第37話 敵って誰?
「よーしいいか?ゆっくりゆっくりかけて行くぞー」
今ね、お父さん達が外で凍った兵士さんにポーションをかけて溶かしているんだ。ポーションって凄いね!凍った兵士さんが元の状態に戻って行くんだよ。
でも当然意識ないの。正直息を吹き返すのは難しいかもしれない。それでもね、やれる事はやってあげたいんだ。だって、この人達にも待っている家族がいるはずだもん。
ん?パニックゲートはどうしたかって?
実はあの後すぐに扉を閉じたんだ!余りに強力すぎたからね。扉を閉じるとまずは箱庭化の壁の雪が溶けていって、周りの様子がわかるようになったんだけど……
「こりゃ、すげえ……」
「人がみんな凍っている……」
そう、氷の彫像のようになっているグロッシー国軍の姿が辺り一面に広がっていたんだ。
正直これも覚悟はしてたけど、僕覚悟足りなかったんだね。
「僕のせいだ……」
これも戦いの結果。だけど、だけどね……
「お父さん!お父さん!息のある人を助けてあげられないかなぁ!だって国で家族が待っている人だっているんだよね?」
僕は、現状を確認しようとしていたお父さんの元に走って行ったんだ。命が消えていくのを黙って見ていたくないんだ!
「クレイ……いいか?これが大きな力の代償だ。お前の力は生かす事も人を殺せる事も出来る。だからこそ、勢いでその力を使うとどうなるのか良く理解しただろう?
……今回は自衛の為の戦いだった。これは予定外の結果になったが、まだ戦いは続いている。助けるならば、危険度は上がるぞ?お前はそれでも助けたいか?」
僕の頭を撫でながら、お父さんは真剣な表情で僕に聞いて来たんだ。
僕は……自分が甘い考えなのはわかっている。
……それに僕は既に村人みんなの命を預かっているんだよね。村人達を危険に晒してまでやる事かな?
両方とも助けたいって気持ち持つのは、おかしいのかな?
「……お父さん。敵って誰だろうね?僕がみんなを守りたかったせいで、グロッシー国の兵士を凍らせちゃったけど。でもさ、この人達だって命令されてここに来たわけでしょ?家族を支える為に兵士になった人もいる。国を大事に思っているから来たわけでしょ?」
「クレイ。お前には、まだ戦いは早かったみたいだな。時にはそれを切り捨てねばならない事だってある。優しい気持ちは大事だがな。
それにしても、敵は誰か……か。そうだな、敵は一部の腐った人間だ。この国の上層部に多いがな。そう言う意味では、グロッシー国も被害国だ。この国の野心によって、亡くなった人達が実際にいるからな。
まあ、それで攻めて来て関係のない民を殺すなんて事をするから、戦いに終わりがないんだが…… 」
お父さんは少し考えだして、みんなにチームゲートホンで聞いたんだ。
『なぁ、みんな聞いてくれ。俺達は自衛の戦いをしていたよな。グロッシー国に恨みは無い。出来れば国に戻って欲しいと思って、戦っていた。
その兵士達が今大変な状況にある。俺達を守ろうとしたクレイによって。だが、クレイは兵士達も助けたいと言う。国に家族が居るはずだからと。みんなはどう思う?』
お父さんのチームゲートホンの間中、動きもせず黙って聞いていた村のみんな。1番に答えたのはブラムさんだった。
『……俺はクレイに賛成しよう。なあ、みんな考えてみてくれ。俺達の敵はこの国の上層部だ。俺達を駒のように動かし要らなくなったら捨てると言う行動を取ったからな。
それに、グロッシー国はこの国を敵として攻めて来た。敵の敵は味方って言葉がある。
だから、息があるものを助けて味方を作ってみないか?勿論、グロッシー国に取り込まれ無いよう注意しながらだけどな』
ブラムさんが僕の考えに乗ってくれた!そのブラムさんの言葉から、次々と俺もやろう、と声が上がる村人達。
中には反対の意見も出たよ。当然の結果だろって。だからお父さんは、反対するものは手伝わなくて構わないって言ったんだ。やる気のあるものだけでやろうって事になったんだよ。
そんな中、アルは僕の肩でちょっとシュンとしてたんだ。
「ゴ主人……?余計ナ事デシタカ?」
「ううん。アルの気持ちは嬉しかったよ。でも、怒ったまま行動するのはもうやめようね?僕も、もっとしっかり結果を考えて力を使うようにするからさ」
「ゴ主人〜!」
僕の言葉にアルはまた顔にすりすりしてきたんだ。まだちょっと元気ないけど、頬を撫でて慰めていたら元に戻ったかな。
そして動き出した僕達。
まずは受け入れ先をどうするか?
「高級旅館シェニでどうだ?どうせなら、最高級の手当をしようじゃないか。馬鹿な事は承知の上だ」
ダウロさんが笑って言ったんだ。気がついて反抗する気も失せるようなもてなしをしてみないかって。これに乗ったのが、元村長のドボルグさん。
「いいなそれ。どうせなら逆にこっちに取り込んじゃおうぜ」
ドボルグさんの一言で、早速動き出した自警団。ポーション片手にうめき声のある人を探し出したんだ。
見つけたらポーションをかけて、兵士さんの首にヒモ付きコントラクションキーを下げて箱庭化の中へ。
なんだかんだ言って箱庭化の中で作業した方が、効率もいいし安全だからね。だって暴力や盗みをしようものなら強制退去だもん。
そしてここで活躍したのがケットシーのミケとミノタウロスのタロス。
ミケは息のある兵士さんを素早く見つけ、目印をつけて行くんだ。その後自警団がポーションをかけて、タロスが荷車で運び入れる感じ。
ゲートインアウェイは人は無理だからね。僕は箱庭の中で、必要なものをせっせと製造中。
亡くなった人達は火葬した後、手厚く埋葬したよ。これにはフォレストホース達が大活躍。土魔法便利だね。勿論遺品は残したよ。
まあ、そんな目立つ事をしていると、当然出てくるよねぇ。
「我が兵士達をどうするつもりだ!」
そう、生き残ったグロッシー国軍が兵を連れて戻って来たんだ。あ、指揮官の人生きてた!
すぐに村人達は全員箱庭化の中に避難して、またお父さんが対応したんだけどね。あ、お父さんの肩にまたアルが乗っているよ。で、箱庭バーチャルキーの画面で僕達は見てるんだ。
『助けられる人を助けているだけだが、何か文句でもあるのか?』
『やったのはお前達だろう!』
『ああ、お前達がこの地の守護者を怒らせたからな。でもこの地の守護者はすぐにやったことを悔やんでな。助けてやってくれって言うから助けているだけだ。お前らと違って見捨てないんだよ、うちの守護者は』
お父さんまで守護者って使ってるよぉ。
僕の考えを読んだのか、ポンと頭をなでるサッドさん。対外的にああ言っとけば、僕の隠れ蓑になるだろうっていつの間にか村人に浸透したみたい。……それなら仕方ないかな。
『あの技はこの地の守護者がやったと言うのか!……なんと……⁉︎』
僕がそんな事考えていたら、グロッシー国軍もそれを間に受けたみたい。え?そんなんでいいの?
ん?何?サッドさん。え?グロッシー国って大地の精霊を信仰してるの?ああ、だからスッと受け入れたんだ。
なんて僕が納得していると、画面上のお父さんが少し声のトーンを落としてまた騎士さんに問いかけたんだけどね。
『で?あんたらは何しに来た?また戦いにでも来たのか?で、うちの守護者をまた怒らせにわざわざ戻って来たのか?』
『……いや、我が軍の兵士達の様子を見に来ただけだ……』
『ほう?見に来ただけ?……まぁ、確かに少数ではあるがな』
そうなんだ。確かに一緒に来た兵士達は二十人くらいだったんだ。みんな武器を構えているけど。
そうしている内に、進まない話し合いに我慢できなくなった人が飛び込んで来たんだ。
『だったら手伝いな!お貴族だかなんだか知らないけどね!様子を見に来るくらいだ!助けたい気持ちもあるだろうよ!こちとら一生懸命にやっていても、まだまだ助けを待っている奴らがこんなにいるんだ!』
なんと話しに割り込んできたのは、おたまを持ったマーサさん。ブラムさんが頭を抱えてマーサさんの後ろに立ってるよ。お父さんも、いきなり現れたマーサさんにびっくりしてる。
『ほれ!どうするんだい?じゃなきゃとっとと帰りな!邪魔なんだから!』
マーサさんのストレートな態度に、貴族に対して失礼だと、怒り出したグロッシー国の兵士達。それに対して騎士の肩が震えていたんだけど……
『……ブッ!アーハッハッハ!なんと何処の国でも女は強いか!……そうだな。手伝わせてくれないか?我が国の軍が見捨てた彼らを助ける為に』
騎士さん本人はどうやら違っていたみたい。それにグロッシー国はこの人達を見捨てたのかぁ……確かに戦地で負傷兵は抱えていられないのはわかる。わかるけど……
そう思っていたら今度は騎士さん側で言い合いが始まったんだよ。
『デリバス様⁉︎お気は確かですか⁉︎敵地に入るようなものですよ!』
『敵……か。なあ、シェルツ。攻めて来た我らを助ける様なお人好し達をお前は敵と言うのか?』
『しかし……彼らは我が軍を攻撃してきましたし!』
『自分達の村を守る為だ。お前が逆の立場なら黙ってやられるのか?』
『いえ、それは……!』
言い淀んだ貴族兵にため息をついて、真剣な表情になった騎士さん。相手の目をまっすぐに見て、強い口調で話し出したんだ。
『シェルツ。お前は指揮官を目指していたな。俺が言うのもなんだが、最後にお前の上官として言わせてもらおう。
いいか!敵とは何かをよく見極めろ!情勢は常に変化し続けるんだ!その時その時の状況で、何が大事かを掴み取れる様になれ!……それがわからないようなら、指揮官は諦めろ。私は残る』
そう言い切った騎士さんは、装備を自ら脱いで身軽になってセキュリティポートに近づいて来たんだ。
『さあ、ご婦人。何からやろうか?』
マーサさんに向けて、腕まくりをしながら聞いて来る笑顔の騎士さん。その後ろから、同じように装備を脱いで近づいて来た兵士さんが五人。どうやら残りの人達はそのまま戻って行ったみたい。
流石にその状況を心配したお父さん。
『こう言っちゃなんだが、あんたの立場は大丈夫か?』
『おや、気にしてくれるのか?敗戦した指揮官など最早地位も何もないもんさ。だったら戦ってくれた同士を助けた方がいいだろう』
『そうか』
そう言ってお父さん達は、一応他に武器を隠し持っていないか確かめ、自警団と共に行動する事を厳守する事で、手伝いを許可したんだ。
騎士さん達は当然だな、と納得した上で行動してくれたんだよ。
『さあ!みんな、また作業に戻ろう!』
お父さんの号令でまた動き出した僕達。
うん、助けられるなら人数はいた方がいいからね!でも、なんか変な事になったなぁ……
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