第2話 蜜と蜂

 波原と桑岸、そして謎の「波原グループ」のメンバーらを何かで例えるとするならば、蜜と蜂という表現が適当であるだろう。波原が蜜であり、桑岸と「波原グループ」のメンバーが蜂のようにその周りに群がっているのである。特に桑岸は女王蜂という例えが最適だろう。

 「波原グループ」の存在を知ってから、私と栗村、柏木の中で波原と桑岸について話す時間はより一層増えた。三人の中で疑問になっていた、波原が自分の名前がついているグループがあることを認知しているのかを波原本人に聞いてみると、なんと波原は「波原グループ」のことを認知していたのであった。私たちの中でより一層波原達に対する謎が深まった。グループが結成されてから毎日、昼休みには波原の周りに「波原グループ」が群がり教室で談笑したり、音楽室や図書室へ行ったり常にグループ全員で行動していた。

 ある日の昼休みいつものように「波原グループ」が波原の周りに群がり、音楽室へ行くと、栗村と柏木がこちらへ来て波原について話し始めた。柏木が、

「なんで、波原は自分がSNSをやっていないのにもかかわらず、自分の名前が付き、更に自分と仲が良い人だけで構成されたSNSグループを承認しているの?」

と聞いてきた。

「きっと、波原は自分が王様にでもなった気分で嬉しいんじゃない?」

と栗村が即答する。きっと栗村も柏木と同じことを考えていたんだろう。正直私もこのことを疑問に感じていた。何故なら、もし自分の名前がついたグループが勝手に作成されていたとしたら、自分なら怒るだろうと考えたからである。私は咄嗟に疑問に思ったことを二人に問いかけてみた。

「『波原グループ』に所属している桑岸以外のメンバーはどういう風に波原と桑岸のことを思っているのだろうか?」

少し間が空いたあと、柏木が、

「波原と桑岸が相思相愛ということを前提に所属したから気にしてないんじゃない?」

と答えた。それが今考えられる一番腑に落ちる理由だと私も思っていたため、それ以上彼女らには問いかけなかった。

 夏休みまであと一週間を切ろうとした頃、急に桑岸が波原へ対して二つほどのアピールをするようになった。

 一つ目は自分が他とはちょっと違う子だという、いわゆる「不思議ちゃんアピール」だ。このアピールは二年生に進級した時からずっと行っていたが、ここ最近急激にアピールが過激化した気がする。きっと私が桑岸に波原が変わったものを好むと教えたことも影響しているのであろう。最初は自分だけが桑岸のアピールを鬱陶しく感じているのだと思っていたのだが、席替えで桑岸の隣の席になった人に鬱陶しいから席を変わって欲しいと言われ、初めて彼女がクラスからも冷たい目で見られていると私は知った。

 二つ目は波原に自分とは気が合うと思わせるためのアピールであった。これもまた、傍から見てもあからさまなアピールであったため、波原と桑岸の二人に関してのいわゆる「恋バナ」にはクラスの大半が興味を持たなかった。私は部活の時にも感じたように、何故桑岸があからさまなアピールをするのかがわからなかった。他人へ波原と自分の関係を見せつけ、波原にほかの女子を寄せ付けないためなのか、はたまた別の理由があるのか、謎であった。一方の波原もアピールへ対して満足しているようなときもあれば不満そうな態度の時もある。特に「波原グループ」といるときは不満そうな態度が多い気もした。こちらもまた謎である。



 

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執心 @himajintarou

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