アルカナの実

Bio

✾ Episode.1 ✾ 『儚い命の一族』



 ――わたしたちには、とても厄介やっかいのろいがかけられている。


「おい、蛇柿たかき!」

 襟足えりあしながばした茶色ちゃいろかみおとこが、篠突しのつあめ地面じめんたたきつけるようにはげしく大雨おおあめのこと】のなかを、ころもよごれるのもかまわずにいかけてきた。

勝手かってに一人でどっかくなよ!」

 ふとうしろからつよちから手首てくびつかまれ、そのいきおいのまま、こえのするほうへとせられる。あめれて、つめたくしわになっているおとこころもがひんやりとほおたったが、それでも蛇柿たかき動転どうてんしていて、自我じがうしなったようにおとこうでなかあばまわる。

「やめてよ! いまは一人にさせて‼」

 ザアザアりのあめにもけないような金切かなきごえが、容赦ようしゃなくかれ鼓膜こまくおそかる。

 それでもおとこ蛇柿たかきはなそうとはせず、かえってうでめるちから一層いっそうつよくさせた。

はなして‼」

 あめじって嗚咽おえつかえ蛇柿たかき彼女かのじょ自分じぶんよりも圧倒的あっとうてきちからうごきをふうめようとする九つうえ相棒あいぼううで躊躇ためらいなくみつくと、かれあかひとみをキッとにらみつけて、さらなる抵抗ていこうせる。

 おとこかる舌打したうちをした。

「おい、蛇柿たかき正気しょうきもどれ‼」

「…………っ‼」

 そうやって何度なんども、何度なんども、蛇柿たかきびかけ、彼女かのじょいかりがしずまるのを辛抱しんぼうづよつづける。

 やがて体力的たいりょくてきにも、精神的せいしんてきにも、あらがうのにつかれてきて、あっちこっちにされていた蛇柿たかき両手りょうてうしなったようにしずかにろされるのをると、おとこはようやくめていたいきすことができた。

「――ちょっとはいたか?」

 そうこえをかけると、蛇柿たかきたよりなさげにコクリとうなずく。けれどまた今朝けさのことがおもされたのか、彼女かのじょかおおおって、「鈴瑪すずめ。わたし、どうしていいかからない」とふるえるこえささやいた。


 ――ここには、ながきられないひとたちがあまりにもおおすぎる。


 おとうとみこと昨日きのう、五さい誕生日たんじょうびむかえたばかりだった。そのときは別段べつだんわった様子ようすはなく、料理人りょうりにんらがうでふるってつくったご馳走ちそうつくえうえならべられるのをて、「いつになったら、ごはんべられるのー?」と、かがやかせていてきたものだ。

 だれ数時間後すうじかんごかれ寿命じゅみょういのちとすことになるとは、予想よそうもしていなかったことだろう。太陽たいよう山端やまはからかおのぞかせ、とりたちがあささえずりをはじめるころ、みことはすでに布団ふとんなか身体からだつめたくさせていた。

 それからすぐに雲行くもゆきがあやしくなって、れるかぜが、とおくのからずっしりとおもたい黒雲くろくもれてきた。

 ときどきくもあいだ稲妻いなづまけ、すこおくれて、地面じめんるがすような雷鳴らいめいとどろく。そのいきおいはよるになったいまでもおさまることはなく、びたものたちのこころふかく〝みこと〟をきざみつけた。

「そんなにくなよ。おれまできそうになるだろ」

 鈴瑪すずめ悲痛ひつう面持おももちで蛇柿たかきあたまくと、しろかべこうからくぐもってこえてくる〝死者ししゃとむら〟にみみませた。

「この世界せかいには、やっぱりおれたち人間にんげん理屈りくつじゃ説明せつめいできないようなものもあるんだな」

 そうひとちると、蛇柿たかきは「――このままなにもしないで一生いっしょうえるのは、いや」と、あめにもけそうなこえう。

おれもだよ」と、鈴瑪すずめあきらめまじりのちいさなこえみじかこたえた。

空恋あれんさん【現在げんざい継国一族当主つぎくにいちぞくとうしゅであり、蛇柿たかきみのおや】がいま二十八だっけ? あのわかさですでいのち危機ききさらされているんだからなぁ。おれたちの運命うんめいってのは、本当ほんとう残酷ざんこくなもんだぜ」

 そう鈴瑪すずめも、今年ことし二十五さいむかえる。世代せだいえば蛇柿たかきの一つうえにあたり、空恋あれんおな位置いちにいた。

おれ年齢的ねんれいてきにそろそろヤベェな」

 鈴瑪すずめうえいて、自虐的じぎゃくてきわらった。

おれ母親ははおやは、父親ちちおやよりかは長生ながいきしたけど、それでも三十三で力尽ちからつきた。父親ちちおやはもっとはやくて、んだのは二十八のときだったかな。おれもあと何年なんねんきられるんだろうな」

 鈴瑪すずめの――自分じぶんせてくれるうでちからすこしだけよわまった。

 蛇柿たかきはそれをけて、おびえたようにまるくする。ここでまかせにおびえのじょう全面ぜんめんしてしまえば、おとうとうしなったいまよりもっと、ずっとおそろしい気持きもちになる。そしたら本当ほんとう自分じぶん自分じぶんでいられなくなってしまいそうな、そんなあぶない予感よかんがした。

「バカ」

 蛇柿たかきみじかった。

わたしいてさきかないで」

 そうちいさくひとちて、よりつよかれ身体からだをギュッときしめる。げてくるもののせいで、たった一言ひとことつたえるだけでも、こえふるわせないよう言葉ことばにするので精一杯せいいっぱいだった。

 鈴瑪すずめ心底しんそこおどろいた表情かお蛇柿たかきつめる。

 やがて「まぁ、それもそうか」と納得なっとくしたようにこたえると、今度こんど身体からだすこかがめて、蛇柿たかき首筋くびすじにそっとかおうずめた。

身近みぢかひとんだ直後ちょくごだと、やっぱりどうしても悲観ひかんしやすくなるけれど、ちょっと冷静れいせいになってかんがえてみれば、俺達おれたちだってまだまだわかいんだよな。早々そうそう自分じぶん運命うんめいあきらめるにははやすぎるんだよな」

「――――」

 蛇柿たかきかおげる。

 今朝けさ大好だいすきだったおとうとんだ。あまりにも唐突とうとつすぎるわかれにこころすさみ、かなしみにれた一日をおくっていた。でも、こうして鈴瑪すずめうでぬくもりにれていると、すこしでも心安こころやすらぐ瞬間しゅんかんることができる。

 それをかんがえると、大切たいせつだれかがいなくなるたびに自暴自棄じぼうじきになって、ただ悲観ひかんしているだけではまえすすめないのだろうとおもう。

わたしたちだって無力むりょくじゃない」

 蛇柿たかき自分じぶんかせるようにった。

「ほんのすこしでも、なにかできることはあるはずだわ」

 目尻めじりからつたなみだぬぐいながら、蛇柿たかき透明感とうめいかんのあるみどりひとみ鈴瑪すずめえる。いつのにか雨足あまあしよわまり、ずっしりとおもたい雨雲あまぐもも、またとおくのへとながれつつあった。




          ~・~ ◇◆◇ ~・~




 〝わたしたちは、短命たんめい一族いちぞくである〟


 そうささやかれるようになったのは、ここ最近さいきんはなし。むかしは特別とくべつまわりからあわれまれるほど特異とくい性質せいしつをもっているわけではなかった。

 その証拠しょうこもっとふる文献ぶんけんの――いまにもくずれてしまいそうなもろいページをめくっていくと、ここ〝継国つぎくに〟というちいさなしま名前なまえとともに、このくに初代しょだいとされる五人の名前なまえのこされていた。

 一人は〝王雅おうが〟とばれるリーダーかく男性だんせいかれはなんと九十さいまできたそうだ。

 そして二人目は、かれつまとしてその生涯しょうがいえ、生前せいぜんうつくしい容貌ようぼう存分ぞんぶん振舞ふるまっていた〝呼鼓ここ〟とばれる妖艶ようえん女性じょせい彼女かのじょ王雅おうがよりも二さいながきている。

 そしてつぎ名前なまえつらねるのは、〝ぜん〟というおとこかれは五人のなかもっとはやくにいのちとしているが、〝笑柳える〟という女性じょせいむすばれ、を三人ほどもうけているらしい。

 のこされたもう一人のおとこは〝すい〟という名前なまえらしかったが、かれかんする情報じょうほうは、ここではあまりかされていない。

 なにはともあれ、かれらがきていたのはいまからおよそ九百年もむかしのはなし。


 ――まれるごとに十ねん


 わたしたちの寿命じゅみょうはどんどんみじかくなっていく。いまじゃ平均年齢へいきんねんれいも十六さいにまでち、最年長さいねんちょうとされる継国一族現当主つぎくにいちぞくげんとうしゅですら、二十八さいというわかさで、はやくも寿命じゅみょう危機きき直面ちょくめんしていた。

 その不思議ふしぎ面白おもしろがっているのか、それともあわれんでいるのか――。

 うわさきつけ、一目ひとめようと、うみこうから度々たびたびやって旅人たびびとたちは、わたしたちが頻繁ひんぱん葬儀そうぎかえしているのをたりにすると、〝ほろびゆく一族いちぞく〟だとか〝はかないのち一族いちぞく〟だとかって、みなくちそろえて勝手かって表現ひょうげんするのだ。

 そして最後さいごわたしたちをひとではないべつのもの――たとえば、かみや、ほとけなどのたぐい――としておそうやまい、なんともえない哀情あいじょうふくんだをして、しずかにこのしまっていく。

 すると余計よけいわたしたちは自分じぶん運命うんめいのろい、みじめにおもうのだった。

「……はぁ」

 蛇柿たかきちいさなためいきいて、ほこりかぶったふる書物しょもつじた。

 まどそとはすっかり秋模様あきもようあつなつ日差ひざしがとおのいて、木々きぎ色鮮いろあざやかなころもまとう。

 蛇柿たかきはおもむろにがって、つくえまえまどけると、しばらくのあいだそと長閑のどか風景ふうけいをじっとながめていた。

 みこといのちとしてから、はや一ヶ月。ひまさえあればこうして書物しょもつあさり、隅々すみずみにまでとおしては、自分じぶんたちの〝〟がいつからのろわれているのか、その経緯けいいについて調しらべていた。

 だが、その調査ちょうさおもった以上いじょうはかどらない。これらの文献ぶんけんなかには、いつ、だれが、どのようにしていのちとしたのか――その事実じじつだけが淡々たんたんしるされているだけで、連鎖れんさがかりを一つもつかむことが出来できなかったのだ。

 おまけに、ところどころページがやぶれていたり、部分的ぶぶんてきかみ千切ちぎられていたりするので、もっと肝心かんじんなところが結局けっきょくからずじまいでわってしまう。

 そんな様子ようすが一ヶ月以上いじょうつづいたとなれば、さすがに蛇柿たかきもうんざりするほかない。

「はあ」

 蛇柿たかきはイスのもたれにちからなく身体からだあずけると、じてうえいた。

「こうしているあいだにも刻一刻こくいっこくと、わたし寿命じゅみょううばわれていくのね……」

「…………」

「…………」

「…………」

「ねぇ鈴瑪すずめ

 蛇柿たかきは、自分じぶんのベッドで堂々どうどうそべっている鈴瑪すずめの、悪戯いたずらっぽくわらったかお横目よこめにらみつけた。

「さもわたし言葉ことばみたいにわないでくれる?」

「そんなるなよ。本当ほんとうのことだろ?」

 口元くちもとかるみをかべながら、鈴瑪すずめはゆっくり身体からだこす。

「で、さがものつかったのか?」

「ううん、まったく」

 蛇柿たかきくびよこってこたえた。

「〝死者ししゃくちがない〟ってまさにこのことだわ。わたしがどれだけページをめくっても、ぜんぜんしいこたえがつからないの」

「まぁここにある文献ぶんけんなんて、どれもそんなもんだろ」

 鈴瑪すずめうと、蛇柿たかき眉間みけんしわった。

「どういうことよ」

「だってさ、」

 そういながら、鈴瑪すずめあたまうしろで両手りょうてむ。

「おまえいえ代々だいだいその文献ぶんけんのこされてきて、いまもなお情報じょうほうされていっているのなら、絶対ぜったいだれかしら重要じゅうよう情報じょうほうにするはずだろ? でもだれ自分じぶんたちの〝〟について、なぞ解明かいめいする手立てだてをこうじようとしない」

「うん」

「ということは、だ。いま手元てもとのこされている文献ぶんけんのほとんどが意味いみをなさないということになる。重要じゅうよう情報じょうほうだれかの意図的いとてきやぶられているみたいだし、そりゃ、どこをくまなくさがしたって、しいこたえはつけられないだろうよ」

「じゃあわたしが一か月以上いじょうついやした時間じかん苦労くろう全部ぜんぶみずあわだったってこと?」

「まずは自分じぶんむまで、とことん調しらげる。そのほうがおまえ納得なっとくできるだろ? 実際じっさいみことくしたかなしみを、文献ぶんけんあさることによってまぎらわしていたんだから」

「だからって、一か月以上いじょう放置ほうちすることはないでしょ‼」

 蛇柿たかきは「むぅ」とほおふくらませながら、椅子いすからがり、鈴瑪すずめ身体からだをバシバシたたはじめる。

 鈴瑪すずめ蛇柿たかきからんでくるこぶしやら、りやらをかるながしては、たのしそうにわらっていた。




          ~・~ ◇◆◇ ~・~




 ――あき

    それはをかきあつめていもをするには

                      最適さいてき季節きせつなのである。




          ~・~ ◇◆◇ ~・~




 継国つぎくにというちいさなしまは、うみへだてたモルスール大陸たいりく南東なんとう位置いちするちいさな港町みなとまち――ロットから、ふねで二~三時間じかん場所ばしょにある。

 うわさによれば継国つぎくにしまひとはみな短命たんめいで、人口じんこうおよそ六十人未満みまんだという。そのほとんどが二十だい若者わかもので、その未熟みじゅくさゆえに、貿易ぼうえきなどという他国たこくとのつながりにたいしては意欲いよくひく姿勢しせいしめし、まわりがうみかこまれていることもあってか、あまり積極的せっきょくてきにはそとへもないという。

 ゆえにおおくのくには、継国つぎくにしまのことを〝鎖国的さこくてきしま〟とぶようになり、あえて貿易国ぼうえきこくとして仲間なかまりするようなことはなかった。

 だが継国特有つぎくにとくゆうともいえる〝あるうわさ〟をきっかけに、一部いちぶ物好ものずきはこのんでこのしまおとずれたりする。

 鎖国的さこくてきとはいえ、継国つぎくに人間にんげんものこばまない。だがその一方いっぽうで、来訪者らいほうしゃのほとんどがちまたささやかれるうわさ真実しんじつかどうかをそのたしかめにものたちだったので、継国つぎくに人間にんげんもあまり余所者よそものたいして好意的こういてき姿勢しせいせることはなかった。

 それでもまたここに一くみうわさきつけてしまものがいた。

 一人は緑色みどりいろのタイトなズボンに、腹上はらうえまでのおおきな橙色だいだいいろ上着うわぎ羽織はおった少女しょうじょ――ナライ。彼女かのじょ長旅ながたびのおともとなる茜色あかねいろ細長ほそながぼう――ステッキ――を地面じめんして、まだ土地とち興奮こうふんおさえきれずにいた。

「ねぇ、ランタン! ここがあの〝うわさ名高なだか継国つぎくにしま〟だよ‼ わたしたち、いまからかれらの〝神秘しんぴ〟にれるんだよ‼」

「はいはい。かったらすここうね」

 そうって、やんちゃなどもにかせるような口調くちょうこたえたのは、ナライのたびコンパニオンなかまとなるミンクと人間にんげん獣人じゅうじん――ランタン。彼女かのじょはナライが両手りょうてげて万歳ばんざいをしているそのよこで、さっきふね商人しょうにんからったばかりのいもを五本、色々いろいろ道具どうぐはいったおおきなリュックサックにれている最中さいちゅうだった。

「にしても上陸じょうりくしたのがわたしたちだけだなんて、すこさみしいな」

「まぁここは物好ものずきがおとずれることで有名ゆうめいしまだからね」

 ランタンは五本のうち、一本のいもだけがどうしてもリュックサックのなかはいらないことにがつき、溜息ためいきく。

「ねぇ、ナライ。どうやらいもいすぎたみたい。どこかでいも消費しょうひしなくちゃ」

「そんなぁ。いも結構けっこう保存ほぞんがきくし、わたしたちの大切たいせつ食糧しょくりょうじゃん。こんなところ使つかうのは勿体もったいないよ」

「じゃあナライがいもをずっとってあるいてくれる?」

「うっ……」

 ナライは言葉ことばまった。

「ま、まぁさ、すこしこのしま探索たんさくしてからでもいいとおもうんだよね。そこで小腹こばらいたらいもべればいいよ。そのあいだ仕方しかたないからわたしっていてあげる。でもはだかで一本だけいもっているのは、なんかずかしいなぁ」

「でも約束やくそく約束やくそくだからね。はい、いも。よろしくね」

 ランタンは、ナライにえないところでこっそりしたし、イタズラがおでそっとわらった。




          ~・~ ◇◆◇ ~・~




 自分じぶんよりも年若としわか蛇柿たかきは、ちょっとからかうと、すぐにかおあからめて反撃はんげきしてくる。言葉ことばでからかえば、こぶしりがんできて、許可きょかなくそっと身体からだれれば、それでもわらずこぶしりがんでくる。

 武術ぶじゅつ心得こころえがないお嬢様じょうさまだから、反撃はんげきパターンはいつも単調たんちょうで、つむっていても攻撃こうげきけられる。

 だから彼女かのじょ渾身こんしん一撃いちげきがやってたとしても、普段通ふだんどお軽々かるがる鈴瑪すずめ攻撃こうげきかわしてしまうので、蛇柿たかきは〝じゃんけん〟や〝おにごっこ〟などの勝負しょうぶけたときみたいに、ものすごくおこってくる。

 おさないというか、そこがまた可愛かわいいというか。いつしか鈴瑪すずめは、その反応はんのうるのをとてもたのしくかんじていた。

「まずは自分じぶんむまで、とことん調しらげる。そのほうがおまえ納得なっとくできるだろ? 実際じっさいみことくしたかなしみを、文献ぶんけんあさることによってまぎらわしていたんだから」

 もっともらしくってみる。がりなりにも自分じぶんは、蛇柿たかき第二だいにそだてのおやのようなもんだ。空恋あれん蛇柿たかきみ、それからすぐに当主とうしゅになるとまってからは、ほとんど自分じぶん蛇柿たかき面倒めんどうている。

 まぁ、れたもんだ。

「だからって、一か月以上いじょう放置ほうちすることはないでしょ‼」

 蛇柿たかきは「むぅ」とほおふくらませながら、椅子いすからがる。

 鈴瑪すずめはわざとらしくかまえの姿勢しせいをとった。すると真正面ましょうめんから堂々どうどうと、いきおいのある平手ひらてんでくる。鈴瑪すずめはチロッとしたして、わざとなさけないこえしながら、ヒョイッとかるかわす。

なんけるの! 一回くらいはいさぎよらいなさいよ‼」

 蛇柿たかきかおをしてう。それで可笑おかしさがさらした。

おれてるには、まだ百ねんはやいぜ」

「そんな百ねんなんて――、絶対ぜったいにむりよ!」

「そんなの、どうなるかからないだろ? おれたちのだいなにかがわるかもしれん」

 そうってわらいながら、鈴瑪すずめがふとまどそとけたとき――銀杏イチョウかえで木々きぎあいだから、黒煙こくえんのぼっているのがえた。

火事かじか?)

 一瞬いっしゅんそううたがったが、それにしてはやけに局所的きょくしょてきで、周囲しゅうい人間にんげんさわてているといった様子ようすもない。

 鈴瑪すずめだまって眉間みけんしわせていると、蛇柿たかき部屋へやなか煙臭けむりくささにづいて、パタッとうごくのをやめた。

「……なにアレ。山火事やまかじ?」

「――おれはじめはそうおもったんだが、ありゃ、どうも焚火たきびなにかやっているな」

焚火たきび? ここはウチ継国一族当主敷地しきちよ? 勝手かって焚火たきびをされてはこまるわ」

 蛇柿たかき窓辺まどべって、そと様子ようす確認かくにんする。鈴瑪すずめ蛇柿たかきのすぐそばにち、窓枠まどわくひじをかけながらとおくにをやるが、そこそこ距離きょりはなれているようで、くわしい状況じょうきょうはよくからなかった。

 蛇柿たかき自分じぶんよりもあたま二つぶんほどたか鈴瑪すずめかおをじっとつめてった。

本当ほんとう火事かじになったらこまるわ」

「――まぁ、そうだな」

 そうって、鈴瑪すずめなにかをかんがむようにあごゆびえる。

「でも、ちょっとてよ。これはもしかすると好機こうきかもしれん」

「どういうこと?」

 キョトンとしたかお蛇柿たかきたずねる。鈴瑪すずめ観音開かんのんびらきのまどをゆっくりめた。

おれたちの〝〟のことをくいい機会きかいかもしれないってことだよ。だってひと敷地しきちってかっていながら、こんなことするのは、おれたち継国つぎくに以外いがい人間にんげんしかいないだろう? 外国がいこく人間にんげんくのはお門違かどちがいかもしれないけどさ、おれたちじゃすで手詰てづまりなんだ」

「……本気ほんき?」

 蛇柿たかき至極しごくおどろいた表情かおになった。

「〝継国つぎくに〟は、わたしたちからまれているのよ。それをうみへだてた外国がいこく人間にんげんくなんて……そんなこと、あのひとたちにかるわけがないじゃない」

「でもおれたちは〝自分じぶんたちの〟のことをほとんどかっていない。ただ、どもがまれるごとに十ねんいのちつむげばつむぐほど、次世代じせだいきるらの寿命じゅみょうがどんどんうばわれていっているんだ。その有様ありさますべなく見守みまもっているだけなんて、それこそなにかっていないのとおなことだろ」

 蛇柿たかきくちすぼめて、その言葉ことばにしぶしぶうなずくしかなかった。

「とりあえず、あそこで焚火たきびをするのはめてもらおう。まわりにはおおいし、まんいちほかうつったら大変たいへんだ。それから、ついでに〝継国つぎくに〟のこともいてみる。それでいいか?」

「――うん」

 蛇柿たかきはさらにしぶ表情かおをして、こんもりと眉毛まゆげがらせた。

大丈夫だいじょうぶだよ。そんなに心配しんぱいするな。たぶんわるひとたちじゃない」

 鈴瑪すずめ蛇柿たかき眉間みけんしわっているのをてクスッとわらいながら、彼女かのじょ安心あんしんさせるようにあたまやさしくでてやる。

何事なにごともまずは〝最初はじめ一歩いっぽ〟だ。なんでだれおもいつかなかったんだろうなー。まるくらいなら、最初さいしょからだれかのたすけをもとめりゃかったんだ」


           

 

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