一・二 彼女

 「手紙?」


グラスやお皿が重なり合う音、オーダーを取る声、客同士の会話。

聞き慣れた雑音を背後に、今朝焼いたほんのり甘い卵焼きを頬張る。


隣に座る梨花はこのカフェで一緒に働いている同期だ。

私の話に耳を傾けながらもコンビニで買ったあんぱんは

しっかり口に運んでいる。

その表情は神妙にとれる。

口に入れられたあんぱんは豆乳で流し込まれていく。


「で、その手紙がどうしたのよ」


のりたまのふりかけがかかったご飯を食べようとすると

視界に梨花の顔が飛び込んできた。


「宛名が、何も書かれてなくて」


「ふーん」


 今朝、バイトに行く前に玄関ドアの郵便受けに何か入っているのを見つけ

見てみたら糊付けされた白い封筒が入っていた。

時間も迫っていたので、シューズラックの棚の上に置いてきてしまった。


「心当たりは?」


「ん〜、ないかなぁ」


ズズズと絞るようにパックの豆乳を飲み干すと少し心配そうな横目で

梨花が見ているのがわかる。

数個の菓子パンの袋と、飲み干した豆乳パックを乱雑にコンビニの袋にいれ

口を縛る。


「気になるなら見てみなよ、変なのなら捨てちゃえばいいじゃない?」



 

  


 





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猫と紅茶とコーヒーと 秋月 桜雨 @sau_0520

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