後
知らない音ばかりが流れている。きろり、きろりと視線を動かし、ほとんど見慣れぬ景色を眺めながら、少女は思う。
祭りというものを自分は知らないが、これほどまでに姦しいなら、祭りなんか一生出なくてもいい、と。
足の下が柔らかくて、たまらず姿勢を崩した。セツのそばに控えているときの不香は、切り出した石畳のような床に座っているから、足の下がここまで温かく、柔らかかったことがない。
奏でられる音楽に合わせて、女たちが歌っている。知らない匂いのする食べ物を男たちが食べ、野次を飛ばして赤ら顔で笑う。不香は顔をしかめて、部屋の隅で膝を抱えた。
どうして自分はこんな場所にいるのだろう? と思うが、全ては自分の蒔いた種だということも、彼女はよく分かっていた。
不香が選んだ女は、村の長の娘だった。聞けば、セツがこの村に来たとき、一番最初に幸運を与えたのは長の家だったらしい。だからここまで富んだんだろうよ、とセツは笑っていた。
だが、彼がその後、長の家の女を選ぶことは一度もなかった。理由は知らないが、とにかくなかったのだ。それが今回、久方ぶりに長の娘が選ばれた。選んだのは不香なのだが、そんなことを知るはずもない長が上機嫌で座敷牢までやってきて、理由を問うた。猫なで声が汚らわしくて見ていられなかった。
「礼なら不香に言え」
彼はそれ以外、何も言わなかった。喉も鳴らさなかったしまつ毛も震えていなかったが、そこそこ楽しんでいたのだろう。元々、彼は檻の中から、人間たちを見つめて楽しんでいるところがある。囚われているのはセツのほうなのに、セツよりもずっと身動きの取れない人間たちを。
村の長はなにがなんだか分からないという顔をしたが、勝手に何事かを納得して、唐突に不香の痩せぎすの手を引いた。お前にも褒美をやろう、という声が心底気持ち悪かった。
だが、咄嗟に振り返った先で、セツは一言だけ言った。
「臭いをつけてくるなよ、不香」
なんのことだか分からなかったが、行くな、とは言われなかった。だから不香も抵抗しなかった。彼が止めなかった、それが全てだ。
不香は祭りを知らない。セツから与えられるもの以外を、彼女は享受してこなかった。女たちが歌う歌も、男たちが食べているものも、何も知らないし、何もいらない。
座敷牢に戻りたかった。ここは眩しすぎる。薄暗くて、光といえば四隅の燭台と、気だるい顔で煙をくゆらす彼の骨ばった肌しかないような、あの空間に帰りたかった。
「やあ、どうした、お前」
不意に声がして、知らない男が視界に割りこんできた。警戒を強めて男を見ると、彼は自分を長の息子だと言った。今回選ばれた女の兄なのだと。
「ほら、飲め、飲め。今だけは無礼講だ」
ぐい、と何かを押しつけられる。陶器の器で、中に透明な液体が入っている。水かと思ったが、何かおかしな匂いがした。
頭が揺れるような香りだった。何か良くないものだ、と本能的に悟る。不香はセツから与えられるもの以外をほとんど知らない。ぼろぼろの服と、辛うじて食べられる飯と、セツからの言葉。それだけで生きてきた。その中に、こんなおかしな水はなかった。
反射的に顔をしかめて逃げようとしたが、何故か男は強い力で顎を掴み、器を口元に押しつけてくる。
「そうら、飲め、飲め。お前があの方に進言してくれたおかげで、おれの家も安泰だからなあ」
なんの話だ、と言いかけて、口を開いたのがまずかった。
ずるりと液体が流れこむ。口腔が溢れんばかりの何かで満たされ、反射的に飲み下した瞬間、喉が焼けるように熱くなった。咄嗟に男を振り払い、畳に手をつく。
吐き出そうとした瞬間に、視界がぐらりと揺れた。世界が回る。首から額にかけてがカッと熱くなって、音が遠ざかった。耳の中を水で満たしたときに似ていた。
咄嗟に膝に力を入れて、気づく。
立てない。
「疲れたんだなあ」
どれだけ奮闘していただろう。唐突に、水の向こうで、ねっとりとまとわりつく声がする。
体じゅうを悪寒が駆けた。セツとは大違いだ。彼はもっと、魚すらも棲まない、澄んだ池のような声をしている。こんな、たわんで歪んでぐちゃぐちゃの、気色の悪い声じゃない。
「疲れたんだなあ、そうだよなあ」
馬鹿の一つ覚えみたいにそればかりを言って、男の手が無理やり不香の肩を引き寄せた。蜘蛛のように指が体を這う。視界がまだ揺れている。
引きずられていく感覚だけが鋭敏だった。腕も足もばたつかせたつもりだったのに、痙攣じみた動きにしかならずに愕然とする。
再び畳の上に転がされたときには、自分がもうどの部屋にいるのかも分からなくなっていた。女たちの甲高い歌声が遠い。
腹の上がずっしりと重かった。揺れる視界をどうにか抑えて見れば、男が腹の上に乗っていた。重いわけだな、と頭の中で誰かが笑う。
暑いなあ、もう夏だものなあ、と男が言った。支離滅裂だ。ここに夏などという季節はない。何せ、年がら年中雪に覆われた村なのだ。毎年セツが与える幸運がなければ、すぐに村ごと息絶えてしまいそうなほど。
暑くなんてない。今も少女の肌は粟立っている。
なのに、どうしてこの男の息は荒いのだろう?
頭の中が朦朧として、指先は痺れたように動かない。どうして。掴まれた肩が痛い。どうして。男の息は生臭かった。花の匂いがするセツとは全く違う。どうして、どうして、どうして。
首元の布を掴まれる。何かが進んでいく。とても良くないところに行こうとしているのが分かる。這うような視線と生臭い息、揺れる視界、鼻の奥がどろりと溶けたような不快な感覚。
「あ、」
あるじさま、と呼びかけて、何かが違うなと思った。記憶の中の顔がかすんで血の気が引く。どうして、ダメだ、嫌だ。あの人の顔も、指先の柔らかさも、腕の中の温かさも、全てを思い出せなくなったらどうしたらいい?
思考を必死で繋ぎ止める。男の無遠慮な手が肌を這い回るのが分かった。
でもそれより、忘れてしまうのが怖かった。
「セ、ツ、さま」
名前を掴み取った瞬間、男の顔が横からひしゃげた。
ぎゃあと無様な悲鳴が上がって、男は不香の上から転がり落ちた。次いで、聞くに絶えない悲鳴を上げながら顔を押さえる。指の隙間から赤色が弾けて飛んだ。
息が楽にはなったが、何が起きたのか分からない。
「不香」
よく知っているはずの声が、聞いたことのない冷たさを伴って響いた。
顔を上げると、凄まじい顔をしたセツが目の前に立っていた。骨が浮き出るほど握りしめられた拳から、赤い液体が滴っている。頬にも赤いものが飛んでいた。
つややかな唇が開いた。
「不香――不香」
「はい、あるじさま」
不香はすぐに居住まいを正した。視界はまだかすかに歪んでいたが問題ではなかった。彼が呼んでいる。それが全てだ。
「お前、香ったか?」
温度のない声で問われたことの意味が、どうにも理解できなかった。不香はぱちぱちと瞳を瞬かせて、眉を下げる。セツの質問には全て答えたい。なのに、答えが分からない。
セツはゆらりと足を踏み出した。座りこんだままの不香のそばに跪いて、唐突に肩を掴む。じんわりと血が染みた感覚がした。
よく見れば、彼の肌はうっすら青みがかっていた。真っ白ではなかったのだと、小さな発見に心が踊る。彼の唇から、いつもの花の香りがしてひどく安心した。ずっとここにいたかった。
このまま食われても良かった。
だが、彼は不香の首元に鼻を寄せると、すん、と何かの香りを嗅いだ。
「ああ、なんだ」
愉悦の滲む笑い方。
いっとう機嫌が良いときの、それ。
「お前は不香のままだな」
安堵したような、吐き捨てたような、不可思議な言い草に、不香は思わず瞠目した。何を言っているのだろう?
「私は、セツ様が名をつけてくださったあの日から、不香でなかったことなどありません」
男が虚を衝かれた様子で動きを止めた。かすかに目を見開いて固まったかと思うと、不意に俯く。喉の奥が音を立てている。
ああ、笑っている。
セツが笑っている。
凄絶な顔で笑う彼の手は骨ばっていて、青い血管が浮いている。肌の青さはここから来ているのかもしれないと思った。
「そうだな、そうだった。だが……やはり少し臭う。お前だけは臭わんようにしてきたのに、台無しだ」
笑い声にほんのかすか苛立ちが混じって、ふと不安になった。なんの脈絡もなく、捨てないでほしい、と思う。
……捨てる? 何故? どうしてそう思った? 彼はどこかに行くのだろうか?
そこで気づいた。彼は座敷牢にいるはずだったじゃないか。どうして出てきているのだろう?
否、そもそも彼はそういう生き物だ。分かっていたことじゃないか。檻の中にいたのもただの道楽で、彼の行動を制限できる存在なんているわけがなかったのだ。だから、不香が彼を逃がそうとした日、村の人間たちはあれほど怯えていたのだろう。
でも、今まで一度として、彼が自発的に外に出ることもなかった。
彼の髪に、砕けた木の破片がついている。ああ、やっぱり、と思ったのが、安堵だったのか落胆だったのか、不香にはもう分からない。
どうして――どうして今だったのだろう? いつでも出られるのなら、鍵なんて、牢なんて、なんの意味もなかったのなら。不香があの日、逃げようと手を引いた日に、どうして檻から出てくれなかったのだろう? 自分の言葉は響かなかったのか? 彼には不要なものだったのか?
不香のことなど、いらなかったのだろうか?
だがそのとき、彼はばさりと羽織を脱ぐと、無造作に不香に投げた。慌てて布をひっつかみ、畳に落ちるのを防ぐ。
「月でも見ながら待っていろ」
気だるげに命じられて、不香は素直に頷いた。このまま捨て置かれるかもしれない恐怖は喉の奥に追いやる。
彼は満足そうに薄く笑い、襖の向こうに消えていった。
セツが行ってしばらくして、不意に女たちの歌が止んだ。不自然な、歌の途中で声が出なくなったような途切れ方だった。刹那、悲鳴と、何かの液体をばらまくようなびしゃりという音が聞こえた。悲鳴は長くは続かず、代わりに水音だけが絶え間なく響く。
合間に「どうして」「この方が何故」「座敷は」という声がする。彼の存在を感じて、不香は少しだけ安堵した。障子の隙間から夜空をぼんやりと眺める。セツがそうしろと言ったから。
月が綺麗だなあ、と思った。
置いていかれてしまうのかな、とそこでも思った。
どれほどの時間が経ったのか、不意に物音が聞こえて、セツが帰ってきたのかと首をめぐらせる。
違った。そこにいたのは、先ほど自分を襲いかけた男だった。
あ、と間抜けな声を上げる。男の顔は酷いものだった。片側の頬から耳にかけてが抉られたように傷ついている。皮が切れたどころか、小規模の爆発でも起きたような有様だ。肉なんだか骨なんだかよく分からないものがちらちらと見えていて、拳で殴られただけでこうなるのかと、いっそ感心した。
手が伸びてくる。その目にあるのがどういう光なのか、不香には分からない。
羽織を投げ捨てようか焦った、その一瞬が命取りだった。凄まじい勢いで肩を掴まれる。間一髪のところで羽織は落としたが、蜘蛛にも似た動きの指が気持ち悪くて顔をしかめる。ぞわぞわと背を悪寒が駆けた。
男は何かを言おうとしていた。とてもじゃないが人間とすら呼べなさそうな顔で、殴られたときのまま、血を流す口をぐわんと開けて、
「
ひときわ低い声がした。足払いでもかけられたのか、男の体ががくんと沈む。畳に膝をついたところで、
肉が潰れる音がして、目の前の体が完全に床にくずおれる。ずるりと肩から手が滑り落ちた。
不香の視界が真っ赤に染まった。
「……セツ様」
男の背を踏み抜いたセツが、血まみれの姿で立っていた。どこもかしこも真っ白なはずの体は、今や、赤くない場所を探すほうが難しい。全身が粘ついた赤にまみれて、青みがかった灰色の瞳だけが残滓として残っている。
背中に水を浴びせられたような心地で、少女は叫んだ。
「セツ様、怪我を!」
「大方は返り血だ、心配ない」
目眩がした。少しは怪我をしているということではないか!
懐から手巾を取り出して、彼の元へ駆け寄る。傷口から何が入りこむか分からない。せめて顔だけでも、と思ってせっせと頬を拭っていると、不意に、彼が不香の手首を掴んだ。
「もう駄目だな、ここは」
彼は暖かみの欠けらもない瞳で、自分が踏み潰した男を見ていた。
「懸命に生きる人間でも見ていれば、まだ楽しいかと思ったんだが。幸運でも与えてやれば、死に物狂いで生きるかと。だが、どの村も駄目だな。与えても、与えても与えても、与えた端から腐り落ちていく」
「……どの村も……?」
首を傾げる。それは、他の村を知っている者の口ぶりだ。この村に、他の土地との交流なんてありはしないのに。
ぼんやりとした思考のまま問いかければ、彼はちらりと不香を一瞥して言った。
「俺はな、不香、
「……?」
「昔からそうだった。気の遠くなるような昔から。だから俺は、香りの弱い人間の家が好みだった。そこに住み着いて、そこの子供と遊んでやったりして過ごすのが好きでな。子供は臭わん奴のほうが多いから楽しかったし、俺が住んだ家の奴らはそのうちよく笑うようになる。金が入ったとか病気が治ったとか……まあ色々だ。俺はそういうものだからな。俺自身も気分が良かった」
不香は黙ってそれを聞いていた。何かとても重要なことを言われているような気がした。
「だが駄目だった。住み着く家はずいぶん吟味して選んだはずだが、そこの子供もいつか臭うようになった。そのまた子供も。好い仲の男だの女だのができるともう駄目だな。すぐに臭うようになる。嫌気がさしてその家を出て、別の家に住まうようになってな。前の家はどうなったか……一家心中だったか? よく覚えていないが、ひと月もしたら家ごとなくなった」
淡々と語る口調に感慨は浮かんでいない。
「だが、結局どの家に行っても駄目だった。どれだけ香りの薄い子供でも、いつか臭うようになる。十五を超えたあたりから臭う子供は増えて、十八、十九になるころには大半が。二十になったらもう終わりだ。臭わん子供はほとんどいない。どの家もそうだと理解するのにだいぶかかったな。興味も失せて村ごと捨てたら、次の年には土砂崩れで全部沈んだ。俺がいる頃は米も麦も野菜も、まあよく育ったものだったが……」
開いた障子から月を見上げる。髪から滴り落ちた赤が、頬をすべって畳に落ちた。
「別の村に住んでからは色々やった。臭わん子供だけを集めさせた家に住んだり……いつの間にかそこは臭い大人に子供を売るような家になっていたが。まあ俺がいるから絶対に繁栄するわけで、そうなるとあの歪な育ち方も納得か。ああ、そういえば、この村のひとつ前は、少しばかり長く居着いたな。ここと同じように座敷牢に居ついて、臭わん子供を五年に一度だか、十年に一度だか借り受けて、一緒に過ごして……まあまあ育ったら、最後に俺の香りをつけて返していた。最初についたのが俺の香りなら、後で何に上書きされようがまだマシだったからな。だが、いつだか、借り受けた子供が別の男の臭いをつけてきたから、その年に全部捨ててきた。あの村がどうなったかは知らん。……まあ、そういうわけで、ここに来てからはやり方を変えた」
そこで、黙って聞いていた不香を一瞥する。
不香はふと、セツが座敷牢に入ったのは自分の意思だったのではないかと思った。
座敷を用意してそこに入り、自分の周りに格子を作らせれば、あの奇妙な座敷牢は完成するのではないかと思った。
「有象無象には期待しないことにした。少しばかりの幸運を毎年ちらつかせてやれば、どうせそのために臭わん子供を育てるようになる。毎年、毎年、いっとう臭いの薄い者を褒めてやって、俺の
「……私?」
「そうだ。お前は親もいなくて、誰にも求められていなかったし、誰よりも香りが薄かった。だから、俺が育てることにした。間違っても誰の臭いもつかないように。数えで六つの頃から目の届くところに置いておいた。思えば本当に上手くいっていたな。……なあ、不香」
「はい」
「本当に、お前に誰も触れていないな? お前の中には誰も入っていないな?」
質問の意味を解釈して一拍、不香は思わず言いよどんだ。セツはその瞬間を見逃さなかった。眉を上げて非難するように不香を見る。己の所有物を横から取り去られたような、不快さを表す顔だった。
少女は震える声で、おそるおそる告げた。
「私の中には、セツ様がずっとおります。私の心はセツ様に差し上げてしまって、心の臓の中にいるのは、ここにいるのは、もうセツ様だけです。私の中にはセツ様だけが入っています」
誰も入っていません――と、嘘をつくことはできなかった。不香の中には常にセツがいる。
それではいけないのか。駄目なのか。捨てられてしまうのか。すっかり血の気が引いた心地で、不香はセツの言葉を待つ。
セツはぱちり、と瞬いた。じっと、青みがかった瞳で不香を見る。血の匂いよりもさらに濃い、彼の花の香りが漂ってきて、不香は幸福と不安で泣き出してしまいそうだった。
きっとここが極楽だ。このまま死んだって良い。
だから、捨てるくらいなら殺してほしかった。
だがそのとき、セツが唐突に大口を開けて笑いだした。腹を抱えて、弾けるように高く笑う。喉の奥が震える音も聞こえた。
「ああ、そうか……そうか。お前、本当に、俺が教えたこと以外は知らないのか」
「……? はい」
他に何を知る必要があるだろう? 不香はセツに教えられたことと、セツが美しいことのみを知っていればいい。それ以外にはいらない。
セツに拾われてから、不香の全てはセツのものだ。
「そうか、なら何も問題ないな」
男はひょいと不香を抱えあげた。彼の服はぐっしょり濡れていて、不香の体もたちまち赤く染まる。
「不香、お前は誰の臭いもつけるな。せっかく不香の名をやったというのに、臭いがついたら最悪だ。誰もお前の中に入れるな」
不香は反射的に頷いたが、彼の言葉の意味はやっぱり上手く理解できなかった。臭いってなんなのだろう? 何をしたら臭いがついたことになる?
なんだかよく分からないので、これからはセツ以外の人間に触らないようにしようと思った。
そう伝えると、再び彼は大きく笑った。見たことがない笑顔だった。
「良い子だ」
まなじりを撫でられて、不香はようやく、心の底から安堵する。彼の声は、初めて不香の名前を呼んだときと同じ温度をしていた。だから、もう大丈夫だと思ったのだ。
目を閉じる。月の光が瞼の外から差し込んでくるのを、不香は微睡みながら感じていた。セツが歩き出す音がする。
どこに行くのかは知らない。知る必要もない。
彼がいるなら、そこが不香の家だ。
その日、一つの村が雪の底に沈んだ。
月が青い夜だった。
不香の花 七星 @sichisei
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