3、皇帝についての対話
―賢い人よ、何故皇帝は六種(むくさ)の民を統べる者と称されるのですか。
本来、六種の民を滅びより救うべく、これを率いて悪と戦った者を皇帝と称したからである。真にこの称号に相応しいのは我が友ただ一人であるが、征服者の長がこれを求め、神殿の長が許してしまったがために、相応しくない者どもが称しているのである。この罪の故に、愚かなる木の民の裔たる神官たちは、神々の声を二度と聴くことはなく、我ら御使いの知恵に与ることもないであろう。
―そのかみ、神々から遣わされた御使いのお一方が皇帝となったと伝えられていますが(注、神聖王朝:1434~3800年)、そのお方も皇帝の称号には相応しくなかったのでしょうか。
忌まわしい記憶である。我が愚かなる同輩は悪しき想いに犯され、神々を欺き偽りの世界を支配しようとしたのである。この者は確かに皇帝を称し、その子孫は長く御使いの力を悪しく用いて世を統べた。しかし、六種の民を統べたことはない。
―私たちの伝承では、その王朝は代々魔王達と戦って、この世界の破滅を防ぎ、忌むべき者が現れた後も、最後の皇帝が宮城で討ち死にし滅亡するまで勇敢に戦ったと伝えられています。
御使いの力を神々の許しなく用いることはすべて悪である。彼の者どもが何を為したか、我ら御使いもよく承知しているが、それによってその罪が軽くなることは決してないのである。
―では、御使い方はどうしてその偽りの皇帝たちを追放しなかったのですか。そして、今も新たな偽りの皇帝たちを追放しないのですか。
我ら御使いは神々の許しなく何事もなすことはできない。そして、神々は偽りの世界の統治に我らが関わることをお許しになったことはないからである。
―これまでも悪しき統治が行われてきました。神々はそれらに対して何もなさっては下さらないのでしょうか。
まず、神々に対して呟いてはならない。それはあなた方を影にしてしまうであろう。悪しき者、魂を重くする者はその罪によって自らを罰することになる。いかなる統治のもとにあっても魂を軽く保つものは御使いの内に迎えられるのである。あなた方はこの真実に満足しなければならない。
―救世王が自ら皇帝を称されたことはありましたか。
決してなかった。我が友は自らを神々の哀れなる下僕、六種の民の友と称した。神々が皇帝の名乗りを許しても拒み続けたのである。
―王伝に、救世王が自らを「神々の傀儡」(13.5)と称したとあります。この解釈を巡っては、長らく論争が続いていますが、その真意について教えてください。
それは私の言葉ではないから、私にも分からない。ただ、神学者なる者どもは、これを我が友の最大限の謙遜であり、信仰の理想であると解釈しているとも聞くが、果たしてどうか。私が思うに、我が友の言葉はそのまま聞くべきである。喜びは喜び、悲しみは悲しみ、そして、恨みは恨みとして。
―救世王は父王を弑したという伝承がありますが、本当でしょうか。
半ば然り、半ば否。父王の魂はすでに偽預言者のものであった。それ故に、我が友が偽預言者を討ち倒した時に、父王もまた死んだのである。しかし、我が友は何も知らなかった。父王の命に従順だっただけである。父王の死は決して我が友の罪ではない。
―神々は統治について何かお示しにはならないのでしょうか。
決してお示しになることはないであろう。偽りの世界に真の統治が行われることはないからである。真の世界にあって神々の統治を願うべきである。
『賢き人との対話』より 富永正男 @masao_tominaga
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