第16話 工業特区とドワーフだよ

 僕は各種の研究開発が完了するまでの間、食料生産高を向上させるためにドライアドを探すことにした。彼女たちの植物能力に着目している。根っこから引き抜いてちゃんと丁重に迎えるつもり。生息地の目安は付いている。未開地と呼ばれる未踏地域に様々な魔物や魔族が生息しているらしい。そこに調査団を派遣して、ドライアドを連れて帰るんだ。


 ただ、問題が1点ある。カトリク教国かチャイナル人民国を経由しないと未開地へ向かえない。チャイナルとの戦闘は、時期尚早だからカトリク教国を攻めて調査団を派遣することに決めた。


 どうやってカトリク教国を攻めようか悩んでいると、メビウスがサザ教団の進捗報告に来た。


「ねえ、キミヒト。教団の報告があるけど、時間いいかな?」


「いいよ。」


「チャイナルへも布教活動しているけど、あの地域は難しいわ。基本的な宗教思想が違うの。」


「そうなんだ。じゃあ、別に後回しでいいよ。」


「あとは、カトリク教国なんだけど、布教が進みすぎて領地管理に手が回らないの。教会が貴族に代わって領地を運営するんだけど、司祭や助祭では領地運営が出来なくて…。」


「うーん。どうしようかな…。ちょっとカトリク教国に使者を送るか。」


「どんな要求をするの?」


「魔国の認定教団とし、サザ教団との争いを停止する代わりに、寄付金や聖騎士団、そして国家運営を含めた中枢機能を全て魔国管理下に置くんだ。拒否すればサザ教団と魔国連合で攻めるって脅すんだ。」


「カトリク教を認めるってこと?サザ教は唯一神として大衆神の女神サザ・エサンを信仰しているんだけど…。」


「サザ教団として、表向きは認めないよ。でも上層部で連携をさせ、互いに競わせて寄付金を魔国へ集めるんだ。」


「そ、そうなのね。わかったわ。使者は誰にするの?」

「そうだな。ラークを使者として送ろうか。彼なら上手にまとめてくれるだろう。」


 僕はラークを呼んで、使者としてカトリク教国へ向かうように命令した。飛行隊を連れて向かい、4日ほどで帰還するとのことだった。


 ラークが戻るまでの間、工業特区を視察することにした。


「骨ちゃん、工業特区に視察に行くよ。一緒に来て。」

「はい。(キャメルって名前があるのに…)」

「ナイも一緒に行こうか。」

「あい!」


「魔国近衛騎士団長として、ビデンも同行いたしますぞ!」

「ん?ああ、いいよ。」

「ナイ様、このビデンが一時も離れず護衛致します。」


ビデンからハァハァと気持ち悪い息遣いが聞こえてきた。


「ご主人しゃま。このワンコ気持ち悪いでしゅ。」

「まぁ、護衛するって言ってるんだ。我慢出来なくなったら、始末していいから。」


「あい…。でも、このワンコ叩くと喜ぶのでしゅ…。」

「え? あ、まぁ、その気持ちは分かる…。僕にも似たような二人が居るから…。」


 そして、護衛兵士を複数つれて、隣接の工業特区へ向かった。

 特区は広大なエリアに様々な建物が急ピッチで建設されている。木材の使用を減らして、石材と鉄骨を多用するように指示をしている。これは研究中や製造中の火災を防ぐためだ。


 ・製鉄所(金属の精錬を行う)

 ・加工工場(基本材へと加工する)

 ・部品工場(基本材から部品を作る)

 ・組立工場(部品を組み立てる)

 ・整備工場(調整などを行う)

 ・設計管理所(設計・製造管理)

 ・魔道研究所(魔石製造・魔法研究)

 ・鍛冶研究所(金属の研究開発)

 ・素材研究所(素材の研究開発)

 ・工業学校(基礎工学の教育)

 ・集合宿舎(従事者の住居)

 ・大規模収容所(拉致者の収容)

 ・娯楽所(従事者用の飲食物販施設)


 これが工業特区に建設される予定の施設内容である。

 半数の建築が終わり一部は稼働している。

 この特区に国庫から莫大な費用が投じられている。

 収容所と収容宿舎は、増改築を繰り返し、大規模な施設となっている。


 ドガーーン!!


「なに!? どうしたの?」


 僕は収容所の方から大きな破壊音が聞こえたので、そこへ向かった。


「嫌よ!! アタシは帰るんだから!!」

「貴様、大人しくしろ!!」


 収容所の外壁が破壊されて、小さな女の子を数十人の衛兵が取り囲んでいる。

 そして責任者と思わしき衛兵が叫ぶ。


「おい、早く魔導士を呼べ。闇魔術でコイツの意識を奪うんだ!腕力では勝てない!」


 次々と小さな女の子に衛兵が投げ飛ばされ、殴られ倒れていく。


「おお、凄いね。あの女の子。まだ子供なのに衛兵に勝ってるね。」


 僕は暢気にその光景を眺めていた。


「魔王様、あれは、この施設で有名なドワーフの女性です。見かけは幼いですが、脅威のステータスを誇り、特区への協力を拒んでおります。」


骨宰相が、彼女の事を色々と伝えてきた。鍛冶師として有名な彼女をコリアラ王国から拉致したそうだ。しかし、協力を拒み、どんな手段を使っても従わないので困っているそうだ。


「へぇ~。彼女凄いね。ステータスを見てみるよ。」


━━━━━━ステータス━━━━━━

 名前 :アルカ

 レベル:48

 HP :465

 MP :401

 SP :337

 攻撃力:672

 防御力:477

 ──────呪文───────

 


 ──────スキル──────

 鍛冶技能 身体強化


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━


「これは…。なかなかのステータスだね。

 衛兵じゃ勝てないよ。僕が抑えてくるよ。」


 僕はドワーフの女の子に近づき、話し掛けた。


「やあ。初めまして。僕は魔王のキミヒトだよ。」

「アタシを国に帰して!! テセウスの所に帰して!!」


「それは無理だよ。僕がドワーフを集めるように指示したからね。諦めてこの場所で働いてよ。不自由はさせないからさ。」


「嫌よ!アタシはテセウスの側にいるの!!邪魔しないで!」


「うーん。じゃあ、そのテセウスって奴を殺したらいいのかな?そうすれば帰れないし側にも居られないからね。」


「彼に手を出したら、絶対に許さない…。アンタを殺すわ。どんな手段を使っても絶対に殺す!」


「あはははは。君、面白いね。僕は国家の王だよ?現に君は捕らえられてるじゃないか?それに一人の男が国家権力に勝てるとでも?」


「彼は負けないわ。凄く強いもの。必ずアタシを救い出してくれる。彼は特別な力を持つ存在なのよ!」


「そっか。じゃあ、魔国関係の全土にテセウス君の処刑命令を出そう。無事に彼の首を持ってきたら働いてくれるかい?」


「その時はアンタを殺して、その後に彼の元へ向かうわ。絶対に協力なんてしない。」


「そっか、君は僕が弱いと勘違いしているみたいだね。少しだけ力の差を見せてあげよう。」


 そう言って、公人はアルカへゆっくりと近付き目前に立つ。彼女が殴り掛かってきたのを確認してから、力で組み伏せた。


「うーん。やっぱり君の力じゃ僕には勝てないね。言う事を聞かなかったお仕置きとして、両足首を貰うね。ナイ、ナイフ貸して。」


「あい~」


 公人はナイからナイフを受け取ると、アルカを力で押さえつけたまま、両足首を切断した。そして止血のヒールを唱えた。


「きゃぁぁーー!! いたいぃぃ!!」


「これで逃げれないね。手は鍛冶作業のために残してあげるよ。それと死なない程度に止血はしてあげる。」


 彼女は両足首を失い、歩けなくなった。公人は笑いながら他の場所へ視察に向かったのであった。


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