第17話 教国との戦いだよ

 僕は工業特区の設計管理所を視察して、戦車などの走法について打ち合わせした。

 この世界にはゴムが無い。だからタイヤは作れない。近い性質の素材はあるけど、魔物から採取するため工業化で大量生産を行うのには向いていないんだ。


 設計者が悩んでいたので、全車両は無限軌道と呼ばれるキャタピラで統一することにした。不整地や悪路を走破するにベストと思う。

 その構造を僕が知っている範囲を細かく教えて、後は試作と検証を繰り返してもらう。戦車の完成まであと一歩ってところかな。


 ラークがカトリク教国から戻るまでの4日間を工業特区で過ごした。娯楽が充実していなかったので、大規模な歓楽街と風俗街を建設するように指示をした。

 特区の中でお金が循環するように、そして従事者へは、他にない刺激と居住性を提供する。そうすると人が集まり、さらに技術の向上が見込めると考えたんだ。


 そして素材研究所には褐色火薬の研究を行うように伝えた。硝石は発見されていないので、これは時間が必要だと思う。無色火薬は硫酸や硝酸が、まだこの世界では存在しないので諦めたよ。まあ、これは保険だね。魔石研究を進める方が効率が良いし、発煙や火薬滓の障害で戦闘効率は魔石には勝てないからね。


 色々と視察をして、あっと言う間に4日が経過してラークが帰還した。


「魔王様、只今戻りました。」

「うん。ご苦労様。それで、返事はどうだった?」


「はい。教国はカトリク教の独立と存在意義を主張して、拒否しました。」


「そっか。じゃあ全土へ進軍して潰しちゃおうか。領土の処理はブランズとポランドの貴族に与えればいいんじゃないの。」


「承知しました。では、両国へも参戦の通達を手配しておきます。」


 試作品の戦車3台と自走砲3台を性能評価試験を兼ねて、戦場に持ち込むことにした。車両の移動速度は時速40km/hぐらい。人より早いけど馬より遅い程度だった。


 迫撃砲と投下弾も改良されている。

 だが、鉄砲の作成に苦労している。

 魔石では大きすぎて弾丸サイズの物が無いからだ。


 砲弾だと大きさが丁度良くて容易に作る事が出来た。

 雷管でも親指ぐらいの小さな魔石を使っている。その親指サイズの風魔石で弾丸を作成したのだが、人が持って撃つことは出来なかった。

 反動が大きすぎて飛ばされるのだ。

 そのため、優先順位を砲弾にして銃弾の開発は停滞している。


 そして出撃のために飛行隊を再編成と兵士の招集をした。

 新規編入を含む

 ・従来構成員 飛竜 1200匹

 ・グリフォン+ワイバーン 450匹

 ・ハーピー 600匹

 ──────────────────

 陸軍 混成1000匹(侵攻・索敵他)

 ハーピー200匹(爆撃) 

 空軍 混成150匹(魔都防衛)

 海軍 飛竜500匹(空母搭載)

 郵便 ハーピー200匹(配達) 

 ──────────────────

 総合計 2050匹


 今回出撃 

 陸軍飛行隊 侵攻800匹+爆撃200匹

 歩兵 4万

 ブランズ王国軍 4万

 ポランド共和国軍 1万


 抵抗勢力

 カトリク教国軍 6万


 僕たちはポランド共和国と魔国で合流して、ブランズ王国に入国した。

 今回の両国への報酬は、領土割譲となる。

 貴族達は挙って派兵してきた。


 僕は直接的な領土に興味が無いんだ。運営などは任せ、富を魔国に集中させて国力の増強に力を入れている。いわゆる、富国強兵ってヤツだね。


 連合軍がブランズ国境に集結したので、一斉にカトリク教国へ進軍開始した。


 カトリク教が無くなっても、サザ教がそれに変わる事が出来る。

 教会などは破壊禁止の厳命を出している。改装してサザ教が使うからね。

 民間人への手出しも厳禁としている。占領後は国民となる人達だから。


 教国軍は、聖都近くの見晴らしの良い草原で、迎撃陣形を築いていた。


 うん。草原の一箇所に集合して陣形を築いている。最後方に立派な天幕の本営が見えた。狙いたい放題の馬鹿丸出しだったね。


 僕たち連合軍は、三方に展開して約1km手前で進軍を停止させる。そして降伏勧告の使者を教国軍に出したんだ。様子を観察して暫く待ったけど、彼らに動きが無かったので戦闘を開始する事にする。


 最初は飛行隊1000匹を高高度から投下弾で、最後方の本営を爆撃したんだ。でも、結界を展開しているのかな、本営の周囲のみ爆撃の効果がなかったんだ。


 飛行隊が帰還したので、第二派として無作為に陣形へ爆撃をして、混乱を誘い、それと同時に迫撃砲と自走砲で敵陣へ最大火力を撃ち込んでやった。


 今のところ連合軍の歩兵隊は全く動いてないんだ。投下弾と迫撃砲、それと自走砲による遠隔攻撃だけで対応しているんだ。


 敵軍は陣形の維持が困難と見たのか、なんなのか、指揮系統が乱れた状態で一部の騎兵隊が連合軍へ突撃してきたんだ。自殺行為だよね。


「飛んで火に入る夏の虫」を再現したかの状況だよ。戦車3台を中央前方に据えて、三方から各5000人、計15000人の歩兵で騎兵隊を撃退してやった。


 戦車の戦果は素晴らしかったなー。剣や槍などでこの鉄の塊に対処できるはずが無いよね、たった3台とは言え、騎兵相手に無双してたよ。改善が必要だなと思われる点は、砲撃間隔が長い事か。砲弾は手動で入れ替えているんだ。機関士、運転手、砲手の三名が乗車だから、少しサイズを大きくして四名乗車にすると砲弾交換がスムーズになるんじゃないかな。


 そんな戦車の戦闘方法って、騎兵をひき殺した数の方が圧倒的に多かったんだ。


 騎兵も歩兵相手なら、跳ね飛ばして倒す事ができる可能なんだけど、戦車は数トンの重量、時速数十キロの勢いで鉄の塊が衝突してくるんだ。

 馬や人が対処可能な次元の問題じゃ無いよね。


 そして、今が良いタイミングだと判断して兵士への降伏勧告を行ったんだ。戦争が終了すると、彼らも国民となる。数を減らすのが勿体無かったしね。


-----


 飛行隊が手回しモーターサイレンを上空から一斉に鳴動させる。

 空襲警報のような音が戦場に響き渡る。

 そして魔導拡声器で敵兵に通達した。


「魔国連合より教国兵士へ通達する。現時点より次の音まで休戦とする。この間に戦線離脱をした者は民間人とみなし、追撃は行わない。休戦終了後に一斉攻撃を開始する。なお、我々は戦時捕虜を捕らず、敗戦兵士は全員処刑とする。繰り返す…… 」


 騎兵隊を撃退した歩兵と戦車も陣地へ帰還する。


 教国兵士に動きがあったよ。

 最初は最前線の一部歩兵なのかな?走って逃げるのを見たんだ。そして敵前逃亡として騎兵が追いかけ処刑してた。その隙に他の歩兵が一斉に走り出したんだ。


 こうなると教国軍の瓦解は止められないからね。次々と兵士が逃亡するよね。

 僕はその数が半数に到達した事を確認して、飛行隊に休戦終了の合図を鳴らすように指示したんだ。




 飛行隊が飛び立ち、手回しサイレンを上空から響かせる…。

 教国軍は騎兵も含めて一斉に逃亡した。

 戦線を維持する事ができずに本営を残して壊滅した。




 本営は結界を展開して守りに徹しているねー。天幕の大きさから推測すると十数名の将校が中にいるのかな。その結界を調べたんだけど、神の島と同じ様に半球状じゃないのかな。つまり、地中部分まで結界は展開していない。この結界の技術が欲しいから、中の将校などは捕縛するよ。ふふふ。


 兵士に命じて、結界の境目付近の地面を掘らせたんだ。やっぱり、地中までは展開していないね。




 戦車で結界の展開始点を狙い砲撃する。

 何度目かの砲撃で光の粒子が発生して結界が崩壊した。




 僕と兵士が天幕に入り、将校を連れ出す。なんと彼らは戦場に女を連れ込んで参戦していたんだ。その女たちは売女では無く、〇〇司教の娘だとか、枢機卿の娘だとか色々と騒いでいたけどね。


「ちょっと放しなさい!私は第三教区の司教マナンの次女エイスルよ!

 無礼は許しませんわ。この野蛮人!」


「私は第六枢機卿ティングの長女、アリスです。

 教国本部への連絡を要請しますわ。」


 将校たちは、この事態を飲み込んでいたね。敗戦将校がどうなるのかを。

 彼らは、うなだれて審判の時を待つ表情だったね。

 でも、女達は状況を理解していないねー。

 教会権力者の家に生まれ、自由気ままに生きていたのだろうね。


「やあ、初めまして。僕は魔王のキミヒトだよ。宜しくね。」


「貴方の様な子供が魔王ですって?魔国も人手不足なのね。早く教国本部へ連絡して頂戴。私の名を伝えれば、身代金は好きなだけ支払われるわ。」


「私を誰だと思っているの?司教の娘よ!早く解放しなさい!」


「うーん。君達には残念だけど、カトリク教はもう無くなるんだ。あははっ。」


「貴方は教養が足りないのですね。うふふ。教会は大陸全土に広がる最大宗派なのよ?少しはお勉強になったかしら?」


 この状況を理解していないので、二人の女達は強気で話している。僕はそれが面白くて、相手にすることにした。


「そうなんですか。無知でごめんなさい。

 最近、魔王になったから知識が足りなくて…。」


「うふふ。良いのよ。無知は罪だけど、それを認めて改める事に意味が有るわ。さあ、お姉さんを教国本部へ送って頂けるかしら?」


「じゃあ、この将校さんに聞いてみるね。

 ねえ、カトリク教国と教団はどうなるの?」


 連合軍の将校やラーク、そして周囲の兵士達の表情が強張る。そして質問された教国軍の将校が恐る恐る答えた。


「き、教国は、この決戦で聖騎士団を含む全戦力を投入しました。そして敗北した今、カトリク教と教国は魔国に占領され支配下となります。」


「だってさ。ねえ、お姉さん。今どんな気持ち?」


「な、なにを仰るのかしら?私は軍人でも無く、民間の要人なのよ?身柄の保護とその待遇は丁重に扱うべきだわ。」


「ふーん。そうなんだ。ねえ将校さん、これについてどう思う?」


「こ、降伏勧告後の戦場滞在は、軍民問わず、敵として扱われ、その身柄は戦勝国に一任されます。従って捕虜か処刑の対象になるかと…。」


「あははっ。だってさ。お姉さん達、ちゃんと聞いた? ねぇねぇ、今、どんな気持ちなの?」


 彼女達は教国将校の発言を受け入れられないのか、身分を主張して切り抜けようとしていた。


「わ、私は教国要人として保護を要請しますわ!」

「私も、司教である、お父様への連絡を要請します。」


「誰に何を要請するの?」


「そ、それは魔国の交渉人に…教国本部へ連絡して頂き、身柄の返還請求の交渉をして頂くのですわ。」


「え(笑)、僕たちは君の為に動かないし、教国本部も無いけど、どうするの?」


 彼女達がようやく事態を把握した。そして自身が降伏勧告後に滞在して、軍属扱いとなる事も。


「あ~、面白かった。馬鹿になって馬鹿の相手をするのは楽しいな。あははははは。」


「さてと、僕から質問だよ。ちゃんと答えてくれると、助けてあげるかもね。嘘を付いたら拷問するよ。」


「まず、この結界を展開したのは誰?」


 僕はいきなり核心へと迫った。将校達が俯き、誰も答えようとしない。恐らく神の島でも存在したように、教会の秘匿技術なのだろうね。


「じゃあ、お姉さん達に聞くね。誰が結界を展開したの? ちゃんと答えてくれると助けてあげるかもね。」


「し、し、し、知りませんわ。何の事かしら?」


「ふーん。じゃあ、なぜお姉さん達は戦場に居たの?売女(ばいた)なの?」


「失礼ね!私は純潔よ!」


「私も純潔よ!まだ誰にも触れさせてないわ!」


「へぇ…。なるほどね…。」


 僕は、魔国へ女性二人の身柄を送致することにしたんだ。そして残りの教国将校へ質問をしてみた。


「結界の事は察しがついた。僕たちは、今から聖都へ進軍する。そして教会本部を調査すれば詳細が判明すると思うんだ。そこで、調査協力をした者は身柄の安全を約束しよう。どうだい?誰か協力するかい?」


 教国将校全員が教会解体の現実を受け入れ、協力を申し出た。


 そして僕たちは聖都へ全軍前進したのだった。


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異世界転移で魔王になったよ。~極悪非道な物語~ @192168

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