進撃の漫才師!!!

立花 優

第1話

漫才師の世界は厳しい。




 かって、「8.8秒バズーカ」と言うコンビがあったが、あっという間に人気が無くなった。




 芸人の世界は、甘くは無いのだ!




 そう、一発屋芸人は、履いて捨てる程いる。




 だが、この漫才コンビ「神風」は、令和5年の初夏に、SNSに、そのネタを投稿後、爆発的な人気を得たのだ。




 コンビ名は「神風」。しかも、そのコンビの構成員が一風変わっていたのだ。


 独りは、私立Z大学政経学部で国際政治学を専攻中、もう独りは同じZ大学で文学部哲学科在籍中である。同学年である。Z大学とは、私学では日本最高峰なのだ。


 この二人は、Z大学の中でも、その能力は際だっており、将来の同大学の教授候補とまで、言われていたのである。




 一人の学生は宇部真一と言い(多分、芸名だろう)、もう一人の学生は山下哲也と言った(多分、これも芸名だ)。  




 しかし、二人の漫才は、漫才界の大御所で世界的映画監督でもある、南野たけし氏に絶賛された。


「俺は、何故だか分からないが、コイツらの漫才の予言を信用する」と。




 これによって、二人は、わずか1週間で時代の寵児になった。




 朝、目を冷ましたら、日本の国中知らない者は、誰、一人いなかったのである。




◆ ◆ ◆




 二人の漫才が、何故、それ程の人気を得たのか?




 ここで、その漫才を、一部、再現してみたい。




◆ ◆ ◆




 まず、最初に、ボケ役の山下哲夫が、強力な光を放つLEDランプを持って、舞台の袖から出て来るのだ。




 そして、一言、




「おお、あのオソロシア帝国が、現在、交戦中のウラナイナ共和国の首都のキウイに、核兵器を落とす。


 その日は、10月15日だ!もう直ぐに世界は滅亡し、核戦争で「核の冬」の時代に入る。




 太陽一つ見えない暗黒の時代が即やって来るのだ。だから、俺はこうやってLEDランプを持っているんだ……」




 それに、対して、突っ込み役の、宇部真一が、強烈な突っ込みを入れる。




「そりゃ、あんたの妄想だろうがいね。


 いくら、オソロシア帝国のオーチン大統領が窮地にあったとしても、そんなに簡単に核兵器を使う訳ねえじゃ無いか。


 そうすれば、世界中の非難を全て受ける事になる。いや、もっと言えば世界滅亡になるのだ。




 大体が「核の冬」って何や?




 俺がオーチン大統領だったら、そんな危険な賭けには出ないがねえ……」




「んにゃ、それこそ、間違っとるばい」と、山下哲夫の出身地の片言の鹿児島弁が出る。




「いいかい、オソロシヤ帝国にはもはや兵器も食糧も無い。あるのは、核兵器だけなんや。これを使わぬ手は無いでごわす。で全ての核兵器を使う。そのせいで、世界中の空はチリやホコリで真っ暗になる。そして太陽の光は地上に届かない。これが「核の冬」ばい」




「そんな、西郷(せご)どん、みたいな言い方をすんなよ。全くもう。


 そんな情けない事言うなよ。お前だってさ、まだまだ青春時代を謳歌したいやろうに」




「いや、この俺は確かに夢で見たばい。この世の終わりの惨劇を!」




「じゃ、それは一体、いつだと言うのだ!」




「さっきも言っただろうが、10月15日の日曜日だ!!!」




◆ ◆ ◆




 この頃、この日本の若手漫才師の、一見、予言じみたMANNZAIが、アメリカン合衆国のパーデン大統領にも、伝聞で、伝えられていた。




「ふーん、日本の若手コメディアンがそんな馬鹿げた事を予言して大ブレイクしているんかい?しかし、そうは絶対為らないよ」




 このパーデン大統領には、絶対的な自信があったのだ。


 密かに、超強力な電磁波で、弾丸を発射する「レール・ガン」が既に完成していたからだ。アメリカン合衆国で作成された映画の元ボディビルダーのフワちゃん主演の『イレイザー』のような兵器なのだ。




 オソロシヤ帝国には、最高速度マッハ20で飛ぶ、多弾頭核兵器を積めるICBM(大陸間弾道弾)の「マサル」がある。


 しかし、新たに、開発されたレール・ガンの弾丸は、その5倍の速度、マッハ100で飛び、成層圏で、レーダーで捕らえた物体を、瞬時に破壊する。


 このレール・ガンの発射実験のせいで、電力不足が生じ、アメリカン合衆国の一部の州は、一時的に停電になった程なのだ。




 その実験とは、アメリカン合衆国の誇る超重爆撃から発射された、「マサル」と同等クラスの速度の、ミサイルの成層圏での迎撃実験だったが、見事、一発で成功したのだ。




 これで、オソロシヤ帝国は、もう、怖くは無い。パーデン大統領は、そう思った。




 この、「レール・ガン」は、2器製造され、1器は自国へ、もう1器は、既に、ED共同体の某国に、運び込んで、いつでも敵ミサイルを、迎撃可能状態にスタンバイしている。




◆ ◆ ◆




 漫才コンビの快進撃は更に続く。8月に入って、例の漫才コンビの「神風」は、その内容が、もっともっと過激になっていった。それだけ人気も過熱して来たのだろう。




 8月6日の日曜日には、異例の早さで、日本武道館で漫才コンサートを開いた。




 ここで遂に、戦前の石原某が唱えた『世界最終戦争論』を、漫才のネタに取り込んだ。




 今から、約80年以上も前に書かれた、戦争物であったが、その内容を解釈し、今回のオソロシヤ帝国への話へと、続けて行くのだった。


 この『世界最終戦争論』の内容は、近い将来、ED諸国、旧ラ連邦、日本国、アメリカン合衆国の4つの勢力に別れ、最終的に、日本国、アメリカン合衆国の二カ国で戦争(世界最終戦争)が起こると言うものである。


 この予言は外れたが、その書物の中に、一発で敵を撃滅する兵器の話が出てくる。つまり、核兵器の出現を予言した事は、特筆に値するだろう。




 しかし、日本中の国民は、この秀才二人の、予言漫才に異常に注目していたのである。まるで、聖書に書いてある「ハルマゲドン」の記述を、信じるかのように……。




 ジリジリと焼け付くような令和6年の夏。東京都の最高気温は、史上初、摂氏42度を超えた。この異常な気温も、日本人の心を、徐々に壊していったのかもしれない。




 ある時、どこかの市で、『この世の終わり音頭』が、唄われ出した。SNSで即座に拡散。




「あーあ、もう、この世の終わりだ、めでたいな、おしまいだ」




 この歌の文句に、曲を付けただけのものだったが、まるで、幕末の「ええじゃないか」の再来では無いか?あっという間に、日本中に広まった。


 ある地区の盆踊り大会では、この『この世の終わり音頭』の採用が決まったとニュースになった。




 漫才コンビの「神風」も、即、これを取り入れて、日本武道館の舞台の上で踊り始めた。観客の皆も、座席で、声を合わせて踊り出した。




 東京都の渋谷、原宿、新宿でも、若者達が、この『この世の終わり音頭』を踊りだした。摂氏42度の酷暑の中でである。


 熱中症で倒れる若者が続出したが、既に、巨大な時代の流れになっていたのだ。




◆ ◆ ◆




 遂に、運命の10月15日になった。日曜日の事だった。




 しかし、ウラナイナ共和国の首都のキウイに、何の変化も無かった。




 日本中の国民は、急激に、熱が冷め始めた。目が覚めたのだ。




 漫才コンビ「神風」のSNSは、大炎上になった。




 漫才界から追放しろ、と!




 母校の、Z大学には、火炎瓶まで投げ込まれる始末。もはや、国民の怒りは、止められそうにも無かった。




◆ ◆ ◆




 しかし、世界中の誰もが知らなかったが、正にこの日、つまり10月15日の日本時間夜遅く、オソロシヤ帝国は、最新秘密兵器の原子力推進魚雷「マーメイド」4発を極秘に海中に発射していたのだ。


 オーチン大統領の命令でだ。




 アメリカン合衆国の誇る大都市のN都市、その西海岸、ED共同体の中心国、そしてこの日本国への4つに、同時期に着弾するように、精密に、魚雷の速度と順路がプロミングされ、計算されていた物をだ。




 この「マーメイド」には、それぞれ数十メガトンの水爆が積んであったのを、日本人も、アメリカン合衆国の全員も、ED共同体の誰も、全く知らなかったのだ。数十メガトンとは、広島型原爆のおおよそ3,000倍の威力を持っている。




 その、着弾日は、全て、日本時間10月16日月曜日の午後0時に調整されていた。




 突如、世界の4カ所で、巨大な海中爆発が生じた。と同時に、高さ数百メートルの、放射能汚染海水の津波が、日本で言えば、東京へと襲って来たのだ。




 例の「神風」の二人は、いち早く、北アルプスの麓へと、逃げ込んでいた。




 しかし、二人は既に覚悟していた。これから、世界中に核ミサイルが飛びかう事をである…………!!!




 そして、最後に、ボケ役の山下哲夫が、ポツリと言った。




「この前、寝ている時、俺の前に現れた、その神様の言った通りになったなあ……」、と。



          了

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