同じ夢を見た話

低田出なお

同じ夢を見た話

 突然ですが、皆さんは昼寝してますか?

 私は少し前までよくしていました。なんでも、短時間の昼寝をすることで脳を休めることが出来るそうです。


 会社の昼休みに駐車場へ行き、自分の車の助手席のシートと倒して眠ります。サンシェードの裏側の、てらてら光っている銀色を見ながら眠るのは、最初こそ違和感がありましたが、すぐに慣れていきました。


 休みの日でも、食後の20分ほどは昼寝をしていました。スマホのタイマーを恨めしく思っては、それを眠気眼で止め、洗面所へ向かってのそのそ起き上がる。そんな具合です。


 そんな昼寝をしていると、いつからか自分が同じような夢を何度も見ていることに気が付きました。その夢を見るのは昼寝をしているときだけで、夜に寝ているときには見ることはありませんでした(忘れちゃってるだけで、夜にも見ていたかもしれません)。


 同じ夢を見ていると気が付いたのは、その夢に3つの共通点があったからです。


 まず1つ目に、その夢を夢だと自覚できるという点です。


 夢を見始めてしばらくすると、「あ、これ夢だな」と気が付きます。きっかけなどは無く、不意に気が付きます。ある種の明晰夢というやつなのかもしれません。

 ただ、話に聞く明晰夢のように、自由に夢を操作するといったことは出来ません。現実世界と同様に歩いたり、物を食べたり、話せたりということが出来るだけです。


 2つ目に、その夢は私の家の中であることです。ただ、それは現在の家ではなく、今から十年近く昔の頃の様子でした。


 具体的に言うと、この夢は僕が中学生か高校生くらいの頃の家での様子です。

 現在の私の自室は一階の端、当時姉が使っていた部屋なのですが、夢の中の自分は二階の部屋を使っています。昔、私が使っていた部屋です

 他にも、姉は既に家を出ていますが、夢の中では昔のようにソファでくつろいでいたり、父がまだ痩せていたり、自分の車を持っていなかったり、と基本的にこの夢の舞台は、私の過去の休日といったような内容でした。


 3つ目は、留学生の男性が出てくることです。


 留学生はアジア系の人で、彼が留学生であることを感じさせないほど日本語が堪能です。私の部屋で生活しているみたいなのですが、私としては自分の空間を侵害されているわけですから落ち着きません。

 ですが、彼はそんなことはお構いなしといったように机に私物を広げ、彼が学んでいるというグラフィック関係の勉強をしています。

 仕方がないので、私は居間を自室変わりに使うことになります。


 家族は彼と積極的にやり取りはしませんが、彼が暮らしていることに何も言いません。彼がいることに関して聞くと、苦々しい顔をして、

「もう決まったことだから仕方ない」

「全くなんでこんな話受けたんだ」

 と言われます。

 今更ですが、私の家に実際に留学生を迎え入れたことは(少なくとと私が知る限りは)ありません。


 彼からもこちらへ干渉してくることは基本ありませんが、時々、声を掛けてくることがあります。

 彼は飴の袋を手にこちらへやってきて、

「飴持ってない? しょうもないやつならいらないけど」

 と話しかけてきます。

 私は自分が普段よく口にする飴をいくつか差し出すと、彼は「よく見てろよ」と言って、その差し出した飴をYouTubeで見かけるような手品で消す動作をします。

 慣れていないらしく、とても消えたように見えないので困惑していると、次第にしたり顔だった彼は不機嫌そうな顔になっていきます。そして、私が出した飴を乱暴に袋へ入れ、代わりのようにミント味の飴を置いて立ち去っていきます。


 夢だと自覚できること。

 昔の私の家であること。

 知らない留学生が出てくること。

 夢の話であり、曖昧で覚えていないことも多いものの、この3点が共通した夢を、私は昼寝をするときに見るのです。


 まあ、同じような夢を見るというのはおかしい訳ではないでしょうし、それだけと言えばそれだけなのですが、最近少しだけ、この夢がなんだか怖く感じてしまうようになりました。


 夢の中の時間が、現在と近くなり始めたのです。


 昔の家の様子だったはずが、少しずつ、少しずつ、今の家へと近づいているのです。それは家の時間が進んでいるという感じではなく、部分的に現実の家と同じになっているように見えました。


 例えば、夢の中で自分の部屋へ向かった時、扉を開けると留学生の彼が机に座っています。仕方がないので扉を閉じて振り返ると、そこは二階の廊下ではなく、現在の私の部屋と隣接している居間になっているのです。

 混乱しつつ、試しに二階に上って確認すると、二階は父の物置となっていました。現在の家の状況と同じです。

 しかし、先程も述べたように、家の中がまるっきり現在の様子となったわけではありません。現実ではいないはずの姉が冷蔵庫を漁っていたり、すでに亡くなって片付けたはずの犬のケージがまだ残っていたり。

 言うなれば、現在と過去が入り混じった家の様子になり始めました。


 最初こそ別に気になりませんでした。が、夢の中の家が現実に近づいていくにつれて、この状態に私はだんだん怖くなってきました。

 そのうち、この夢の時間が現実と同じになってしまうんじゃないか。そうなったとき、夢と現実の区別が出来なくなってしまうんじゃないか。そんなことを思ってしまって、昼寝をするを控えるようになりました。

 

 まあでも、考えすぎだと思います。最近ホラー物の創作に挑戦していたから、ちょっとしたことをそんな風に気にしてしまっているだけです。

 何なら夢占いだと、知らない人が家に入ってくるだとか、昔の家が出てくるのは比較的ポジティブな意味として出てくることが多いようですし。


 あれは多分、ただの夢です。だから、先日部屋の掃除の際、沢山の溶けたミント味の飴が出てきたのも、ただの偶然なのだと思います。

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同じ夢を見た話 低田出なお @KiyositaRoretu

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