第38話 アル、暴走再び

 「う……うぅ……」


  あ、動いた!


 「サッドさん、兵士さん起きたみたいだよ?」

 「お、そうか」


 実は今僕達が居る場所は、まだ使った事のない貴族専用のフロアの一室なんだ。助けた兵士さん達はそこで横になっているんだよ。


 貴族フロアの一室はとにかく広いんだ。一室の内部は、リビングと寝室が4つもあるんだよ。それに各寝室にトイレ、シャワー室付き。で、本来ならでっかいベッドが真ん中にどーんと置いているんだけど。今回人数が人数だからね。


 各寝室に4人収容するように、ベッドを配置したんだ。前回、僕が作っていたのは兵士さん達のベッドと布団だよ。貴族用みたいに豪華じゃないけど、寝心地はいい筈!


 それに兵士さん達には悪いけど、装備を全部外して、身体を拭いてマーサさん達が作った下着とパジャマを着て貰っているんだ。マーサさんを筆頭に奥様達が進んでやってくれたんだよ。


 で、その後鉱山の箱庭の力持ち男衆と、特にタロスが部屋まで運んでいたんだ。今もその工程はやっている最中だよ。あともう少しのところまで来たかなぁ。


 ……残念ながら助けられたのは、半分以下。増援の軍はすぐに逃げたらしいけど、村に近いほど死者が多かったんだ。


 だから助けられたのは、今報告が上がっているだけで1031人。でもこれだけ助けられたんだ!みんな休まず頑張ったんだよ!そう、反対してた人達も仕方ないって手伝ってくれたからね。


 そしてそのうち何人かなぁ?起きてすぐに追い出された人達もいたんだ。話しを聞かない人って、やっぱりいるんだよね。その人達はあっという間にそのままの姿で外に出されたんだ。


 まあ、その人達の為にフォレストホース達やグリフォン達が荷物を返して遠くに追い出していたけどね。うん、これは仕方ないよ。


 それで、現在コントラクションキーで滞在している人達は、956人かなぁ。途中から兵士さん同士で情報の伝達を始めたみたいだから、一挙に外に弾かれる人が減ったよ。


 それでサッドさんと僕は何してるかって?今、お見舞いと言う名目の巡回をしているんだ。サッドさんの顔威厳があるからね!ん?僕?僕は今日のお目付け役がサッドさんだから一緒にいるだけ。ちょっと様子みたいって言ったのもあるけど。


 だってね、これだけ人数いるんだもん。閉じこもって出てこない人達や、今は話したくないって拒絶する人たちもいるんだ。


 まあ、ほとんどの反応は……


 「はぁー!生き返った!お湯を大量に使えるなんて贅沢、初めてした!」

 「だろ?来てみろよ!こっちには見た事のない果物から、うまそうなパイまであるんだぜ!」

 「ああ、どうせ生き返ったならとことん楽しんでやる!」

 「お、アイツも起きて来たか。お前もシャワーってやつ浴びてこいよ」


 こんな感じで、順応するのが早い人達がほぼだけどね。

 え?でも僕が兵士さんの中にいるのは、危なくないのかって?それはね……


 「守護者様が守る村ってのは、こんなに豊かなのか……」

 「ああ、それだけじゃないぜ!村人達にも力を持った人達がいるんだ」

 「お前どうして知っているんだよ」

 「俺の身長高えだろ?足が出てたら、ベッドを一瞬で長くしてくれたんだ!」

 「あ、俺も見た!あんなにすぐ直せるなんて驚いたぜ!」

 

 うん、『守護者』が様付けされているんだ。なんか守護者の名前だけ一人歩きしているんだよ。それに一役買っているのが……


 「は⁉︎なんて言った?あの力がこの地を守る守護者様の力の断片だって⁉︎」

 「ああ!そうさ!それに、ここはその守護者様の力が働く村の中だ!滅多な事を言ったり、馬鹿な真似してみろ!2度目はないぞ!」


 側で見てる僕もサッドさんも苦笑い。そう、覚えてる?騎士さんと一緒に付いて来た五人の兵士さん。その中の一人、サッドさんが見張っているネドさんが、その布教している一人。


 村に入ってコモンスペース・シェニの箱庭の扉を見て、商業区を見て、居住区を見て、高級旅館シェニまで来たら出来上がっていた『守護者教』。


 お父さん達は「いいんじゃね?大人しくなるならそれで」って簡単に容認しちゃうし!僕はそんなの嫌なのに!って思っていたら、『いい偽装になるだろう』ってチームゲートホンを使って、サッドさんも言ってくるんだもん。


 まあ、そりゃそうだけど……とちょっと不満顔の僕。


 でも、おかげでグロッシー国側で、守護者=僕と気づいている人はいない。ただ守護者様は村人を大切にしているから、怒りを買わないように村人には深い礼をとる人達が増えたけどさ。


 そして布教をし終わったネドさんは、いい笑顔で僕達に駆け寄って来たんだ。


 「サッド様、お待たせしました!」

 「だから様付けはいらんって」

 「いえいえ、俺達からすると守護者様から直接守って頂いている村人様達に不敬な態度は取れません!」

 「……そーかよ。じゃ、まあ、お前もとりあえず休め。さっきから何人にも話して疲れたろう?」

 「何をおっしゃいます!光栄ですよ!まだ頑張れます!」


 ……ずっとこんな調子なんだ。あ、因みに僕今サッドさんに片手抱っこされているよ。流石に一人で歩かせられないってサッドさん言うからね。楽ちんなんだ。


 因みに騎士さんはどうなったかって言うとね。


 コンコン……


 「失礼します。サッド様。デリバス様がお呼びですが……」


 既に起きてリビングで休んでいた兵士さんが、僕らを呼びに来たんだ。ここはネドさんに任せて、リビングに移動をする僕達。


 リビングに入ると、ザッと壁際に整列をする兵士さん達。そしてソファーに座っていた騎士さんことデリバスさんも、立ち上がりサッドさんや僕に敬服の態度を示すんだ。


 「デリバス……まぁ、いい。どうした?」

 「ハッ!ほぼグロッシー国兵士の生き残り捜索は終了致しました。グレイグ様より伝言でございます。守護者様のもとにお戻り下さい」

 「あー……わかったわかった。全く、そんな態度取らんで良いって言ってんのになぁ……」


 ガシガシ頭を掻きながら、了承するサッドさん。僕は黙って見ているだけだけど、僕に対してもデリバスさん同じ態度取るんだよ……うーん、何でこうなったんだろ?


 まあ、原因の一つに考えられているのが、チームゲートホンなんだ。即座に伝えられる情報。見えない場所の状況さえも知っている村人のみんな。


 更にもう一つ、各代理管理者の能力を見た事。子供達でさえ、力を与えられている事に衝撃を受けたデリバスさん達。その能力が多岐にわたることに感銘を受けたみたい。何よりも……


 『クレイ!すまん、アルを止めてくれ!』


 あ、お父さんからまた呼び出しかかった。


 まあ、話の大元はアルなんだ。今度はどこにいるんだと思ったら、一階のエントランスのロビーで講演中なんだって。


 「サッドさん……まただって」

 「ったく。『わかった!今行く』じゃ、デリバス。ここは頼んだ」

 「おまかせ下さいませ」


 急いで移動してエントランスロビーに向かう僕ら。エレベーターの扉が開いてすぐ見えたのは、広いエントランスに集まる人集り。その中心でイーグの頭に乗って話しをしているアル。


 「守護者様ハ、不敬を働イタ者達ガ居タニモ関ワラズ、許シヲ与エタ!今、諸君ガ再ビ起キ上ガリ、コノ地デ回復出来ル事ヲ特権トスルヨウニ!全テハ守護者様のゴ親切ニヨル事ヲ感謝セヨ!」


 アルの言葉の後に同意をする、周りを囲む100人以上の兵士達。その叫びがエントランスロビーから、各階層に広がっていくんだよ!何やってんのさ!アル!


 「あー……しばらくアルを隔離すっか」

 「うん。流石に僕、今声かけられないや……」

 

 僕を先に箱庭の扉の中に運んでから、アルを呼ぶサッドさん。アルはサッドさんの肩に乗って、自信たっぷりに箱庭の扉の中に入って来たけど……


 「何やってくれてんのー‼︎アル!」

 「エエエエ!僕、頑張ッタンデスヨ!」

 

 僕がアルを捕まえて説教していると、苦笑いするサッドさん。


 「そもそも箱庭の扉って、チーム作成登録者にしか見えねえっつうの忘れてるな、ありゃ」


 そう、サッドさんに言われて気付いたんだけど……箱庭の扉に入る僕達の姿が消えて見えるんだったのすっかり忘れてた!


 道理で村人達にも敬服の態度をとるはずだよね……

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