第66話 神様との答え合わせ
…チュン、チュン。
いい天気だ。
気分が良くなるような快晴が…。
目の前に広がる。
「…起きましたか、今日は早起きですね。」
「おはよ、玲奈。…なんだか寝てられなくてね。」
「今日は、貴方のリクエストの…納豆と卵と、キムチですよ。」
「ああ、…助かるよ。今日は、なんだか無性に食べたいなって。そう思っていたんだよ。…無理を言って悪いね。」
「ふふ…なんにも、ですよ。…ホント、好みが全然…変わりませんね。」
「…明日には、ガラッと変わってるかもね。」
「…???」
食卓には、素朴な納豆と、卵。そしてキムチが用意されている。
それだけで良いと言ったが、具沢山の味噌汁まで付けてくれて…炊きたての御飯をよそってくれた。
「すまないが、先に…頂きます。」
「…?珍しいですね。子どもたちを待たないなんて…。」
一口、一口を噛み締めながら。味を覚えるように。
それでも…その朝食は、ものの15分で終わった。
「ふぅ…。本当に美味しいね、君のお味噌汁は。」
「本当に珍しいですね。こんなに何度も、感想を言ってくれるなんて。…何か、良いことでも…有りましたか?」
…妻の勘なのか。
時に鋭さが、垣間見える。
「…何でもないよ。今日は一日、時間を貰いたいんだけど…子どもたちを任せても良いのかな?昨日に続いて、2日連続で大変じゃないかい?」
「…大丈夫ですよ。みんな、私達の子です。気にせず、行ってきて下さい。」
俺は準備をしながら、愛する妻の返事を聞いた。
「…ああ、ありがとう。…本当に、愛してるよ。…玲奈。」
「…へ?…今、なんて?」
寝ている梨沙と由佳。そして10人の子どもたちにも。
起こさないように、最大限の愛を伝えて。
「早いけど、…もう行かなくちゃ。」
「…あ、え…ちょっと、待って下さ…」
その先の言葉は、口を塞ぐようにキスをして。
…言わせなかったよ。
「…帰りを。待ってますね?」
「…ああ。」
―――――――街中のカフェ。
「いらっしゃいませー。…1名様ですか?」
「一人です。あそこの席に座りたいのですが…?」
街の通りの中に、半分席が出ているようなテラス席。
4人が腰掛けられるように、椅子が4つ並んでいる。
「ああ、構いませんよ。今は開いておりますし。」
「…ありがとうございます。」
ココは、街中のオシャレなカフェ。
「…確か、この席だったよな。」
俺は前世の記憶を辿った。
自分が刺される原因になった【あの密会の場所】を探し当てていた。
ここで。
元上司の大塚大貴が、
佐々木笑と娘の3人で…
楽しそうに、お茶をしていたのを。
俺は、鮮明に覚えている。
「ご注文は…?」
「コーヒーを、ホットで。」
注文が終わると、途端に眠気が来た。
…冬が終わりを迎え始めた気候と、
温かなその日の陽気なのか。
理由は分からないが、腕組みをしたまま…
俺は、眠ってしまった。
【君は、面白い人間だね。】
何処かから、声がする。
深く、落ち着く声なのに。赤子のように幼さも感じる。
聞いたことがあるような。いつも見守られているような。
そんな声が聞こえてきた。
【天使にも。もう会えないって…言われたじゃないか。】
ああ、望み通りの…ご対面って事なのかな?
貴方は…俺が望んだ方なのでしょうか?
【答えないよ。僕は…ホントなら介入するつもりはなかったんだ。】
ええ。…そうでしょうね。
悪魔との契約をした大塚は、母と一緒に死にましたし…。
【今回の事は、イレギュラーだらけだよ。全く。】
あ、…多分。そのイレギュラー。
何のことか、俺…理解るかもしれません。
【…ホントに面白い人間だね。…いいよ、言ってみなよ。】
2つ。あると思いました。
一つは、佐々木笑。
つまり俺の元妻ですね?
【その通りだよ。】
【何故、人の力が及ばぬ現象に。…あのオンナは…。】
…それは、俺もわかりませんよ。
ただ、…あの狂気は。
人間が持って良いものでは無いとも…思いましたが。
【フン。僕も悪魔自体が乗り移っているのかと思っていたよ】
あ、違うんですね?
…それなら、彼女自身の狂気という事でしょうか?
【紛れもない、あのオンナの純粋な欲から来る…狂気だね。】
はは…。
とんでもない人が、元妻とは。
俺には…手に余る訳だ。
【それで?…もう一つは?】
もう、…一つですか?
それは…。母が、代わりに死んだこと。ですかね?
付け足せば、父が襲われたことも…です。
【腹立たしいが…正解だ。満点をあげても良い。】
天使様から、前世からの巻き戻りを聞いた時点で。
俺は悪魔の大塚と、刺し違えるつもりで過ごしていました。
大塚が、ウチの店を襲った時に。
…いや、来店した時と女性を襲っている処を発見した時から。
俺は、アイツに運命のようなモノを感じていました。
【そりゃぁ、そうだ。】
【世界に2人だけの巻き戻り経験者だからね。】
警察署でアイツを追い込んだ時、刺し違えようと思いました。
俺たちが居ることで、未来が変わってしまうと。
…そう思いました。
【君も、だいぶ稼いだからねぇ。物欲や権力に溺れるかと…随分ヒヤヒヤしたものだ。悪魔側はいつでも大歓迎だったろうに。】
はは…。
俺には、悪魔さんの勧誘は来なかったと思いますけどね。
多分ですが、…父と母が死んだことで。
俺が死ぬべき運命は、その時から変わったんじゃないかなって。
ずっと…思っていました。
【ホント、困ったものだよ。】
【本来は死なない筈の人間が死に、死ぬべき人間が生きたんだ。】
【僕の管轄の言葉じゃないけど…諸行無常って言葉、守ってもらえないと困るなぁ】
…俺は、今日死ぬのかなって。
それで、バランスは取れますかね?
【…鋭いね。君は。】
…そうですか。
【…僕は、そう考えていたよ。】
考えて…いた。
どういう意味でしょうか?
【…君のお母さんやお父さんに感謝することだね。死んでからも、なお。何度も何度も…この僕に。懇願してくるんだ。こんな事はそうそう無いんだよ?】
母と…父が…?
貴方に、…お願い。…ですか?
【自分たちは、どうなっても良い。自分たちの息子を助けてくれって…ね。】
死んでまで…なお。…こんな息子を、…でしょうか?
【…まぁ、君も。同じ願いをし続けただろう?】
…通じておりましたか。
【世界中に、幸せを増やすから…。3人の妻と10人の子供を守って欲しい。そして佐々木笑の呪縛を解いて、その娘に幸せが訪れることを。…君は願い、誓いの上で行動したのだから。】
…俺に、何が出来たのか。…正直、はっきり言えません。
誰かの儲けを、奪ったかもしれない。
本当はもっと助けられる方法が有ったかも知れない。
そう…思えて、仕方がなかったんです。
【不器用だねぇ。…だが気に入ったよ。】
そう言われると、…救われます。
【それでは、ご褒美だ。佐々木笑と君の前世の記憶を消してあげよう。】
…え?
【君の予想はハズレだよ、大ハズレ。君の寿命は尽きないよ。…これからは、人生を楽しみなさい。それを伝えて、記憶を消しに来たのが今日の目的だからね。…この後は何にも、覚えちゃいないよ。】
【…幸せに、なってくれよ?】
あ…ありがとう…ありがとうございます!
…神…様。
…様
…
…様
「…お客様!」
ガバぁ…!
「…ッ!!」
飛び起きる様に、机から勢いよく頭を上げる。
…どうやら、寝ていたようだ。
「…お客様、困ります。さっき頼まれたホットコーヒーが…こんなに冷めてしまっていますよ。…冬が終わったばかりのこの時期に、テラス席で爆睡はちょっと…。」
時間を観ると、2時間近くが経過していた。
「あ、ああ。…す、すいません。」
俺は冷え切ったコーヒーを一気に飲んで、足早に会計へ向かった。
「…何だろう。やけに頭がスッキリしたような。」
それは、冷え切ったコーヒーのせいなのか。
それとも…、一時的な仮眠のせいなのか。
頭から、何かが抜け落ちたような。
それでいて、とても心地よい快感を感じた。
その理由を、今後の人生で知ることは出来ないのだが。
――――完―――――――
作者より。
ここまで、読んで頂き。感謝しかございません。
こんな作品ではありますが、誰かの感情を少しでも動かせたなら。
作成した甲斐があるというものです。
本当に。本当に感謝しております。
この作品と出会って頂き、誠にありがとうございました。
クズな妻にATMにされた俺は、18年巻き戻って富豪でFIREする 書きの助 @afitaou1812
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