グロッシー国編

第35話 襲撃される開拓村

 その日は朝からピリピリした雰囲気。何かあったのかなぁと、みんなで食事をしていた時、それは起こったんだ。


 「良いか!女子供は絶対に此処から出ない事!特にクレイ!一人で出歩くな!お前はコモンスペース・シェニの箱庭内で待機だ!」


 普段穏やかなお父さんが、命令口調で村人達に指示を出したんだ!これ、絶対外で何か起こってる!


 「お父さん!何があったの⁉︎」

 

 僕の質問に、騒がしかった室内が静かになったんだ。真剣な表情のお父さん。周りを見ながらみんなに伝えた言葉は……


 「今この村は、グロッシー国の兵士によって囲まれている!その数はおよそ三千以上!既に集落柵は越えられた!今はこの箱庭化された村に対して攻撃中!」


 お父さんの報告によって、皆に広がる不安。静まりかえっていた室内にまたざわめきが広まったんだ。僕も不安になってお父さんを見上げると、こんな時なのに笑顔で僕の頭を撫でるお父さん。


 「クレイ、お前は凄いなぁ。箱庭化の壁は何一つ通さない。だからお前が居ればこの村は助かる」

 「お父さん!お父さん達も危ない事はしないよね⁉︎」

 「……誰かが、箱庭の扉の外に出て交渉しなければならない。ならばそれは領主である俺と自警団の役割だ」

 「そんなのいいよ!お父さん達も一緒に居れば良いじゃん!」

 

 僕が行って欲しくなくてお父さんにしがみつくと、お父さんは困った様に笑ったんだ。そして僕を抱き上げて優しく言い聞かせてくれたんだよ。


 「おい、クレイ?お前がお前の力を信じないでどうする?俺たちはダウロ達が作った装備とフォレストホース達やグリフォン達、アバルテケがいる。それに、いざとなったらすぐ箱庭化内に避難出来る。

 良いか、クレイ。この村がある限り、俺たちは負けない。お前は安心して見ていればいい」


 そう言って、僕を降ろして「行ってくる」と背中を向けるお父さん達。その後ろを、ナーシャの肩から飛んで追いかけるアル。


 「オ父サン!僕モ連レテ行ッテ下サイ!」


 お父さんの肩に着地したアルは、お父さんにお願いしていたんだ。最初は危ないからと、アルを説得しようとしたお父さん。でもアルは……


 「僕ガ側ニ居ルト、僕ノ目ト耳カラソノ場ノ情報ヲ、ゴ主人ニ伝エル事ガ出来マス!ソレニ僕ヲ通シテ、ゴ主人ノ力ヲ使ウ事ガ出来マスカラ!」


 また僕の知らない情報を伝えるアル。でもソレ良いね!お父さん達の状況が箱庭バーチャルキーで見れるって事だもん!しかも音付きで!


 そう、箱庭バーチャルキーは映像だけしか送られてこないから、何を話しているかまではわからなかったんだ。まあ、普段はそんな事必要ないけどね。今回は別!


 お父さんも、珍しいアルのお願いにちょっと戸惑ったけど、納得して連れて行く事にしたみたい。


 だから僕も、早速言われた通り移動したよ。


 高級旅館シェニの一階には、コモンスペース・シェニの箱庭内に通じる扉があるんだ。扉の扉って面白いけど、外に出なくてもいい分便利なんだよ。


 それにね、僕の近くに居ると状況が分かるからって、大半の人が僕の後に付いて来たんだ。


 あ、でもね。前回同様食事班、救護班もすぐに立ち上がったよ。


 マーサさん率いる食事班、お母さん、ファストさん率いるハイポーション作成班。鉱山の箱庭の代理管理者には、簡易治癒術があるからね!ダウロさん、ペギーさんは今回は箱庭化内で待機。


 それぞれが配置につく中、僕も箱庭バーチャルキーを展開。レベルアップして僕も出来る様になった事がね……


 「ウィンドウ拡大!」


 そう、三つのウィンドウの拡大化。しかも……


 「クレイ?右側に父さんの名前と状態が写ってるよ?」


 不思議そうに僕に尋ねる幼馴染のケイン。そう、今真ん中の画面は、アルから届く映像だけ映し出されているんだけど、その映像に映し出される人の名前と状態が、右側画面に表示されるようになっているんだ。


 今、お父さんとケインのお父さんディランさんと箱庭化内を移動中だね。あ、勿論お父さんの名前と状態もちゃんと表示されているよ。そして、ちゃんと会話も聞こえてきたんだ。


 『オ父サン、出来タラセキュリティポート内デ止マッテ下サイ』

 『ん?どうした、アル?』

 『セキュリティポート内ハ安全デス。マズハソコデ交渉ヲオススメシマス』

 『成る程な。わかった』


 うん!ナイスアシスト、アル!やっぱりアルは頼りがいあるね!


 画面では、お父さん達がセキュリティポートの前に着いたんだけど……


 『シュンッ!シュンッ!ボシュッ!ボボボボシュッ!』


 箱庭化された壁に向かって、四方から魔法攻撃を仕掛けられていた最中だったんだ。魔法は壁に当たって消滅していたからこんな音が聞こえるんだね。


 そしてセキュリティポートの前で、整列していた自警団のみんな。フォレストホースやグリフォン、あ、バルもいる!


 ……それにしても自警団増えたなぁ。今の自警団総数は58人。僕の村からは7人、ドボルグさんの村から31人、サッドさんの村から20人入ったんだ!


 まあ、人数は少ないけど、少数精鋭だよ!だって、ダウロさん達の力作装備つけているんだ!えーと、確か……


 「出来たぞ、クレイ!まずは頭を守る兜!個人の頭にピッタリハマる魔導具だ!周りの音も集音し、軽くて蒸れないズレない優れ物!勿論魔鉱石仕様だから、魔法・物理耐性は高いぞ!


  そして胸や背中を守る鎧だが、こちらも魔鉱石仕様だ!と言っても革鎧と合成したから、見た目は革製だな。しかし!効果は高い!物理攻撃は勿論、魔法は跳ね返すぞ!軽量化も勿論つけたから動き易い筈だ!


 それにブーツ!各種効能は勿論だが、更に俊足効果もつけた!ゼンやベルグやグレイグならより早く、体格のいいムーグさえも早く動けるぜ!」


 だったっけ……?

 うん、ドラゴンとでも戦うの?って思ったなぁ。それに盾と剣はペギーさんとダウロさん凝っちゃってね……


 「おいおい、ダウロ。肝心の武器を言わないと!見ろよ、クレイこの色!鉱山の箱庭でトッドが見つけたんだぜ!最硬度を誇るヒヒイロ鉱石!見事な赤だろう?


 これに切れないものは……あ、あったわ。切れない物は所有者とその仲間だな。魔力登録した者には何故か切り傷もつかねえわ。これは嬉しい誤算だったなぁ」


 うん、見せて貰った剣は綺麗な赤の刃だったよ。それに持ち手の部分も改良していたなぁ。なんか落としても瞬時に戻るんだって。凄いよねぇ。後、盾はね……


 「これ小さいよ?ペギーさん」

 「ふふふ……!これは魔力を通すと大きくなる魔導具さ!しかも大きさは自由自在!勿論魔鉱石とヒヒイロ鉱石の合成だからなぁ。防御に関してはこれ以上ない物だろうよ!」


 目の下に隈を作った二人に、息子のロン兄さんとゾラ兄さんも付き合わされたみたい。奥で、二人の奥さんも苦笑いしていたし。


 でもって、マーサさん達の「複製」のおかげで、今日みんな装備出来ているんだよ。しかも色がね、


 「うっわぁ!格好良い!」

 「黒の防具に赤の武器か!」


 そう、他の子供達や大人達が反応している様に全体が黒なんだ!だから、今映像に映っているのは黒の装備を身に纏った自警団の様子。これ、ペギーさんこだわって作ったからね。カッコいいでしょう!


 ってお父さん達の方で動きがあったね。どれどれ……


 『グレイグ!全員体を慣れさせておいた!いつでも行けるぜ!』

 『悪いな、ドボルグとサッド。コッチを任せっきりで』

 『構わんよ。ん?アルがコッチに来るのか?』

 『ハイ!サッドサンヤ皆サンノ格好良イ所ヲ、ゴ主人ヲ通シテ皆ガ見テマスカラネ!頑張ッテ下サイ!』

 『へえ、そんな事も可能か……!凄えなぁ、うちの守護者は』


 ん?守護者?って誰の事?


 僕が首を傾げていると、コッチの様子も見えるらしいアル。


 『ウチノゴ主人、サッドサンノ言葉ニ首ヲ傾ゲテ不思議ソウニシテマスヨ』


 すると、こんな場面なのに笑い出す自警団のみんな。


 『それがクレイのいい所だ!』

 『そのままで居てくれよ』

 『大丈夫!俺達が支えてやるさ!』

 『イヤ、逆だろうが』

 『違いない!』


 他の村から来た人達も僕の事を話して笑ってる。周りの状況がなければ、本当にいつも通りの雰囲気なんだよ。それだけ信頼されてるって事かな、って思って僕嬉しくなっちゃった。

 

 そんなちょっと緩くなった雰囲気を、しっかりまとめるのはやっぱりお父さん。手をパンパン叩きながら、みんなの注意をひいて話し出したんだ。


 『さあ皆んな!いい感じで肩の力も抜けただろうが、此処からが本番だ!気合い入れて行くぞ‼︎』

 

 お父さんの掛け声に、大声で返事をする自警団のみんな。余り声の大きさに、僕耳を塞いじゃったよ。


 でも遂に戦いが始まった……!

 みんな、頑張って‼︎

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