秘密結社バファルッツ
「ハインツ? もうみんな行ったか?」
「えぇ。クラリスは帰ると言っていましたが、残りの三人は店に行って飲み直すそうです」
「おぉそうか。友人同士で水入らず、か……。青春だなあ」
宴会の最中もあの三人は楽しそうに話していたが、みずみずしさ溢れる友情は見ているだけで本当に元気がもらえる。
それに今からまた街に繰り出す体力も羨ましいし、アルトに誘われたとはいえ、こんな怪しい見た目のアジトの中に入り、あんな最悪のファーストコンタクトを果たした面々に囲まれても普通に飲み食いができる若さ故の勇気にも嫉妬してしまう。
(それにしても、こんなことを考えていると、自分も年をとってしまったなと改めて感じさせられるな……)
ソファにだらっと座り、惨めに酔いを覚ましていると特に。
「バート様? 少しよろしいですか?」
すると、見送りから戻って早速かいがいしく食器を片していたハインツの動きが止まり、真剣な表情がこちらに向けられてきた。
「我々が王城に行っている間、あの指輪について何か進展はありましたか?」
「あっ、そうだった。ハインツにはまずそのことを言わないと駄目だったな」
ワタシはズキズキと痛む頭を軽く振って、ソファに深く座り直す。
ここからは少し頭を切り替えないといけない。
酒席を楽しむ飲んだくれから、裏社会で暗躍する秘密結社のリーダーへと。
「調べてみたら大当たりだったよ。あれは正真正銘、悪魔の持ち物だ」
「悪魔……というと、それはメビフラの物ですか⁉」
「いや、それは違うだろうな。おそらくは、あいつの手下の悪魔が持っていた物だ。あれには音を飛ばす魔力が込められていたが、作り自体は簡単で、多分下っ端同士の連絡にでも使っていたんだろう。……ただ、あいつらの次の動きを盗聴できたぞ!」
「ほ、本当ですか⁉ ものすごい進展じゃありませんか⁉」
ハインツは驚いたように声を上げ、興奮した様子でこちらに近づく。
「そ、それで、奴らはどのような事を起こすのですか……?」
「いいか、よく聞けよ。復活を果たしたメビフラはまず、あのダンジョンとその周辺にいたモンスターを全て従えて、新しい根城を探しに移動を始めたらしいんだ。その後は……」
それからもワタシの報告は続き、ハインツはそこで新しい情報が出るたびに息を飲んで驚きを表す。
アルトが衛兵によって攫われるという予想外のアクシデントが起こった中で行った調査活動。
ワタシにはどうしても王城には行けない事情があって仕方なかったとはいえ、仲間のピンチに駆けつけられないのはかなり心苦しかった……。
ただ、ちゃんとハインツに頼まれた調査を完遂し、こうやってバファルッツの悲願成就につながる成果をあげられると、少しは罪悪感が減るってものだ。
――やがて、仕入れた情報の披露が全て終わると。
「さ、さすがはバート様。我々が不在の間に、お一人でこんなにも大量の情報を調べられるとは……」
「ま、まあな。それくらいは軽い軽い!」
ハインツはしみじみと感嘆の声を漏らしたが、調べたのは知り合いの魔法道具店の親父だということは秘密にしておこう。
団長としての威厳は大事だし、その店を選んで足を運んだのはこのワタシだからな。
これはもう、ワタシ自身の手柄となんら変わりはない!
「……しかし、そうなると我々もこれから本格的に動いていかなければなりませんね」
「あ、あぁ。だからアルト……と一応クラリスには、今後も今回のような活躍をしてもらわんとな」
「確かに、あいつらが呪いだの何だの騒がなければあの指輪も質屋行きになっていたと考えると……」
「まったくだ。指輪なんかに擬態されると、流行に疎い初老の男とゴブリンは分からないだろ! あいつらも小賢しい真似をしてくれる!」
ダンジョンの最奥であれを見つけた時には、完全にどこかの冒険者が落としたお洒落アイテムだと思っていたが、まさか悪魔の落とし物だったとは。
魔術的要素を指摘してくれたクラリスとアルトには、本当に感謝しかない。
……あれに洒落っ気を感じる私の感性まで全否定されたのは、かなりショックだったが。
「では、あいつらにも話をされるということですか?」
嫌な思い出が頭に浮かんでいると、ハインツから不意に疑問をぶつけられる。
「我々は、悪魔メビフラを追いかけていくと」
「……いや、そこはやはり計画通りに進んでいこう。今二人や世間に悪魔がどうとか話しても、全く相手にされないだろうし」
この国では、悪魔は大昔の神話上の怪物で、その存在を信じる者すらほとんどいない。
かつて国を滅ぼしかけたメビフラが封印されていたあのダンジョンですら、今や駆け出し冒険者の研修施設のような扱いになっているほどに。
だからこそ、悪魔退治とワタシの『真の目的』のためには。
「世界征服を目指す酔狂な男。その仮面は、もうしばらく被っておかないとな」
ワタシは秘密も夢も何もかもを共有するハインツに、とびっきりの悪い笑顔を向けた。
理想の世界を征服しよう! 竹羽裕李 @takehaneyuuri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。理想の世界を征服しよう!の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます