、箱庭にいる事を言いつけたからしばらく大丈夫だと思ったんだけどね。
まあ、人数が急激に増えると、どうしても問題って出て来るものなんだね……
「なんか、箱庭の外行き辛くならね?」
「あ、わかる!何でか俺達が通ると敬礼されるんだよね」
あ、これは僕の幼馴染三人組のケインとジェフが話しているんだ。
いくら高級旅館シェニとはいえ一挙に増えた宿泊者の為、僕らは開拓村のそれぞれの家に戻ったんだけどさ……
「常に巡回しているんだよね……」
「そうそう、守護者様の力になる為にってさ……」
ため息と共にジュースを飲む5歳児って……まぁ、気持ちはわかるけどね。
あ、今僕達がいる場所はね。ガーデニングの箱庭の扉のガラス宮殿だよ。
何でため息吐いているかっていうと……兵士さん達に言われて、元々着ていた服を洗って渡した事がきっかけなんだ。
その後率先して、高級旅館シェニと隣りの塔、村の集会場や大浴場、図書館に展望室まで、兵士さん達が守ってくれているんだよ。
そうなると、オープンラウンジは兵士さん達の溜まり場。その上に有る領主室なんか、お父さんが出入りするたびに軍隊かってくらい、統制のとれた敬礼で送迎するんだって。
お父さんも、ちょっとゲンナリしてたなぁ。
まあ、元々僕達村人は、箱庭内での作業が多いからって事もあるけど、普段より多くの人がこっちに息抜きに来ているんだ。特にガーデニングの箱庭の扉に集まる事多いかなぁ。
そんな感じで僕らが話していると、今日の僕の護衛担当のムーグさんがガラス宮殿に入って来たんだ。
「クレイ、悪いがグレイグが領主室に来てくれだと」
「えー……行くの?」
つい嫌な顔をしてしまう僕。……自分が願った結果なのにね。仕方ないか……
ため息を吐く僕を見て、笑いながらヒョイっと抱えて歩きだすムーグさん。「「いってらー」」と二人に見送られながら、領主室に向かったんだけど……
「「「「「おはよう御座います!坊ちゃん!」」」」」
「おはよう……」
そう、今僕ね。兵士の皆さんに坊ちゃんって呼ばれて敬礼されているんだ。
それじゃなくても、最近は自警団員が兵士さん達の憧れになっていてね。その自警団のトップ達が、常に付いている僕の事も特別視されるんだよ。
うーん、これ慣れないといけないのかなぁ。
「おはよう御座います!ムーグ様、クレイ様!」
あ、もう着いたんだ。
どうやら僕が悩んでいる間に、領主室に着いたみたい。領主室の扉の前には、騎士のデリバスさんが常に警備についているんだよ。どうやらお父さんの専属警備をしているみたい。
デリバスさんにも挨拶をして中に入ると、僕らの表情を見て苦笑をしているお父さんとブラムさん。
「どうだ?クレイ。お前が願った結果は?」
「……僕の考えが甘すぎたね……」
お父さんがソファーに座る様に指示しながら、僕に聞いて来たんだ。僕の答えにブラムさんもムーグさんも大笑い。
「まぁそう悲観するな、クレイ。この効果は予想外だが、大体は想定内だ」
「ブラムのいう通りさ!『助ける』って行為には、大概問題は出て来るもんさ」
冷静に慰めてくれるブラムさんと、意外に物事を見ているムーグさん。
「そうだね。『助けたい』ってさ。一概に言えるものじゃないんだね」
ちょっとシュンとしながら答える僕の頭を、お父さんが優しく撫でながら言ってくれたんだ。
「クレイ。助けたいって心は大事だ。だが、本当に『助け』になる為には、最後まで責任を持つ力や膨大な物資、問題と向き合う事が必要となる。支援するとなれば違うがな。
でもな、助ける事で1番難しいのは、物資と環境を整えてやる事なんだぞ。それが問題にならない事自体凄い事なんだ。お前は十分役目を果たしているさ」
「そうだ、クレイ。お前のその優しさと力のおかげで俺達は生きていけるんだ!ありがとうな!」
ムーグさんもそう言って僕をぎゅっと抱きしめてくれたんだ。ブラムさんはそんな僕らを微笑みながら見ていたんだけどね……
「だが、お前が言い出した事だ。問題にも付き合って貰うぞ」
それはそれと、村の頭脳役の顔になったブラムさん。
うん、勿論わかってるよ。
頷きながら気持ちを切り替えて、ブラムさんが説明するのを聞いたんだけどね。
まず挙げられたのが、人数が増えた事によるゴミの排出量問題。でもこれに関しては『クリーンセンターの箱庭の扉』を開ける事で一気に解決するからね。
「また、守護者様の影響力が上がるな」って、ニヤニヤしながらムーグさん言ってるけど……それはもう諦めたもん。
そしてもう一つ、サッドさんやドボルグさんの村人達から上がって来た事。
「ん?代理管理者問題?」
「ああ。ドボルグの所からは数人は出ているが、サッドの村からは代理管理者は出ていないだろう?だからもし新たな箱庭の扉が出るなら、とサッドから願いが来ているんだ」
お父さんが言うように、代理管理者が村人の間でも特別視されてるのは僕も知ってたんだ。今までは必要に迫られて決めていたけど、これからは公平さが求められるんだね。
まあ、この件に関しては、僕は箱庭の扉を出した時点でお父さん達に任せれば良いんだけど……僕にも知っておいてほしい事だったんだって。
それで次は、当然出てくるグロッシー国の兵士達問題。この件に関してはデリバスさんが入室して話してくれたよ。
「報告致します!現在、保護者様の好意で滞在させて頂いておりながらも、やはり一度国に戻りたいという嘆願が多数上がって来ております。また、保護者様が統治するこの村に、家族共々移住させて頂きたいという嘆願もございます。
……私個人としても、一度は母国に戻りきっちり後始末をしてから、再度お仕え出来たらと願っております」
そっかぁ。でもそれは当然だよね。でも何が問題なの?
僕が不思議そうにしていた事で、お父さんは一旦デリバスさんを退出させたんだ。しっかり扉が閉まってから、僕に問いかけて来たお父さん。
「お前なぁ……グロッシー国に兵士達を返すって事は、この村の全容を相手国に知らせると同じ事だぞ?ましてや、現在一応交戦中だ。戦況もどうなっているのかわからない状況で、簡単にそうですかって帰せるものでもないだろう?」
「それにクレイ。お前がどうしたいかが関わってくる。お前が村を守りたいのは知っているが、お前自身がどんな立場になっても構わない訳じゃ無いだろう?」
「俺達だって、お前を犠牲にしてまで安全に過ごしたい訳じゃないのはわかるな?」
お父さんの言葉の後に、ブラムさんとムーグさんも僕に問いかけてきたんだ。
うん。僕の力の大きさや影響力は、今回の件で思い知らされたよ。ただ周りの人達と楽しく生きたい、だけじゃ駄目なんだって事も。
それでも僕の願いは、僕も含めてみんなが自然体で暮らせる事。
これって、実はとっても大変な事なんだよね。だって僕らだけが住んでる訳じゃないんだもん。
周りの街や国相手にどういう態度をとっていくべきか……
それも踏まえて、お父さん達は僕の覚悟を聞いて来ているんだ。だったら僕もはっきり伝えておかなきゃ!
「……僕ね、自分が甘い事言ってるのはわかっているんだ。甘い事を言えるのは、みんなが僕の出来ない事を裏で支えてくれているんだってことも。一人じゃできない事っていっぱいあるって事も。
でもね……やっぱり僕は僕らしく生きていきたい!だからお父さん、ブラムさん、ムーグさん!僕に力を貸して!
僕は、僕らの街を作りたいんだ!」
椅子から立ち上がって決意を語った僕に、すぐ反応したのはお父さん。
「良し!わかった!クレイの願いを叶えるのが親の役目だ!任せろ!」
僕を持ち上げて、抱きしめてくれたお父さん。その決意が聞きたかったんだって。
「言質は取ったぞ、クレイ。どんどん力を活用させて貰うからな!だが、対外的な事は任せろ!」
ニヤッとしながらも、頼り甲斐のある言葉を宣言してくれたのはブラムさん。
「おし!どうせならこの国の呼び名も決めようぜ!」
ムーグさんも僕の決意を喜んでくれたけど、『国』?
僕が首を傾げていたら、これまた不思議そうにするお父さん達。
「クレイ?お前が言ったのは国を作る事じゃないのか?」
「そもそも時給自足できて他の国や街に頼る事のないウチは、もはや国だがな」
「人数を別にしても、街じゃ収まらねえな」
僕に再度問いかけるお父さんに、現状既に国だというブラムさんとムーグさん。
そう言われたら……確かに。
だとすると……国名かぁ。
箱庭と開拓村を合わせた感じがいいなぁ……
あ!だったら……
「サンクティア……って駄目?」
このメンバーは僕が前世持ちって事も知ってるからね。箱庭つまり聖域って意味のサンクチュアリーと、開拓って意味のフロンティアを合わせたものだと説明すると……
「良いな!それ!」
「サンクティア国か!」
「良し!決定!」
三人共あっさり決めちゃうんだよ!え?いいの?
僕が不安そうな顔をしてると、お父さん達曰く……
「お前が決めたんだ。誰も文句は言わないさ」
だって。責任重大だなぁ。
でも、いっか!こうなったら、思いっきりやっちゃえ!
箱庭ゲートキーパーで辺境生活を劇的改善! 風と空 @ron115
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