第3話 そして誰もいなくなった
後藤雄一は、妻の優子の無罪を信じるためにも、最後に辿りついたのは催眠術の大家とされるT大名誉教授の森田真一郎博士であった。
そして、今日、会社に出社する途中、フト、全ての黒幕は、その森田名誉教授ではなかろうか?という疑念が沸いてきたのだった。
この考えは、一見荒唐無稽に思えるが、心理学に卓越し、また、催眠術の権威である事からも、この森田名誉教授が全ての粗筋を書いたのであれば、それはそれで十分に理屈が通るのではないか。
もっと言えば、妻の優子は、単に、偶然に本田秀一のサブリミナル効果の画面を発見しただけの事だけかもしれないし…。
しかし、相手は、T大の名誉教授でもある。そう簡単には会えないだろう。そこで、母校の社会学部長に紹介状を書いてもらい、やっとの事で会える事になった。
そう、これで、これまでの一連の事件のすべての謎が解けるかもしれないのだ。
事前に、森田名誉教授の研究室の場所は調べてある。本郷キャンパス内の総合研究棟の校舎の3階に、森田名誉教授の研究室はある筈だ。
しかし、その森田名誉教授に会う前に、驚愕の事件が連続して起きたのだ!
これも、この前のように朝のニュースで妻の優子から知らされたのだが、何と、裁判中であったあの井坂豊が、拘置所内で首吊り自殺をして死んでしまったと言うのだ。
拘置所の壁には、自分の右手の人差し指を食いちぎって、血文字で次のように書き残しての自殺だったと言う。
「真犯人は別にいる!」と。
これは、うかうかしておれない。
しかし、夕方のニュースでは、更に衝撃的な事件があった。
あの、ホッケーマスクの男である本田秀一が、動物保護団体に充てて、
『チワワのチーちゃんをよろしく』と書いた遺書を残して、自分のマンション近くの児童公園で、灯油を被り焼身自殺をしてしまったと言うのである。救急車で病院に運ばれたものの、既に死亡していた、との事だった。
相次ぐ関係者の連続的な死亡に、後藤雄一は、異様な焦りを感じた。しかし、T大の名誉教授に会えるのは、明日の午後である。
約束の日、後藤雄一は、急いでT大へと向かった。面会約束時間は午後2時である。
何とも言えない焦りや焦燥感を感じながらも、遂に、T大名誉教授の研究室にまでやってきた。事前にアポは取ってある。後は、面と向かって自分の疑問をぶつけるだけだ。
後藤雄一は、森田名誉教授の部屋は、もっと綺麗に整頓されているものと予想していたが、ノックをしてドアを開けると、そのあまりの乱雑ぶりに目を回した。
前日、焼身自殺した本田秀一は、ユーチューブで自分の部屋を公開していたが、本棚に心理学の本は並んではいたがそれなりに片付いていた。
が、森田名誉教授の部屋は、足の踏み場もない程の、大量の本が床から積んであった。本棚は勿論全部埋まっている。そこに、体格は太り気味、ただ、目付きがどことなく好色そうな70歳過ぎの学者が椅子に座って、自分を待ってくれていた。最初はあっけに取られていたものの、直ぐに気を取り直し簡単な挨拶をした後、本題に入った。
なお、後藤雄一は、相手が催眠術の大家である事から、万一、自分自身が質問中に催眠術に掛けられる事も想定して、高精度のデジタルボイスレコーダーと、2種類の録音機器を懐に忍ばせていた。これだけの用心をして、この会談に臨んだのだ。
後藤雄一は、まず井坂豊の事件の件についてどう思うか?と聞いた。
しかし、即座に森田名誉教授は誰かは知らぬ、と言い切った。
「先生。それはおかしいでしょう?現に、裁判前に、彼の精神鑑定を行ったのは、先生の大学の同期のJ大学の精神科医ですし、先生の教え子で、昨日、焼身自殺をした本田秀一が、最も憎んでいた相手ですよ。
それを全く知らないとは、これはこれは、おかしな事を言われる」
「ふ、ふーん、さすが週刊誌の記者だけあって、よく調べてあるな」
「では時間が無いので、先生には失礼ですが、ここで、ハッキリ私の推論を申し上げます。 この事件、特に、井坂豊が同居中の恋人を刺殺したのは、先生が本田秀一にまずサブリミナル効果の入った投稿動画を作成させ、そして先生ご自身か、本田秀一か、誰かは分かりませんが、強烈な催眠術で、かってドイツで起きたとされるハイデルベルク事件のように、催眠誘導により殺人事件を起こしたのではないのですか?」
「……ハハハ、面白い推理だな、この私が真犯人だとは」
森田名誉教授は、背広のポケットからタバコを取り出して、美味しそうに一服した。
「こうでも考えないと、あの井坂豊の一連の意味不明の言動の説明ができないのです」
「しかし、君の推理には重大な欠陥があるよ、それに気がつかないのかい?」
「重大な欠陥とは?」
「それは動機だよ。何故、T大の名誉教授にもなり、それなりの勲章も貰っている私が、そのような危険と言うか、反社会的行為をする必要があるのかね」と、森田名誉教授は冷静に答えるのだ。
「それは、サブリミナル効果+強烈な催眠術で、現実に他人に殺人事件を起こさせる心理実験をしたかったからじゃないのですか?」
すると森田名誉教授は、猛烈に笑い出した。
「後藤君と言ったっけ。現代は、そのような殺人をテーマとする心理実験を行える訳もなく、また、仮に百歩譲ってその実験がうまくいったとしてもだよ、その結果を学術論文にして発表できるとでも考えているのかね。それは、まず不可能な事だよ」
ここで、後藤雄一は、ウッとつまずいてしまった。……確かに、森田名誉教授の言う事にも一理あるのだ。
あっと言う間にタバコ1本を吸い終わった森田名誉教授は、更に、もう1本のタバコに火をつけた。
「そこまで調べているのなら、では、私のほうから述べよう。まあ、君が信じるかどうかは別の話だがね」と、こう言って、森田名誉教授は、一連の驚くべき事件の概要を話始めたのである。
それは、確かに、理路整然としており話に一切の矛盾は無かったのである。
「まず、事の発端は、本田秀一君の入試成績からスタートしているのだ。本田君の入試成績は、私の記憶の中では、文学部始まって以来の成績だった。T大の法学部でも医学部でも楽に合格できる成績だったのだよ。この事を不思議に思った私は、入学して1ケ月目の彼に声をかけて、何故、この学部学科を選んだのか、それとなく聞いてみたのだ。
すると、最初は、渋っていたものの、彼は、
「僕は、復讐のために心理学を専攻したのです」と、こう言うのだ。
一体、誰に復讐するのかと聞いたら、高校時代の恋人と、その恋人を寝取った1学年上の先輩だと言う。この話を淡々とする顔付きを見て、私は、彼をサイコパスだなと感じた。
さて、問題はこれからであって、この2人をいかにして、自分が直接に関わらずに、つまり心理学的方法を駆使して死に追いやる事ができるかを研究するために、この学部学科に進学したと言うのだ。
それのみならず、この私に、何らかのうまい方法が無いか質問してきたのだ。
無論、私は、即座に拒否したのだが、本田秀一は、世田谷の私の家のスマホの写真を見せて、
「先生の家には、奥さん、実の娘さん、その夫、そして目に入れても痛く無いほどの可愛い2人のお孫さんがおられますね……夜、寝ている内に、一家全員焼死と言う事態も起こりえますよ。勿論、僕に協力して下されば、その危険性は亡くなりますがね……」と、こう私を脅迫したのだ。
私1人の問題なら、老い先短い命だし、断固、拒否したのだろうが、家族の命まで狙うと脅されては、協力しない訳にはいかない。
しかも、本田秀一曰く、自分は将来のある身だから、毒殺や刺殺のような直接証拠の残るやり方ではなく、徐々に心理的に追い込んで殺していく方法を教えろと言うのだ。そんなものは、心理学という学問が成立してから、まともに研究された事は無い。
しかし、彼は、カルト教団の団員が命じられるままに殺人を起こした事例をあげ、何かそのような方法を、現代的な手法で行えないか?と提案してきたのだ。
そこで、彼の恋人を寝取ったと言う井坂豊が、今流行のユーチューバーだったと言う話を聞き、このユーチューブを使って何か出来ないか?と、私は考え、かって都市伝説のように流行ったサブリミナル効果を使っての、殺人の実行を彼に伝授したのだ。
こうしてできあがったのが、あの『チワワのチーちゃん週間物語』の投稿動画だったのだよ」
森田名誉教授は、既に3本目のタバコに火を付けていた。スティール製の机の上だけが妙に綺麗に整理されていたため、机の上のタバコの灰皿には、既に30本程度の吸い殻があった。結構なヘビースモーカーである。
「では、何でも聞いてみますが、東優子はこの事件に何か関係しているのですか?」
「君は、東優子さんをどうして知っているのだ?」
「実は、彼女は僕の妻で、既に同棲しているのです。結婚式もまだですし、籍もまだ入れてませんが」
ここで、森田名誉教授の顔色が、少し暗くなった。
「君の奥さんだったのか?どおりで、この井坂豊の事件について、君が興味がある理由が理解出来たよ。ただ、残念な事だが、優子さん自信は全く記憶していない筈だが、この井坂豊の心理誘導に大きく関わっていた事は事実だ。
勿論、後催眠効果により、彼女の記憶には何も残っていない筈だがね」
「優子は、一体、今回の事件でどんな役割を果たしたのです?」
「それを今から説明しよう。さっきも言ったように、サイコパスの性格を持つ本田秀一は、一匹のチワワを飼い、その最終画面に例のサブリミナル効果のあるCG画面を載せて、ユーチューブに投稿した。彼の殺害目的の一人でもある井坂豊もユーチューブの世界では、結構有名だったらしいから、この画面をきっと見る事を想定してだ。
そのうちに、君の社の週刊誌が『狂気のユーチューバー、自分の愛犬を食べるのか!』を掲載後、視聴者数は飛躍的に増加した。私の計画はうまくいくように自分でも思ったものだ」
「あの記事を書いたのは、この私です」
「多分そうだろうと思ったよ。
だが問題は、半年たっても、肝心の井坂豊が同居人の小林奈々を殺そうともしない。そこで、本田秀一は、更なる心理的攻撃を仕掛けるように私に迫ってきたのだ。
しかし、私自身は催眠術には自信を持っているものの、これを仮に本田秀一に教えたところで、本田秀一は井坂豊には直接にはまずは会えまい。そこで、私が目を付けたのは、本田秀一の同級生の東優子さんだ。しかも、私なりの直感で、彼女には何か独特の犯罪者的心理が潜んでいるように感じたから尚更だ。しかもよく聞いてみると、東優子さんの高校時代の1学年上の先輩が、あの井坂豊ではないか。
こんな絶好のチャンスはない。彼女は、ミスT大で準グランプリも取っている。美人の彼女が誘えば、井坂豊は、女好きそうだからホイホイと出てくるであろう。彼女に、強烈な催眠術を教えて、井坂豊を心理誘導する。……そして、井坂豊をして同居人で恋人の小林奈々を殺害させる。最後は、その井坂自身も自殺するように心理誘導する。
そして、その心理実験は、思いの通りにいったのではないかな。
しかし、これにしても学問的には実に難しい問題があるのだ。
つまり、果たして、サブリミナル効果+強力な催眠術が効いて、井坂豊が同居人の小林奈々さんを殺害したのかの検証が完全にできていないのだ。
井坂豊の言動を聞く限りは、うまく行ったとは思ってはいるがね…。
しかし、これにしたところで、もしかしたら、井坂豊は何らかの人格的障害を有していて、ただ、その障害により、あのような支離滅裂な発言を繰り返したのではないか?この疑問は、心理学者としての私の脳裏からは消えていないのだよ」
「しかし、日本中でも数本の指に入るような高名な学者3人が、全員、井坂豊は精神障害では無いと言っているじゃありませんか?」
「そんなものは全く当てにならないよ。あの連続幼女殺人事件の主犯:宮崎勤の精神鑑定書自体が、3人の学者の意見はバラバラであったではないか。私から言わせれば、精神鑑定とは鑑定する人の主観で勝手に決めていると言うのが実態だ。
もっと言わさせてもらえれば、井坂豊が恋人で同居人の小林奈々さんを殺害したのも、ミス準T大の東優子さんと井坂豊がこっそりと会っていた事を、何かの事情で小松奈々さんがそれを知って、嫉妬のあまり井坂豊を責め続けて、その結果、井坂豊が口うるさい小林奈々さんを殺害した事も十分考えられるからなぁ。
だから、私自身が、サブリミナル効果+強烈な催眠術で、井坂豊が本当に小林奈々さんを殺したかについても、実は大いなる疑問を持っているのだ」
「なるほど、素晴らしい説明です。で、その後、本田秀一が焼身自殺するようにしたのは、森田名誉教授が催眠術を使って、本田秀一の持っていた全ての証拠隠滅を計ったからではないのですか?」
「ははは、それも絶対に無いね。それに君は、催眠術を何か万能の技術のように考えているらしいが、長い催眠術の研究の歴史で催眠術をかけて人を自殺に追い込んだ事例は、一切、報告されていない。人間には、やはり生きる本能が異常に強く、簡単に催眠術でその本能を壊す事は出来ないと言うのが心理学上の通説だよ。
唯一、催眠術で自殺させようとするならば、例えばの話だが、高層ビルの屋上に誘い出して、
『あなたの目の前に綺麗なお花畑があります。さあ、その前に行ってその綺麗なお花を摘んでみましょう』と誘導して、本当にうまく行けば、本人が勘違いして高層ビルから落下して殺す事ぐらいだろう。
とにもかくにも、まあ、君が信用するかどうかは疑問だが、本田秀一の焼身自殺の件は私の推理では、本田秀一にも若干の良心が残っていて、その呵責に耐えかねたのではないのかなぁ。
ただ、これらの一連の事件の真相は、全ての筋書きを書いた真犯人とされる本田秀一も死に、被害者兼加害者の井坂豊も死んでしまった以上、実は、全てが只の推理と空想の世界の出来事になってしまったと言う事だよ」
と、ここまで話した後、急激に、森田名誉教授が頭が猛烈に痛いと言って、バーンと、のけぞり返った。バットで殴られたとかと思うような激しい痙攣動作をした後、急激に意識を失ったのだ。
異常に大きないびきをかいてイスに座っているが、既に、首をイスの後方に垂らし、両腕もだらんと垂れ下がっている。
「森田先生、森田先生!」と、後藤雄一が何度読んでも返事が無い。
これは異常事態だ。直ぐに救急車を呼んだ。救急隊員に救急車の中で色々聞かれるが、自分でも何の事かよく分からなかった。即座にT大医学部付属病院に緊急搬送され、救急医らが出迎えて森田名誉教授の治療に当たったが午後7時15分には死亡が確認された。
くも膜下出血であった。
しかし、ああ、何と言う事だ!この数日で、殺人犯の井坂豊は縊死、本田秀一は焼身自殺、一番事件の鍵を握ると思われた森田名誉教授までくも膜下出血で死亡と、連続して亡くなるとは、一体、どういう事なのか。
俺は本当についてない。結局、この件から手を引けと言う暗示なのか?
さんざん、疲れた体で、夜の11時過ぎに、妻の優子のいるマンションに帰った。 しかし、いつものような明るい返事が無い。急に不安になった後藤雄一は、マンションの奥に急いで入った。
しかし、そこで見たのは、マンションの壁に大きなS字フックを取りつけて、ロープで縊死していた妻の優子の姿であった。
テーブルの上には、妻の優子の自筆と思われる遺書が残されていた。
しばらく呆然として、その遺書も読む気もしなかったが、数分後、気を取り直して妻の遺書を読んだ。
『雄一さん、大変に短い間だけど幸せな時間を頂いてありがとうございます。私は、何か、取り返しの付かない事をしてしまったようです。勿論、よく思い出せないのですが。でも大変な何かを行った事は覚えています。ですので、責任を取ります。ごめんなさい』とあった。
しかし、何故だ?何故、最愛の優子が自殺しなければならないのだ?
今日の、森田名誉教授の話では、優子が井坂豊と何らかの接点はあった事は容易に想像できる。しかし、森田名誉教授が言ったように、優子に催眠術を教えて井坂豊を心理的に追い込んだなどと簡単に言うが、エリクソニアン催眠法は究極の催眠術とも言われ、そう簡単に覚えられるものでは無い。この事は、優子自身も常々私に言っていた事だ。
だとしたら、今回の事件で、優子は一体どんな役割をしたと言うのだ?自ら、死ななければならない程の悪事を働いたとでも言うのか?あるいは、こんな不思議な心理事件に顔を突っ込んでいる内に、自分の保育所時代の記憶が蘇り、かって野良猫、数匹を生きたまま砂場に埋めて殺した事を急に思いだし、急激な後悔の念に襲われたのだろうか?
だが、この一連の事件の関係者は、もう誰もいないのだ。調べようが無いのだ。
遺書の横に、何かの薬品の入ったプラスチックのケースが置いてあった。そのケースには何の張り紙も貼ってない。遺書には続きの文があった。
『テーブルの上に置いてあるのは、私が個人輸入で買った米国製の精神安定剤です。もし、ガックリされたのなら飲んで下さい』
馬鹿を言うな!激烈な週刊誌記者同士の取材合戦を乗り切ってきたこの俺が精神的に弱る筈が無い事を、妻の優子が一番よく知っている筈ではないか!だが、後藤雄一は、妻の思いを即理解した。そのプラスチックのケースの中に入っているのは、単なる精神安定剤では絶対無い筈だ。
後藤雄一は、妻の優子が本田秀一との会話を録音したデジタルボイスレコーダー、そして今日、T大の大学院で会話した森田名誉教授の録音が残っている2台のデジタルボイスレコーダーをハンマーで粉々に粉砕し、マンションの金属ゴミ入れに捨ててきた。愛用のパソコンのハードディスクも壊した。それだけの準備を終えて、後藤雄一は得体の知れない薬剤のカプセル数個をコップの水で飲み込んだ。
次いで、大学の同級生の警視庁警部の上原浩二に、スマホから電話した。
「愛する妻の優子が何故だか自殺してしまったよ。俺も、妻の後を追うよ。色々とありがとう」
「まて、早まるな、例の井坂豊事件の本当の黒幕が分かったんだよ!」
「知ってるよ、本当の犯人は本田秀一、それに脅迫されて荷担したのがT大の森田名誉教授なんだろぅ……」
「それが、ついさっき、井坂豊の殺人事件と自殺、本田秀一の焼身自殺これも結局は他殺だったのだが、T大の森田名誉教授をも巻き込んだ真犯人が自首してきたのだ!」
「い、いったい、だれだ、そいつは……」段々、眠気が後藤雄一を襲ってくる。
「それらの全てに共通の関係を持っていた人間、中野涼子だったんだ」
「な、なんんだって、なぜ、かのじょが……り、りかいできない」
「本人の弁によれば、入学早々、森田名誉教授に非道いセクハラ行為をされたとかで、同級生の本田秀一と組んで、森田名誉教授を脅迫したらしい。ところで、後藤、大丈夫なのか?」
「うーん、だんだん、ねむけが……」
「今、自宅のマンションだな、直ぐに救急車を呼ぶから頑張れ!」
だが、後藤雄一の耳は、徐々に聞こえなくなっていった。
了
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