番外編 2 修学旅行編 第1話
「ふぅ、いよいよこの時が来たのね」
「だな」
ある朝、隣では渚が緊張の面持ちでそんなことを言う。
「楓くんは昨日ちゃんと寝れたのかしら?」
「勿論、俺は朝までぐっすりタイプだからな。渚こそ大丈夫だったのか? 昨日明らかにテンションおかしかったけど...」
「大丈夫よ。大体、もう高校2年生なのだからたかが修学旅行程度で楽しみすぎて寝れないなんてことあるわけないわよ」
すると渚は視線を宙に彷徨わせながらそんな風に意地を張る。
「ふーん、そうか。じゃあ、これはいらない情報かもしれないけどこれから新幹線で1時間半ほど移動だから、その間は睡眠を取ることが出来るな。まぁ、ばっちり寝れたなら必要ないとは思うけど...」
「...ばっちり睡眠を取っててもつい眠たくなって寝ちゃうことってあるわよね?」
「そろそろ目を合わせて会話してくれるか?」
最早、自分から白状しているに等しい渚に対し俺はそう言葉を投げかける。
「まあ、ガチな話...眠たいなら意地張らずにしっかり新幹線で眠っておけよ。いざ一緒に観光地周るってなったのに渚が寝不足でフラフラで楽しめないんじゃ、俺もなにも楽しくないからな。俺は渚と過ごす修学旅行を何よりも楽しみに生きて来たんだから」
「っ! そうね、そうするわ」
渚は下を向き、手をもじもじさせながら俺の言葉に頷いた。どうやら分かってくれたらしい。
「おうおう、今日も仲睦まじいことでよろしゅうござんすなぁ。おはよう」
「おはよう。涼太も今日も朝から元気そうだな」
渚とそんなやり取りをしていると涼太がそんなことを言いながら登場した。ちなみに一見すると、妬みなどが含まれていそうな涼太のセリフだが、こいつは本当に仲睦まじくて良いことだなぁという意味合いで使っていたりする。
要するにコイツは真っ直ぐすぎるバカなのである。
そのせいで勘違いされやすくめちゃくちゃ明るくいい奴にも関わらず、俺以外にまともな友人がいなかったりする。正直、結構うるさい奴なので相手をするのが面倒くさい時もあるが、大事な友人である。
「空元気に決まってんだろ。これから1時間半の新幹線の間、お前が十六夜さんの隣に座るから俺アイツと座らなきゃならないんだぞっ。いや、お前が幸せなのはいいことなんだけど」
「すまんな」
「もう、床でもいいからお前達の隣に居させてくれないか」
「無茶言うな」
泣きつきながらそんな無理を口にする涼太。1週間ほど前から決まっていたことではあるのだが、まだ納得出来ていなかったらしい。
「い、十六夜さん、俺天井の荷物置き場でもいいからいちゃ駄目かな!?」
「単純に危ないから無理だと思うわよ。それに、そのっ私は...出来れば楓くんと2人っきりの方が」
「それ言われたらどうしようもねぇよぉぉぉぉ」
すると、俺は説得出来そうにないと踏んだのか渚に最後の希望を託した涼太だったが、思った以上に素直な渚の返答によって膝から崩れ落ちる。
「すまんな」
「1時間半話し相手いないんだよ!? どうにかしてよ、カエデモーン」
「誰が、カエデモーンだ。誰が!」
「話し相手ならいるでしょ、この完璧スーパー美少女ノバァエクストリームカスタム幼馴染な私が」
悲しさのあまりか変なことを口走る涼太にツッコミを入れていると、後ろから凛とした声が聞こえてきた。
「本当の完璧美少女はそんなこと言わねえんだよっ」
「全く、相変わらずのツンデレなんだから。もう、そんなんじゃ君のヒロインじゃなくなっちゃうぞ⭐︎」
「お前の中のヒロイン像一体何年前のだよっ」
「はぁ、この私が一人ぼっちの涼太の為に仕方なく幼馴染のよしみで、隣の席になってあげたんだから素直に喜んでよ」
「喜ぶもなにも、まず会話が成立してないんだよぉぉ」
「おはよう、玲奈さん」
「おはよう、白滝さん」
叫ぶ涼太を尻目に俺と渚は姿を現した女子に向け挨拶をする。
「うん、2人ともおはよう」
「なんで楓と十六夜さん相手は普通なんだよっ。俺とも普通に会話してくれよ!?」
すると、相手はコチラを見るとニコッと笑って爽やかに挨拶をしてくれる。一応説明しておくと、この人の名前は白滝 玲奈さんであり今しがた声を荒あげている涼太の幼馴染にあたる人物だ。
とはいえ、クラスも違うしウチのクラスに来るときは大抵涼太をこのように揶揄いに来るだけなので、俺自身はそこまで関わりがあるわけではない。
「...まぁ、良かったな話相手がいて」
「見捨てないでくれよ。俺、無理だよ。コイツの相手1時間半も絶対保たないよ」
「そうなんだ。なんか、涼太大変そうだね」
「他人事みたいに言ってんじゃねぇよっ。原因、お前だから」
普段の涼太は完全にボケタイプなのだが、この玲奈さんを相手にするとツッコミをすることになる。いやぁ、仲睦まじいことは良いことだなぁ。うんうん。
「そうなんだ、やっぱり私って罪な女」
「コイツウザぇぇぇ」
「おーい、そこの4人組そろそろ新幹線来るからおしゃべりはそのくらいにしておけよー」
涼太と玲奈さんが言い争い(玲奈さんに涼太が弄ばれてるだけのような気もするが)をしていると、先生からそんな声かけが入る。
時間を見ると確かに新幹線が来る時間が迫っていた。
「相変わらずあの2人は元気だなぁ」
「そうね。でも、そのっ今日は私達もあれくらいとは言わずとも楽しみましょう?」
俺がボソッとそんな感想を漏らすと、隣の渚が俺の服の袖をキュッと掴みながらそんなことを口にする。なにか今日の渚は行動だけでなく言葉も素直だ。
「そうだな。でも、今からの新幹線ではちゃんと睡眠を取るんだぞ?」
「っ!? そうだったわね」
しかし、俺が軽くそう言うと渚は少しアタフタした後、顔を赤くし頷いた。どうやら忘れていたらしい。
まあ、そんなこんなで俺達の修学旅行が幕を開けたのだった。
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次回「番外編 2 修学旅行編 第2話」
久しぶりに「僕だけがいない街」を読みました。そして、久しぶりに泣きました。
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[完結]彼女にこっぴどく振られた俺だけど彼女から好き好きオーラが出すぎて気まずい タカ 536号機 @KATAIESUOKUOK
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