第36話 開拓村無双
僕達が緊張しながら見守る中、画面ではお父さんが一人セキュリティポートへ進んで行く映像が流れていたんだ。そして、セキュリティポートに立ち止まってアルに声をかけるお父さん。
『アル、声を大きくする方法はないか?』
『ソレデアレバ、グリフォンノ分野デス。チョット待ッテ下サイ』
多分アルは、フォンかイーグに頼んでいるんだね。なら僕も……
《みんな!僕のお父さんに力を貸して!》
フォレストホースやバル、イーグやフォンに向けてお願いしたんだ。うん、念話でみんなからの元気な了解の返事が聞こえてきた。
そして画面を見るとね、お父さんの側にイーグがきてくれたんだ。クエエと鳴いてお父さんを見るイーグ。
『オ父サン。ソノママ話スト、イーグガ風魔法デ音声ヲ伝エルッテ言ッテマス』
『わかった。ありがとう、アル。頼む、イーグ』
《任せてよ!》
イーグの声はお父さんには聞こえないからね。アル、ナイス通訳!
なんて思ってた最中もだけど、お父さんがセキュリティポートに姿を現してから、外からは魔法攻撃や物理攻撃が飛んできていたんだ。勿論、セキュリティポート入口で攻撃は消滅してるけどね。
相手からすると、ようやく出て来た村人。それも不思議な力で守られているんだもん。そりゃ警戒はするよね。
そんな中、グロッシー国側に大声で話し始めたお父さん。
『我が名は領主グレイグ・リーガン!グロッシー国の戦士達に問おう!貴殿らはこの戦いに意味を見出しているのか⁉︎』
お父さんが話し出した途端、あれだけ攻撃していたグロッシー国側がピタッと止まったんだ。そして、大勢の兵士達に囲まれて現れたのは騎士装備を纏った男。
『単独で我らの前に姿を現した事に、敬意を払おう!我が名はデリバス・トレイユ!この戦は我が国の威信を賭けたもの!我らの忠義を国王に示す戦いだ!異論など無い!』
相手も風魔法を使って、声を届けているんだね。結構距離があるのに声がしっかり届いているんだもん。
『再度問おう!賢王たる国王は人の命を何と心得る⁉︎』
『名誉に思え!誉高き我が国王の言葉を伝えよう!降伏するならば民の命は保証しよう!……但し、領主一家と引き換えだ!』
これには僕の後ろで聞いていた村人のみんなや、お父さんの側で聞いていた自警団全員から怒りの声が上がったんだ。
「ふざけるな!」
「何が保証だ!どうせ奴隷のように使われるだけだろうが!」
「この村だってそうだ!」
『グレイグ達と引き換えの命なんぞ要らん!』
『俺達の居場所はこの村だ!』
そんな皆んなの怒りの声を止めるように、再び叫び出すお父さん。
『我らが望むのは、村人全員の命とこの地の自治権獲得のみ!それ以外は、断固として抗おう!』
お父さんの言葉に、同意の叫びを上げる村人や自警団員達。
うわぁ、お父さん格好良い!
『ならば交渉決裂とみなす‼︎やれ‼︎』
お父さんの答えを聞いた指揮官の号令で、再び村に放たれた魔法攻撃。その後ろから叫び声を上げて襲いかかるグロッシー国兵士軍。
村に向かって放たれた魔法に、誰よりも先に反応したのはバル。
《我に楯突く事を後悔せよ!》
箱庭化の壁に届く前に、雷の壁を作り上げて相殺させたバル。そしてフォレストホースたちが壁から姿を現し、土魔法ストーンバレットを放ちながら駆け出して行ったんだ!
その上空から敵陣後方に風魔法ウィンドストームを放ち、姿を現すイーグとフォン。
突然現れた魔物達に混乱する兵士達。そんな兵士達に素早く近づく黒の集団。
高速で動き、武器を無効化させていく自警団員のみんな。そう、剣を交えるどころか、剣そのものを切断していくんだもん!流石ヒヒイロ鉱石製!
その様子に物理は駄目だと、早々に魔法攻撃に切り替えたグロッシー国軍。
その時に活躍したのが、魔導盾と魔導鎧。衝撃すらも吸収し、魔法を跳ね返しつつ進む自警団の姿に、逃げる兵士達の姿も出て来たんだ!
自警団やバル達の活躍に、歓声が上がる村人達。
え?グロい画像をよく見れるって?
えへへ、それが違うんだなぁ!
『良いか、みんな!俺達は自衛の戦いだ!殺さない様に気をつけろ!』
お父さんは事ある毎に大声を出して、自警団のみんなに伝えていたんだ。多分相手側の一般兵士達にも伝える意図があったんだと思う。
とは言っても、戦う意志を無効化させる為に殴る蹴るはしてたけどね。ん?でも……
「おかしいなぁ。殴るだけであんなに人が飛ぶのかなぁ?」
思わず僕が呟いた言葉が聞こえたのか、ロン兄さんが説明してくれたんだけどね。
「へ?魔導グローブ?」
「そう、出来たら命は取りたく無いが無効化はしたいって言う、領主直々の依頼が入ってね。だからダウロ父さんが見つけた魔鉱石の特性『増強』を強化させたんだ!」
自慢気に語るロン兄さんの隣で頷くゾラ兄さん。どうやら個人の力が3倍になるグローブなんだって。
「え?それじゃ、村1番威力のあるムーグさんが着けると……」
「ああなる」
僕の質問に、画面を指差すゾラ兄さん。
うわぁ!ムーグさん一度に10人ぐらい吹き飛ばしてる……⁉︎
これにまた歓声を上げる村人達。
ん?そういえば、アルは何処にいるのかって?
アルはね。セキュリティポート内に立っているダウロさんの肩に止まっているよ。アルの遠見の能力のおかげで、画面の中では迫力満点の映像が流れているけどね。
とはいえ、三千人に対して58人と12頭。戦闘前にハイポーションを飲めたのは半分。殺さずを貫いている自警団達に、徐々に疲れが見えて来た所に……
『大変デス‼︎間モナク増援ガ到着シマス!』
どうやらフォン達から報告を受けたアル。それを聞いてダウロさんがチームゲートホンで、全員に伝えたんだろうね。戦場から段々と村側に後退して来た自警団員達。
フォレストホースのみんなや、バルにフォン達も戻って来たよ!
『全員村に退却!持久戦で行くぞ!』
お父さんの号令で素早く村に戻る自警団員達。その様子を見て、すぐに村を取り囲むグロッシー国軍。箱庭化のすぐ近くまで来て、勝鬨の声を上げていたんだって。
コレを聞いて怒り出したのが……
『ナニガ勝ッタデスカ‼︎コッチは負ケテナイデスヨ!怪我人ダッテ出ナインデスカラ‼︎』
ダウロさんの肩で外に向かって叫び出すアル。しかも外の音声からは更にアルの怒りに油を注ぐ言葉が聞こえてきたんだ。
『こちらは、まだ本体の軍は到着していない!見てろ!お前らの力の源を引きずり出して暴いてやる!』
コレを聞いたアルは、今度はピタッと止まったんだ。鳥に表情ってあるんだ……って思うくらい不機嫌さを滲み出すアル。そしてブツブツ何か言い出したんだよね。
『……ゴ主人ヲ引キズリダスダト……⁉︎ナニモ知ラナイクズ共ガ……⁉︎』
肩から不穏な気配がしたダウロさん。何とかアルを宥めようとしたんだけど、キレたアルは止まらなかったんだ。バッと凄い勢いで飛び出して、僕のもとにあっという間に到着したアル。
「ゴ主人!パニックゲートを使ウ時ガ来マシタ!」
「ア、アル?それはまだ秘密にしないと……」
「イイエ!今デス!今シカアリマセン!サア!サア!サア!サア!」
余りのアルの迫力に負けた僕は、SPを使ってパニックゲートを取得したよ。アルは「ヤツラにミセツケルンデス!」ってマグマの箱庭ゲートを強く推薦したんだけど……
それをやったら、殺さずの精神で戦ってたお父さん達の努力が無になっちゃうから、何とか他の扉で我慢してもらったんだ。
『みんな、全員念の為いるか確認してくれる?』
まずは村人全員の無事を確認する僕。横で「早ク!早ク!」と騒ぐアルを抑えながらも、そのすぐ後全員の確認が終了。
『じゃあ、みんな気をつけてねー!パニックゲートオープン!』
呑気な僕の声の横で「イケエエエエ!」と叫ぶアル。耳痛いって。
アルが戻って来た事で、僕のドアップしか映らなくなった箱庭バーチャルキーの画面。外の様子を見ようと村人達と一緒に開拓村の方に行ったらね。
開拓村の上空、箱庭化の壁の上に出現した3枚の扉。背中合わせに三角の形になった状態で、3枚同時に扉が開くと……
辺りは瞬時に真っ白な猛吹雪に包まれ、箱庭化の壁さえも真っ白になったんだ!
ええええ⁉︎箱庭化の壁さえ凍らせるの⁉︎
そう、僕が出したのはマイナスブリザード(氷点下猛吹雪)の箱庭ゲート。その余りの威力に、僕を含めパカーと口を開けたまま唖然とするみんな。そのまま全員僕を凝視し始めたんだ。
……いや、その……。僕だってわかんなかったんだってー‼︎
みんなに言い訳をする僕の頭の上で「ヤレー!イケー!モットヤレー!」と叫び、飛び回るアル。
この日から数少ない村の掟の中に、アルと僕を怒らせないようにと言う項目が追加されたんだよねぇ……
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