王になった男

トネ コーケン

第1話 王になった男

人類が宇宙に進出し、国家の枷が外れ国境が消え統一の立憲君主国になった地球と独自文化を形成した火星が戦争を繰り返している世界。

主人公は地球に暮らす大学生で平凡な投機家の息子。

ある日、主人公は父親の急死で天涯孤独になり、多額の債務を相続する。

銀行からは相続放棄による債務免責を勧められるが、主人公は自らの出自を失うことを恐れ、自力での返済を決意する。

銀行側担当者の尽力で主人公は債務を一本化し、一生物の長期返済義務を負うことに。

銀行の女性担当者とはすべてオンラインのやりとりながらちょっといい感じになり、担当者は主人公と結婚し債務を共有することまで考える。

唯一の趣味である軽飛行機でのスポーツフライトの技術と資格を生かし、当時火星軍と軍事的緊張状態にあった地球軍の徴兵に応じようとする

主人公の暮らす地域では徴兵に甲種合格するのは基幹都市大学の在学、卒業者だけで、小規模大学の主人公は事実上の不合格に、主人公の暮らしは行き詰る。

その頃、軍事的緊張の続く地球軍はモジュールユニットの組み換えで戦闘機、偵察機、爆撃機、早期警戒機、電子戦機、軽輸送機を兼ねたマルチロール機を開発

新型マルチロール機は操縦の自動化とAIの積極的採用、生産工場の無人化による高い生産性で、これまで高性能な機と高い技術レベルのパイロットによる少数精鋭方針で質より量で攻める火星機を制圧する地球軍の方針に反す、機体の数で火星軍機に対抗する方針と、誰にでも操縦可能な機体を運用するために正規の軍人ではなく軍属としてパイロットを雇用育成し、戦争不況による失業者を吸収する目的も負っていた。

地球軍では花形の戦闘機パイロットや稼ぎ頭の輸送機パイロット、高レベルの教育を受けた人間限定の爆撃機パイロット、公務員としての栄達の最短距離の偵察、早期警戒機パイロットなど、軍のパイロットは役割りと性質がが分化していて、新奇な技術ゆえ戦死率が高いと予想されパイロットが使い捨てのモルモット扱いされると言われたマルチロール機に誰も乗りたがらず、アビオニクスが高度に自動化された機はチンパンジーのも乗れると揶揄される。

軍は軍属パイロット採用の基準を大幅に緩和し、トラックドライバーや失業者、あるいはスポーツフライト愛好家を、パイロット養成所在学中にも公務員一号俸に相当する給与を支給し、作戦実行や敵機撃墜時には報奨金を出すという甘言で応募者を募ることに

農業飛行機や宅配機の仕事を得ながらも稼ぎの少なさで暮らしが行き詰まりつつあった主人公は飛行機への愛情よりも借金返済を滞らせないために軍属としての入営を決意する。

実機搭乗はせず全てシミュレーターで行われる速成のパイロット養成コースを軽飛行機経験のおかげで優良な成績で修了した頃、遂に地球と火星との間に戦闘が勃発し、開戦に。

主人公は新型マルチロール機のパイロットとして戦闘区域に送られ、シミュレーター以外戦闘未経験の主人公は兵站輸送便警護機のパイロットとして着任。

当時地球軍でアウトソーシング・ロジスティック最大手だったコカコーラ社の輸送機船団を警護する、軍隊内通称コーク・ガーディアンとして主人公の軍歴とパイロットキャリアが始まる。

新規投入のマルチロール機は意外な高性能とトラブルフリーの信頼性を示したが、火星軍の補給線攻撃で主人公の同期は次々と戦死し、使い捨てのように補充される。

火星軍による攻撃の法則性に気付いた主人公は、補給路攻撃機が終結する拠点の存在に気づき、こちらからの攻撃で拠点を潰し、攻撃部隊を無力化する作戦を上申する。

飛んでいる蜂に綿を付けて蜂の巣の位置を探る、蜂の巣取りを模した、軽飛行機パイロット時代によくやった遊びに似た作戦は参謀本部に認可され、実行、成功し襲撃の中継地を失った火星軍は補給路攻撃が事実上不可能に。

以後も火星軍機の撃退や罠の察知で実力を示した主人公は、マルチロール機による特殊作戦の実行部隊SSSSに抜擢される。

SSSS着任まもなく戦死した軍派遣パイロットに代わり副隊長代行になった主人公は才能を発揮し、戦死率の高い攻撃の先頭を務めるが、敵機撃墜ではなく僚機による撃墜の補助が主な任務のため主人公の撃墜スコアはあまり伸びず。

共同撃墜の報奨金だけは誰よりも稼ぎ、債務も元金をだいぶ減らしたが、同僚との交流はほとんど無く、休暇時もコンボイトラックの仮眠室くらいの大きさのキャビンに籠っていた。

食べる物も軍属に支給される「カートゥーン」と呼ばれる圧縮携帯食料のみ、なお正規の軍人に支給されるのは旧弊なレーションなので民間メーカー製でメニュー豊富なカートゥーンは軍人から羨ましがられる。

主人公はSSSS副隊長としての任務をこなす中で、ある火星軍基地の攻略を行うことになる。

火星攻撃の要衝ながら他の軍事拠点から隔絶し、陥落容易と思われた基地は、基地司令で以後の話のキーマンになる大学教授出身の軍人アブドル・クリム将軍の天才的采配の前に地球軍は苦戦させられる。

攻略戦を重ねるうちに、主人公以下地球軍のパイロット達は、名将クリム将軍に好敵手としての畏敬の感情を抱くようになる。

ある日、基地による防衛火力が沈黙する。地球軍の情報収集によれば有能すぎる将帥を持ちながら高官との人間関係の構築に難のあるクリム将軍が火星軍内の足の引っ張り合いで失脚し解任、粛清されるかもしれないという事。

クリム将軍の喪失は、地球と火星という単位ではない未来における人類全体の損失になると思った主人公は、クリム将軍を亡命させる計画を立案する。

短距離通信の組み合わせでクリム将軍と連絡を取った主人公は、補給機の襲撃と逃走のために積荷破棄を偽装し、クリム将軍と、大学で電子戦を専攻し研究のため基地に滞在していたため連座で粛清されるところだったクリム将軍の娘アリ・カーン・クリムと共に身柄保護する。

前線の兵からは信頼、尊敬されていたクリム将軍の亡命と後任基地司令への不信で戦闘のボイコットやサボタージュが横行した火星軍基地はあっさり陥落、他にも幾つもの拠点基地を失った火星政府は地球との休戦を承諾する

主人公は終戦による軍人、軍属の人員整理であっさり契約終了となり、軍属としての立場も予備役に。

職を失った主人公は銀行の融資を受け、退役軍人や軍属への厚生措置として優先的に放出された非武装のマルチロール機を購入

その機は設計の段階で戦時に大量生産し、戦争終結後は武装を外しアビオニクスを性能制限モデルに換装して民間販売を行い、収益を軍事予算に繰り入れることが想定されていた

戦争では想定を上回る成果を上げたマルチロール機だが、民間販売ではガルフストリームやホンダなどの民間メーカーとの競合で芳しい結果を出せず、放出機体のうちの幾つかはオーバーホールされて再配備された。

銀行による主人公への融資は、担当者女性の尽力と従軍による負債元金の目減りもあってすんなり通り、中古機体を買った主人公は、治安不安が発生している場所まで行って戦闘や犯罪の映像を撮影しコンテンツ販売するジャーナリストとして生計を立て借金返済を行うことに。

ある日、軍参謀本部から主人公を軍属として再招集するという指令が届く。

戦争終結でニュースネタも減り、ジャーナリストとしては稼ぎにくくなっていた主人公は、軍属としての招集を受け入れ、参謀本部に出頭する。

参謀本部に居たのは、主人公が戦争の時に亡命を支援したアブドルクリム将軍。火星時代に取得した軍事戦略の学位から現在はクリム博士と言われている彼は、軍上層部に乞われ参謀本部分析官の職に就いていた。

クリム博士から主人公に下された命令は、戦争終結後も各部で続く治安悪化事態、その病巣となっている武器密造、密売拠点の正規軍による無力化、主人公に与えられた任務は、それに必要な先行偵察と戦争時代から幾つもの実績を挙げていた作戦立案。

岩礁に偽装された武器密売拠点の宙域図を見た主人公は、その任務には偵察を行う時に自分を守る警護機が必要だと言った。

クリム博士は了承し、AIによる適性、能力判断と博士自身の人選を併用使用し、適格者を選任、派遣すると言った。

まもなく主人公の元に寄こされたのは、国家統合前のフランス外人部隊を母体とする統合宇宙軍レジオン連隊の女性中尉。

ジョー・ロマーニと名乗る中尉の戦闘スコアと戦争による実戦経験、戦略学の成績等の各データを閲覧した主人公は問題無しと判断し護衛を依頼する。

彼女のジョー・ロマーニという名前は旧フランス時代からレジオンの伝統になっているアノニマと呼ばれる偽名在籍制度による名前で、正体は立憲君主星の地球において王位継承権三位の皇女。レジオンには昔からそういう身分を隠して在隊する王族や侯子が居たらしい。

レジオンのロマーニ中尉がプリンセスであることは、佐官クラス以上の軍人や王室の番記者には普通に知られている公然の秘密。

主人公と護衛のロマーニ中尉は任務を遂行し、正規軍による武器密輸、密造拠点の無力化は成功する。

(※以後のマスコミ取材で主人公は「プリンセスを戦場で守って心を射止めたんですか?」と聞かれるたび「いえ、プリンセスがいつも私を守ってくれて、その任務遂行能力や護衛計画の緻密さに惹かれました」と答えることになる。

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主人公は以後も武器密売やシンジケート犯罪、反国家集団によって実行支配された地球火星間の辺境地域の正常化などの任務に、正規の軍人より命の値段が安い軍属パイロットとして便利に使われ、主人公自身もジャーナリストより稼げて借金返済の足しになると思い仕事をこなしていた。

主人公の護衛は数回の任務成功を学習したAIによって、毎回ロマーニ中尉が選ばれ派遣され。毎回石橋すら渡らぬ慎重な護衛計画を立案実行し主人公を守り続ける。

戦争時は同じ部隊の人間とめったに話さなかった主人公は、ロマーニ中尉とは少しづつ違いのことを話し始める。

彼女は戦闘機と空戦が好きで応募者の前歴を問わぬレジオンに志願し従軍したが、王位継承権の争いや王室の存続¥¥地位向上のため、戦争やその後の平和維持活動で華々しく戦死することを暗に期待されていた。

彼女は自分の現状を知りつつも空戦の魅力に取りつかれ、出来る範囲で自らが生き延びる最善のことをしようと思っていた。

主人公は終わらない平和維持活動に従事しつつ、現在星域のあちこちで横行する武器密輸ルートを塞止し、軍が地球領空の各地に設置しつつ「パイレーツ」と呼ばれる反社会PMCの浸食によって機能停止に陥っている輸送機臨検と密輸取り締まりのの拠点を正常に機能させれば、武器の行使をしようとする集団が戦闘を継続するだけの組織体力を失い、地球と火星の間に恒久的な戦闘停止状態の構築が可能であると考えた。

(※後に主人公は「地球と火星の戦争をたった一人で止めた男」と呼ばれるようになるが、主人公は「違法武器流通の停止による戦闘集団の無力化は当時複数の軍人やシンクタンクの人間が立案実行していて、自分はその一人だった」と称する。

主人公とロマーニ中尉は武器流通ののコントロールによる平和の達成を決意し合い、互いに惹かれるようになるが、主人公の軍属としての契約期間が満了し、軍を離れることに。

借金はだいぶ目減りし、銀行の担当者女性からも借金の返済だけでなく将来を見据えた人生設計を勧められる。

結局主人公は中古機に乗ってニュース種になる紛争を探すジャーナリストに戻るも、紛争報道は自社の取材機補給艦や報道ステーションを保有する大手企業所属ジャーナリストが強く、フリージャーナリストには稼ぎにくい場になっていた。

借金返済も残額あと僅かながら利払いだけの横這い状態、大きな仕事をしないと完済は望めなかった。

無為な日々を過ごしている主人公の元に参謀本部のクリム補佐官から連絡が入る。

地球領空に最後に残った大規模な武器密輸トレイル、その殲滅を立案し、軍事予算削減によって偽名制度アノニマが廃止されたレジオンのプリンセスに適任者として依頼したところ、彼女は任務遂行には主人公の空戦能力が「絶対に」必要だと言った。

主人公はクリム補佐官からは非軍人のオブザーバーとしての参加を依頼され、平和の達成と借金完済の望みを託し受諾する。

主人公は火星から密輸された戦闘機との空戦を伴う密輸路の殲滅任務を進めながら、未だにアノニマのジョーという名で呼んでいるプリンセスとの結婚を意識し始める。

王室では現女王がFIRE的な退位の意志を表明し、文民の王位継承者主席や次席を飛び越えて、軍の主導で継承順位三位のプリンセスを女王をとして戴冠させる動きが発生する。

プリンセスが平和維持活動を続けながら女王になることを肯定する意思を表明する中、今までの人生で責任を負うことを避けていた主人公は、自分が女王の夫、王配と呼ばれるものにされる運命を諦めと共に受け入れるようになる。

プリンセスを女王にすべく画策し各所で糸を引いていたクリム補佐官は「あなたの能力と将来への希望にもっと相応しい立場、役職がある」と言う。

クリム氏の意図と示唆を察した主人公は、それだけは断る。

激しい空戦の末に武器密輸ルートは殲滅され、地球領空全域における武器密輸の監視臨検システムの構築が達成される。

主人公は借金を完済し、名実ともに自由の身になる。食えぬ仕事となったジャーナリストは廃業し軍オブザーバーとしての契約も終了し、無職に。

永く戦争の歴史を重ねた地球火星間の恒久平和が達成され、プリンセスも女王戴冠が内定、主人公はプリンセスに結婚を申し出、王配になることを覚悟する。

平和の成った地球領空で、クリム副大統領が視察に出ることになり、主人公のマルチロール機を改装した専用機の客席に乗る。護衛は今まで通りプリンセスが務める。

かつては武装勢力が跋扈していたが、今は誰でも安全な観光や入植が可能になった月の大地に降り立ったクリム氏は、彼を火星の裏切者と恨む狂人に撃たれる。

クリム氏は主人公の腕の中で、彼に「PLEASE BE KING」と言い残して息絶える。

父のように慕っていたクリム氏の死去に深い喪失感を溺れた主人公は、クリム氏の望みと自らの夢見る地球の平和を達成するため、どうしても自分に必要な地位と立場を主人公なりに考えた結果、地球の国王になることを決意する。

世論は結果の見えにくい平和維持活動と戦争不況対策の滞りに政府と王室への不満がたまり、かつて皇女との恋愛、結婚で戴冠した民間サラリーマン出身の国王が在位していた時代の豊かさとしばしば比較されていたこともあって、主人公が国王になることに好意的だった。

主人公は地球国王として戴冠し、プリンセスは王妃になる。主人公は演説で地球と火星の新しい関係、双方の領内に浸食するパイレーツと呼ばれる反社会武装集団を無力化させるための軍派遣、戦争の時代から相互協力の時代への移行について地球人に訴える。

国王と皇女の最初の公務は、辺境空域で復活しつつある武器密輸ラインの殲滅と在庫武器の破壊。

もちろん攻撃のリーダーは主人公で、それを護衛するのはレジオンのジョー 



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