それならやっぱり【実験作8】

カイ.智水

それならやっぱり

 「明日から残暑復活」という謎ワードが飛び交うテレビ番組を観ている。

 そもそも立秋過ぎてからの高温を残暑と呼ぶ。それが収まった三日間のあと、明日からぶり返して猛暑復活とは、もはや笑う他ない。

 いつから日本は三十度が当たり前になったのだろうか。


 相原あやかはそんな皮肉を抱きつつ、乾いて取り込んだ洗濯物をひとつずつ畳んでいた。

 残暑の頃と異なり、洗濯物が適度に乾くのはありがたい。

 秋の穏やかな陽光が待ち遠しい。残暑が復活するなんて悪夢だ。

 暑くて肌を刺すような強烈な太陽を保ったままでは日本そのもの、いや地球全体がもたないだろう。


 今日は恭也さんも早く帰ってくるし、そろそろ夕食の準備にとりかからないと。

 すべて畳み終えてタンスにしまうと、あやかは冷蔵庫を開けて中身を確認する。


 これから二十五度を下回る日が続いてくれると、温かいものが食べやすくなるんだけど。三十度を超えると食材の傷みも早いから嫌になる。


 冷蔵庫には豆腐が常備してある。味噌汁にも麻婆豆腐にも冷奴にもできる、生ものではないので夏場に重宝する食材だ。


 今日は卵とゴーヤーとスパムを加えてチャンプルーを作ろうか。それならやっぱりあれよね。常温で保管していたビール缶を急いで冷蔵庫に詰め込んだ。


 あやかは付け合わせのサラダに使う野菜を見繕った。

 葉物野菜は足が早いから、集めてごまのドレッシングで和えようか。


 トゥルルル。トゥルルル。


 机の上に置いてあるスマートフォンの呼び出し音が鳴っている。すぐに取り上げて発信者欄を見てから通話ボタンを押した。

〔あやかか、俺だ〕

「恭也さん。どうしたの」

 この時間に連絡が入るということは、どうせ仕事で帰宅が遅れるってところだろう。


〔実は新しいアルバイトが入って、明日歓迎会を開くことになったよ〕

「ということは、今夜はうちで食べるのよね。ゴーヤーチャンプルーとサラダにしようと思っているんだけど」


〔いいねえ、それならやっぱり〕

「オリオンビールに決まってるわね」

 恭也は二つ返事で了承し、通話を切った。


 さっそく夕食の下ごしらえにとりかかろうかしら。





 ─了─




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